2011年の結成から今年で10周年を迎えるビジュアライズ・アーティスト・ユニット、huez。昨年度おこなわれたでんぱ組.inc×神聖かまってちゃん、無観客のライブセッションでも多くの話題を集めた。

また「Spotify presents Tokyo Super Hits Live 2020」ではMoment Tokyo / VJ REZと共にバーチャルステージを担当。そして2021年10月末にはXRバーチャルライブSerial experiments huezを企画している。

年間数多くのライブ演出・展覧会設営を手がけながら、新たな開発やチャレンジも進める原動力を代表を務めるとしくににインタビューした。

──まずhuezがどうやって立ち上がっていったか教えてください。

huezは元々、2011年にYAVAOとayafujiという二人のメンバーが組んだVJユニットなんです。今では代表になっているのですが、実は僕はhuezの結成メンバーではなくて、3番目のメンバーでした。YAVAOはVJでayafujiはプログラマー／詩人だったんですが、その二人がやっていたVJユニットがhuezという名義で2.5DとかMOGRAといったスペースからブッキングを受けてVJをやっていたんです。

──何かとしくにさんがhuezに加入するきっかけがあったのでしょうか？

僕は元々、小劇場で演劇をやっていたんですが、その時の大道具や舞台監督の技術をいかしてYAVAOと一緒にステージや演劇の仕事、あと簡単なインスタレーションの施工などでフリーランスとして働いていました。同時に渋家というアーティストシェアハウスをずっとやっていたので、大きめの仕事になると名義に困って（笑）渋家という名義で受注したりしていました。YAVAOはhuezと渋家という名義をうまく使い分けて仕事をしていて、これが最初の3年くらいです。

──なるほど、では最初の3年くらいでYAVAOさんを通じて、としくにさんとayafujiさんが出会った感じですね。

そうです。そうこうしているうちに2013年くらいにayafujiが制作会社に就職してしまって、一方で僕とYAVAOが渋家名義でやっていたフリーランスは少しずつ安定して稼げるようになってきていました。それで僕がVJユニットとしてのhuezに前々から興味があったので、YAVAOとやっていた渋家の仕事にもVJの要素を借りて使ったりするようになりました。そういうのがだんだんと形になって僕が加入する直前には渋家もhuezも今のhuezの原形みたいなことを二つの名義でやっている感じになってしまって……。

──どれくらいその期間が続いたんですか？

2014年くらいまでですね。そのタイミングで2014年の年末にクライアントから、大きめの仕事がくるようになってきて、huezにせよ渋家にせよ任意団体で仕事を受けるのは金銭的にも体制的にも限界かもという話をされはじめました。それでどうしようかなと思っていた時に、ちょうど就職していたayafujiとYAVAOが三人で話す機会を作ってくれて、その時にayafujiから「今までhuezは僕とYAVAOのVJユニットだったけど、もっとポテンシャルをあげれると思っている」というような話をされました。それでayafujiは社会人だったので、僕とYAVAOが会社化をすることになりました。

──そうなってからの立ち上げはスムーズだったんですか？

それが色々と悩んで、最終的に法人をカスタマイズするまでに2年かかりました。僕もYAVAOもayafujiも、みんな渋家のメンバーだったし、元々、渋家で物件を借りる時に法人を立ち上げていたので、それを使うか使わないかという議論をしたり……でもhuezという名前で法人にするとアーティスト・ユニットというより会社になってしまう。

そもそも僕はYAVAOとayafujiの作るVJのクリエイティブに惹かれていたんです。だからそれを生かしながら法人化するにはどうすればいいのか……。結局1年くらいは渋家を会社っぽく動かすことで無理やりなんとかしようとしていたんですが、2015年にメジャーデビューしたてのミュージシャンの東名阪ツアーや、一番おおきかったのは渋家名義でトイズファクトリーの社長から「ゆずのライブの演出の一部分をやって欲しい」というオファーがきちゃったんです。

──「ゆず」の仕事が最初にきたときはどんなふうに思いましたか？

ただただ、こわかったです（笑）

トイズファクトリーの社長の稲葉さんから呼び出されて社長室でお会いさせていただいたんですが「ゆずとミスチルどっちやりたい？」といわれて……当然、選べないじゃないですか（笑）、でもやりたい気持ちはあって、答えに詰まっていたら稲葉さんから「その若いセンスがキャリアの長いアーティストを引っ掻き回すのが面白いんだよ」と言われて。

──としくにさんは出演もされたとお聞きしました（笑）

出演といっても後ろのパフォーマーとしてなんですが、huezはそこでLEDを使ったDJブースを自作して、僕は舞台上でダフトパンクみたいな衣装で出演しました。音楽はマルチネレコードのtomadと一緒にゆずの楽曲をリミックスさせてもらい、それにダンスをつけるという方針で渋家のメンバーと一緒に演出プランを作って出しました。

このタイミングで今のhuezメンバーとなるYAMAGEや大手企業で働いていたyascoが合流して、YAMAGEが現場と出演、yascoが経理を手伝ってくれたところから、かなり法人としての体制も整ってきました。それで最終的に1年くらいの準備期間を経て、物件を借りていた法人を2016年になって仕事用にカスタマイズすることができました。

──ゆずの仕事をきっかけに体制が整ったんですね。

他にも直接的な体制の話ではないんですが、横浜スタジアムという一流の場所で、一流のクリエイターの方と一緒に仕事をできたのは大きかったです。これを目標にしてこれからやっていこう、何年かかってもいいから、今度は自分たちの力で武道館やアリーナまでまるっと演出できるようになりたいという目標が共有できました。

──その後、2016年からコロナ前までhuezは活躍の場を広げていきましたよね。

これは結果的になんですが、渋都市株式会社というウツワのような会社の中にhuezというアーティストチームがいる体勢になったので、それをうまく調整していくのが本当に大変でした。僕としてはあくまでhuezが自由にやれることが一番だと思っていたので、そこにはかなり気を使いました。

やっぱりhuezは出自がアーティストなので、会社の運営とは切り離して考えた方が将来性が広がると思ったんです。2017年〜2019年は案件数や売上、会社としての規模が本当に倍々になっていきました。それに伴って僕とYAVAOとYAMAGEの3人だったhuezメンバーも年に2,3人ずつ増えていきました。

──2019年にはとしくにさんとtofubeatsの対談も話題になりました。

あそこでは、自分が2016年からhuezメンバーと代表取締役を兼ねるようになったことを踏まえて、経営者とアーティストの両面から伝えられることを話しました。tofubeatsはhuezがまだ少人数のVJだった頃からクラブで一緒になることもあったし、ワンマンライブの演出を任されたりもしていて、ずっと並走させてもらってきた感覚がありました。

記事の中でフリーランスが会社化していく時に、ぶつかる壁を話したりもしているので、あのように記事になって話題になったことで、huezにとっては自分たちの出自を説明できた初めての機会にもなったと思っています。

──2016年からコロナ前までで特に記憶に残っている現場はなんですか？

2015年くらいから始まったアイドルブームが2017年くらいから更に盛り上がってきていたので、その頃から色んなアイドルがライブの演出に力を入れるようになって、すごく現場が増えていったんです。その中でも2018年から仕事をさせてもらったCY8ERとは武道館での解散ライブまで演出を任せてもらいました。

あと、催事場での展示の仕事も始まりました。最初は西尾維新展という松屋銀座から全国に巡回する展示のテクニカルディレクションを受けたところから始まったんですが、特にアニメの展示だとプロジェクションマッピングやhuezがライブで使っているようなテックをインストールできるような若手チームがあまりいなかったのもあり、夏目友人帳や鬼滅の刃、最近ではポケモンや魔法少女まどかマギカの展示もやらせていただきました。

──アイドルやアーティストから催事場まで本当に幅が広がりましたね。

この時期は仕事がバンバン増えていったので、2019年度には年に200本くらいの案件をこなすようになっていました。huezのメンバーも業務委託を含めて7,8人くらいまで増えていたのですが、ほとんどの演出に自分が関わっていたので休みなく働く感じになっていました（笑）それで「このままじゃまずい」となりました。僕はその時点で既に35歳になっていたので、このままいくと倒れるなと。それでそこから少しずつ演出などをチーム全体でできるように分業していきました。

──2020年はコロナでライブ・エンタメ業界の情勢が大きく変わった年でした。huezとしてどのような変化があったか教えてください。

まず3月に緊急事態宣言があって、その年の仕事がいったん、全部なくなりました（笑）その時点で、これはすぐに終わる現象ではないなと思いました。それで今まで生でやってきたコンサートやライブの演出を、配信やヴァーチャルライブに振り切る戦略が必要だとメンバーと相談して決めました。

仕事のなくなった3月〜4月に事務所でひたすらヴァーチャルや配信の実験をしました。メンバーにもインプットをお願いして、技術の習得などを含め体制を作りました。結果、5月にでんぱ組.incから配信ライブの仕事をもらい、それが大きく話題になりました。

──あのライブは今ではすごくたくさんある配信の中でもかなり先駆けでした。

おかげさまでメディアで話題になって、配信やヴァーチャルライブの案件をどんどん依頼してもらえるようになりました。緊急事態宣言でいったんゼロになった仕事も、むしろ前年度より多くなる結果になりました。

──すごい。

それで2020年の年末に、よりクオリティの高い配信ライブをやるために、huezの最初のメンバーで制作会社に就職していたayafujiが渋都市に転職してきてくれて、huezの活動を再開しました。そして同じタイミングでカナダのバンクーバーで活動していたエンジニアのchimanakoにもhuezに加入してもらいました。

──会社が大きくなって改めてオリジナルメンバーが集合したんですね。

改めてYAVAOとayafujiが揃ったことは大きいと感じています。huezのメンバーはみんなそれぞれクセがあって、それが組み合わさったときにすごいクリエイティブを発揮するんですが、その中心はやっぱりYAVAOとayafujiなんです。

──その状況で今年、2021年は10周年ですが、どのような年でしたか？

いろいろな展示やオンラインライブ、あと小規模にはなっているけれど音楽ライブなど、かなり幅広く仕事を展開できた年でした。少しずつコロナも落ち着いてきて、2019年の頃のようなライブの仕事にさらにヴァーチャルの案件もあるような感じです。

案件数も去年は150本くらいで落ち着いていたのですが、今年は2019年と同じ200本ほどになりました。ただhuezメンバーそれぞれの演出能力もあがり、メンバーも10人に増えたので、全体的には前より余裕をもって制作に時間を割けるようになりました。

──今回、huezが企画から全てを主催するヴァーチャルライブが始まりましたが、これはどのような流れで決まっていったんですか？

まずアーティストとして会社を牽引してきたhuezが、より大きな枠組みで仕事をする機会をつくっていければと思いました。もちろん10周年ということもあるんですが、渋都市全体としてみても、少しずつ拡大してきたアパレル事業やマネジメント部にとってもhuezが主催するヴァーチャルライブが良い効果を生んでくれればと思っています。

それからもちろん今までお世話になったアイドルやアーティストにとって、シーンが盛り上がる一助になるような企画になって欲しいという思いもあります。そもそも渋家という名前でマルチネレコードのイベントを演出したところや、アイドルやトラックメーカー、バンドなど、あらゆる音楽シーンの方にお世話になってhuezというチームは成長させてもらいました。そういう文脈を踏まえて、今度は自分たちがシーンに貢献できるような動きをしていきたいです。

──イベントは継続的におこなっていく予定ですか？

はい。来年以降も主催のイベントは増やしていきたいと思っています。いまはコロナもあって音楽業界全体が落ち込んでいると言われますが、そこで育ててもらったhuezの代表として、自分たちも盛り上げる側の一員となって頑張っていきたいと考えています。