お客様の要望に応えるために、部署連携で実現～つくば工場の生産革新～「創業60周年。感謝と挑戦を胸に」工場編（３）

生産革新

2023年2月17日 18時15分パナソニックホームズ株式会社

パナソニックホームズは2023年、創業60周年を迎えました。工業化住宅を提供してきた生産現場における歴史と新たな取り組みについて全4回で、ご紹介します。

第３回目は、パナソニックホームズの家づくりの中核を担う東日本エリアの生産工場、つくば工場（茨城県つくばみらい市）で進む、家づくり一貫体制の構築に向けた部署連携の取り組みをお届けします。

部署連携の強化を先導する鶴長寛之（つくば工場長）

つくば工場では、西日本エリアの生産拠点、湖東工場（滋賀県東近江市）とともに、2007年以降生産現場の革新に向けて「Advanced-Nextセル活動」に取り組んできました。「当初は生産部門単独での生産革新に取り組んできましたが、製造の上流部門である設計、積算、下流部門である建設、CSまでをつなげて検討しないことには、創業者、松下幸之助が掲げる良家づくりは実現しないと考え、生産革新においてもモノづくりから家づくりへ、と意識が変わりました」と工場長の鶴長寛之。

当社生産部門では『邸別一貫生産』として、“邸別生産”（お客様各々のご要望の家を邸別に生産）、“一貫生産”（設計～生産～施工まで一貫生産で高品質・高効率を実現）、“工場の強み”（パーツ加工～パネル組立までの一貫生産）にこだわり、強みとして磨いてきました。「生産革新においてもトータルで家づくりを考えるようになったことで、おのずとモノづくりの上流、下流との連携が求められるようになってきました。中でも、二つの工場それぞれの特性を生かした生産を進めることで、そこで培ったノウハウを相互の工場で横展開し、生産効率の向上に努めています」と鶴長寛之は部署連携の重要性を語ります。

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２つの構法の製造ラインを集約し、省人化を実現（つくば工場）

パナソニックホームズの住宅商品は、3つの構法があります。大型パネルで短工期を実現する「F構法（大型パネル構造）」、15㎝単位で設計可能な最大3階建て対応の「HS構法（制震鉄骨軸組構造）」、15㎝単位で設計でき、3階～9階建てまで対応可能な「NS構法（重量鉄骨ラーメン構造）」です。

▶構造技術のご紹介：https://homes.panasonic.com/sumai/technology/taishin/

NS構法は、都市部の土地を有効活用するのに適した構法であることから、つくば工場を中心に生産しています。そうした中で、つくば工場で取り組むのが「HＳ・ＮＳミックス生産体制」の構築です。HS構法とNS構法は15㎝単位で設計できることから自由度が高い一方で、多品種少量生産で人手を要するため、生産現場の効率化が求められていました。そのためのアイディアとして、両構法の部材・加工・工数において類似する小型外壁の生産ラインを１つに集約することで生産量を確保し、量産型ラインを構築しようという試みです。さらに、将来的にはHS構法のバルコニーも同一ライン上で生産します。取材時（2023年1月）は、HS構法の生産ラインをNS構法の生産ラインのある場所へ移行し、集約作業を進めているところでした。

左右のレーンを使いHS構法とNS構法の部材をミックス生産

「HＳ・ＮＳミックス生産体制」構築のポイントは２つ。まずは、外壁の骨組みとなる鉄製のフレームをつなぎ合わせるのに使う機械、枠組治具の開発です。従来は作業者が、設計図面をもとに手入力で作成した設備加工情報を確認しながら、組み合わせるフレームの位置を手作業で合わせていました。新たな仕組みでは、設計図から設備加工情報を自動で作成し、枠組治具に据え付けられたサーボモーターに数値データを直接送ります。サーボモーターは数値データをトルクの大きさに置き換え、100分の1ミリ単位で自動的にフレームの位置を調整します。

鉄製フレームをつなぎ合わせていく

構法別に仕様が異なる多種のビス

もう１つが、汎用ビス締め機の開発です。これは、鉄製フレームの骨組みと、その上に載せた外装材とをビスでつなぎ合わせるために使用する機械です。HS構法、NS構法では種類の違う外装材を使うためにビスの形状も異なっており、従来はそれぞれのラインで専用のビス締め機を使用していました。今回、新たに開発した汎用ビス締め機には、異なるビスでも締めることができるユニットを搭載するとともに、外装材ごとに異なるビス締め時のトルクや深さの制御も自動的に行い、一つのビス締め機で両構法の部材を生産可能となりました。こうした設備の内作を進めるのは、技術担当の工藤恭輔（つくば製造部）の役割です。工藤恭輔は、「生産ラインの統合により、14％程度のスペースの削減ができました。さらに、製造機の集約により、省エネにも貢献できます」と胸を張ります。

「枠組治具とビス締め機の導入が終わる３月には、従来2つの生産ラインで要していた8人の作業者を6人に減らすことができます。また、HS構法の生産ラインの移行により空いたスペースに、別の部品のプレカットラインを導入することで生産効率の向上にもつながりました。今後はここで培ったノウハウをF構法（大型パネル構造）にも展開していこうと考えています」と梅本昌史（つくば製造部）は、展望を語ります。

梅本昌史とともに取り組んできたつくば製造部の冨山誠司は2年以上前に始めた取り組みが実行フェーズに移った現状を踏まえ、「多能工化が図れることで、一人ひとりのスキルがあがり、ライン生産者のモチベーションアップにつながります」と生産効率以外のメリットも述べています。

ミックス生産に取り組むつくば製造部のメンバー　

左から梅本昌史、冨山誠司、工藤恭輔

お客様の声が、開発の原動力に

良家づくりのためには、住宅購入者であるお客様の声をいかにモノづくりに反映させるかが問われます。その事例として次に紹介するのが、「NS構法の外壁タイル張り工程」の開発です。パナソニックホームズの住宅用外壁として人気のある光触媒タイル「キラテック」は、通常、施工現場で張り付けますが、都市部の厳しい敷地条件でもタイル張りの外壁をご提供するために、工場で予めタイルを張り付けるという取り組みです。

※隣地境界線と建物との距離については、別途法令上の制限に従う必要があります。

敷地境界との距離は、階数・建物状況により異なります。

無足場工法

一般的な建築現場では足場を組みますが、足場の分だけ建物が内側に押しやられ、建物面積が小さくなります。パナソニックホームズでは、狭小地などの敷地面積を有効活用するために、狭小地外壁工法という足場を組まずに施工が可能な方法を1996年頃に開発。当初、同工法を用いた場合、隣の建物に隣接している外壁にはタイルを張れない状況でした。しかしながら、“タイルを建物全体に張りたい”というお客様の声にお応えするため、また長期的にメンテナンスの手間が少ないタイル外壁を“少しでも多くのお客様にお届けしたい”という想いから、2013年に外壁にタイルを張る工程を工場で自動化し、タイルの張られた外壁を現地で組み立てる方法を確立。このころには、狭小地外壁工法から無足場外壁工法へと名称も変わりましたが、全面タイル張りの家が実現しました。

ただし当時、自動化対応できていたのは「EXスクエア」という種類のタイルのみでした。「EXスクエア」は、凹凸のない平滑なタイルで、向きを考えることなく張り付けることが可能なため自動化がしやすかったのです。一方、外観に高級感が出るとお客様に人気の高い「LSスクエア」というタイルは、表面に凹凸加工が施されており、表情をきれいに見せるため1枚ずつ張る向きが決められているため、自動化を阻んでいました。NS構法の商品開発担当者として生産部門と密に連携を取っている鈴木清峰（家づくり事業部NＳ商品開発部）は、「2016年頃より無足場外壁への「LSスクエア」タイル対応の計画が始まっていたものの進まず、お客様のご要望になんとかしてお応えしたいと考え、再チャレンジすることにしました」と言います。

外壁タイル張り工程開発に取り組むメンバー

左から鈴木清峰、（以下、つくば製造部）安倉弘幸、山口貴弘、浅野正浩、田中佑志郎

平滑なEXスクエアのタイル(左)と凹凸のあるLSスクエアのタイル（右）

16枚単位でライン上を行くLSスクエアのタイルに紙が接着した状態

「LSスクエア」はタイルメーカーから、縦横4枚ずつ計16枚を並べた形で納品されるのですが、そのレイアウトが崩れることのないよう、16枚のタイルの上に紙を接着した状態で納入されます。品質基準が満たされているかをチェックする立場でもある鈴木清峰が最大のハードルと感じていたのは、紙と接着剤をいかにきれいに取り除くかだったと言います。「わずかでも接着剤が残っていれば、それが原因で汚れになってしまうからです」とその理由を説明します。

その要望を受け、技術を担当する田中佑志郎（つくば製造部）は、接着剤を取り除くための洗浄方法について水圧洗浄、スポンジ研磨など様々な方法でトライしました。そして最終的に農業用の野菜洗浄機に行き着き、これにアレンジを加えることにしました。「ブラシの本数を増やし、毛の硬さを変え、凹凸のあるタイルに対応できるよう毛の長さにも変化を加えました」。また、16枚分のユニットを外壁に張り付けていく方法については、16枚のタイルが入る専用の枠を用意。枠の底面に突起をつけてタイルを浮かせることで乾きやすくし、枠の4辺の1辺にへりをつけることで設置する方向を容易に把握できるようにしました。

16枚分のタイルはロボットアームが16枚それぞれのタイルに2つの吸着パッドを対角線上につけることで引き上げやすいように工夫しました。また、外壁に張る際には４つの角に付けられたバネでしっかり押し込み、外壁としっかり接着できるようにしています。「鈴木さんと何度も打ち合わせをしながら、品質基準をしっかり満たせるよう試験を繰り返しながら改善を図っていきました」と田中佑志郎。鈴木清峰は「田中さんはアイディアマン。短期間でさまざまな方法を試し、最適な方法を見つけてくれました」と、商品開発と生産の担当者同士で息の合った連携で実現。2021年に現在の生産体制が整いました。

採用した技術を製造メンバーの意見を取り入れながら現場に落とし込むのは製造担当の浅野正浩（つくば製造部）の役割で、「自動化を進めながらも、タイルの糊剤をきれいにならし、櫛引きする作業などは職人技が求められます。産業ロボットの作業と組み合わせながら、一人ひとりの多能工化を目指しています」と語ります。

突起をつけたタイル用ユニット

吸着パッドを備えたロボットアーム

櫛引をしている様子

産業ロボットがタイルを張る様子

お困りごと解決、を念頭に置き社内にアンテナを張る

今回取り上げた２つの取り組みは工場内の別の工程や異なる構法でさらに広がる可能性を秘めています。「HS・NS構法のミックス生産体制」の構築は、今回の小壁から大壁への展開を、「NS商品の外壁タイル張り工程」の開発は、新たなタイプの応用をといった具合です。また、つくば工場と湖東工場は、生産、調達、物流の担当者が情報を共有するための会議を毎月開いており、工場を超えた横展開にもつなげていく予定です。

「連携が進んだことで、工場内の各部門で”お困りごと解決”をテーマにアンテナを張る空気が醸成されており、テーマがあれば協力して課題を解決する関係が構築できつつある」と鈴木清峰は連携の手ごたえを感じています。

工場メンバーと共に開発を進める鈴木清峰

鶴長寛之は「家づくり全体を俯瞰して見たときに、工場も建設現場も働き手の高齢化が懸念されることから、施工現場の工程を工場に取り込む‘’工業化‘’の必要があります。工場はモノづくりに適した場所であり、施工現場での工程をプレカットとして工場に取り込むことで、より品質の高い商品をお客様にお届けすることができます。機械化できる部分は置き換え、少量多品種でも対応できるよう、複雑な工程もシンプルに簡略化・標準化していくのです。もちろん、成功事例ばかりではなく、時にはうまく行かないこともありますが、より良い品質や省施工化につながるチャレンジを常に忘れず、良家づくりを実現していきたい」と力強く語りました。