創業60周年。感謝と挑戦を合言葉に、工業化住宅の生産を担う工場での生産革新の取り組み。時代とともに変貌を遂げるモノづくり現場（１）

生産革新

2023年1月20日 19時40分パナソニックホームズ株式会社

パナソニックホームズは2023年、創業60周年を迎えました。創業者、松下幸之助の「良い家をつくりたい」という住まいへの想いを受け継ぎ、工業化住宅を提供してきた生産現場の歴史と新たな取り組みについて全4回でご紹介します。

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「自分でやってみたい事業がある。それが家づくりなんや」

パナソニックホームズ設立の年、1963年は、「巨人、大鵬、玉子焼き」と言われた通り、巨人と大鵬が優勝を続け、アニメ「鉄腕アトム」が放映開始されるなど、実質GDP（国内総生産）を年９％以上伸ばし続けていた高度経済成長の真っただ中。人口が加速度的に増加し、住宅の需要が急騰していた時期です。

ある日、当時の松下電器産業(株) 常務取締役・西宮重和が創業者、松下幸之助の部屋に呼び出されました。「ひとつだけ自分自身でやってみたい、という事業がある」。と熱い胸の内をさらされ、当時の松下電工(株)の一事業部に据えていた住宅事業を、専門会社として独立させることが宣言されました。創業者の情熱はバトンのように受け継がれ、同年、8月1日に当時の松下電器産業・松下電工の出資によりナショナル住宅建材株式会社（現・パナソニックホームズ株式会社）が設立されました。「水道哲学」を掲げ、家電製品の普及により、人の暮らしを、社会を豊かにすることを目指した創業者は、昭和初期には「家を通じて人々の暮らしに寄与する」ことへの想いを語っていましたが、その想いは当社創業後に深められ、「住まいは人間が生活していくうえで、一番大切なものである。それにふさわしい良い家をつくりたい」と語っています。

1959年に極秘プロジェクトとして発足したK企画班（「K」は工業化住宅の略称）が誕生し、専用工場もない状態で試作住宅の開発を進めていた時から、創業者はこうした想いを大切にしていました。

第1次試作住宅の方向性を検討するK企画班

生産能力増強に向けて滋賀県の「湖東工場」が操業開始（1969年）

パナソニックホームズは当時の松下電工(株)構内（大阪府門真市）に生産拠点を構えていましたが、1967年のいざなぎ景気の頃には増産に次ぐ増産により、部材・資材が屋外まで溢れるほどになり、将来の需要増を担う生産拠点として、1969年1月に滋賀県湖東町（現・東近江市下岸本町）に約10万㎡（約3万坪）の工場用地を取得。同年10月1日には、工場の操業を開始しています。工場は一部の建屋に屋根がかかっただけの状態で工場としては未完成ではありましたが、操業開始3日後には生産第1号となる間仕切パネル400枚を初出荷にこぎつけるなど、従業員の士気は大変高まっていました。1972年には東日本地区の需要増に応え、茨城県筑波郡谷和原村（現・つくばみらい市）において「筑波工場」（現・つくば工場）の操業も開始。1975年には敷地面積約10万6,000㎡（約3万2,000坪）規模に拡大しています。

1969年湖東工場（第１工場）建設風景

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現在の工場（上：湖東工場、下：つくば工場）

品質管理優良工場として認定、品質向上に向けた人づくりにも取り組む

1970年当時、社会問題化していた欠陥住宅問題を解決するために、通商産業省（現・経済産業省）は工場生産住宅部材の品質保証と消費者保護に向けた「工業生産住宅等品質管理優良工場認定制度」を1972年に制定しました。これは、工場生産型の住宅メーカーが生産・品質に関する社内規定を整えているか、その工場が実際にそれを守って運営・実施しているかを審査するもので、認定された工場で生産される部材は、品質のバラつきがなく精度が高いという“お墨付き”を得ることができるというものです。パナソニックホームズは、1973年より認定取得の準備を始め、1974年湖東工場、1975年筑波工場において認定取得に至っています。これを機に、教育訓練や作業の標準化、設備の改善など、製造管理システムの基礎を整えることができました。

1978年には湖東工場敷地内に建物面積約5,000㎡(約1,500坪)の湖東商品センターを開設、1984年には、同じく湖東工場敷地内に実物大住宅2棟を収容し、あらゆる気象条件を人工的に再現する「住宅試験センター」を設立。住宅性能の向上・品質改善に結びつけていきました。また、人材育成においては工事管理技術者の養成、教育の場として1971年設立の「ナショナル住宅技術研修センター」、1978年には優秀な建築技術者を育てる「ナショナル住宅高等職業訓練学校」を開校。さらに、湖東工場に隣接する形で、新しいチャレンジを支える“人づくり”のベースとなる「西部HRセンター」を1995年にリニューアルオープン。同時期（1993年）、筑波工場にも「東部HRセンター」を開設しています。HRとは、Human（人間尊重）＋Research（くらし文化の探求）、Refresh（心とからだの健康）、Relation（人と人とのふれ愛）を意味しています。

住宅試験センター（現在）

1995年西部HRセンター竣工

2007年からグループ全体で生産革新に取り組む

パナソニックホームズは、工業化住宅として良質な住宅の生産・供給を進めながらも、創業者の想い、「良家づくり」の思想は創業60年を迎えても揺らぐことはありません。「生涯の満足をお届けする」住まいづくりにこだわり、お客様の信頼を繋いできた「品質」を支えてきたのは、工場における生産革新です。2007年からは、パナソニックグループとともに生産現場の革新に取り組む「Advanced-Nextセル活動」を進めてきました。「Advanced-Nextセル活動」とは、サプライチェーン全体をみた生産革新で、経営体質強化を図るモノづくり思想です。ここで互いの生産拠点での課題発見などに取り組み、共に学び生かしてきました。そこでの学びを継承し、パナソニックホームズでは、製造拠点を起点に省エネ・省資源といった地球環境視点も含めて最新技術を活用し、設計から施工までモノの流れの整流化・効率化を図るために、日々たゆまぬ努力を重ね改革を進めています。

「Advanced-Nextセル活動」をベースに、持続可能な強い工場へ

現在の湖東工場は、約600人が働き、年間約2,600棟の住宅生産が可能な工場として、稼働しています。市場環境に合わせて進化し続けられる製造拠点、将来にわたって「強い工場」を目指しています。現在の取り組みや今後10年を見据えたモノづくり革新について、工場長の原田健司に話を聞きました。

原田健司（湖東工場工場長）

Ｑ　ご自身が「Advanced-Nextセル活動」の中心メンバーでしたが、同活動は工場のモノづくりの思想に影響を与えていますか？

原田：私が参加したのは2010年です。パナソニックグループ全体の取り組みに参加したわけですが、当社が他のグループ会社と少し異なったポジションにいることを再認識しました。
「PUSH型生産とPULL型生産」という言葉があります。他社はどちらかと言えば、売上を見込んで冷蔵庫やエアコンを生産するPUSH型生産体制でしたが、当社は“邸別生産”、すなわちお客様の購入が決定し、家づくりのプランが固まって初めて工場へ発注が来るという、必要なものを必要な数だけ如何に素早く供給できるかというPULL型生産の体制でした。生産体制の違いもあり、当時できている部分もたくさんありました。けれども、在庫の管理や現場力はどうなのか？在庫ゼロを目指す場合、在庫そのものの数だけでなく、製造出荷までのリードタイムはどうなっているのか？競合他社と比較したらどうなのか？とそういった細かい点を突き詰めると、できていないことも多数あると気づきました。

“邸別生産”によるPULL型生産方式だったことや、住宅という大きくて重い部品・部材を製造するということもあり、省人化を含めた生産性向上の取り組みはかなり行われていたのですが、「Advanced-Nextセル活動」では、同じ生産性でも“人生産性をどう上げるか”が大切な指標です。このように「Advanced-Nextセル活動」は、当時の私たちの生産現場に、新たな視点、新たな指標、その為の新たな手法などを提示し、我々はそれを学ぶことができました。それが今、そうした視点で取り組むことがごくごく自然なまでに浸透しています。

住宅の納品までの行程には、生産と建設という２つの現場があり、当時、特に現場力を強化し、最小コストでモノ作りをするにはどうすればいいかを考えようという気運が強かったことを思い出します。以前は、工場の中だけで如何に最安にできるかというモノ作りを考えていたのですが、以降は、建設現場での建築という工程も含めた最安を一緒になって考えるというのが自然な思考として我々に定着しています。

当社にはどのお客様の家か分かった上でのモノ作りゆえに、1邸１邸、建てて頂くお客様のことを思いながらモノ作りをして行くという「邸別生産」を基にした精神、思考が連綿と流れています。高品質のモノをきちっと作るという事を絶対的な基本としながら、「Advanced-Nextセル活動」によって、最安のモノ作りを目指して一つ一つの工程でどれだけ原価を下げてモノ作りができるかに挑戦する。これそのものが、お客様に如何に費用を抑えて家づくりをしていただけるかというサービスに直結するわけですから、こうした点にも大きな影響を与えている活動だと感じています。

Q　「働き方改革関連法」の順次施行に伴い、建設業界は2024年に猶予期限を迎えますが、「建設業の2024年問題」をどのように考えていますか？

原田：従業員の構成としては、80年代後半から90年代前半に入社した40～50歳代の人材が多く、一方で30代の人数が非常に少なく、そうした中に20代の若手がいてくれる。こうした構造は、他社も同様で、日本の製造現場の現況ではないかと思います。また、働き手の年代構成の問題とは別に、ひと昔前と異なり、生産現場で働く人々が海外からの技能研修生を含めて多様な時代になっており、定着・安定化といった課題にも直面しています。
「Advanced-Nextセル活動」は示唆に富んだ様々な改善の手法や指標を提供してくれました。それはある種、工場で働く皆の共通言語、共通認識となっていますから、報告を受け管理する側も分かり易いですし、説明を容易にしてくれている面もあります。こうした利点は発展的に活かして行ければと考えています。
2024年問題は、ポジティブに捉えますと「しっかり働いてしっかり休みましょう」という事を大切にしようということでもあると思っています。
私が入社して配属されたのは生産技術部だったのですが、当時、諸先輩に「三現主義」を教わりました。「現場・現物・現実」を指す言葉で、生産現場ではよく使われる言葉ですが、本当によく言われました。数字や机上だけで改善策を想像するのではなく、工場の事務所は「すぐ外に現場があるのだから、現場へ行って現物や現実を見て課題解決方法を考えろ」と。
我々も建設業界の一員として、2024年問題にどこまで貢献できるか、「三現主義」で前向きに挑戦していきたいと考えています。

Q　将来を見据えてどのような取り組みを行われていますか？

原田：昨年、協働ロボットの導入を始めました。取り組みを始めたばかりで課題も多数見えてきていますが、様々なところに展開できれば、工場の進化、強い工場、未来の工場作りに繋がると考えています。
その意味で、どのようにこの取り組みを広げていくのか、いけるのかというところが我々に課せられている大きな課題のように感じています。
工場ラインでは、これまで、安全確保のために、機械が作業する工程と人が作業する工程は明確に区分する必要があり、自動化や省人化を睨んでロボット導入を計画しても、ラインの工程が長くならざるを得ませんでした。人の負担は減らすことができるが、リードタイムは長くなるといったジレンマが発生しました。機械と人の作業を区別して考えるのが常識でしたので、機械を入れた工程・箇所は全て機械化する、つまり自動化してしまうのが効率的と考えられていました。しかし機械でできない事を新たに人が作業する工程として増やしてしまう。逆に、機械化に効率的な工程だけに部分的に導入すると、結局、0.4人分等、端数の作業が残ってしまうなど、解決し難い課題でした。他方、全自動ロボットの導入を目論むと、非常に高価な設備投資となってしまい、費用対効果という観点では、なかなかバランスが取れません。
工場の自動化や機械化のフェイズは取り組みの歴史も長く相応に突き詰められており、2019年頃からは、これらを次のステップに進めるには高いハードルに阻まれている感覚がありました。
そんな中、規制緩和によって人とロボットが協働できることになったことから、昨年トライアルを開始しました。
人間の作業を自動化するには、人間の作業を標準化しなくちゃいけないと言われます。当社の住宅に15㎝ピッチで設計できるHSシリーズという商品があります。同シリーズの部品・部材を生産する際には、様々なサイズの部材に対応しなければなりませんから、自動化するには、こうしたフレキシブルさに対応する必要があり、容易ではありません。かといって単純に全自動ロボットを導入した場合には、コストがお客様に跳ね返ってしまいます。
協働ロボットの取り組みは、「最安最速のモノ作り」を目指す「Advanced-Nextセル活動」の思想にも合致しますし、工場で働く作業員の体力的な負担減や働き手の安定化にも繋がる可能性を持っています。また、このような省力化、省エネ化はカーボンニュートラルといった課題解決にも直接貢献できる可能性も秘めていると考えています。