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音のプロに聞いてみた！シリーズ概要

40年以上に渡り商業施設や家電の最新の音を手掛けてきた

サウンド・スペース・コンポーザー井出 祐昭氏に

仕事の裏側や、私たちの傍にある音の問題、

今からでもできる音の工夫について聞いてみました。

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今回のテーマ「無音の効果って何ですか？」

たまにCMや映画の演出でも、ふっと無音になって注意を惹くような演出がなされているのを見ます。

音のない時間にも意味があるのでしょうか？

効果的に使う方法はあるのでしょうか？

お話を聞いてみました。

音のない時間にも意味はあるんでしょうか？

ーなかなか高度な質問ですね。意味は大いにあると思います。

音の仕事が「どんな音をいかにして出すか？」ということばかり考えていると思うと、大間違い。

どちらかと言うと、「いかに音を出さないか」ということをものすごく意識しています。

無音の時間は「間（ま）」とも言いますが、この「間」が実は最高にカラフルでパワフルなものなのです。

例えば、演奏中に次の音を出す前に間を空けることを「音を溜める」と言うのですが、あえて止めたり遅らせたり、テンポのまますぐに行かずに「音を溜める」と、間を作るあいだにエネルギーが溜まり、次にスタートするときに炸裂するような物凄いエネルギーになります。

何も鳴っていないのに、不思議ですよね。

その他にも見の周りでも「間」の面白さを感じられるシーンは様々あります。

身近で分かり易い「間」のすごさってありますか？

ー身近なところで言うと、CDの曲と曲の間の時間でしょうか。

ダウンロード配信等だと均一化されているかもしれませんが、CDをプレスする際に、私たちは曲と曲の間の時間を自分たちで決めることができます。

これがまた大事な仕事で。

まず、演奏が始まるタイミングというのは、実際に音が出る瞬間という訳ではありません。

どうやら音楽というのは、音が始まる前から演奏が始まっているようで、 音が出るところから曲が始まると切れているように感じます。

終わるタイミングについても同様です。音が無くなる様子は波形で分かりますが、 消えた瞬間に音を切ると急に現実に引き戻される感じがしてしまいます。

実際には、本当に音がなくなった後も一呼吸や二呼吸の間が必要です。

音楽は終わってからも暫く続いています。

音が無くなった後の時間に物凄く集中されたエネルギーがあるので、「ここまでが音楽だ」という感じが良く分かります。

間も含めて音楽として扱い、「この辺かな？」というように切るタイミングを感覚で決めるのですが、何人いても何回やってもそのポイントは不思議と変わりません。

音はないんだけど、「ここにすごく入っているなあ」と感じます。

少し深い話をすると、無音であるはずの間の中に音が聴こえることがあります。

その人の凄い想いや音楽的なエネルギーが込められていたんだろうなあと感じる瞬間です。

私がそれを初めて体験したのはレコードで、当時は磁気テープで録音していたので転写して音が入ってしまっていたのでは？なんて言われもしましたが、そうは思えませんでした。

「間」は日本人が大切にしてきた文化だそうですね

ーはい。おそらく、「間」という言葉で一番連想しやすいのは、茶の間等の空間ではないでしょうか。

狭い所に無限大の宇宙を感じる、日本の昔ながらの感性です。

音楽ではどうでしょう。実は、雅楽、歌舞伎や能は「間の芸術」と言っても過言ではありません。

西洋音楽の場合は、あるテンポに乗った上で、休符等を用いて間を時間で表現しますが、雅楽には実は決められたテンポがありません。

天や宇宙のテンポとも言えるような長いテンポに乗っているとも言えますが、ほぼ阿吽の呼吸で演奏を行っています。

自分も雅楽をやってた時期があるのですが、その時一番最初に唱歌（しょうが）という、扇子でテンポを取り歌う練習がありました。

普通ならテンポは一定かと思いきや、この扇子、テンポが全然一定ではないのです。

いわゆる「身体で覚える」ということですね。

僕らは、「筋肉で覚える」と言っています。

ただ、分からないものを覚える感覚とは違い、言われているリズムに乗ると、心の中で「これだ」というジャストなタイミングがあるから不思議です。抜け感があって快感でした。

間というのは、何かの摂理に乗っかっている感じがしたり、音楽理論で前の音が次の音を決めるということがあるように、前の音が次のタイミングを決めるということがあると感じました。

これは本当に不思議な体験でした。

日本人の得意とする所だと思います。

間の文化は、私たちの生活でどのような応用ができますか？

ー実際に行った例で言うと、例えば元祖JR新宿駅渋谷駅の発車メロディ開発の際には、「引っかかり」を作るために間の効果を応用しました。

発車メロディは信号なので、注意を惹くために何度か繰り返すのですが、その繰り返されるタイミングが音楽的なリズムに乗ってると、聴き慣れてしまい信号の機能を果たしづらくなります。

そのため、私たちが開発した発車メロディは、実は休符にあたるところはものすごく乗り難いリズムになっています。

譜面で見ると変拍子で、それによって引っかかりを作っているということです。

間のコントロールをして、音がちゃんと機能するように応用した一例です。

学校のチャイムにしても、一回目と2回目を繰り返すタイミングで緊張感が高まるようにしたり、最後のキメフレーズに行くまでの時間を調整したり。

身近なところでは電話の着信音も、音が切れた後に注意が喚起されるよう調整をすることで、その機能性を高めています。

その他にも、間にはリセットや浄化と言った、一つ前の印象を一回打ち消す効果もあります。

英語にすると"pause"や"space"等意味が軽くなってしまうように、この「間」の感性は日本人が誇るべきものであると思います。

これをどうやって社会に活かしていくか？がこれからのポイントだと思います。

本日お話した内容はあくまで一例です。

まだまだ奥が深い世界なので、間の応用を色々な分野で極めていくと、日本で一つのカルチャーになるのかなと思います。

プロフィール

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井出 祐昭　HIROAKI IDE

サウンド・スペース・コンポーザー Sound Space Composer

有限会社エル・プロデュース代表取締役

井出 音 研究所 所長

ヤマハ株式会社チーフプロデューサーを経て、2001年有限会社エル・プロデュースを設立。最先端技術を駆使し、音楽制作、音響デザイン、音場創成を総合的にプロデュースすることにより様々なエネルギー空間を創り出す「サウンド・スペース・コンポーズ」の新分野を確立。イマジネーションを最大限に喚起する次世代の立体音響システム“ELPHONIC”を開発し、医療・健康分野との関連も深めている。

主な作品として、30周年を迎えるJR新宿・渋谷駅発車ベル、愛知万博、上海万博、浜名湖花博、表参道ヒルズ、グランフロント大阪、東京銀座資生堂ビル、TOYOTA i-REALコンテンツ、TOYOTA Concept-愛i、SHARP AQUOS、立川シネマシティ、世界デザイン博など。

またアメリカ最大のがんセンターMD Anderson Cancer Centerで音楽療法の臨床研究を行う他、科学と音楽の融合に取り組んでいる。最近では、日本ロレアルと共同で髪や肌の健康状態を音で伝える技術を開発。米フロリダ州にて行われた化粧品業界のオリンピックである第29回IFSCC世界大会、PR分野の世界大会であるESOMAR 2017にてグランプリを受賞。

http://elproduce.com/