阪神淡路大震災や東日本大震災などの大災害が発生した時、避難所での滞在中に不足して困ったものとしては「生活用水」が最も多いと言われています。飲み水は備蓄をしている人も増えていますが、災害で水が止まってしまうとトイレやシャワーなどの生活用水の確保が難しく、生活に支障がでたという声がいまだに多く聞かれます。

丸山製作所は日本初の消化器メーカーとして1895年に創業。消化器で必要なポンプを研究する中で、水に関する研究、特に洗浄や水流に関する研究を重ねてきました。現在は、海・川・プール・防火水槽などの水をろ過し、海水・淡水どちらの原水からでも生活用水を生成可能な「災害時生活用水生成RO装置」も開発しています。

このRO装置(フィルタを用い有機物や不純物を除去する装置)は、災害時の用途以外でもプールや車の洗浄にも使用でき、洗浄分野の研究・開発を行う丸山製作所ならではの機能性も兼ね備えています。災害時は生活用水として、普段は洗浄の用途としても使えるRO装置の誕生秘話を伺いました。

<企画開発者プロフィール>

宮﨑　広太（入社14年目）

株式会社丸山製作所　生産本部西部技術課

ポンプの設計、開発部署から洗浄機の設計部署に至る。

「機能」を考えて設計を進めています。

向　紘史(入社15年目)

株式会社丸山製作所　ポンプ事業部設計課

背負動力散布機など農業用製品の設計を経て、現在、洗浄機設計を行っている。

お客様目線で製品設計を行っています。

江澤　佑允(入社16年目)

株式会社丸山製作所　営業本部　営業企画部　営業推進課

乗用管理機等の大型防除機の設計部署を経て、現在、営業推進課にて新製品開発の業務に従事。

日々、お客様が求める価値を満たす製品開発を意識して、業務にあたっています。

お客様の声から生まれた、日常時・災害時どちらも使えるフェーズフリー製品

災害時生活用水生成RO装置 構成図

ーなぜ、災害時用のRO装置を開発することになったのですか？

水を扱うポンプメーカーとして、自社のポンプ技術を活用して社会貢献、自然災害時に確保が難しい生活用水の生成を実現するRO装置の開発プロジェクトがスタートしました。

RO装置については他メーカーにも先行商品はありますが、弊社の得意な技術リソースである”水を吸い込み圧送するポンプをつくる技術”と、”洗浄機を作っていく上で培った構造や接続配管のノウハウ”と組み合わせることで、近年増加傾向にある自然災害時だけでなく日常時にもフェーズフリーで活用いただける製品を目指しました。

最初は弊社の製品分野としては経験がなく、社内では当初「本当に売れるのか」という意見もありましたが、区役所へのヒアリングや展示会に参考出展した際に自治体などから集めた意見からは、災害時の生活用水確保については課題に感じられている方が多く、ニーズが非常に高いことが分かりました。

ー今の形になる前はどのような試行錯誤がありましたか？

実は、現在の高圧洗浄機との組み合わせに至る前は、災害時用に特化したものも検討していました。展示会で参考出展をした開発機をもとにたくさんの意見を伺ったのですが、「災害時用だけに購入しようとは思わない」「いざというときに動くかわからないことが不安」という声が多く、災害時だけではなく日常でもご活用いただけるような製品が必要だと感じ、現在の仕様に至りました。

弊社の得意分野でありご好評いただいている高圧ポンプの仕組みを社会課題の解決のために活かし、さらにお客様のご要望も取り入れたものとして、洗浄機能付きのRO装置という新たな製品が誕生しました。

予期せぬ課題も「しっかり使えるものを提供したい」想いで解決

ー開発中に苦労した点をお伺いできますか？

まず、試験用の海水の採取に苦労しました。当初は私たちの開発拠点が比較的海に近い場所に位置しているため、試験に使用する海水取得には困らないだろうと考えていました。しかし、200Lと大容量のタンクに採水するには「車で入ることができるエリアであること」「採水用のポンプで取水可能であること」など条件が存在することがわかり、地元漁協へ立ち入り許可を取ったり、一般的な塩分濃度の海水が採れる採水場所を選定するなど、予期していなかったさまざまな困難がありました。

他にも、海水によっても不純物やごみの多さが違うので、RO膜よりも粗いフィルタで海に漂っている海藻や落ち葉などのゴミを取り除く前処理の作業が必要になることがわかり、新たに構造を再検討しました。

また、緊急時はどうしても気が急いてしまったり、平常な心持ちでは無くなると思います。そのような状況を想定して、洗浄機の仕様からRO部分を引っかけるだけで簡単に切り替えができるようなシンプルな設計にしました。

このように課題や検討すべきことはたくさんありましたが、私たちとしては「緊急用造水機と洗浄機機能を両立させるからには、いずれの機能もしっかりと使えるものを提供したい」という想いで向き合ってきましたし、現在も細部の見直しやアップデートを進めています。

RO装置を使用する前と後の水の比較

ーこの製品の開発でブレイクスルーとなったポイントはありますか？

洗浄機とのフェーズフリー化を実現するにあたって、配管の仕方や機能の切替、小型化などは洗浄機の開発時のノウハウをそのまま活用できた部分が多かったです。

高圧水を圧送するポンプとの接続配管や、使用時に適切な圧力に調整する機構の設置箇所など、得意分野である技術を活用しながら、比較的スムーズに開発が進められました。

また、フェーズフリーというコンセプトにしたことによって、「緊急時にいざ動かそうとしてもどうすればいいか分からない」「必要な時に動かない」という不安やリスクも減らすことができると考えています。

災害時でも日常でも、本当に必要とされる製品を開発し続けたい

ー最後に、製品に対する想いを教えてください。

このRO装置は災害時のためだけに備蓄されるものではなく、普段から愛用できて、いざ困ったときにはお手伝いができる、本当に必要とされる製品を作りたいという想いで開発しました。

私たちの開発拠点がある千葉も、2019年の台風の際には暑い中停電・断水となりました。トイレ・シャワー・手洗いなど何もできず大変な不便さを感じ、改めて水は生活に必要不可欠なインフラであると実感しました。もしも皆様が自然災害に直面した時にはこの製品が役に立ち、少しでもいつも通りの生活を感じられるようなほっとする瞬間を生み出すことができれば開発者としては嬉しい限りです。

今後もポンプを極めるメーカーとして世の中の多様なニーズに応えるとともに、よりお客様視点で使いやすい製品の開発に邁進していきたいと思っています。

東京国際消防防災展　2023での展示風景