沖縄県内で「すこやか薬局」を39店舗運営し、多角的に事業展開しているすこやかグループは、来年(2024年)に創業40周年を迎えようとしています。企業としての更なる発展と沖縄や地域社会への貢献のため、昨年より社内に「未来創造室」という、グループ全体の未来を考え活動する部署を設置し、改めてブランディングへの取り組みを強化してきました。

取締役副社長宮里の事業承継が近づく中、課題が見えない状態からどのようにブランディングを進めてきたか、またそこに込めてきた想いについて、ブランディング活動をサポートしている株式会社アンド・フォースの瀧口代表を迎え、振り返ります。

▲左：株式会社すこやかホールディングス 取締役副社長/未来創造室長　宮里 早香

右：株式会社アンド・フォース 代表取締役/ブランドデザイナー　瀧口 幸明

■ブランディングに取り組むきっかけ

宮里：弊社は、地域のニーズに答える形で、介護福祉事業・保育事業・サロン事業・IT事業という、保険薬局以外の事業も⾏っています。そして今年はついにホテル事業（パークPFI事業）という、全く新しい業種に挑戦しようとしています。 創業当時、まさかここまで事業が拡⼤するとは夢にも思っていなかったですし、社員も同様、「会社がどこに向かっていくのか？」という不安を抱く人が少なからずいるのではないかという懸念がありました。

そんな時に瀧⼝代表と出会い、この先経営をする上で⼤切なパーパス（会社が存在する意義）を具現化し、社員・地域と共有することの重要さを教えていただき、私がやりたかったことはこれだ！と、その場で確信しました。

瀧口：当時(2022年)すこやかグループは、創業38年の県内有数の企業で、ブランディングや経営の観点で言うと、4大経営資源である「人」「モノ」「カネ」「情報」という基盤がしっかり揃っていました。

ただ、「すこやかグループ」という呼び名はまだ浸透していなく、「薬正堂」「ホールディングス」「薬局グループ」など、色々な名前が点在していて、主語が揃っていないことがもったいないと感じていました。呼び名をまず統一しなければならないと思いましたし、ロゴの見え方なども考え直した方がよいと感じました。

つまり、すこやかグループが次のステージに行くためには、5番目の経営資源としての「デザイン」を構築すること、そしてそれを発信していくことが重要だとお伝えしました。

デザインを起点とした情報の資産を増やしていく、それが最終的には人やお金、あるいは新しいビジネスを呼び込んでくると考えたのです。

そしてその前にまず、「前提として情報整理をしていきましょう」とお伝えしました。情報整理から始めることが、おのずと正しいデザインになっていくからです。

宮里：情報整理と聞いたのに一番初めに取り掛かったのが、自分の人生を振り返ること、いわゆる「パーソナルブランディング」だったことには驚きました（笑）。

瀧口：パーソナルブランディングから始める理由は、経営者の人生が会社の人生をつくり、会社の見られ方をつくるからです。

すこやかグループさんの場合は、現社長から事業承継する宮里副社長が、自らの人生を振り返る「人生曲線」をつくり、自分の原点や会社に対する想いを明らかにすることから始めましたね。

そこで抽出したキーワードが、後々のコーポレートブランディングに生きてくるというわけです。下の図のようなステップでブランディングを進めていきました。

■原点を見つめ直し、パーパス・ロゴマークに具現化

瀧口：人生曲線は、自分の人生や思想に影響を与えた「原点」となる体験を洗い出します。その点と点が結びつくところに必ずブランディングのヒントがあると考えているため、当時はかなりの時間を使って宮里副社長と壁打ち形式で話し合い、心の中を深掘りしていきました。そこから出てきたキーワードを最終的にパーパスとして言語化していきました。

宮里：壁打ちを繰り返していく中で改めて気付いたことがあります。私たちの会社が⼤切にしてきた⽂化についてです。

弊社は今年(2023年)で39年⽬を迎えますが、創業時は調剤薬局で⼩児科の⾨前だったことから「⼦ども達がすこやかに育ちますように」という願いを込めて“すこやか薬局”と名付け、その後も地域密着型の薬局として今では39店舗まで拡⼤しました。 現在までの歩みの中ですこやかグループが⼤切にしてきたことは、「相⼿の痒いところに⼿が届くサービスを⾏い、地域の⽅と感動を共有すること」です。

例えば、県内初ドライブスルー薬局やフロアコンシェルジュの配置、医療機関併設の認可保育園の開設などを行ってきました。

それらのアクションの根幹となるのが「創造と奉仕」という理念です。この言葉には「相⼿の⽴場に⽴って気づき、それを奉仕の精神でお届けする」という思いが込められています。相⼿の⽴場に⽴つということは、その⼈の⼈⽣、⽣きてきた物語に関⼼を持つということだと考えています。要するに「愛」です。

マザーテレサの⾔葉に「愛の反対は憎しみではない。無関心です。」という⾔葉があるように、私たちは地域、患者様、働く仲間に愛を持って⾏動してきました。その結果、あたたかい雰囲気と⼈を⼤切にする⽂化が育ち、ここまで事業が継続できたのだということに、改めて気付かされたのです。

瀧口：その気付きをパーパスとして昇華していきました。ここでのポイントは、「独自性」を明確にすること。多くの競合他社が発しているワードを調べましたが、「愛」を打ち出している会社さんはほぼいなく、やはり「愛」という言葉はすこやかグループさんが唯一無二の存在感を示す上でとても重要と考えました。このキーワードをもとに様々な方向性でパーパスの素案をご提示していきました。

宮里：役員も含めて皆で検討を繰り返し、話し合い、最終的に「誰もが幸せに暮らす未来に、愛を。」というパーパスと「BORDERLESS LOVING」というスローガンに決定しました。

宮里：そして、パーパスに込めた「すこやかグループの愛でこの地域を豊かにして、誰もが幸せに暮らせる未来を創っていこうね」という想いを、色と形で表現したのがこのグループロゴマークです。

ロゴの真ん中が地球で、それをすこやかグループの愛がぐるっと1周しています。ハートマークが包み込んでいるイメージです。

瀧口：このロゴにたどり着くまでかなりの案を検討し、ご提案させていただきました。

これまでに副社長や役員の皆さまと壁打ちしてきたことに向き合い、「何を大事に思っているのか」「何を象徴とすべきなのか」「どんな色であるべきか」などを様々な方向性で具現化していき、こちらのロゴに決定となりました。

宮里：決定したあとも色やフォルムについては何度も検討を重ねましたね。すこやかグループはピンクとブルーが基調カラーなのですが、そこに今回新たに緑色を加えたりと、歴史を大切にしながらも、未来に向けて新たな一歩を踏み出すのだということを意識しました。

■「つくって終わり」ではないブランディング

瀧口：パーパスやロゴマークはつくって終わりではなく、社員の皆さんが社外の人に向けて語れるようになることが重要です。社内浸透のためにどんな取り組みをしていますか？

宮里：ブランディングのプロセスで具体化してきた思いを社内報の中に詰め込んで、社員たちに伝えるようにしています。親しみやすく、読みやすい誌面を心がけることは勿論、社員に配布する際は担当幹部に内容について語ってもらうようにしています。社員と会話のきっかけをつくるのもブランディングを磨き上げていくうえで必要なことだと思い、実行しています。

瀧口：素晴らしい取り組みですね。こうして社内から社外へと、パーパスに込めた想いが徐々に浸透していくことで、未来のすこやかグループはどんな会社になっていたいですか？

宮里：小さな困りごとも「そうだ、“すこやか”に相談してみよう！」と思ってもらえるような会社になりたいです。

地域の皆さまからそうやって頼りにされると、スタッフのみんなも嬉しいでしょうし、やりがいも生まれるでしょう。困りごとが解決できて「ありがとう」の言葉をいただけたら、こんなに幸せなことはないなと思います。

瀧口：とても素敵なお考えですね。私たち社外の者から見ても“すこやか”という名前は、沖縄県内であれば誰でも知っていますし、認知度が高い企業だと感じます。これからは御社のことを真似する企業が増えてくるでしょう。

その中で、すこやかグループさんは最もイノベーションを起こす会社であり、チャレンジングな会社であるべきだと思います。

また、女性経営者であることもフォーカスされるでしょう。県内の二代目経営者や女性の経営者が、「すこやかグループを目指せば、こういう風になれるんだ！」と思われるような1つのベンチマークになってくれたら嬉しいです。それが最終的には沖縄の発展にもつながっていくと思います。

自己の整理から始まり、経営理念の真の解釈、そして、社会に向けての新たな発信というところを、最終的にはデザインに落とし込んでいくこと。それが成功している企業として、他の企業が目標にする存在になっていてくれるものと予感しています。

宮里：今回、ブランディングを通してこれまで大切にしてきたことに改めて気づき、そして会社がこの地に存在する意義を具現化することができました。

約40年前、小さな薬局からスタートしたすこやかグループがここまで来られたのはたくさんのご縁と社員のエネルギーが集結したおかげです。

これからも地域に関心をもち「すこやかの愛」を届け誰もが幸せに暮らす未来を創るため挑戦し続けたいと思います。

●新設されたすこやかグループのホームページでは、パーパスに込めた想いをストーリーとして公開しています。ぜひご覧ください。

https://www.gp.sukoyakahd.com/story/