柴田株式会社は1937年創業の老舗洋傘メーカーです。創業以来85年間、傘の製造・卸メーカーとして他社が断るような難しい加工や面倒なデザインを率先して引き受け、傘づくりの技術を磨いてきました。かつて100社以上あった国内傘メーカーも年々減り続け、さらにはコロナ禍が追い討ちをかけ傘業界は衰退の一途をたどります。百貨店に傘を卸していた同社も、廃業の選択を迫られました。しかし、傘は日本人の生活になくてはならない商品であり文化でもあります。廃業すれば同社が抱える傘職人の生活が路頭に迷うだけではなく、日本が長年培ってきた傘づくりの技術の継承も失われます。

同社代表である3代目の柴田成俊（しばた・なりとし）は、創業から初となる自分たちの手でお客様に直接傘を届ける小売業への進出を決意します。現在、国内で流通している傘の内、日本製はわずか0.1%。その日本製の傘の価値を届けるため、企画から2年の時を経て、業界初のカラー骨を採用した「A・A・RA」が誕生しました。

創業85年目の小売進出　私たちにしか出来ないことを

1937年、現社長の祖父にあたる柴田熊治郎が洋傘・ショールの製造・元卸業を大阪府西区で創業しました。終戦後、高価なパラソル（日傘）を筆頭に、事業を拡大成長させました。百貨店における傘売り場はエンランス前のワンフロアを貸切るほどで、「傘を作れば売れる時代」がかつてはありました。同社も、そんな時代と共に同社の技術も磨かれていきました。

「雨傘とパラソル（日傘）では、作り方が違います。パラソルは繊細はレースや刺繍を扱うことが多く加工が複雑で難しいため、どの会社もやりたがらなかったんです。そういった仕事を一手に引き受けたのが私たちでした。そのおかげで、傘職人の技術は向上しましたし、数多くのブランドの傘を作らせていただきました」（同社代表　柴田）

しかし、傘の黄金時代もそう長くは続きません。ワンコインで購入できるビニール傘の出現や、中国で大量生産されるリーズナブルな傘の台頭で、日本製の傘の生産・販売は年々減少しました。そこに追い討ちをかけるようにコロナ禍に突入。製造している傘の多くを百貨店に卸している同社も大打撃を受け、廃業を迫られました。

「もちろん廃業も考えました。でも、このままでは職人たちの技術継承もできないまま。まだ自分たちに出来ることや、自分たちにしか出来ないことがあるんじゃないかと思い、小売業の進出を決意しました」（同社代表　柴田）

国内で0.1%しか存在しない「日本製の傘」に新たな光を

現在、国内で流通している傘の99.9%は外国製（中国製70%、カンボジア製29.9%）で、日本製の傘はわずか0.1%。海外で大量生産される傘は価格もリーズナブルで、機能性の進化も早い。もちろん国内にも優れた傘作家さんはいますが、商業ベースで傘を提供できる企業は無いに等しいのが現実です。日本製の傘の本当の価値はなんなのか。社内でも熱い議論が連日交わされました。そんな時に出た一つのアイデアが「カラー骨」でした。

「傘は骨組みが黒かシルバーが一般的で他に選択肢がありません。傘骨をカラフルに出来れば、傘を選ぶ楽しさが増えたり、傘をさした時に楽しい気分になれると思ったんです」（販売責任者　明堂）

こうして前例のないカラー骨の傘の開発が始まりました。傘の骨を美しい色に塗装できる技術を持つ国内企業に協業を依頼し、塗装の実験やサンプル制作など、商品開発に着手しました。しかし、商品完成までの道のりは決して平坦ではありませんでした。

「なぜ他社がカラー骨をやらないのか、傘の骨組みが無塗装なのかを思い知りました（笑）。通常の傘製作に比べ、工程が＋100日、人材も＋10人必要なんですから」

まず、傘の骨組みの全てのパーツを自社でバラします。それらのパーツを塗装工場に輸送し、工場でひとつ、ひとつを塗装。塗装されたバラバラのパーツを工場から傘の工場に再度戻し、骨を組み立て直してようやく傘の製造がスタートします。小さな傷でも検査に通らないことも多く、生産性も非常に低い。これが世の中に上質なカラー骨の傘がない理由だったのです。

「他がやらない傘をつくってお客様を感動させる。この原点に立てた気がしています」（同社代表　柴田）

86年間、無理難題の全てを引き受け技術を磨き続けている同社しかできない挑戦でした。

傘業界では前代未聞の「修理無料クーポン」に込めた想い

開発着手から1年半後の2023年3月31日、予定より4ヶ月遅れて誕生したのが業界初のカラー骨の傘『A・A・RA』です。

雨傘（カラー骨 全5色＋生地 全12色）、遮光傘（カラー骨 全5色＋生地 全5色）をはじめ、カラー骨以外の雨傘や遮光傘、ミニ遮光傘やミニ雨傘などラインナップもカラーバリエーションも豊富。傘職人が一本一本丁寧に縫い、厳しい検査を通った傘だけがお客様の元に届いています。

雨が少なく、厳しい暑さが続く夏場は遮光性／遮熱性が99.99%の遮光傘が人気で、売上も上々。販売促進の一助になっているのが「1年間修理無料のクーポン※」でした。

※ 生地の張り替えは対象外となります。

傘の修理を無料にするというのは、傘職人では前代未聞。

なぜなら自然を相手にする傘は、悪天候で壊れることも少なくありません。また、ユーザーによっては乱暴に扱う人もいるでしょう。ですから「修理無料」というのは傘屋としては通常あり得ないのです。

「年間のビニール傘消費量は約8,000万本。安価で便利なこともあり、日本では“傘は使い捨て”が当たり前になりあることが、ビニール傘の年間消費量が物語っています。ですが、本来の傘は生活雑貨ではなくファッション雑貨であり、職人が一本一本手づくりする高級品です。傘は壊れたら修理をして長年愛用するものだったはずです。この『1年間修理無料クーポン』には、傘を大切にしてほしい、傘は使い捨てではないというメッセージや願いを込めました」（同社代表　柴田）

傘は、雨や太陽を凌ぐだけのツールではありません。自分の気分をあげたり、着飾るためのファッションアイテムとしても活用いただけたら嬉しいです。

自分らしい傘を持った多くの人たちによって、色とりどりの傘の花が咲く光景を見る日が楽しみでなりません。