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病院が行いたい広報PR施策と注意点、プレスリリースの活用をエバンジェリストが解説|遠藤友宏

会社の経営において重要な役割を持つ広報PR活動。これは、一般企業だけでなく、病院の経営においても同様です。

本記事では、公益財団法人筑波メディカルセンターで広報PRを担い、自ら執筆したプレスリリースで「プレスリリースアワード 2022」ヒューマン賞を受賞、2023年よりPR TIMES公認プレスリリースエバンジェリストとしても活動する遠藤友宏氏に執筆していただいています。

公益財団法人筑波メディカルセンター 総務部 経営企画課 広報係

遠藤 友宏(Endo Tomohiro)

2009年、近畿日本ツーリスト株式会社に入社。教育旅行分野の添乗・営業を経て、2012年、公益財団法人筑波メディカルセンターへ入職。2015年6月より法人広報部門にて、広報誌の企画編集、動画制作、公式SNSの運営、プレスリリース配信などを担当。2021年に実施したクラウドファンディングでは広報・PR実務を担い、プロダクト完成後に配信したプレスリリースが、株式会社PR TIMES主催のプレスリリースアワード2022「ヒューマン賞」を受賞。2023年10月よりPR TIMES公認プレスリリースエバンジェリストとして活動。

病院が広報PR活動を行う目的は何か

生活者にとって「病院」とはどのような存在でしょうか。ご自身やご家族が体調を崩し受診が必要となったとき「家の近くにはどんな病院があるのだろうか……」「すぐに診てもらえるかな……」と慌てて検索をしたり、ホームページを見たり、口コミを見る程度で、普段から「病院」の存在を意識して生活している方は少ないと思います(自身も病院入職前はそうでした)。しかしそんな病院も、一般企業と同様に積極的な広報PR活動を行う価値があります。

まず、病院が広報PR活動を行う目的のひとつに「集患(患者さんを自院に集めること)」があります。しかし、人は必要に迫られないと病院の存在を意識しません。そのため病院は、いざ受診が必要となったときに「そういえば近くにこんな病院があったな……」と思い出してもらえるよう、普段からさまざまな手段を活用し、地域の皆さんにとって“何となく知っている身近な存在”となっておく必要があります。

では、病院は日々どのような情報を発信していけばよいのでしょうか。地域の皆さんに選んでもらうためには、治療実績などの「強み」を積極的に発信していくことが重要です。しかし、イソップ寓話『北風と太陽』のように、一方的な強みだけを発信するだけでは、地域の皆さんから共感を生み、選んでもらうことにはつながりません。

そのため当院では、発信する一つひとつの情報の中に、現場スタッフに登場してもらい「働くスタッフの顔が見える発信をすること」が大切だと考えています。

もし自身が患者となったとき「こんな人たちに治療してもらえるんだ。安心だな」「優しそうなスタッフが多そう」といった親近感を持ってもらえるように、広報誌、SNS、プレスリリースなどさまざまな広報媒体を通して伝えています。一見すると医療とは関係のなさそうな公式SNSでの発信も、実はそういう想いがあるのです。

(公式SNSの発信事例)
『PR TIMES MAGAZINE』で紹介されている記念日(※)を使った情報発信方法や、PRカレンダーを参考にして、当月分のコンテンツを事前に計画しておくと、ネタ切れすることなくSNSを運用することができ、おすすめです。

『PR TIMES MAGAZINE』今日は何の日

病院が行いたい広報PR施策

また、病院が行う広報PR活動は新型コロナウイルス感染症感染拡大の前後で大きく変わりました。当院の場合、コロナ禍前は積極的に地域へ出向き、疾患啓発の講演会や中高生が将来医療職を目指すための体験型イベントを年間10本程度実施してきましたが、コロナ禍ですべてが中止となり、今まで主力としていた広報PR活動ができなくなってしまいました。従来の広報PR活動ができなくなったのは決して当院だけでなく、急遽動画コンテンツを活用したオンライン講座などを立ち上げた病院も多いのではないでしょうか。またコロナ禍では、世間からも医療機関への偏見や、未知のウイルスに立ち向かう職員の疲弊に加え、一般の方の来院が制限されてしまい、物理的にも地域と医療機関の距離が遠くなってしまいました。

そんな中、当院では病院のアート&デザインプロジェクトを手がけるNPO法人チア・アートと協働し、コロナ禍でも地域とつながる広報PR手段として、マスク越しのさまざまな職員の表情を伝える写真展「病院のまなざし」の開催や、後述するクラウドファンディングを実施しました。

現在は徐々にコロナ禍から回復してきており、それぞれの病院が再び地域とつながるための手段を考え、病院でマルシェを開いたり、病院、行政、企業など多様なステークホルダーが連携した大規模な病院まつりを開催する医療機関もあります。このように、医療機関はさまざまなタイミングで地域とつながるための手段を模索し実践しています。

病院のまなざし
寄稿者 遠藤友宏氏提供:コロナ禍で働く職員を捉えた写真展「病院のまなざし」

病院広報でもうひとつ重要なこと、それは院内の広報PR活動です。病院はさまざまな職種の集合体で、一般企業よりも組織が細分化されており、職員の入れ替わりも激しいです。また、たとえ病院全体のことを知らなくても、目の前の患者さんに最適な医療が提供できていれば働けてしまいますし、患者さんに「なんで自分の病院ことも知らないんだ!」と怒られることもありません。

だからこそ、今、院内で何が起きているのか。周りにはどんな人が働いているのかを積極的に伝え、普段の業務では関わらない多くの事柄に関心を持ってもらうことが、チーム医療を提供していくうえでも大切なのではないかなと思います。

また、広報PR担当者自身も院内に向けた広報PRを通じて新たなスタッフとつながり、院外へ発信するヒントや、新たな切り口をいただけることもあるので、とても重要な活動ではないかと思います。

病院が広報PR活動を行う注意点― 医療広告ガイドラインの規制―

医療機関が情報発信をするうえで厳守すべきこととして、厚生労働省が定める「医療広告ガイドライン」があります。これは、医療機関が情報発信するにあたり、患者に誤解をさせない、受診機会を喪失させない、客観性、正確性な情報を発信できているかどうかを定めるもので、誤解を招くようなひとつの情報が、患者さんの生命に関わることにもつながるため、厳密に定められています。

しかし、ガイドラインを意識しすぎて、発信を躊躇してしまう必要はありません。ガイドラインは一見すると複雑に書かれているように見えますが、大前提にある「患者さん(病院を取り巻くステークホルダー)に誤解を招く発信はやめよう、客観的で等身大のわかりやすい情報を発信して、フラットな目線で受診を必要とする患者さんに病院を選んでもらおう」という考え方は、医療業界に限らず広報PR業務を行ううえでの大原則なのではないかと思います。

悩んだときはもちろんガイドラインに立ち返ることが必要ですが、それと同時に広報PR担当者が患者さんの目線で考えたとき「その発信は適切かどうか、患者さんに誤解を与えないか」といった、広報PRの目線で俯瞰する広報マインドが必要なのだと思います。

参考:厚生労働省「医療法における病院等の広告規制について

病院内の“当たり前”をプレスリリースに

病院のプレスリリースと聞くと、新たな治療や治療機器の導入など大きいニュースを発信しなければならないのではと思ってしまうかも知れませんが、実はそればかりではありません。日々当たり前のように行われている院内イベントや職員向け研修の様子も「なぜ発信するのか」を明確にしてニュースバリューを高めることでプレスリリースのネタとなり、取材につながることもあります。院内では“当たり前”なことも、院外では当たり前とは限りません。広報PR担当者が独自の切り口を見つけられるかどうか、そして「本当にこれは院外に伝えたい」と心から思えるかどうか次第だと思います。

またプレスリリースは、企業の公式見解を一番端的にまとめた“情報の結晶”です。1本発信しておくと、たとえば公式SNS、年次報告書、広報誌などさまざまな媒体に、カタチを変えて使用することができます。

広報PR担当者自身が関わったプロジェクトでも、時間が経過すると細かいことはを忘れてしまうものです。数字やデータ、当時の担当者や代表の想いなどを振り返る資料としても最適です。たとえ取材につながらなかったプレスリリースも、しっかり“リユース”することができるので、積極的にプレスリリースを書くことをおすすめします。

クラウドファンディングは広報PR活動を試すチャンス!

前述の通り、当院はコロナ禍の広報PR活動のひとつとしてクラウドファンディングを行い、資金調達時、完成時それぞれでプレスリリースを配信しました。クラウドファンディングは今まで自院で行ってきた広報PR活動を短期間で答え合わせができる機会となったほか、日々発信するプレスリリースの構成を改めて見直す良い機会にもなりました。

クラウドファンディングのプレスリリースで大切なことは、スタート時に「なぜ行動を起こすのかを明確にし、資金調達に挑戦する覚悟を伝えること」です。近頃はクラウドファンディングという資金調達方法がよく聞かれるようになった反面、世の中にはさまざまなプロジェクトが存在しています。その中で自身のプロジェクトを選んでもらうためには「なぜ今、クラウドファンディングを行う必要があるのか」と「プロジェクトをやり切る」という想いを現場スタッフの声とともに、プレスリリースを読んだ相手に伝え、理解・共感を醸成することが必要です。

次にプロダクトの完成時には、応援してくれたステークホルダーが一番喜ぶ方法を考え、感謝と成果を伝えることが効果的です。

突然ですが、皆さんは「推し」がいますでしょうか。自身が応援している「推し」が活躍していたり、喜んでいるところを見られることは、ファンとして嬉しいものです。クラウドファンディングも同様、推してくれているステークホルダーを喜ばせるためには、そのプロジェクトの先にいる現場スタッフが完成を喜んでいるとびきり笑顔の写真とともに、完成報告として伝えていくことが重要なのではないかと思います。

資金調達時のプレスリリースも、プロジェクトを成功させるために必要不可欠ですが、完成後の発信次第で継続してステークホルダ―との関係を深めていくことができるため、アフターフォローも大切な広報PR活動です。

【当院の事例】

資金調達時:なぜ行うのか、どんな課題があるのかを明確に伝える 
当院の緩和ケア病棟では、コロナ禍で面会が思うようにできなくなったことにより、面会に来るご家族の存在が患者さんにとってどれほど励みになるのか、生きる力につながるのかを現場スタッフが実感したようです。そこでアフターコロナを見越して、ご家族が休憩などに使用するための家族控室の改修を行うこととし、プロジェクトにのぞむ意気込みをプレスリリースに込めました。
資金調達時:#病院にアートを| 患者さんとご家族が笑顔になれる緩和ケア病棟へ

完成時:成果と合わせて、感謝とプロジェクトのストーリーを伝える
このプロジェクトは企画から完成までに約4年を要したうえ、資金調達後もコロナ禍で完成スケジュールの遅延も懸念事項でした。
そのため、完成を伝えるプレスリリースを配信する際は、まずプロジェクトをご支援いただいたすべてのステークホルダーに感謝を伝えるとともに、企画から完成までのストーリーを再度伝える必要があると考えました。そこで、5分程度のダイジェスト動画にまとめ、完成を喜ぶスタッフに笑顔の写真とともに配信しました。
完成時:#病院にアートを|茨城県産ヒノキに囲まれた家族控室が、 緩和ケア病棟内に誕生

まとめ:共通する「ステークホルダーとの良好な関係構築・継続」を意識した広報PR

近年、病院の広報PR分野は、広報誌やSNSだけに限らず、アプローチできる手段が多様化しています。病院規模や地域性もあるので、自院にとってどの広報手段が適切なのかを見極める必要があります。そのためには普段から医療現場のスタッフと密なコニュニケーションを取り、院内の温度感を担当者自身の肌感覚で知っておくことが大切です。また、さまざまな病院広報の勉強会やコミュニティなども数多く存在しており、参加者と情報を共有しながら、自院に合った広報PR活動の方法を見つけることが、効果的ではないかと考えます。

病院の広報PR活動はあまり馴染みのないジャンルだったと思いますが、いかがでしたでしょうか。一般企業とは制度や手段など異なる部分も多いものの、広報PR担当者が持つべき「ステークホルダーと良好な関係を構築し、継続していく」というマインドは同じなのではないかと思います。もし身近で病院のイベントや広報誌などを目にすることがありましたら、病院広報の担当者の存在を思い出していただけると嬉しいです。

また、プレスリリースはクラウドファンディングの事例に限らず、誰もが「今回こそは取材につなげたい!」と工夫して書いているものだと思いますが、一旦肩の力を抜き、記者の先にいる読者をイメージし、どんな方々に読んでほしいのか想いを馳せながらまとめてみると、自然と取材につながるプレスリリースが書けるのではないのかなと思います。

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