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第2回:生成AIが可能にする「ひとり広報」の強化アシスタント。明日から使える実践的な活用シーン|青柳真紗美

第1回「広報PRにAIを活かしていくためには。現場で起きている変化と課題」に続き、本記事ではリソース不足に悩むひとり広報や兼務広報の方に向けて、AIは心強いアシスタントとなるということを株式会社ハッシン会議で広報コンサルタントを務める青柳真紗美氏に執筆していただいています。

株式会社ハッシン会議 広報戦略コンサルタント / 広報実務サポーター (メディアアドバイザー)/ Learneyサポートチーム

青柳 真紗美(Aoyagi Masami)

元書籍・雑誌記事の編集者。企業出版・経営者の書籍を多く手掛ける中で中小企業における広報活動の重要性に気付き、企業広報・PRにキャリアチェンジ。AI系スタートアップ・不動産テックベンチャーで広報担当者として経験を積み、フリーランス広報として複数社の支援を実施しつつ、2022年ハッシン会議に参画。企業の広報部門立ち上げ支援のほか、伴走型eラーニングサービス「Learney」の開発責任者も務める。中小規模の企業ブランディング、情報発信戦略策定と実行支援、社内報の企画制作に至るまで、企業コミュニケーション全般の支援と最適化を強みとする。現在1児の母として子育てにも奮闘中。コーポレートコミュニケーション株式会社 代表取締役。

AI活用が広報PRの現場にもたらす新常識

「AI活用は必須です」。あるプロジェクトの立ち上げでご一緒したクライアント支援先の責任者が口にした一言です。「できるだけ現場の負担を減らしつつ、質の高い広報PRを実現したい」というこれまでは諦められてきた課題が、AIの力で実現可能になりました。今ではクライアント支援の現場でもAIは当たり前に組み込まれ、ひとり広報PRの活動を支える新常識になりつつあります。

活用シーン1.情報収集・分析「AIが支える戦略立案の土台」

AIの大きな強みのひとつが情報収集と分析です。従来なら数日〜数週間かかっていたリサーチを、数分〜数時間で完了できるようになりました。メディアリサーチ、トレンド調査、競合分析など、これまで「人手が足りないからできない」と後回しにされていた業務を、ひとり広報でも実施できる環境が整いつつあります。特に、多くのAIツールに実装されている「ディープリサーチ」機能を併用することでグッと精度が高まり、実際に活用できるデータを収集することができます。

メディアリサーチの効率化

未知の分野でのメディア調査は特に力を発揮します。国内外のWebメディアや多言語記事を横断検索し、候補を短時間で抽出可能に。例えば、「日本国内で影響力のある環境分野のWebメディアを20件リストアップ」という依頼に対し、精度は完全ではないものの、数分で候補を提示します。ブログ記事やまとめサイトが含まれることもありますが、一次調査としては十分。人がゼロから始める場合に比べて圧倒的に効率的で、方向修正も容易です。実際に私も業務で使っており、ファクトチェックは必要ですが個人的な感覚では「6〜7割は参考にできるレベル」と言えます。

トレンド分析のスピードと精度

SNSのトレンド分析は、日々目まぐるしく変化する流行を追いかけるのは徒労感も大きくて、ひとり広報がもっとも時間を割きづらい領域のひとつかと思います。こうした調査は従来は代理店のリリースや業界ランキングに依存していましたが、AIを活用することで「どのプラットフォームで・何が・誰に」流行しているのかを即座に整理できます。

面白いのは、国や地域を変えても同じように調査できることで、試しに「2025年8月、エジプトの20〜40代女性に人気のInstagramトレンド」を調べたところ、AIは100件以上の検索結果を8分で収集・整理しました。ディープリサーチによるレポートを現地在住者にみせたところ、納得感があるというフィードバックも得ました。これは、海外進出や多文化対応が必要な企業にとっても大きな武器となると実感しています。

競合・ベンチマーク調査

競合企業の動向把握にも活用できます。例えば、「国内外で広報PR機能の内製化支援を行っている企業」を調査したところ、日本企業に加えてアメリカやヨーロッパの類似サービスも把握できました。サイト構成やサービス説明の仕方など、参考になる事例も多く含まれており、調査時間はわずか30分程度。従来なら1週間ほどかかっていた作業が圧縮された印象です。

さらに「競合の最新プレスリリースやSNS発信をまとめて」と指示すれば、常に最新情報を把握できます。実際にクライアント企業では、この方法で競合の採用広報やイベント出展状況を把握し、自社の戦略立案に役立てており、AI調査は「肌感覚」から「データに基づく判断」への移行を後押しすると言えます。

活用シーン2.コンテンツ制作・推敲「AIが支えるアウトプットの質と量」

広報PRにおける実務の中でも、もっとも工数がかかるのがコンテンツ制作です。プレスリリース、SNS投稿、ニュースレターなど、企画とライティングを回し続ける日々……。ライティングの外注を実施するとどうしても時間がかかってしまうし、経営層からは「自分で書いてほしい」とリクエストされる、というケースもよくあると思います。そうした場面においてもAIを活用すれば、草案作成・推敲・表現の多様化まで効率的に行うことができ、ひとり広報でも量と質を両立した発信が可能になります。

プレスリリース・オウンドメディアやブログの草案作成

AIは定型的な構成に強く、プレスリリース草案の下地作りに最適です。「新サービス発表のリリース草案を書いて」と指示すれば、数秒で基本的な文章を生成。そこに自社の立場や社会的背景を肉付けすることで、取材価値のあるリリースが完成します。

前回も紹介しましたが、当社のクライアントの上場企業では、AIに適時開示資料を読み込ませ、30分で公開可能レベルの草案を整えています。

また同社では、質問リスト形式のプロンプトを用意し、担当者が回答するだけで標準フォーマットのリリースが自動生成される仕組みも導入。SEO対策キーワードや複数のタイトル案もAIに出させることで、担当者は最適案を選ぶだけで質の高い発表原稿のドラフトを作成することができ、少人数でも効果的な制作フローを実現しています。

また別のコンテンツ制作の例では、

  • 担当者がコンテンツの要素出しを箇条書きで行う
  • ドラフトをAIが生成
  • 担当者がドラフトを修正・調整してコンテンツ記事を作成

というプロセスによって、これまでなかなか踏み切れなかったオウンドメディアや企業ブログの運用を開始。毎週1〜2記事をコンスタントに公開し続けるフローを確立できています。

SNS投稿・ビジュアル試作

SNS運用はスピードと頻度が勝負ですが、それゆえにひとり広報が疲弊してしまうことも少なくありません。AIを活用すれば、投稿文のドラフトを作成できるだけでなく、ブランドトーンや媒体特性に合わせた複数の投稿案を一度に生成することもできます。

例えば、「20代向けのカジュアルなトーンで」「経営者向けにフォーマルな言葉で」と条件を変えるだけで文章案を複数作成可能です。文字数制限にも対応し、X(旧 Twitter)、Instagramといった媒体別の調整も瞬時に行えます。

また、AIに「この文章に合うOGP画像アイデアを5つ提案して」と指示すれば、キャッチコピーやデザイン要素の提案もしてくれます。こうしたたたき台やメモがあるとデザイナーとのコミュニケーションがスムーズになり、自作する場合も着手が容易。ひとり広報でも大人数チーム並みの発信力を持てるようになるのです。

メルマガ・ニュースレター文面

メールマガジンやニュースレターの下書き作成にも、AIは役立ちます。筆者がもっとも便利だと感じるのは、ターゲットごとに切り口やニュアンスをとらえ、件名や説明文をカスタマイズさせて比較検討できること。従来は「同じ文章をBcc一斉配信」で終わっていたものを、媒体や読者層ごとに文面を最適化するハードルがグッと低くなるのです。経済誌向けには「市場動向との関連」を強調し、一般消費者向けには「生活へのメリット」を前面に出す、といった調整も簡単にでき、担当者は文面を確認し修正・編集するところから業務を開始できるのです。

AIを活用することで、配信の精度を高めつつ、広報PR担当者の負担軽減につながっています。

文章校正・推敲

最後に特筆したいのが文章校正・推敲の領域。これは全広報PR担当者に活用することをおすすめします。

企業の情報発信における文章は誤字脱字だけでなく、トーンやニュアンス、論理の一貫性まで求められるため、時間と労力を要する作業ですが、AIに下書きを読み込ませ、「表現をより柔らかく」「経営層向けにフォーマルに」「専門用語を減らして一般読者にわかりやすく」といった指示を加えるだけで、多様な修正案を生成できます。

文章の冗長さや言い回しのくどさを指摘したり、改善案を出したりしてくれるため、自分では気づきにくい表現の癖を客観的に修正できます。こうした機能を活用することで、文章力に自信のない人でも質の高い文章を短時間で仕上げられるようになり、レビューする側の負担も減らすことができます。

AI活用で広報PRの成果を最大化する3つの工夫

AIを活用するうえで大切なのは「AIに何を調査させるか」「どんな方向で発信するか」を人間が判断すること。AIはあくまで伴走者であり、舵を取るのは人です。そうした観点から、日々の運用の中に工夫を盛り込むことで、AIをさらに活用できるようになります。以下に筆者が取り入れている例を挙げます。

工夫1.プロンプトに背景情報を含める

「プレスリリースを書いて」とだけ指示しても、一般的で平凡な文章しか出てきません。対象読者、目的、使用シーン、ブランドトーン、過去事例など、背景を丁寧に渡すことで初稿の精度が格段に上がります。例えば「投資家向け」「消費者向け」と指定するだけで、切り口や言葉遣いが大きく変わります。

これらのプロンプトは記録しておき、調整しながら繰り返し使用して精度を高めていったり、部署内で共有するといった取り組みも有効です。

工夫2.出力結果は「たたき台」として自ら編集する

AIが生み出すのは「骨格」にすぎません。そのまま公開するのではなく、自社の強みや独自の表現を加えることで血肉の通った文章になります。実際、クライアント企業でもAIの草案を元に経営者の想いや現場の声を追記することで、取材依頼やSNS拡散につながるリリースに仕上げています。

工夫3.活用タイミングをルール化する

毎回ゼロから試行錯誤するのではなく、「新サービス発表時はまずAIで初稿生成」「イベント終了直後にAIで速報レポート案を作成」など、フローやタイミングを決めることが重要です。これにより活用が習慣化され、チーム内でも「どの場面でAIを使うか」が共通認識として浸透します。

まとめ:生成AIを味方に広報PR業務を効率化しよう

具体的な事例をご紹介いただいたことで、ひとり広報として幅広い役割を担われている方、兼務広報として複数の業務を担当されている方にとって、取り入れてみたい活用シーンが見つかったのではないでしょうか。

AIの活用は広報PRの実務において効率化だけにとどまりません。経営層が語るビジョンや専門的なIR情報を、社員や投資家、そして一般の人々にわかりやすく伝える「『翻訳者』の役割も担えるようになっている」と青柳さんは言います。

次回は、経営と広報PRをつなぐAIの新しい役割についてお届けする予定です。

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この記事のライター

青柳 真紗美

青柳 真紗美

株式会社ハッシン会議 広報戦略コンサルタント / 広報実務サポーター (メディアアドバイザー)/ Learneyサポートチーム。元書籍・雑誌記事の編集者。企業出版・経営者の書籍を多く手掛ける中で中小企業における広報活動の重要性に気付き、企業広報・PRにキャリアチェンジ。AI系スタートアップ・不動産テックベンチャーで広報担当者として経験を積み、フリーランス広報として複数社の支援を実施しつつ、2022年ハッシン会議に参画。企業の広報部門立ち上げ支援のほか、伴走型eラーニングサービス「Learney」の開発責任者も務める。中小規模の企業ブランディング、情報発信戦略策定と実行支援、社内報の企画制作に至るまで、企業コミュニケーション全般の支援と最適化を強みとする。現在1児の母として子育てにも奮闘中。コーポレートコミュニケーション株式会社 代表取締役。

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