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第5回:ひとりで抱えない社内広報。 生成AIでコミュニケーションを円滑にし、進化させる|青柳真紗美

株式会社ハッシン会議で広報コンサルタントを務める青柳真紗美氏による、ひとり広報の方に向けたAI活用に関する寄稿シリーズ。

第5回となる本記事では、社内広報の各フェーズでAIをどう使っていくとよいか、実践事例を交えて執筆いただきました。

株式会社ハッシン会議 広報戦略コンサルタント / 広報実務サポーター (メディアアドバイザー)/ Learneyサポートチーム

青柳 真紗美(Aoyagi Masami)

元書籍・雑誌記事の編集者。企業出版・経営者の書籍を多く手掛ける中で中小企業における広報活動の重要性に気付き、企業広報・PRにキャリアチェンジ。AI系スタートアップ・不動産テックベンチャーで広報担当者として経験を積み、フリーランス広報として複数社の支援を実施しつつ、2022年ハッシン会議に参画。企業の広報部門立ち上げ支援のほか、伴走型eラーニングサービス「Learney」の開発責任者も務める。中小規模の企業ブランディング、情報発信戦略策定と実行支援、社内報の企画制作に至るまで、企業コミュニケーション全般の支援と最適化を強みとする。現在1児の母として子育てにも奮闘中。コーポレートコミュニケーション株式会社 代表取締役。

社内広報をひとり広報で実現するために

社内広報は、経営と現場、そして部署同士のコミュニケーションを円滑にするうえで、重要な広報機能のひとつです。社内のコミュニケーションの密度を高めていくことは事業の成長に必須であり、企業文化の醸成にもつながります。また、定期的に社内報の制作などを通じて「企業の今」を記録し、蓄積していくことはその企業の資産にもなります。

しかし、直接的な売り上げにつながらないといった理由から、なかなか予算をかけられず、担当者の自助努力に依存しているといった声も聞かれます。社内報や社内ブログにしても、 企画・執筆・(紙媒体ならデザイン)・配信まで、そのすべてをひとりで担っているというケースも多いのが現状です。

筆者は現在、複数企業の広報の伴走支援の中で、社内報の制作・ディレクションにも参画していますが、ひとり体制で社内広報を推進した結果、業務の属人化、広報PR担当者の疲弊、といったケースを見てきました。こうした課題を解決するためにはAI活用の可能性があると感じています。負担が高かったプロセスにAIを活用することで、より安定的な運用を可能にし、属人化も防いでいくことが可能になるのです。

社内広報の壁打ちは生成AI ── 自社にあった実現可能な施策を

社内広報の第一歩は、目的を明確にしたうえで施策を考えること。しかし、社内広報の事例は、なかなか表に出てきません。新規にスタートする場合は自社にあった事例を見つけるのが難しく、結果的に無難な施策しか出てこずにアイデア自体がお蔵入りしてしまうことも多いもの。しかし、AIをブレーンとして活用し、アイデアを磨き上げていくことで、さまざまな方向性を考えていくことができます。

ここで重要なのは「社内広報の目的」を経営層や上層部と必ず認識合わせをしておくこと。そのうえで、企業の年間計画や事業方針をAIに読み込ませ、目的を達成するための施策案を生成します。こうして生成したアイデアは、たたき台としてはかなり高い精度を持ったものになります。

また、広報担当者自身のスキルレベルや予算など、制約、あるいは条件に関しても投げかけてみましょう。単なるアイデアリストから一歩進んで「自社にあったレベル感」の社内広報施策の壁打ちができます。例えば、毎月の社内報の制作に20万円まで予算を組める企業と、担当者が週に2時間しか時間を割くことができず、かつ社内のリソースで完結しなければいけない企業とでは現実的に実施可能な施策は変わってきます。

ほかにも、担当者自身のスキルや、自社に受け入れられやすいスタイルについても条件として加えることをおすすめします。「経営者のビジョン浸透を目的とした社内広報施策案を20項目考えたい」「経理との兼務のため週2時間で完結するようにしたい」「文章を書くのが苦手だから写真メインにしたい」「企業文化的に社内展開はSlackで完結するようにしたい」など具体的に指示を出すことで、より実現可能なアイデアが生まれてきます。

壁打ちからもう一段階進んで、「社内アンケートとの合わせワザ」として施策検討時にAIを活用するという手段も。社内報などの制作時にはできる限り「広報PRチーム以外の声」を反映した企画を心掛けます。年間計画や経営陣からの要望を反映して作るのが基本ラインではありますが、それだけだと現場の乖離を生んでしまうことがあるからです。

今、社内のメンバーが求めている情報はどんなことなのか。どんな発信ならポジティブな気持ちで働けるか。そうしたことは、インターネットで検索しても、AIに聞いてもわかりません。読者である社内の声を聞くために、定期的なアンケートもおすすめです。アンケート結果をAIに分析させることで、回答傾向から社内で関心の高いテーマや課題として感じている点を抽出できます。

執筆・編集フェーズの活用 ── 文字起こしとレビューはAIの得意分野

企画が固まったら実現化していくプロセスに入ります。ここではインタビュー記事を例に挙げましょう。

インタビュー記事の制作は、採用広報や社内広報、事例紹介など、さまざまなシーンで必要とされます。しかし、インタビュースキルやライティングスキルに品質が依存するため、なかなか手を出しにくいという企業も多いのではないでしょうか。

AIは、そうしたケースでの記事執筆においてかなり強力なパートナーです。ここでは主にプロセスに沿って「インタビュー案の生成」「文字起こしの生成」「推敲・校正」の3つに分けて考えます。

1.インタビュー案の生成

全社インタビューやキーパーソンの紹介といった定番テーマでは、切り口がマンネリしがちです。社内広報用のインタビューなら、読者は「社員」。社員の興味に沿ったキャッチーな内容で話を聞きたいものです。AIとの壁打ちを通して、少しだけ踏み込んだインタビュー案を考えます。

秘密情報や個人情報を含まない範囲で、インタビュー相手が所属する部署の最新情報や、社内の噂などをAIに読み込ませ、それらに切り込む質問案を作ってみる、というのもおすすめです。一気に「自社らしさ」が向上し、魅力的なインタビューに近づくことができます。

2.文字起こしの生成

担当者が感じる壁のひとつに「文字起こし」があります。取材は盛り上がり上手くいくものの、文字起こしがなかなか進まず、初稿の作成までに長い時間がかかってしまってネタがフレッシュなうちに出せなかったというケースはよくあります。筆者もそうしてあたためてしまった結果、お蔵入りになった記事がいくつもあります。

文字起こしはプロジェクトの「初動」とも言えるプロセス。できるだけ早くクリアすることで、執筆のハードルが低くなります。

まずは、音声データをAIで書き起こします。筆者がよく使うのはZoomのトランスクリプト機能、Geminiを活用したGoogle meetの自動書き起こし機能、nottaなどの文字起こしツールです。これらの利用にはサブスクリプション契約が必要ですが、Googleドキュメントの音声入力やiPhoneのボイスメモの文字起こし生成機能など、無料で活用できるものも複数あります。

最近の音声認識技術は日本語の精度が大幅に向上し、句読点なども正確に読み込んでくれます。しかし、文字起こしをそのまま記事にすることはできないので、これを整文・編集していきます。

3.推敲・校正

筆者はインタビュー原稿を作成する際、文字起こしを整文する → 編集する → AIに推敲(※)させる」という三段階で仕上げていくことが多いです。

個人的には、「編集」の部分はまだ人間が担うべき領域だと感じます。テクノロジーの進化と共に精度は向上していくと思いますが、記事執筆時点では、AIだけで編集を完結するのはかなり厳しく、勝手にストーリーを捏造したり、変にドラマティックにしたりとなんだかチグハグなものができてしまう印象です。とはいえ、この編集が難しい部分でもあるので、悩んだらAIに「今こういう下書きができたんだけど、『新人オンボーディングを促進する記事を作る』という目的で記事を作成するなら、どういう方向で編集していくといいか」などと聞いてみるのもいいでしょう。

編集を終えた文章を、あらためてAIに読み込ませ、推敲させます。このときに重要なのは、社内広報の目的が達成される記事になっているかといった視点でのチェック、表記揺れや誤字脱字、事実確認などの校正確認の両方を実施することです。毎回同じ内容を聞くのは非効率的なので、筆者は校正用のプロンプトをAIと相談して作成し、チャネルごとに保存しています。こうすることで、同じ視点を持ったレビュアーがチームに増えるようなイメージで、品質が安定します。

不安を自信に変える ── 届けるだけでなく「伝わる」社内コミュニケーションへ

記事が完成したら、社員に届ける段階へ。ここでは、どんな媒体で、どんなトーンで発信するかが問われます。

多くの企業では、イントラネット、Slack、メール、紙のニュースレターなど複数チャネルが混在し、どの層に届いているのかが見えにくくなっています。社内展開するときは、どんな担当者も多少の不安を抱くもの。だからこそ、どのチャネルで、どのタイミングで展開するかをAIと相談すると配信フェーズでの迷いがなくなります

具体的には「添付の社内報PDFを読み込んだうえで、Slackでこの社内報を展開するときの文章を考えて」などの指示をすることで、展開文章のたたき台を生成させたりしています。ほかにも「開封率を上げるためにメールの件名をブラッシュアップしたい」「社内アンケートの回収率を上げるための工夫を考えたい」など、ただ展開するだけでなく、「届ける」「双方向性を向上させる」ためにどんな工夫ができるかを壁打ちしてみると新たなアイデアが見つかることも多いです。

インタビュー以外の社内広報シーンで生成AIを活用

今回はインタビュー記事の執筆を例に挙げましたが、ほかにもさまざまな領域で活用できます。

社内報制作においては、写真のキャプション案、タイトルや見出し案、年間計画から抽出したその月のイベント一覧、前月のメディア掲載・プレスリリース一覧、経営陣の会議での発言や中期経営計画などの要約、バックオフィスからの連絡事項の文体の整理など、多岐にわたる作業に活用できます。

イントラネット(オープン社内報として公開している場合を含む)のブログ制作では、URLの文字列生成、要約やリード文の作成、略歴をもとにしたインタビュー相手のプロフィール生成、PV数や読了率などの分析など、幅広い業務で活用できます。また、YouTubeやPodcastを活用している企業では、概要欄テキストのたたき台生成にも利用されています。

最近は画像生成AIの進化も目覚ましいので、それらも活用することで、デザイン領域の負担が一気に下がる予感もしています。

また、社内イベントでも活用できます。筆者が所属する株式会社ハッシン会議では、半期に一度、オンライン/オフラインのハイブリッド開催でキックオフミーティングを実施しており、運営担当者はその際のアイスブレイクタイムの企画の壁打ち、タイムテーブルの整理にも活用しているようです。

まとめ:今できる社内広報を考える

社内広報は「会社にとっていいことをやっている」という曖昧な評価にとどまりやすく、形骸化しがちです。しかし本来、社内広報の施策自体が社内の活性化につながる貴重な機会なのだということは広報担当者自身、もちろん経営者も心に留めておきたいものです。

  • 社内メンバーの日頃の奮闘にスポットライトを当てる
  • 自社らしさを体現するような取り組みや文化、制度を言語化する
  • 経営陣の頭にあるビジョンをさまざまな角度から折に触れて現場に伝える
  • 顧客からのポジティブなフィードバックや感謝の声を共有することで、自社への誇りや愛着を高める

こうした活動は、すぐに目に見えた数字につながることは少ないかもしれません。しかし企業にとって働く人はまさに財産であり、彼らのモチベーションや想いを高めていくことが自社の成長につながることは自明です。

社内広報は、自社の成長に寄与する重要な施策。そしてAIは、作業負荷を減らしつつ、情報整理・レビューの品質を底上げし、社内広報施策の精度を一段階引き上げてくれる強力なツールです。一緒に楽しみながら誇りを持って取り組んでいきましょう。

次回はいよいよ最終回。広報担当者が押さえておくべき「AIリテラシー」を整理します。

【ひとり広報の方に向けたAI活用に関する寄稿シリーズ】

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この記事のライター

青柳 真紗美

青柳 真紗美

株式会社ハッシン会議 広報戦略コンサルタント / 広報実務サポーター (メディアアドバイザー)/ Learneyサポートチーム。元書籍・雑誌記事の編集者。企業出版・経営者の書籍を多く手掛ける中で中小企業における広報活動の重要性に気付き、企業広報・PRにキャリアチェンジ。AI系スタートアップ・不動産テックベンチャーで広報担当者として経験を積み、フリーランス広報として複数社の支援を実施しつつ、2022年ハッシン会議に参画。企業の広報部門立ち上げ支援のほか、伴走型eラーニングサービス「Learney」の開発責任者も務める。中小規模の企業ブランディング、情報発信戦略策定と実行支援、社内報の企画制作に至るまで、企業コミュニケーション全般の支援と最適化を強みとする。現在1児の母として子育てにも奮闘中。コーポレートコミュニケーション株式会社 代表取締役。

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