「患者・医師・研究班」が同じ目線で語り合う――指定難病オ スラー病(HHT)患者会「札幌2026」を開催
患者33名らが参加。3名の医師と厚労科研研究班班長が患者の声に直接向き合い、診断・全身スクリーニング・鼻出血・肺・肝臓病変から地域医療の課題まで立場を越えてディスカッション
特定非営利活動法人 日本オスラー病患者会は、2026年9月20日(日)、北海道難病センターにおいて「日本オスラー病患者会IN札幌2026」を開催しました。
当日は31名が参加し、患者・家族とともに、北海道大学病院 放射線科 阿保大介先生
北海道大学病院 呼吸器内科 今野 哲先生、札幌医科大学 循環器・腎臓・代謝内分泌内科学講座 小山雅之先生の3名の医師を迎えました。
さらに今野先生には、厚生労働科学研究費補助金・難治性疾患政策研究事業「難治性呼吸器疾患・肺高血圧症に関する調査研究班」の研究代表者という立場から、研究班の今後についてもお話しいただきました。
今回の札幌患者会で最も大きな成果は、単に専門医から患者が医学知識を「教えてもらう」講演会ではなく、患者、患者会、3名の医師、そして政策研究を担う研究班班長が、それぞれの立場を尊重しながら「同じ目線」でオスラー病の現状と課題について話し合えたことです。
「医療を受ける患者」から「医療を一緒につくる患者」へ
オスラー病(遺伝性出血性毛細血管拡張症:HHT)は、くり返す鼻出血だけではなく、肺、脳、肝臓、消化管など全身に血管病変を生じ得る指定難病です。
そのため、一つの診療科だけでは完結せず、耳鼻咽喉科、放射線科、呼吸器内科、循環器内科、消化器内科、脳神経領域など、多診療科にわたる連携が必要となります。
しかし希少疾患であるため、患者が生活する地域によって、診断や検査、治療、専門医へのアクセスに差が生じることも大きな課題です。

今回の札幌患者会では、こうした問題を「医師が患者に説明する」という一方向の形ではなく、患者自身が日常生活や実際の診療で経験している問題を医師に伝え、医師が医学的な立場から答え、さらに研究班の立場から今後の診療体制や研究について考えるという双方向のディスカッションが行われました。
これは、日本オスラー病患者会が重視しているPPI(Patient and Public Involvement:患者・市民参画)や患者アドボカシーを、実際の地域医療の場で形にする取り組みでもあります。
患者から出された「現実の医療課題」を専門医と直接議論
会場では、患者が日常的に経験している「くり返す鼻血」をはじめ、肺・脳・肝臓などの全身病変、肺動静脈奇形、遺伝子検査、スクリーニング検査、貧血管理など、さまざまなテーマについて意見交換が行われました。
特に参加者の間では、
「症状が鼻血だけだと思っていた」
「どの検査を、どのタイミングで受ければよいのか分からない」
「遺伝子検査について十分な情報がない」
「専門医が近くにいない」
「全身を誰が継続的に診てくれるのか分からない」
といった、希少難病だからこそ生じる現実的な課題について共有しました。
その結果、症状がある部分だけを診療するのではなく、HHTという全身性疾患として適切なスクリーニング検査、遺伝子検査、定期的な血液検査などにつなげていく重要性を、患者と医療者が改めて共有する機会となりました。

遺伝子検査のカウンセリング問題点
「知らない権利」だけでなく、「予防できる重篤な症状を防ぐ機会」も伝える必要がある
ディスカッションでは、HHTにおける遺伝子検査のあり方についても、患者側から重要な問題提起がなされました。
日本オスラー病患者会の村上匡寛理事長は、遺伝カウンセリングにおいて本人の自己決定権や「遺伝情報を知らない権利」が尊重されることは当然である一方、「知らない権利」だけが過度に強調されることで、HHTを早期に把握し、適切な検査につなげることによって回避できる可能性のある重篤な合併症について、患者・家族が十分な情報を得ないまま判断することになってはいけないと問題提起しました。
HHTは、鼻出血だけの疾患ではありません。肺動静脈奇形(PAVM)、脳血管奇形、肝血管奇形など、全身に血管病変を生じる可能性があります。特にPAVMなどは無症状のまま存在することもあり、適切なスクリーニングや治療によって重篤な合併症のリスクを低減できる場合があります。
そのため村上理事長は、遺伝子検査について単に「検査を受けるか、受けないか」を選択してもらうだけではなく、「検査によって何が分かるのか」「診断されることで、どのような検査や予防的対応につながるのか」「検査を受けない場合に、どのような医学的情報を踏まえて経過をみる必要があるのか」まで十分に説明した上で、本人が判断できることが重要ではないかと提起しました。
「知らない権利」を尊重することと、「知ることで予防できる可能性のある重篤な合併症について十分な情報を提供すること」は、対立するものではありません。
患者が利益と不利益の双方を理解した上で、自ら選択できる環境を整えることこそが、HHTにおける遺伝カウンセリングと患者中心の医療に求められるのではないか――。
今回の札幌でのディスカッションでは、こうした患者の実体験から生まれた課題についても、患者・医師・研究者が同じ場で意見を交わしました。
この問題は既に不幸な死亡事例が患者会に寄せられている。

9月1日から保険適用となった「サージセル」の現状と止血法も共有
日本オスラー病患者会 理事長の村上匡寛からは、患者の立場からオスラー病医療の現状について報告するとともに、2026年9月1日から保険適用となった止血材「サージセル」について、行政との交渉経緯、現在の処方・供給上の課題、オスラー病特有の鼻出血に対する止血方法について説明しました。
オスラー病の鼻出血は、一般的な鼻出血とは病態が異なるため、患者自身が適切なセルフケアを理解すると同時に、医師、薬剤師、看護師、救急関係者などが疾患特性を理解することが重要です。
患者会では今後も、患者だけではなく医療関係者への情報提供を継続していきます。
研究班と患者会――「研究する側」「研究される側」を越えた関係へ
今回、特に重要だったのが、厚生労働科学研究費補助金・難治性疾患政策研究事業の研究班班長である今野哲先生が患者会の場に参加し、患者の声を直接聞きながら意見交換を行ったことです。
希少難病の政策研究では、医学的な研究成果だけでは把握しきれない問題があります。
診断されるまで何年かかったのか。
地域で診てくれる医療機関があるのか。
救急時に受け入れてもらえるのか。
複数の診療科を誰がコーディネートするのか。
患者や家族が、日常生活の中で何に困っているのか。
こうした「患者が実際に経験している医療」を政策研究や診療体制の整備に反映していくことが重要です。
患者会としても、単に行政や医療側へ要望を伝えるだけではなく、患者が持つ経験や情報を整理し、研究者・医療者と共有しながら、より良い診療体制を一緒につくる関係を目指します。
患者・医師・研究者が「同じ目線」に立つことから始まる
今回の札幌患者会では、医師が壇上、患者が客席という関係だけではなく、患者から質問や経験を伝え、医師が専門的知見から回答し、さらに患者と医師が一緒に課題を考える時間を設けました。
そこには「患者」「医師」「研究者」という立場の違いはあっても、目指すところは同じです。
「オスラー病で困っている(未診断)患者を、一人でも減らすこと」
希少難病だからこそ、患者だけでも、医師だけでも、研究者だけでも解決できない問題があります。
患者の経験、臨床現場の専門知識、研究班の政策研究をつなぎ合わせることで、初めて見えてくる課題があります。
日本オスラー病患者会は、今回の札幌での取り組みを一つのモデルとして、全国各地域において患者・医療者・研究者が直接対話できる場を広げていきたいと考えています。
日本オスラー病患者会 理事長 村上匡寛 コメント
「今回の札幌患者会で非常に印象的だったのは、患者、3名の先生方、そして研究班班長が、それぞれの立場を越えて同じ目線で話し合えたことです。
患者会は医師と対立するために存在するものではありません。一方で、患者が実際に困っていることを遠慮して伝えられなければ、医療は変わりません。
医師には医学の専門知識があり、研究者には研究と政策につなげる役割があります。そして患者には、毎日その病気とともに生活しているからこそ分かる経験があります。
この三つを結びつけることが、本当の意味でのPPI、患者アドボカシーにつながるのではないかと考えています。
今回、北海道の先生方が患者一人ひとりの声に耳を傾け、同じ目線でディスカッションしてくださったことに心より感謝申し上げます。
札幌で生まれたこのつながりを一日限りで終わらせず、北海道におけるHHT診療体制の充実、そして全国のHHT患者が地域にかかわらず適切な診断・検査・治療を受けられる体制づくりにつなげていきたいと思います。」
開催概要
名称:日本オスラー病患者会IN「札幌2026」
開催日:2026年9月20日(日)
会場:北海道難病センター 会議室
参加者:31名
主催:特定非営利活動法人 日本オスラー病患者会
協力:一般財団法人北海道難病連、北海道難病センター・札幌市難病相談支援センター
ゲスト: 北海道大学病院 阿保大介先生
北海道大学病院 今野 哲先生
札幌医科大学 小山雅之先生
本事業は、第14期 田辺三菱製薬「手のひらパートナープログラム」の助成を受けて実施しました。
日本オスラー病患者会について
特定非営利活動法人 日本オスラー病患者会は、2012年から活動を開始し、指定難病227「オスラー病(HHT)」について、疾患認知の向上、早期診断、適切な全身スクリーニング、鼻出血への対応、医療アクセスの改善などに取り組んでいます。
患者・家族への相談支援・情報提供だけでなく、医療者、研究者、学会、行政等との連携を通じ、患者の声を医療・研究・制度へ反映する患者アドボカシー、PPIの推進にも取り組んでいます。
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