横浜市と地元スタートアップが連携したフードデリバリーサービス「うまいぞ!横浜。」プロジェクト

#スタートアップ  #横浜  #誕生秘話

2021年1月20日 15時37分 横浜市


横浜エリアに限定したデリバリーサービス

新型コロナウイルス感染症の拡大は、我々が暮らす世界の風景を大きく変えた。そして否応なく、その風景は見慣れたものとなった。外出時のマスク、飲食店などに置かれた消毒液やアクリル板……そして、大きなバッグを背負って街を駆け回るバイクや自転車の姿。そう、フードデリバリーである。


横浜市は 2020 年 4 月 30 日、「うまいぞ!横浜。」プロジェクトの始動を発表した。

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000089.000032297.html


これは、横浜市内でフードデリバリーを手がけるスカイファームと横浜市が連携して進めるプロジェクト。スカイファームが運営するWeb サイト「NEW PORT」をプラットフォームにして、横浜市内の飲食店や商店街の料理をデリバリーするサービスだ。


外出自粛によって馴染みのある地元・横浜の飲食店にあまり行けなくなってしまった人々と、デリバリーを強化していきたい飲食店とをつなぐ架け橋となる。


横浜市としては、生活インフラとしての飲食店や商店街の支援を行い、市民生活の利便性向上に向けたフードデリバリーを広めることにより、コロナ禍の経済振興・地域活性化の一助につなげたいとの狙いがある。


「うまいぞ!横浜。」トップページ。

https://hamadeli.new-port.jp

横浜の名店の味を自宅で手軽に楽しめる。仕掛け人は地元のスタートアップ

このサービスでは、山手の洋菓子店「えの木てい」、野毛の洋食店「センターグリル」、元町の高級フレンチ「霧笛楼」といった「NEW PORTでしかデリバリーできない」横浜の名店の数々も軒を連ねる。


プロ野球、横浜DeNA ベイスターズの本拠地である横浜スタジアムのフードもオーダーが可能。観客数を制限した状況でスタジアムに行けないベイスターズ・ファンがスタジアムのフードを食べながら自宅のTVで観戦することができる。「横浜」の味を手軽に楽しめるとあって、評判は上々だ。


「『うまいぞ!横浜。』が始まって半年が経ちましたが、オーダー数は、スタート直後から半年で30倍ほどに伸びました」


プロジェクトを仕掛けたスカイファームは若き起業家、木村拓也が率いるスタートアップ。2015 年 7 月に横浜で創業したばかりの企業である。


スカイファーム株式会社 代表取締役 CEO 木村 拓也


創業からわずか5年ほどのスタートアップと、日本を代表する大都市である横浜市。この2つをつないだのは、何だったのか。それを知るには、横浜市の辿ってきた歴史をほんの少し紐解く必要がある。


大企業の本社、研究開発拠点がみなとみらいに集積

1983 年、横浜港に面した「みなとみらい 21 地区」の開発が始まった。横浜市は開発当初から企業誘致を積極的に進めており、日産自動車グローバル本社(2009 年 4 月竣工)、富士ゼロックス R&D スクエア(2010 年 3 月竣工)の誘致に成功。近年では資生堂グローバルイノベーションセンター(2018 年 10 月 竣工)、村田製作所みなとみらいイノベーションセンター(2020 年 9 月竣工) など、大企業の本社や研究開発拠点が数多く集積している。


「国内でも有数のビジネスエリアが、みなとみらいに形成されつつあるという わけです」


横浜市 経済局 イノベーション都市推進部

新産業創造課 担当係長(スタートアップ支援・YOXO BOX 担当)

奥住 有史


横浜市経済局の奥住有史は言う。2009 年 9 月に林文子市長(現職)が就任して以来、誘致の動きは加速し、一定の集積ができたと市の経済局は考えている。


関内エリアにスタートアップを集め、スタートアップのエコシステムを

大企業等の集積が進んだみなとみらい。一方、関内エリアでは市の文化観光局がアーティストやクリエイターの集積を図っていた。都心に比べて賃料が低く抑えられるだけでなく、港や海を臨むロケーション、中華街をはじめとした飲食店の充実と、若い才能を惹き付けるのには十分な魅力だ。


「クリエイターとスタートアップは、クリエイティブなビジネスに取り組んでいるという点で実は、親和性が高いんです。そこで我々は関内を中心にスタートアップの集積を図ることに可能性を感じました」


近年、ビジネスシーンでは「オープンイノベーション」が 1 つのトレンドになっている。大企業等が製品やサービス創出を自社のプロセスだけで完結させるのではなく、外部組織の技術やノウハウを協働で取り込み、新たなサービスを創出する仕組みのことだ。そこで大企業等が注目しているのが、ユニークなアイデアと圧倒的なスピード感を有するスタートアップなのである。


「みなとみらいに、あれだけたくさんの大企業の本社や研究開発拠点がやって きてくれました。そこで関内エリア周辺にスタートアップを集積させれば、歩 いて行ける範囲(みなとみらい駅から関内駅までは徒歩約 20 分)のコンパク トなエリアの中に大企業とスタートアップのエコシステムができるのではない だろうか。そう考えました」

「YOXO(よくぞ)」をスローガンに、 「イノベーション都市・横浜」を宣言

こうした構想のもと、横浜市は 2016 年に「LIP.横浜」、2017 年に「I▫TOP 横浜」という 2 つのプラットフォームを続けて立ち上げた。前者はライフサイエンス分野、後者は IoT 分野に特化したオープンイノベーション・プラットフォームである。ともにスタートアップが単身で乗り込むには障壁が高い事業分野であり、横浜市が支援する形でさまざまなビジネスモデルを生み出すことに成功した。


そして 2019 年 1 月 7 日、関内。250 人以上の起業家、エンジニア、大学関係者たちが集まった場で林市長は声高らかに「イノベーション都市・横浜」を宣言した。

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000038.000032297.html


開港から 160 年、横浜は異文化との交流からさまざまなイノベーションを生み出してきた。これからは新たなクロスオーバーを生み出すイノベーション都市へ進化していく。そうした力強いメッセージだ。


横浜市に拠点を置くデザインストラテジストの太刀川英輔が発案した「YOXO(よくぞ)」がそのスローガンになった。横浜、クロスオーバー、そして、「いつか『よくぞ!』と讃えられる未来の挑戦者たちのために」という想いが 込められている。


YOXO の名のもと、スタートアップ支援の拠点として 2019 年 10 月 31 日に生ま れたのが「YOXO BOX」だ。「横浜に新しい交流を生み出すためのサンドボック ス(砂場=実験場)」になることを目指して作られた場である。

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000072.000032297.html


YOXO BOX。JR、横浜市営地下鉄「関内」駅から徒歩 3 分の立地にある。

https://yi.city.yokohama.lg.jp/yoxo_box/


1F はイベントスペース。この奥と 3F には三菱地所が運営する

シェアオフィス「YOXO BOX OFFICE」もある。


スタートアップ支援のため、YOXO BOX では 5 つのメニューを用意している。

1 YOXO イノベーションスクール(起業志望者を対象にしたビジネス講座)

2 YOXO Accelerator Program(スタートアップを対象に短期集中型で支援するアクセラレーター・プログラム)

3 横浜ベンチャーピッチ(スタートアップがベンチャーキャピタルや企業に向けて自らのビジネスモデルをプレゼンテーションするイベント)


4 YOXO BOX スタートアップ相談窓口

5 交流・ビジネスイベント


オープンから 1 年が経ち、スタートアップなどの成長支援対象件数は目標としていた「20 件以上」を大きく上回る 79 件。人材交流・ビジネスイベントの延べ参加者数も、目標の 1,000 名を超える 1,448 名を達成。YOXO BOX は、その役割を十分に果たしていると言えるだろう。


こうした横浜市の取り組みは、日本型のスタートアップ・エコシステムの発展を目指すという、国の方針とも合致。内閣府が公募した「世界に伍するスタートアップ・エコシステム拠点形成戦略」において横浜市は、2020 年 7 月に「グローバル拠点都市」に選定された(東京都、横浜市、川崎市を中心とした「スタートアップ・エコシステム 東京コンソーシアム」として選定)。横浜市は今後、国の後押しを受けながら、YOXO BOX をハブにしてスタートアップ支援を推進し、横浜ならではの人材や企業、投資を呼び込むエコシステムの構築を目指していく。


この流れの中で横浜市がスタートアップと組んで「うまいぞ!横浜。」プロジェクトを立ち上げたのは、むしろ自然なことであると言っていいのではないだろうか。


「街の活性化」を目指したフードデリバリー「NEW PORT」


スカイファームはデリバリープラットフォーム「NEW PORT」をベースにしたフードデリバリーを 2016 年 1 月に始めた。創業の地はみなとみらいエリアの中核、横浜ランドマークタワーの地下 1F にあるシェアオフィス「BUKATSUDO」だ。当初は生産者の支援、飲食店の支援を軸に事業を行っていたが、事業開始から半年ほど経った頃、代表である木村の心にある変化が起きる。


「ランドマークタワーを運営する三菱地所さんとお会いする機会をいただきました。ランドマークタワーには就業者が 1 万人以上もいると言われていて、エ レベーターがどうしても混雑してしまい、従業員が食事をするのに困っていると。そこで、従来は街一帯を対象にしていたフードデリバリーを、ビル 1 棟に限定した形でやってみることにしました」


ランドマークタワーの就業者を対象にしたデリバリーサービス「ランドマーク シッピング」の誕生だ。このサービスは現在でも NEW PORT のいちブランドとして続いている。


「『支援』はもちろんですが、この頃から、『街の活性化』といった文脈でフードデリバリーのビジネスを考え始めるようになりました。みなとみらいだけでも 10 万人以上の就業者がいますからね。その人たちのために、という気持ちです」


「NEW PORT」のユニフォームに身を包んだスタッフたち。

向かって右から 2 番目が木村だ。


「コロナに苦しむ横浜のために何ができるだろうか」

時は流れて 2020 年 3 月。猛威を振るう新型コロナウイルス感染症の影響で、 横浜市でも多くの商業施設や飲食店が休業、時短営業に追い込まれていた。「横浜でデリバリーのプラットフォームを運営する企業として、横浜に対して何ができるだろうか」。木村は自らに問いを投げかけ、想いを A4 コピー用紙 1 枚の企画書にぶつけた。


木村が企画書を手渡した相手、それが約 2 年前にピッチイベントで出会って以来頼りにしていた横浜市経済局の奥住だ。


「市としては、様々な経済対策を打ち出さないといけないという大きなテーマがありました。コロナの影響は、リーマン・ショックなどとは違って、飲食店や商業施設がダイレクトにダメージを受けてしまいます。このままコロナが続くと仮定した時に、飲食店が持続可能な営業を目指し、チャネルとしてのデリ バリーやテイクアウトを持つというのは 1 つの選択肢として重要だと考えてい たところでした。そんな時に、横浜のスタートアップであるスカイファームさ んからあのようなご提案をいただけて、本当にうれしかったです」


企画書は木村のアイデアを並べただけの簡単なものだった。「詰めながら進めていこう」。それから 1 カ月弱。コロナ禍における緊急的な事業であることを踏まえ、横浜市としては異例のスピードでプロジェクトを進め、4 月 30 日のスタートを迎えることができた。売り上げ、オーダー数、参加店舗、軒並み右肩上がりだという。


他社を凌駕するスカイファームの強み


大手のデリバリー業者が市場を牽引する中でここまでの成功を収められた理由は何か。1 つには、配送スタッフの違いがあると木村は言う。


「弊社では自社雇用しているスタッフに加え、横浜に本社を置くメッセンジャー会社のクリオシティさん、同じく横浜を拠点にしたタクシー会社の三和交通さんとアライアンスを提携して配送を行っています。『地元の人が運ぶ』というのが大きなコンセプトですね」


横浜の道を知り尽くした地元スタッフであれば、例えば「元町商店街の飲食店を 5 つ回って」というオーダーにも混乱することなく対応できる。また、そもそも「横浜が好き」「横浜の力になりたい」という想いのもとに参画しているため、「NEW PORT のスタッフ」としての知見が全スタッフの中にしっかり共有され、蓄積されていく。



配送風景。横浜の街に精通したスタッフ一人ひとりが

NEW PORT の配送クオリティの高さを支えている。


システム上の特性として、同じ商店街の中でのオーダーであれば 1 回の注文で同時に受け取れるという点も魅力だ。例えば 1 人が中華料理店 A のチャーハン、もう 1 人が洋食店 B のハンバーグ、もう 1 人がイタリア料理店Cのピザを注文したい場合、一般のデリバリーサービスではオーダーが 3 つに分かれる上、手数料も 3 回分かかる。ところが「NEW PORT」では、この 3 店が同じ商店街にある場合は注文が 1 回で済み、手数料も 1 回分しかかからないのだ。店舗ごとではなく、商店街単位で組んでいるスカイファームの強みだ。


配送スタッフが固定されていることは、飲食店にとっても安心感につながる。電話がつながりにくい時間帯、一般客ではなく従業員用の出入り口の有無など、店舗特有の情報を配送スタッフが共有しているため、互いに仕事が進めやすい。


また「うまいぞ!横浜。」プロジェクトにおいては、飲食店がスカイファームに支払う月額 5,000 円の固定料金を 2021 年末まで無料としている。売り上げに応じた料金は発生するものの、飲食店としては固定費を抑えられる上、「横 浜」に根づいたデリバリーサービスに参加するメリットは大きいだろう。


そして、木村たちスカイファームを広報、プロモーションの面で支援するのが横浜市。市の協定事業として積極的に取り組んでおり、テレビやラジオ、紙媒体も含め、地元メディアへの露出を増やした。依頼があれば、商店街や飲食店を横浜市がスカイファームに紹介するといった支援も行っている。


YOXO BOX をハブにしたエコシステムを目指して

「これまでは加盟店舗数を増やすことに主軸を置いていましたが、今後はお店のインタビュー記事を拡充させたり、月間の人気ランキングを作ったり、限定メニューを展開させたり、『うまいぞ!横浜。』ならではのコンテンツを増やしていきたいですね」。例えばメインを「センターグリル」、デザートを「えの木てい」に、といった「うまいぞ!横浜。」だけのセットメニューの展開も検討中。木村のアイデアは止まらない様子だ。


「NEW PORT」サイト内に掲載されている、加盟店舗へのインタビュー記事。記事の本数 はさらに増えていく予定だ。

https://hamadeli.new-port.jp/1-1


実は、木村はスタートアップ支援の拠点である YOXO BOX にも、メンターとして深く関わっている。スタートアップの先輩として創業間もない起業家にアドバイスをするほか、YOXO BOX主催のビジネスイベントに登壇する機会も多いとか。スタートアップの集積を強化していきたい横浜市としても非常に頼りにしている存在なのだ。木村自身も、YOXO BOX で知り合った起業家から得るものは多く、そのつながりを自社のビジネスに活かしている。


奥住はそういった様子を優しい眼差しで見つめる。「横浜市としては、スタートアップ支援のための『場・ハブ』として YOXO BOX を用意しました。きっかけは作って、あとは勝手に……というわけではありませんが(笑)、ここをハブにしていろんなことが自発的に起こっている現在の状況は、とても望ましいことですよね。YOXO BOX があって、スタートアップがあって、クリエイターがいて、近くには大企業があって、金融機関もあって。それらが自然な形としてエコシステムとして循環していく。それが私たちの理想です」