株式会社プロントコーポレーション 取締役 プロントカンパニー長 片山 義一

アフターコロナをも見込む、プロントのリブランディング戦略

キーワードは、二毛作から二面性へ。

飲食業界が苦境を強いられているコロナ禍において大鉈を振るったのは、日本のカフェ&バーを30年余り牽引してきた「プロント」。新型コロナウイルス感染症の流行とともに露呈した自社の弱みを強みへと昇華させたリブランディング戦略とは––––。本プロジェクトの発起人である、取締役プロントカンパニー長の片山義一が語ります。

新型コロナの流行で、プロントの潜在課題が露呈した

片山：アメリカから帰国した私がプロントに入社したのは、2020年の4月。まずはプロントを客観的に見ることから始めました。そこで気付いたのは、昼のカフェも夜のバーも同業他社に負けているなと。最初の緊急事態宣言が解除されて「さぁ、外食しよう！」となったときに、カフェ&バーは人々の選択肢に入らなかったんです。

カフェ＆バーPRONTO 青山店

33年間という業歴もあり、従来のプロントに愛着を抱く社員やFCのオーナーさんも沢山います。けれども皆が薄々感づいていた「カフェ&バーは時代のトレンドから外れているのではないか」といったことが、コロナ禍によって露呈してしまったんですよね。

そこで私が昨年の夏に思いついたのが、今回のリブランディング戦略。経営は大変厳しい状態でしたし、当然「このタイミングでそんなに大きな挑戦をして大丈夫なのか」という声もありました。けれどもコロナ禍によって露呈した経営課題を解決するためには近視眼的な施策ではなく、中長期的戦略として、今このタイミングで行う必要があったんです。

だから新型コロナの流行がなければ、カフェ&バーの業態が続いていたでしょう。バイアスなくプロントについて客観的に見た私と、コロナ禍でどうにかしなければならないという社内の空気が混ざり合い、今回のリブランディングという大きなエネルギーになったのかなと思います。

PRONTOのロゴマークを一新、4月からユニフォームもＴシャツに

（写真はクリエイティブディレクターで「FIRSTORDER」代表の岡田喜則氏）

実はプロントは20年前にVI変更を伴う大きな改革にてV字回復に転換できた経験があるんです。ですから今回のリブランディングは社内での期待も大きいいかと。数十年ぶりの大改革に携われるといった点からも、若い社員の士気は高まっていますが、成功体験に囚われず、常に今のマーケットとお客さんを見て、自分たちが表現できる強みを持ったまま変化し続けていくというのが大事だと思いますね。

昼と夜を“二面性”にて分断させる

これまでカフェタイムとバータイムがシームレスで繋がるのがカフェ＆バープロントでしたが、まずはそれを真っ二つに分けたかったんです。運営側としては長年『二毛作』という言い方をしてきてきましたが、昼と夜の外食ニーズが異なるのに業態が一緒というのは、お客様が店を選ぶ理由にならない。カフェ＆バーは業態として時代にそぐわなくなってきたんです。

昼はよりデザイン性を高めたカフェへ

夜はカフェからサカバへ変身

業態の表現方法としては弱くなってきていましたが、朝から晩までひとつの飲食店で業態が変えられるというのは強みなんです。居酒屋が昼にカフェをやってもどこか落ち着かない。反対にカフェが夜の営業をすると酒の持つ色気が出ない。双方の運営ができるところがプロントの強みというのを再認識したうえで、昼はカフェとして選ばれるブランドづくりを、夜はコミュニケーションの場である楽しい酒場づくりをと、二毛作から二面性への転換を思いつきました。

私は無類の釣り吉なんですが、業態開発などの外食のマーケティングと釣りは全く一緒だと常に思っているんです。例えば、釣りは行く前に、TGの魚の習性を知る必要があります。季節、時間、場所、潮、天気、などを考え、TGの魚は、いつ、どんな餌を、どう食いたくなるのかという仮説を立てて戦略を作り、釣りながらも様々な自然変化に対応していくんです。

これを外食のマーケティングに置き換えると、この業態のTGは誰か、この商圏にTGはいるのかなど、TG毎のペルソナや特性を分析し業態を作るところや、外部環境やトレンド変化を捉え、既存資産を最大化しながら変化対応していくところなど、釣りと同じだなといつも思います。

今回のリブランディングでは、十分な資金がなく更に時間もない。なので、週末釣りをしながら魚ではなくずっとプロントのことを考えてました。だからあんまり釣れませんでした。笑

大幅な改装などが出来ないこの状況で、現状のプロントで何が出来るか。

既存のプロントは古い店舗も多く、カフェ＆バーという内装はカクテルが主流だった時代に作られた業態なんでオーセンティックなBARのような内装が多い、これが難しかったです。今の酒のトレンドはハイボールやチューハイであり、屋号は「居酒屋」ではなく、“〇〇酒場”というのが主流になりつつある。そこで、「カフェ」は「喫茶」と置き換え、このオーセンティックな内装を生かしてしまおうと、『昼は喫茶＋夜は酒場＝キッサカバ』にしようとなりました。ダジャレみたいですが、夜の業態は楽しみを提供する場所なのでこれくらいふざけていいんです。

夜はネオンが灯り、音楽もカオス的な選曲に変わる

私はこの二面性をずっと『千と千尋の神隠し戦略』と呼んでいるんですけれど、昼のカフェが夜になると、急に暖簾がかかり、ネオンが灯り、音楽もカオス的な選曲に変わり、怪しい雰囲気に変わる。同じ店舗が全く違った二面性を持つ。

プロントは店前通行量の多い通勤導線に店舗があるので、近隣の方々は朝の通勤でカフェとしてのプロントを見ているのに、夜、帰りに通ると暖簾がかかりネオンが灯っていたら「えっ？なんで？」とビックリしますよね。これが狙いです。かなり大きなフックを作ったので、アフターコロナにおける来店きっかけには成りうると思っています。

『何を売るかより、誰が売るか』

チェーンカフェビジネスにおいて大切な要素は利便性とブランドです。私はアメリカで抹茶カフェ『STONEMILL MATCHA』を開業しましたが、そこで学んだことは価格戦略ではなく、ブランド戦略を大事にするということ。まずは美味しくていい商品を作る。それからそれを誰にどう売るかという戦略を立てる。これをブラさず貫き続けることで初めてブランドが創られていきます。日本は個人の喫茶店の時代からチェーンカフェマーケットになりました。多くのプレイヤーが参入し、競合も激化しています。人はカフェに行こうと思ったとき、「この辺にカフェあるかな？」ではなく、「スタバあるかな？」「ドトールあるかな？」になっている。潜在的に瞬間的にイメージできるブランドになっているかどうか、はチェーンカフェビジネスにおいて非常に重要であり生命線です。

リブランディング後のカフェドリンクを大幅リニューアル

だからこそ今回のカフェにおけるリブランディングでは、プロントというブランドを一生大事に育てていきます。メインターゲットは、20〜30代の働く人。学生時代にスターバックスなどに通っていた人たちが「社会人になったら、プロントがちょうど良いよね」というような、落ち着いた洗練された働く大人のカフェ、というポジションを創っていきたいです。私たちは競合カフェに比べて、美味しいものを作る力を既に持っていましたが、これが伝わっていなかった。飲食店における商品の美味しさというものは、ブランドを通じて伝わるものだと思っています。私が若手の頃、サントリーの営業マン時代に、サントリーのビールは美味しいのに売れなかった。消費者が何をもって商品を選び、味をイメージするのかを痛感し、確信しました。

洗練された働く大人のカフェPRONTOを目指す

これからもトレンドに合わせて変わる夜のサカバ

今回のリブランディング後のサカバでは、ハムカツ、アジフライ、タコさんウインナーといった定番の酒場メニューから、ナポリタン、玉子カツサンド、クリームソーダサワーなど、喫茶店らしいメニューを融合させていて、若年層からすると新鮮で、中年層からすると懐かしいというのが真ん中で出会うことを狙っています。今の横丁ブームもこの融合が生み出す顧客の多様性が業態の賑わいを生み出しヒットしています。開発にあたり、このあたりもトレンドを意識しました。

昼のカフェはブランド発想で、ずっと変えずに守っていきますが、夜に関しては、トレンドを抑えながらの業態発想が大前提。だからキッサカバは、おそらく10年後にはないでしょうね。夜業態のトレンドはこれからも変わっていきますから。私たちは今回のコロナで自分たちの強みを再確認出来ました。働く人に全ての時間帯で利便性を提供できる業態力と運営力です。それをもとに今回は変化対応力を身に付けました。今後も時代の変化の中でしっかり「今」を捉えながら、トレンドに合わせて変えていくつもりです。

リブランディング店舗1号店である「PRONTO 銀座コリドー店」のオープンは、2021年4月というタイミングとしては最悪なところではありましたが、少なからず手応えを感じています。非常に多くのメディアに取り上げて頂けたことで、「あのプロントがこんなに変わったの⁉︎」という衝撃は与えられました。営業自粛明けに来店きっかけになれば嬉しいですね。個人的には、意外性って魅力だと思うんですよ。

リブランディング店舗1号店は「PRONTO 銀座コリドー店」

それから今までと違うと感じるのは、SNSでの口コミ効果ですね。お恥ずかしながら、これまでプロントが口コミになることは一切なかったんですよ（笑）。でもプロントが「イケてる！面白い！」「ここまでやるか！？笑」っていうのが、ターゲットである20〜30代の人たちによって、SNSで拡散されているんです。一回入ってみたら、料理の美味しさやアルコールメニュー品質や充実具合、居心地やサービスの良さに気づいていただけるはず。今回の狙いはまずプロントを伝えること。伝わりさえすれば勝てる力を、私たちは持っているということも、今回コロナで再認識した強みのひとつです。プロントの本気をわかってもらえれば、自ずとお客さんはついてきてくれると信じています。

株式会社プロントコーポレーション 取締役 プロントカンパニー長

片山 義一

大阪府出身。同志社大学卒業後、現・サントリーホールディングスに入社。千葉支店・市場開発本部にて、外食企業へ向けた多数の業態開発に従事した後、2017年に社内ベンチャーにて渡米。サンフランシスコに抹茶カフェ「STONEMILL MATCHA」を開業し、2018年にCEOとなる。2020年4月の帰国後は、同社取締役に就任。2021年1月よりプロントカンパニー長へ。座右の銘は「アホなことを真剣にやる」。