経済産業省が2018年に発表したレポートでは「2025年の崖」が提唱されたことで注目を集めたが、日本企業の課題として「古いシステムの維持管理」や「システムサポートの終了」が指摘されている点も見逃せないポイントだ。

DX関連のユーザー企業の意識調査では、日本企業はおおむねIT予算に余裕がなく、DX推進を含む新規プロジェクトの実行に消極的な傾向が見えてくる。DXに関して「やらなくてはいけない」と答える企業は多い。しかしその一方で、IT予算の9割は既存システムの維持管理に取られてしまっていてDXに着手する余力はなく、しかもIT予算の増額にも消極的であり、結果として「DXをやらねばとは言うものの具体的なアクションは起こせていない」といった状況に陥ってしまう企業が多い。

　こうした状況を踏まえ、前向きな取り組みを推進するのであれば、やはりあまりに過大な負担となっている「既存システムの維持管理」の問題を解決する必要があるだろう。そのための有効な手段として第三者保守が市場での支持を拡大しつつある状況だが、一方でまだまだ知られていない情報や第三者にお任せすることに対する不安感などが残っているように見受けられる。そこでここでは、第三者保守のリーディングカンパニーである日本リミニストリート株式会社の脇阪 順雄氏に話をお伺いし、実情について詳しく見ていくことにしよう。

―第三者保守の正当性

　日本では「純正」「正当」といった属性を高く評価する傾向もあるため、エンタープライズ・ソフトウェアに対する保守／サポートに関してもソフトウェアの開発元が提供するものが「本物」だというイメージを持つ人もいるようだ。しかし、当然ながら第三者保守は真っ当な選択肢の一つなのである。その証拠として、日本リミニストリート株式会社の本社である米Rimini Street, Inc.は2005年に設立された企業であり、20年近く多くの企業から支持されてきていることがその証と言えるだろう。現在は、主にハードウェアの分野ではあるが「修理する権利」を広範に認めていこうという流れも出てきている。これは、オリジナルの開発元が過度にユーザーの権利を制約しようとすることへの反省を踏まえ、よりオープンで公正な市場の確立を目指すものだ。エンタープライズソフトウェアに対する第三者保守のあり方も基本的なこうした最新の潮流と同根であり、ユーザーの正当な権利として認められるべきものだと言えるだろう。

　また、「非純正」というイメージから派生する誤解と言えるが、ベンダーの半額でサポート出来るといった部分が独り歩きし、「安かろう悪かろう」というイメージもあるかもしれない。しかし、実際にはソフトウェアの開発元が提供するサポートが高額であるため、仮に保守費用が半額であっても十分なサポートを行うことが可能なのである。実際の契約内容を見てみればすぐに分かることだが、エンタープライズソフトウェアのサポート契約は、ライセンス価格をベースに決定され、数年でライセンス価格を超えるような設定になっている。こうした価格モデルは、そもそも適切なサポートを提供するために必要なコストに基づいて算出されたものではない。その実態は、ソフトウェアベンダー各社の決算を精査すると分かるのだが、サポートサービスの利益率は90％以上という例も珍しくないほどだ。

　こうした価格付けが成り立つのは、ソフトウェア開発企業がユーザー企業を囲い込んでいるためだが、第三者保守という視点に立てば、ソフトウェアベンダーが提供する以上の高品質なサービスを提供し、そのコストに適正な利潤を乗せてもソフトウェアベンダーの値付けよりも大幅に安価に提供できる余地があるということになる。実のところ、第三者保守には「開発元とは異なる企業が提供するサービス」であり、開発元のサービスよりも高品質かつ低価格でないとそもそも比較対象になり得ないというハンディがあるため、コストパフォーマンスという視点では優位にある。

　このほか、同社のサポートでは顧客企業ごとに専任のエンジニアがアサインされ、窓口を一本化した上で同社が全世界に擁する多数の技術者の中から最適な人材の支援を得てサポートが提供される体制が作られている。顧客企業ごとにサポート担当者に望む対応が異なっているが、一般的には毎回初めての担当者が窓口となるため、要望を伝えることも容易ではない。一方同社のスタイルでは常に同じ担当者が対応するため、ユーザー企業の要望にきめ細かく対応できる。こうした点も、顧客満足度の高さを支えている。

また、更なる効率化および顧客満足度の向上を目指すべく、L4だけでなくAMSに関してのサポートも提供を拡大している。こちらのサポートの大きな特徴として、日本リミニストリート株式会社 代表取締役社長の脇阪 順雄氏は、「サポートはチケット制で提供してはいけない。固定料金で提供すべきものだ」という創業者の言葉のもとに提供をしている点だ、と話す。有償サポートではよくあるスタイルだが、サポートを受ける権利をチケットという形で購入するというビジネスモデルが広く採用されている。一見これは「対応回数に応じて支払う従量課金」という正当なモデルに見えてしまうが、実は落とし穴がある。それは、システムが不安定でこまめにサポートの必要が生じる低品質なシステムのほうがサポート提供企業の利益が増大する、という点だ。ユーザー企業と利益相反を起こしている形であり、ある意味サポート提供企業の良識任せとも言える。同社のモデルはこれとは逆に、あらかじめ設定された固定料金で無制限のサポートを提供する、サブスクリプション型のモデルである。。そしてその固定料金が一般的には、ソフトウェア開発元が提供するサポート契約の半額に設定されている。この形だと、システムが安定運用を続け、サポート対応の必要がない状態になれば同社としては対応のためのコストが発生せず利益が最大化できる。一方ユーザー企業にとってはトラブルなくシステムが運用できることが最大のメリットであり、サポート対応をリクエストすること自体が不要になればそれに超したことはない。このように、ユーザー企業と同じ目標を共有できるビジネスモデルとすることで、健全な事業運営が成り立っているのである。

―自由な市場における健全な競争

　第三者保守に関してユーザー企業側が導入を躊躇う理由として、ソフトウェアの開発元企業との関係が悪化するのではないか、という心配をする人もいるようだ。これに関しては個別の関係性の話にもなるため一律で語るのは困難ではあるが、第三者保守というビジネスが正当なものとして認知されており、国内でもさまざまな企業の採用事例が公表されていることから、問題ないものと考えられるだろう。

国内でのリミニストリートのサービス利用状況について脇阪氏は、「日本法人が設立される前に米本社と直接契約を締結したユーザー企業もあるため、最長では7年以上契約を継続して頂いている例もある」と明かす。いわばパイオニアとなったこれらの初期導入企業のうち、多くはそのまま契約を継続しており、離脱した例はほとんどないという。同氏は、「当社のようなサブスクリプション企業では、お客様にご満足頂けなければ契約を継続してもらえない」と言い、離脱率が低いことがそのまま顧客満足度の高さを示していると胸を張る。

　なお、同社の初期からの顧客企業のうちの一社では、数年間契約を継続した後で新バージョンへの移行を実施することになり、それに伴ってソフトウェア開発元企業が提供するサポート契約に復帰したという。そして、その後数年が経過してシステムの初期トラブル対応が概ね片付き、運用が安定してきたタイミングで再びリミニストリートのサポートサービスに復帰したそうだ。これはまさに、ユーザー企業がニーズに応じて柔軟にサポートサービスの提供元企業を選択できる自由が存在していることの証明となるユニークな事例と言える。この事例からは、リミニストリートのサポートサービスの満足度が極めて高いことはもちろん、リミニストリートのサービスとソフトウェア開発元企業のサービスを自由に行き来したとしてもなにか不利益を被ったりすることはなく、健全な競争環境ができていることをも示していると言える。こうした事例が国内に存在することが分かれば、ユーザー企業の漠然とした不安はほぼ解消されるのではないだろうか。

―将来の環境移行をどう考えるか

　第三者保守の対象となるソフトウェアとしては、ライセンスに加えて保守契約が必要になるオンプレミスの基幹システムが主なものだが、最近ではSaaS等クラウド型のソフトウェア利用も増えてきている。既存のオンプレミスの基幹システムを運用しているユーザー企業でも、将来的にはこうした新世代のシステムへの移行を検討することになるだろう。しかし、ポイントは「移行に最適なタイミングは企業によってそれぞれ異なる可能性がある」点だ。現在はDX推進が注目されているが、企業によってはIoT基盤の整備であったり、AI技術を活用したデータ活用の推進であったり、「今このタイミングで実施したい大型投資」の内容はさまざまだろう。現時点での最優先課題が「陳腐化しつつある既存基幹システムのモダイナイズ」である場合はもちろん問題ないが、多くの企業では現在の市場変化に対応した新規事業の創成などのほうが優先度は高いのではないだろうか。既存システムの移行／モダナイズといった取り組みは、長い目で見ればいつかは実施する必要があるものの、直近での事業成長にはあまり寄与しないため、できれば余裕のあるタイミングが到来するまで先送りにしたいと考える企業が多いだろう。2025年の崖という形でクローズアップされたものの、実のところいつどのタイミングで既存システムのリプレースを実施するかはユーザー企業が自社の都合で決定したいところだろう。この場合、第三者保守を活用することで移行タイミングの決定権をユーザー側に取り戻し、かつそれまでの運用コストを抑制することも期待できる。企業運営の自由度を高め、さまざまなオプションを持っておくことが変化の激しい現在ぜひとも必要となることではないだろうか。