インドのITエンジニアの採用を支援！インド工科大学の学生インターンシッププログラム「PIITs」を通じて、日本に優秀なエンジニアを

誕生秘話

2021年6月25日 15時17分ウェブスタッフ株式会社

コロナ禍で人々の生活が大きく変化する中、ますます重要性を増しているITサービス。しかしITサービスを支えるエンジニアは、日本全体で不足する状況が続いています。日本では少子化が進んでおり、今後はますますエンジニアの確保に難航する企業が増えるでしょう。

そのような状況を何とか改善したいという想いから、ウェブスタッフでは2016年より、「PIITs（ピート）」というサービスを提供しています。このサービスは、世界の理工系大学の最高峰に位置するインド工科大学（Indian Institutes of Technology、以下、IITsと表記）に通う3年生を対象に、夏休みの2ヶ月間を利用して日本企業でのインターンシップの機会を提供するものです。

IITsの学生はその優秀さにより世界中から注目されており、GAFAをはじめとする名だたる企業が彼らを獲得すべくアプローチしています。ここでは、世界中が注目するIITsの学生といち早く接点を持ち、採用につなげることができる「PIITsプログラム」が生まれた裏側をご紹介します。

▲IIT ROPARのキャンパスディレクターとグローバルセクションのTejaswini（右）

日本のIT人材不足への危機感から目を向けたのがインド

ウェブスタッフでは、1998年から約20年に渡り、企業のIT・Web人材の採用をお手伝いしています。その中で感じていたのが、日本のエンジニア人材不足の深刻さです。

さまざまな分野でITが進歩し、エンジニア人材の需要は年々高まっています。しかし日本では人材の育成がなかなか進んでいません。今後は少子化がさらに進み、ますます人材不足は顕著になると考えられます。このままでは、エンジニア人材の不足から日本の多くの産業が衰退する恐れすらあるのです。

そんな状況を何とかしなければいけないという想いから着目したのが、理数系に強いという評価のあるインドです。

インドでのビジネスを検討した2016年当時、日本ではインド式計算法が話題になっていました。日本では計算方法として九九を覚えますが、インドでは19×19までの計算を覚えるというものです。ビジネスの世界でも、インド人エンジニアが少しずつ注目され始めたころです。

インド人材のすごさ・教育レベルの高さを認識

実際にインドに足を運んでみると、インドのエンジニア層は想像以上に優秀で、しかも人材も豊富だということがわかりました。インドではエンジニアという職種に対する期待が大きく、我が子をエンジニアにしたいと望む人が多いそうです。また貧富の差に関わらず、どの家庭も子どもの教育にとても熱心です。

これは都会に限った話ではありません。地方であっても、成績の良い子どもは、生まれ育った村を代表し、村のお金で私立の中学校に進学、英才教育を受けたうえで大学を受験します。家族や親族だけでなく、地域社会からの期待を背負っている分、彼らは非常に勉強するのです。

そのようなインド社会の中で、IITsはエンジニアの最高峰の大学として知られています。現GoogleCEOのスンダル・ピチャイ氏、インフォシスの共同設立者であるナラヤナ・ムルティ氏など、世界の名だたるIT企業で活躍する人材を輩出する大学です。

IITsには毎年約1万人の定員に対し50万人以上が受験するといわれ、「MIT（マサチューセッツ工科大学）に受かってもIITsには合格できない」と言われるほどです。2021年度の東京大学の入試倍率が約2.5～3.5倍だったことを考えると、その競争の熾烈さが想像できます。

▲IITs学内の様子

インドでIITsの学生の素晴らしさを目の当たりにし、ぜひともこの優秀な学生たちを日本に連れてきたい、さらに彼らの活躍によって日本のIT産業を盛り上げたい、私たちはそのように考えました。

世界レベルの人材採用に選んだのがインターンシップの提供

インドでは、校内で行われる就職イベントで就職先を決めることが一般的です。IITsでも、毎年12月に4年生を対象とした「On Campus Recruiting」という就職イベントがあります。企業は事前に大学にイベントへの参加申込みをし、大学側から指定された日に採用選考を行います。そして、企業が自社で働いてもらいたい学生を見つけたら、その場で内定を出さなければいけません。

このイベント初日「デイ・ワン」には、世界でも限られた企業しか参加することができません。そして、IITsのトップ層の学生のほとんどは、初日に世界の有名企業から内定を獲得し、就職活動を終了します。つまり日本企業は、学生たちと接点を持つこと自体が難しいという状況なのです。

そこで私たちは、本格的な就職活動の前にIITsの学生と接点を持つことを考えました。それが、大学3年生の夏休みを利用したインターンシッププログラムPIITsです。

日本という国に対する認知度の低さに苦戦

▲インド視察時の小川（左）

PIITsを提供するにあたり、まずはインドに23校あるIITsのキャンパスディレクター（学長）にアプローチを始めました。

しかし、ここで問題となったのが日本への認知度の低さです。インドでは日本という国の名前は知られているものの、アニメや新幹線などのイメージがあるだけです。日本がどういう国なのか理解されておらず、日本企業の名前もほとんど知られていません。そのため、インターンシップを提案しても、なかなか色よい返事をもらうことができませんでした。

転機となったのが、インド人スタッフTejaswini Barveの入社です。彼女は以前日本の大学院に留学しており、在学中にウェブスタッフでアルバイトをしてくれていました。卒業後は日本の企業に就職していましたが、当時たまたま転職活動をしており、ウェブスタッフに今度は社員として入社することになったのです。彼女は、インド人が日本で働く面白さを当事者として体験し、日本で働き続けていました。

私たちの想いをキャンパスディレクターに伝えられるのはこの人しかいない。そのように考え、彼女にインドに渡ってもらい、これまでの実体験をもとに日本で働く魅力を説明してもらいました。結果、2016年にROPAR、MANDI、JODHPURの3校で、インターンシッププログラムが認められたのです。

大学側からプログラム実施の許可が出て、次に取り組んだのが、PIITsに参加する学生集めです。しかしここでも、日本の認知度の低さに苦戦することになりました。そこで、まずは日本に興味を持ってもらおうと実施したのが学園祭への協賛です。

学園祭ではウェブスタッフがブースを出し、プログラミングコンテストを実施。学生3人一組でプログラミングをしてもらいました。このコンテストが非常に盛り上がり、学生にPIITsに興味を持ってもらうことに成功。IITsは全寮制の大学のため、学園祭でのコンテストの話が口コミで広がり、日本とウェブスタッフの認知を上げることができました。

▲学園祭で学生たちに説明をするTejaswini（左）

このようにインドでの日本の認知度の低さに想像以上に苦労させられましたが、初年度である2016年に、6名の学生が日本企業でインターンシップを体験することになったのです。

受入れ企業を驚かせるIITsの学生の資質

PIITsの期間は約2ヶ月。主にシステム部門で学生を受け入れるケースが多く、社内管理ツールやRPAの開発など、学生に任せられるプロジェクトはさまざまです。正直なところ、たった2ヶ月では設計からシステム構築まで終わらせることは難しいだろうと、多くの企業の担当者が心配されました。しかし、どの学生も期間中に見事にシステムや試作品を完成させ、企業担当者を驚かせたのです。

受入れ企業の担当者から言われたのは、IITsの学生には、新たなアイデアで業務を進める力があるということです。彼らはプログラミングのスピードが早いというわけではありません。しかし従来の社内のやり方ではなかなか進まなかったプロジェクトに対し、新たな方向からアプローチすることで短期間に成果物を完成させるということでした。

また、学生を受け入れたことで、社内のコミュニケーションが活性化したという声もあります。インド人材はスキルが高いだけでなく新しい技術に関する興味や好奇心が強いため、それが日本社員に良い影響を与えているのではないでしょうか。

実際に学生と一緒に働いてみて、彼らの資質の素晴らしさを実感した企業の多くが、インターンシップ中に内定を出しています。2019年度までにPIITsのプログラムを利用した学生は62名。そのうち、32名がインターンシップをした企業へ就職しました。1社で複数名の学生を採用された企業も少なくありません。なかには、数年にわたり連続で、PIITsプログラムを通じてIITsの学生が入社しているケースもあります。

インターン受入れ時に文化の違いを痛感

PIITsを始めたばかりのころは、さまざまなアクシデントがありました。

たとえば食事。インド人にはベジタリアンが多いのですが、参加した学生の一人がベジタリアンであることを把握していませんでした。一日の業務を終えたタイミングで「今日はどうだった？」と質問したところ、一日何も食べておらずお腹がすいているという返答があり、大慌て。すぐにベジタリアン向けメニューを置いてあるお店を探して食事に連れていきました。

私たちが学生を食事に連れていくこともありましたが、朝食やインターンシップ先での食事は自分たちで手配してもらっています。しかし、彼らはお店で売っているものの食品表示を読むことができません。そのためコンビニエンスストアなどで売っているもののうち自分が食べられるものはどれなのか、選ぶことができなかったのです。

そこで、社員でコンビニエンスストアをまわり、食品表示をチェック。「ここのお店の○○というサンドイッチならベジタリアンでも食べられるよ」といった情報をまとめて彼に伝えました。こういった文化の違いによるアクシデントは、実際に体験してみないとわからないものだなと感じています。

あとは、学生がアイロンで床を焦がすのも定番です。インドでは電気ではなく炭を使ったアイロンが使用されていることが多く、床の素材も日本とは異なるので、アイロン面をそのまま床に置いてしまう学生が少なくありません。PIITsの学生が日本に滞在しているあいだには、ウェブスタッフの社員寮で生活してもらうことが多いのですが、毎年床を貼りかえていますね（笑）。

今後のPIITsにかける想い

ITが日々進化している中、日本ではエンジニア人材不足が問題となっています。しかしエンジニアの活躍なしに、今後の日本経済の発展は考えられません。日本の未来を考えたときに、海外の人材の力を借りることは必須だとも言えるのです。では誰の力を借りるのか？と考えたとき、世界でもトップクラスの頭脳を持つIITsの学生ほど魅力的な人材はいないのではないでしょうか。

これまではIITsの学生を採用するのは欧米の企業が中心でした。しかし最近では中国や韓国の企業が日本の企業よりも多くの報酬を提示して、IITsの学生にアプローチしています。日本の企業の魅力をインターンシップを通じて学生に伝え、一人でも多くの優秀な学生に日本企業で働いてもらうこと。これは私たちウェブスタッフの使命だとも考えています。

現在、新型コロナ感染症の変異株の流行で、インドの方たちは多くの被害を受けています。当然、インドの人材を日本に紹介できる状況ではありません。しかし世界中が新型コロナ感染症の脅威に打ち勝った暁には、再びIITsの学生に日本企業で働いてもらえるよう、お手伝いをしていくつもりです。

インドでも日本でもワクチンが行き渡り、一日も早くこの状況が収束して欲しいと願っています。