現地実践型の地域支援を行うNOFATE株式会社(URL: https://no-fate.co.jp/、代表取締役・藤田雄也、以下、「NOFATE」) は、2019年 観光地経営における持続可能な取り組みや手腕が評価され「地方創生大賞 交流コンテンツ部門」を受賞しました。

本コラム【持続可能な観光地経営をデザインするvol.3】では、NOFATE 代表である藤田の実体験を元に、いま世界中で課題となっている持続可能な観光地経営についての、弊社の考え方や具体的な実践内容についてお伝えします。

イベントを『また白川郷に来たくなるきっかけにする』と決意した経緯はこちら

【持続可能な観光地経営をデザインするvol.1】ボランティアでの現場体験から使命感へ

オーバーツーリズム問題の大枠を捉えるにはこちら

【持続可能な観光地経営をデザインするvol.2】オーバーツーリズムは諸悪の根源

　　目次 

1. ダイバーシティを活かして、主体的に取り組む
2. 持続可能な観光地経営の重要性
3. サステナブルの鍵は「主体性」にある 
4. 魅力や強みを最大限にひきだす
5. 未来への提言

1.「ダイバーシティを活かして、主体的に取り組む

2019年、『白川郷 内外のメンバー』と地域商社「合掌ホールディングス株式会社 （以下、「合掌HD）」を立ち上げました。設立当初は、藤田を含めて『白川郷にある民宿の女将』『オランダ在住経験5年のコミュニティデザイナー』『外国籍のツアーガイド』というメンバーでした。

『白川郷にある民宿の女将（鈴木さん）』は、村内の民宿業界隈ではリーダー的存在であり、「オランダ在住経験5年のコミュニティデザイナー（河野さん）」は、かつて飛騨市に住んでいた経験がありました。しかし、藤田と『外国籍のツアーガイド（ジョージアさん）』は、白川郷を含む飛騨地域での在住経験がありません。

(最初は4人で始めた事業も今では共感する地域の方たちが次々に参画)

藤田に関していえば、奈良県出身で大学卒業後は某大手総合商社に勤務し、海外出張・海外駐在・事業会社出向などを経験。その後は、外国人観光客のツアー受け入れや体験コンテンツの企画・運営・販売などを行なう「旅ジョブ」を経営し、冬のライトアップイベントに携わったことを機に「NOFATE」に業態を変えました。現在は「NOFATE」のビジョン・ミッションに沿って、「合掌HD」を含む、企業・団体のサポートを行っています。

これまで多くの案件に向き合う中で、外部視点を活かすことにより、問題を正確に捉えて住民の抱える問題を冷静且つ情熱的に俯瞰してきました。白川郷との関わりが浅くても、違う領域での関わりを活かすことは存分にできます。多種多様な価値観で、一つの物事を出来るだけ多面的に立体的、且つ具体的な視点で捉えることで、「合掌HD」の行動に厚みが増してくるのです。

いまでは「NY在住のクリエイティブアドバイザー（MIZOGIWAさん）」と「母親孝行な運営アドバイザー（松場さん）」「地域おこし協力隊のウェブディレクター(世古さん)」「地元を知り尽くす村民メンバー」も加わり、多様性をもったメンバーで構成されています。ちなみに藤田は、「ちょっと　もの申す　おとうさん」としてCMOをしています。

白川郷にある「合掌HD」は、このようなメンバーでダイバーシティを活かして、主体的に取り組んでいける企業を目指してきました。

地域が限られた予算や資源を有効に使い、成果を重ね、持続可能な観光地経営を実現していくには、結局は住民一人ひとりの「当事者意識」にかかっています。そして、その意識を変えていくには、住民が主体的に取り組める施策が必要で、住民不在のプランニングや外部コンサルティングだけでは絵空事に終わってしまいます。

「合掌HD」は現在に至るまで、紆余曲折を経て悲しいこともあり、悔しい思いもしましたが、徐々に共感をよび地域住民の参画が増えてきました。設立から1年足らずではありますが、徐々に藤田がいなくても組織が活性化する持続可能な仕組みづくりを実行しています。だから藤田は、「ちょっと　もの申す　おとうさん（CMO）」でいいのです。

(商社時代に韓国との新規ビジネスを立ち上げる。前列一番右が藤田)

2.持続可能な観光地経営の重要性

「冬のライトアップイベント」に関わる中で、観光者数と観光収入が比例しないことには、頭を悩ませました。2019年の観光者数にいたっては200万人に達したにも関わらず、観光収入は横ばい。お客様を流れ作業的に迎え入れてしまい、丁寧なサービスやおもてなしの対応に欠けていたのだと厳しく受け止めました。

しかしその前に、お客様の満足度の原点には、受け入れ側である住人の幸福度があります。それを肝に銘じて、「住民の負担を取り除き、お客様がまた戻ってきたくなるきかっけのイベントにしよう」と意思を固めました。イベントにボランティアとして携わってから、2年もの間『持続可能な観光地経営』に向けて力を尽くし、それがいかに重要であったかを痛切に感じたのは、その辛労が報われたからです。

大きく変えたことは、イベントを「完全予約制」「入場有償化」にしたことでした。来場者は以前の2/3～半分程度に減ったにも関わらず、イベント運営側の売り上げは2倍近くに増えました。それはつまり、「入場料を払ってでも行ってみたい」「現地での渋滞や混雑を回避できるのであれば、予約制に協力できる」というお客様に焦点をあてることに成功したということです。受け入れ側が明確なフィルタリングをすることで、来てほしい観光客を招くことができる「レスポンシブル・ツーリズム（責任ある観光）」を実行して、地域側のメリットに繋げました。

実際に、『持続可能な観光地経営』を成功させるために必要であったことは、大きく分けて3つでした。

①観光ブームやインバウンド需要の増減に左右されず、サービス品質・信頼を提供できること

「NOFATE」では、特定の課題解決や社内人材育成をするために、クライアントと共に実行支援をする「ハンズオン支援」を実施しています。具体的には、旅行者へのヒアリングやアンケートなど実態調査の結果を共有することや、分析数字に関して地域住民とコミュニケーションを取りながら対話を重ねていき、様々な形で自分たちを取り巻く状況を俯瞰する視点「大局観」を持つ大切さを伝えてきました。それは結果としてサービスの質をあげることになり、しいては『リピーターの獲得』に繋がります。「合掌HD」にも同様、ハンズオン支援を実施しています。

②地域生活の風土や文化を保ちつつ、継続できる取り組みであること

大切なのは世界遺産というブランドではなく、白川郷に住む人々の生活や風土、文化です。この場所ならでは、田舎ならではの素朴さや温かさ、少々のおもてなしが観光競争力の原点なのです。その本質を見失わないために、「完全予約制」「入場有償化」にすることで『オーバーツーリズム問題』を解消して、安全面はもちろんのこと、丁寧な対応やおもてなしにまで意識が向くように心掛けました。

来場者でごった返す前は、寒そうにしている観光客を見かけると声を掛けて、自宅の囲炉裏や縁側で温かいお茶やおしるこなどを提供し、暖を取ってもらうこともあったそうです。何気ないエピソードですが、そういう心に沁みる優しさや温もりがここの魅力なのです。

③地域住民が主体的に考え、実行し、時代の変化に合わせて柔軟に対応すること

かつて、「住民の負担を取り除き、お客様がまた戻ってきたくなるきっかけのイベントにしよう」そう決めてから取り組む日々の中で、改革を成し遂げるには当事者の主体性が必要不可欠だと確信しました。

当事者である地域住民が主体的に動くためには、できるだけ早い段階で観光地経営をデザインすることが大切です。受け入れ体制を整えることで、「何を求めて白川郷に来ているのか？」「地域住民にとって、どのようなお客様に来ていただきたいのか？」「どうしたら来ていただいたお客様に、満足していただけるのか？」というところにまで意識を向けられます。さらには、サービスの向上に伴い、その先にある時代の変化に柔軟に対応することに繋がるのです。

合掌HDをきっかけに村内外で賛同してくれる人は増えていますが、特に地域住民の共感を得て、主体的に動く人を増やしていくことを重視しています。

3.サステナブルの鍵は「主体性」にある

「NOFATE」が白川郷での取り組みを通して実感したもっとも大切なポイントは、「観光客を受け入れる側の主体性」でした。

その主体性の実行部隊として「合掌HD」を2019年8月に設立しました。

『合掌HD』は地域コミュニティを機能させて、主体性のある取り組みを継続することで、新たな価値を生み出します。コロナ禍においてもライトアップ以外でも色々と仕掛けています。

現に先のライトアップで「入場有償化」にしたことで、これまでの2倍に相当する売り上げをあげました。まだまだ有償化を躊躇する地域が多いですが、収益をサービスの向上に使うことができれば、これまでの「通過型」「薄利多売型」の観光から脱却できると歩みを進めています。

「合掌HD」の代表・鈴木悦子さんは、村内に19軒ある宿のひとつ「民宿 源作」の女将をしています。本業にも携わり、慌ただしい日々を送ることになりますが、藤田の熱意に押されてプロジェクトに一役買いました。

彼女に声をかけたのは、増えすぎた観光客が原因で、昔から大切にしてきたことが綻びはじめていることに、ずっと以前から危機感を抱いていたこと。またレスポンシブル・ツーリズム、つまり村全体としてどのようなお客様にお越しいただきたいのか、という議論なく毎日のように大量の観光客を受け入れ、地域全体が疲弊しているように感じているということが藤田の考えと一致していたからです。お客様にどう思っていただくか、何を感じていただくか、また来ていただけるようにするにはどうしたらいいか、という思考ではなく、ただ日々こなしているという商売じみた白川郷になっていることに違和感を抱いていたのです。

そんな彼女を筆頭に、「地域内にある新たな需要の創出」や「滞在時間を延ばす仕組みづくり」など、前のめりでプロジェクトは進行中。「合掌HD」は、いまやその土地で持続可能な仕組みづくりを実行してくれています。

(地域価値を高めるためにはまずは住民の意識改革が大切)

4.魅力や強みを最大限にひきだす

白川郷が誇る最大の地域資源は『合掌造家屋』と、相互扶助の精神『結』という文化です。「白川郷にまた来たい」と思っていただくために、魅力や強みを最大限にひきだすことは大切です。

哀愁漂う『合掌造家屋』は、建築の知識が浅い素人でも、随所に感心します。想像以上に急勾配の屋根や、土台に打ち込まれていない柱、太い梁(はり)、屋根裏に2層～4層の空間を確保できるほど高い天井、いっさい杭が使われていない設計。それだけも一見の価値があります。

目の肥えた人であれば、屋根の位置ひとつとっても、冬の時期には融雪と茅葺屋根の乾燥が配慮されていること、夏の時期には気化熱作用により、屋根裏を涼しく保つための工夫がなされていることに気づくことでしょう。分かる人には分かる価値を一般の人に、分かりやすく発信することも有効です。

たまにTVで、『合掌造家屋』の屋根を大勢でふき替えている様子が放送されています。豪雪地帯で生活環境が厳しい山間部の村では、『結』により互いに助け合って生活を維持してきました。昭和初期には日本各地でも「隣組」という組織があり、沖縄にも「結（ゆい）マール」があり、当たり前のように「都会は、隣に住んでいる人の顔も知らない」と揶揄されることを思えば、信頼の度合いは違えども、人間は人と助け合って生きていきたい生き物なのでしょう。だからこそ、いまもなお受け継がれている『結』に安堵するのかもしれません。

白川郷最大の強みは、工夫がちりばめられた『合掌造家屋』と、その成り立ちを支える『結』という「相互扶助」の精神が息づいていることです。家族はもちろんのこと、住民がともに助け合いながら紡いできた歴史。もっとも大切なのは「世界遺産」というブランドではなく「白川郷」に住む人々の生活や風土、文化であることを忘れてはいけません。この場所ならでは、田舎ならではの素朴さや温かさ、少々のおもてなしが観光競争力の原点なのです。

5.未来への提言

最後に、地方創生大賞を受賞したNOFATE 代表の藤田から、持続可能な観光地経営の未来について提言させていただき、本シリーズを完結します。

ここまで、白川郷の名物イベント「冬のライトアップ」を例に、【持続可能な観光地経営をデザインする】というテーマで書き進めてきました。お付き合いいただき、ありがとうございました。

弊社が考える観光地の最も重要な資産は、『固有の文化・風土』、そしてそれらを形成する『住民の生活』です。

魅力や強みを最大限にひきだして、訪れた人が「白川郷に、また来たい」と思えるような場所を目指すことで、観光競争力は自ずと高まります。そのためには、地域住民が主体的に動く必要があるので、『NOFATE』ではその体制を整えるためのサポートをしてきました。

いま世界が目指しているのは、『サステナブルな社会（持続可能な社会）』です。観光における『サステナブルツーリズム（持続可能な観光）』では、「地域の文化や自然環境に配慮し、本物を体験し味わうことなどを通して、観光地の住民と観光客とが相互に潤うことが重要」という概念が生まれています。

これまで私たち人間が、地球にもたらした多くの弊害を反省し、世界をあげて行われている取り組みです。GSTC（グローバルサステイナブルツーリズム協議会）が発足した2008年から、国際基準が段階的に設けられてゆき、2015年に「持続可能な取り組みの提言（SDGs）」が国連で採択されました。

2020年6月に制定されたJSTC（日本版持続可能な観光ガイドライン）は、地方自治体や観光法人（DMO）をサポートするガイドラインなので、「サステナブルツーリズム（持続可能な観光）」の働きかけは、より活発になることが予想されます。

この取り組みの新たな視点は、「全ての観光客の意識」を求めていることです。観光地や事業者だけにとどまらず、観光客にも及ぶ概念です。

『NOFATE』が「合掌HD」を通して働きかけているのは、地域住民が主体的に動いていくことであり、その活動を大局観でとらえてサポートし続けていくことです。これからは、観光客が自発的に「サステナブルツーリズム（持続可能な観光）」を意識してくれることで、受け入れ側の態勢はより整い、結果的にサービスを向上させる足掛かりになるでしょう。

NOFATEが実践している【持続可能な観光地経営のデザイン】は、事業者としての立場から、観光客と地域住民の相互理解を求めています。それは第三者からの押し付けではなく、白川郷に伝わる『結』のように、相互扶助の精神によって実現されてゆくものだと信じています。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

イベントを『また白川郷に来たくなるきっかけにする』と決意した経緯はこちら

【持続可能な観光地経営をデザインするvol.1】ボランティアでの現場体験から使命感へ

オーバーツーリズム問題の大枠を捉えるにはこちら

【持続可能な観光地経営をデザインするvol.2】オーバーツーリズムは諸悪の根源