当社初の試作棟外観（ニュージーランド　ワイカト地方）

パナソニック ホームズ株式会社は、2020年9月28日から3日間、ニュージーランド（以下、NZ）のマイクグリアコマーシャル社（Mike Greer Commercial Ltd以下、MGC社）と協働し、当社が日本から供給したプレハブ住宅部材の大型パネル構造（F構法）を用いて試作棟の上棟工事※1を日本からリモートで技術指導を行い、推進しました。

※１上棟；外壁・柱・梁・屋根の取付を行うシェルター工事

NZでは、近年、移住により人口が増え続け、５年毎に実施される国勢調査でも前回調査（2013年）の総人口から5年間に約45万人も増加。その後も増加の一途をたどっています。一方で、住宅地開発は遅延気味で、経済都市のオークランドでは住宅不足と不動産価格の高騰が社会問題となっています。“日本と並ぶ地震大国でもあるNZの社会問題を、短工期で地震に強い大型パネル構造の日本製プレハブ住宅で解決したい”、当社の想いは、今回の試作棟の上棟工事をリモートで推進したことで、実現に向けて一歩前進しました。と同時に当社においても、国内製造のプレハブ住宅部材の海外輸出実現に向けて大きな意味を持つ取り組みでした。

今回の「海外でのリモートによる建築技術指導」は想定外のものでした。足掛け３年におよぶNZ住宅部材供給プロジェクトは、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大の影響を受けることになりました。

▶上棟の様子をまとめた動画はこちら(3分15秒）

▶関連リリースはこちら（パナソニック ホームズ　プレスリリースサイト）

◆コロナ禍でビザ発行が遅延。リモートでの技術指導を決断

2018年、住宅供給不足解消を目的にNZ政府が海外プレハブ住宅メーカーを公募し、世界中から200社以上が応募。当社も自社プレハブ住宅の短工期、地震に強い大型パネル構造はNZに適していると考え、公募に参加しました。海外技術部 構法開発課 課長岩澤成憲を中心に、部材供給だけでなく現地施工も支援するという提案を行い、2019年3月に採択されました。同国での建設担当者へのスキルトランスファ―（技術伝承）にもつながる取り組みです。

大型パネル構造イメージ図

このプロジェクトの一環として実施された今回の試作棟の上棟工事は、現地協力会社のMGC社と推進。当初、2020年6月には名古屋港から部材を発送し、7月中にNZで荷揚げ、8月上棟工事の計画でした。しかし、コロナ禍でNZへの入国は10月以降であることが判明し、岩澤は「リモートで上棟するしかない」と考えました。

工場でNZ試作棟の住宅部材を製造する様子

当社湖東工場（滋賀県）から試作棟住宅部材を出荷する様子

岩澤は、社内のプロジェクト会議でリモートでの技術指導を提案します。「絶対無理だ」との意見もありましたが、岩澤は「しっかり準備すればできる」と引き下がりません。それを海外事業部長の田中一彦が後押し、条件付きで前に進みました。

そこから岩澤ら海外技術部はメンバーの疑問点等を解消するため改善提案を何度も再提出し、一つずつ理解を得ていきましたが、岩澤は「絶対に失敗できない」と考え、事前シミュレーションを行うことにしました。資料共有や画面上に直接文字等を描ける、スマートフォン用リモートガイダンスアプリ、「XMReality（エックスエムリアリティ）」を選定導入し、実際に大阪で現場と本社を結び試行し、「絶対できる」とようやく確信を得ました。

「パナソニック ホームズの工業化住宅建設の特徴はスピードと品質で、最も重要なのが準備と検査を如何に確実に行うか」と考えた岩澤は、リモート作業チームを準備・建設・検査の3チーム体制とし、それぞれが建設現場の作業を連携して指導する方法を採用。また、先に出荷した350以上もある部材に順番を付け、それらに併せたマニュアルや指示書を作り現地へ送りました。NZ在住の当社社員アンナ・フィリッポワはそれを受け取り、岩澤に代わって現地側の準備に奮闘しました。

◆ＮＺ政府との約束「日本とＮＺ協業で建築する」を果たした３日間

リモート工事にあたったメンバーは26名（日本側15名、現地側は建設作業者・監督7名と通訳者4名の11名）。

9月28日、午前4時（現地時間午前8時）、いよいよ上棟工事開始です。事前指示通りの位置にクレーン車が設置されていました。吊り込みの順番を逆算して保管してある部材が所定の場所に次々に降ろされます。現地作業員が手順通りに工事しています。「理解してくれているようだ」と岩澤はいくぶん安堵しました。

現地の様子が常時、本社会議室のモニターに映し出され、日本側のスタッフはその画面を見ながら全ての工程、作業員の動きを確認します。日本で画面を見ている海外技術部員、設計・開発部門、建設部門、品質・技術部門らが気になるところを言葉にすれば、端末を持った通訳者が、その箇所へ駆け寄り大きく映像に映し出します。日本からは画面を確認しながら指示を重ねます。

▶上棟の様子をまとめた動画はこちら

現地での試作棟上棟工事の様子

日本からリモートで建築技術指導を行う様子

リモートガイダンスアプリ使用イメージ

工事は１日目が壁工事、2日目が柱、梁と屋根の骨組み、3日目が屋根の仕上げと防水工事。現地時間８時から17時、日本時間で午前4時から午後1時まで画面を通したやり取りが続きました。初めて見る部材や部品、そのどれも組み立てた事がないMGC社建設担当者のおぼつかない姿を画面で見ては本社から指示を繰り返しました。

”彼らに経験してもらい日本と同等レベルの施工能力を目指したい”　だからこそ根気よく画面越しの確認、指示を長時間続け、無事に上棟工事を終えました。

現地で通訳を務めた当社社員のアンナ・フィリッポワは、当時の様子をこう語っています。「彼らも建設担当としてのプライドもあり、日本からの指示を聞かずに工事を進めたい様子でした。けれども、指示通りに進めることで、工事がスムーズにいくことを実感してからは、彼らの態度が変わりました。日本の住宅の正確さや許容範囲に驚いたと語っていました。」

アンナ・フィリッポワ

上棟作業中の建設担当者

10月3日、特別入国ビザを手にした岩澤は同僚の外川 懸一と検査のために、NZへ渡りました。試作棟の検査を担当した外川は「思った以上にできている」と安心しました。

現地で検査を行う外川（左）と岩澤（右）

◆3年越しの取り組みが現実の姿に。海外技術部構法開発課課長　岩澤

今まで机上の計算で口にしてきたものを現実の姿にすることができました。NZ政府と約束した最初の協業作業を無事に終えることができ、ようやく第一歩を踏み出せたと感じています。

今後、この試作棟を用いて同国向け住宅の仕様や施工法について検証を進め、NZの住宅供給不足問題の解決に向けた取り組みを加速させていく方針です。

技術指導を終え、12月に帰国した岩澤(大型パネル構造躯体前にて)

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