ユカイ工学株式会社は、「ロボティクスで、世界をユカイに。」をビジョンに掲げ、様々な製品を開発・販売するロボティクスベンチャーです。クッション型セラピーロボット「Qoobo」や、ファミリーロボット「BOCCO emo」などの自社製品の製造・販売のほか、各企業様の商品製造におけるお手伝いを行っています。

2022年7月に発売した「甘噛みハムハム」は、赤ちゃんや幼いペットの短い期間にしか体験できない幸せなしぐさを再現した、世界初の甘噛みロボットです。心地いいけれど、止めさせないといけない魅惑の「甘噛み」を、いつでも味わうことができます。

「甘噛みハムハム」は発売から約5ヶ月で累計販売数が3万匹を突破し、直近では「PUI PUI モルカー」や漫画『宇宙兄弟』の人気キャラクター「アポ」とのコラボレーション商品も発売するなど、幅広い多くの方にお迎えをいただきました。本ストーリーでは、「甘噛みハムハム」の開発に至るまでの奮闘をCMOの冨永に聞きました。

ユカイ工学株式会社　取締役　CMO　冨永　翼

子育ての経験から着想。ユカイ工学のアイデア合宿のメイカソンで形になる

2007年に創業したユカイ工学は、ビジョンに基づき様々なロボットを開発してきました。代表の青木俊介が立ち上げてから、ロボットは「心を動かし、人を動機付けすることのできるインターフェース」であると定義し、様々なコミュニケーションロボットを世の中に送り出しています。

そのユカイ工学が発売したロボットが「甘噛みハムハム」でした。赤ちゃんや動物が乳児の際にハムハムと甘噛みをするしぐさを思い出したものをアイデア化しています。

この切り口は、私の子育て中の経験が大きく影響しました。自分の子どもが甘噛みする時は止めなければならないものの、どうも心地よい。そんな「ほんの短い期間にしか体験できない幸せな時間を再現できないか」という想いがありました。

その想いが形になったのは、ユカイ工学で年に1度開催している社内全員がアイデアを出し合う「メイカソン」というイベントだったのです。

メイカソンとは？

毎年ユカイ工学が社内で開催しているものづくりイベント。社員全員が参加し、5~6名ずつのチームに分かれて約2~3ヶ月程度ものづくりに取り組む。アイデア出しから、デモンストレーションができる試作、プレゼンまでを行います。

当初は社員旅行のサブ企画として、ただ遊びに行くのではなく、ユカイ工学の名前の通りものづくりをしようといったことからスタートしました。

2020年のメイカソンでチームが決まると、各メンバーでアイデアを持ち寄る会がありました。その際、私は「甘噛みハムハム」の考えを発表するも、メンバーからの受けはあまり良くありませんでした。しかし、改めて考えても、発想の良さを感じ、2回目のアイデア会でも出し、その熱量にメンバーは圧倒され施策に踏み切ったと振り返ります。

アイデアが決まると、「甘噛みハムハム」の重要な要素である、ハムハムする仕組みづくり（ハムリングシステム）に着手します。

独自に開発したハムリングシステムとのマッチングを探求し、「ねむねむアニマルズ®」と出会う

ハムリングシステムはハードウェア製作を得意とするエンジニアが手がけたため、短期間で製作が完了しました。仕組みとしては差し込んだ指に反応し、上の歯と下の歯に該当するパーツが動いて挟む形となっています。その後、外見はモデリングで試作したものの、その難しさから既製品のぬいぐるみと組み合わせて作ってみました。実際にぬいぐるみへメカを入れてハムハムさせてみたら好評な結果となったことを覚えています。

ただし、製品化にあたって「ぬいぐるみをどのようにするか」という悩みに私たちは直面します。ヒットさせるためには重要な、世の中に受け入れられる外観にたどり着くまでには時間がかかる。リアルすぎるとコンセプトと合わず、オリジナルキャラクターで良いものが完成する保証がない、と社内でもたくさん話し合いをしました。

そんな時、ぬいぐるみを数多く手掛ける株式会社りぶはあと（https://livheart.jp/ ）さんと出会います。HEART（心）のこもったLIVING ITEM（生活関連商品）を提供したいという強い思いから企業名は来ており、癒やし系グッズやインテリア雑貨を自社で企画販売されていました。「ひつじのメイプル」や「ねむねむアニマルズ®︎」など数多くのぬいぐるみも手がけています。

「ねむねむアニマルズ®」のシバイヌのコタロウ（左）ミケネコのゆず（右）

当時、チームメンバーであるハードエンジニアを務めていた小畑がファンだったこと、また共通のお得意様がいたこともあり、私を含む開発チームは話をする機会をもらいます。その直前、試作品ではリアルな猫のぬいぐるみにハムリングシステムを入れていたものの、メンバーの中ではしっくりきていませんでした。代わりのぬいぐるみを探す中で、りぶはあとさんのぬいぐるみがたくさん置かれた売り場を見て「これだ！」と直感的に感じお声掛けしたのです。

その場で、様々なぬいぐるみをご紹介いただき、ねむねむアニマルズ®︎の「ゆず/ミケネコ」と「コタロウ/シバイヌ」のサンプルをいただきました。協力をいただきながら、ハムリングシステムを入れる手術をしたところ、驚くほどピッタリだったのです。相性がバッチリだったこともあり、採用することを決めました。

なんとも言えない可愛い表情を再現するために。ぬいぐるみとメカの組み合わせを実現するために奮闘

アイデアプレゼン、そしてメイカソンの発表時に伝えた「甘噛みをされたい葛藤から、全人類を解放する」というメッセージ、試作品のクオリティをもとに製品化に向けて話が進んでいきました。

しかし、すべてが順調に進んだわけではありません。ユカイ工学は、今までぬいぐるみを活用したプロダクト作りの経験はありませんでした。なにより、甘噛みハムハムに使用している「ゆず/ミケネコ」と「コタロウ/シバイヌ」は、「プレミアムねむねむアニマルズ®︎」です。このシリーズは、生地が柔らかくて、もちもちしていることが特徴です。しかし、その点が逆に難しいポイントとなり、柔らかすぎるが故にハムリングシステムを固定するのに私たちは苦労をします。何度も工場とやり取りを重ねました。

さらに、顔やビジュアルを整えることが難しいポイントでした。1匹、1匹に個性があり愛着が湧くポイントはあるものの、ある程度のクオリティを維持しないといけない。パーツのバランスが少し変わるだけで印象がガラッと変わってしまいます。特に「ゆず/ミケネコ」が難しく、あのなんとも言えない表情を再現するために、目のバランスや綿の入れ具合を細かく調整しました。また伸縮性がある生地なので、気をつけて丁寧に縫わないといけません。

一見、話を聞くと両社のものを組み合わせるだけだと思われやすいですが、ぬいぐるみの縫製とメカの組み込みを一度に行うことは意外にも大きな壁として立ちふさがりました。しかし、多くの試行錯誤を繰り返し、りぶはあと製品の生地や色、質感といった高いクオリティのまま仕上げることに成功したのです。

甘噛みのしぐさを生む「ハムゴリズム」を考案。今までにない、数十種類というレベルで用意

「甘噛みハムハム」には、指を入れると反応するハムリングシステムを搭載していますが、ただハムハムするだけではありません。甘噛みを行う中でのしぐさ、感情やメッセージなどを伝える「ハムゴリズム」が盛り込まれています。

開発当初に想定していたハムゴリズムは「怒り、悲しみ、あくび、楽しみ。」など6個ほどでしたが、指を入れるたびに違った噛み方をさせるために「もうお前を離さないハム」などしぐさを細分化しました。現在では数十種類のハムゴリズムが存在しています。一つ一つのハムハムには名前がありますが、甘噛みの種類に名前をつけるという、初めての取り組みを行いました。

開発にあたってはいくつか試作機を作り、実際にペットを飼っている人や子育ての経験がある人に試してもらいました。最初は噛む力を変えることでちょうどいい噛み方を探していたのですが、最終的には独特な痛気持ちいい感覚をハムリングシステムの下顎の歯の形で実現しています。

発売から約1年でシリーズ累計販売数が4万匹の大ヒット。ファンと一緒に作る甘噛みハムハムの未来

ぬいぐるみメーカーのりぶはあとさんのねむねむアニマルズ®️とのコラボである「ゆず/ミケネコ」と「コタロウ/シバイヌ」を「甘噛みハムハム」の第一弾として発表したところ、愛らしい表情と甘噛みという仕草が相まって大きな話題となりました。

その反響はとどまらず、クラウドファンディングでは目標の2297%、支援者数2267名、支援総額11,485,575円を達成。さらに、その年を象徴するプロジェクトのひとつとして「CAMPFIREクラウドファンディングアワード2022」では、プロダクト賞も受賞することができました。一般販売を開始した後も多くの方に迎えてもらい、発売から1年で4万匹を突破しています。

また、数多くの施策と共に完成したハムリングシステムは、別の形で応用することも可能でした。ハムハムを好きなキャラクターにしてほしい、そんなファンの想いに応えるべく、2023年10月には甘噛みハムハムOEM第3弾となる「銀魂」とのコラボを発表しました。

他にもユカイ工学からの発売はもちろん、企業様やブランド、キャラクターとのコラボレーションの展開も進行しているので、楽しみにお待ちください。