プリンター、家庭用ミシン、工作機械、カラオケなど多岐にわたる事業を展開するブラザー工業。創業100年を超える歴史ある会社は、時代やニーズの変化とともに製品やサービスを変えながら、グローバルに成長を続けてきた。その根底には常に従業員の心身の健康を大切に思う精神があった。

ブラザーの健康経営に関する考え方と現在進めている取り組みについて、従業員の健康維持、管理を担う健康管理センターの上原正道産業医に話を聞いた。

昔からあった病院

Q：ブラザーの健康経営に関する考え方を教えてください。

（上原産業医）従業員一人ひとりの心身の健康こそが会社にとって大切な「財産」であり、グループ成長の根幹資源だと考えています。そして、その価値を最大化するために、会社・労働組合・健康保険組合が一体となり、従業員の健康の保持・増進に戦略的に取り組むことを謳っています。

Q：そのような考え方はいつ頃できたのでしょうか？

（上原産業医）ブラザーは古くから自社で病院を持っており、従業員の健康を重視する考え方が企業風土として根付いていたと思います。「健康経営」という考え方を前面に出して取り組みだしたのは、「ブラザーグループ健康経営理念」を制定した2016年（平成28年）からです。

健康ブラザー2025

Q：ブラザーでは従業員の健康に関する長期目標「健康ブラザー2025」を定めています。どのようなものなのか教えてください。

（上原産業医）「健康ブラザー2025」は2つの視点から多くの目標を定めています。一つは、リスクマネジメントの視点、もう一つは、ポジティブヘルスの視点です。前者は、血糖値コントロール不良者を減らす目標やメタボリックシンドローム非該当者率を上げる目標、がんの受診率を上げる目標などです。後者は、健康的な生活習慣を持っている人を増やす目標や睡眠が十分にとれている人を増やす目標などがあてはまります。

力を入れて取り組むがん予防

Q：今まで具体的にどのような取り組みをしてきたのでしょうか？

（上原産業医）継続的な取り組みとしては、禁煙に向けて支援する禁煙サポート「スワンの会」や、従業員自らが目標を立て、各種取り組みを行い一定期間の成果を記入して提出する「健康生活月間」などがあります。また、ストレスチェックの結果を分析し、それに応じた取り組みも実施してきました。例えば、睡眠に悩みを抱える人が多いと分かったときには、睡眠に関するセミナーの開催や、睡眠の質を計測するための機器の貸し出しなど、睡眠支援の取り組みを実施してきました。昨年からは、特にがん予防に力を入れて取り組んでいます。

Q：がん予防は具体的にどのようなことをしているんですか？

（上原産業医）がん予防については1次予防「がんにならないようにすること」、2次予防「早期の発見、治療」、3次予防「がんとの共存」の観点にいたるまで、戦略的に取り組みを進めています。1次予防としては教育を重視していますが、今年度は、スマートフォンのアプリを使って、がんに関する教育資料の閲覧やセミナーの受講でポイントがたまるスタンプラリーを開催したり、がんに罹った人の体験談を聞く「サバイバートーク」というオンラインイベントを開催したりしました。また、3次予防としては、がんの治療と仕事の両立支援に力を入れています。今年度はイントラネットに「両立支援ポータルサイト」を開設し、ガイドラインや事例集などを掲載しました。

社長も取り組む「ブラザー体操」

Q：その他に最近取り組んでいることがあれば教えてください。

（上原産業医）最近は、新型コロナウイルスの流行による在宅勤務や、外出自粛による運動機会の減少により体重が増加したという方が増えました。元々、ブラザーは全国平均と比べて運動習慣のある人が少ないことから、昨年10月11月に実施した「ブラザー健康生活月間」では運動をテーマとして、運動習慣を作るコツについてオンライン講座を提供しました。部門単位で申込み、受講する形にして、個人ではなく組織的な取り組みになるように工夫しています。また、最近では「ブラザー健康体操」を作成しました。

Q：ブラザー体操とは？

（上原産業医）これはブラザーグループの従業員向けのオリジナル体操で、自宅や職場などで体を動かしてもらうことを目的に作ったコンテンツです。コロナ禍での巣ごもりや在宅勤務による外出機会や運動機会の減少している方にぜひ取り組んでもらいたいと思っています。ちなみに体操のインストラクション動画にはブラザー工業社長の佐々木も出演しています。

Q：このようなブラザーの取り組みは外部からも高く評価されていると聞きました。

（上原産業医）はい、2020年9月に対がん活動に顕著な功績のあった個人及び団体を表彰する「日本対がん協会賞」を受賞させていただきました。また、2021年３月には経済産業省と東京証券取引所が共同で選出する「健康経営銘柄2021」に選んでいただきました。健康経営銘柄への選定は3年連続、4度目となります。その他にも、厚生労働省が主催する「第1回上手な医療のかかりかたアワード」では最優秀賞を受賞させていただきました。多くの皆さんが健康経営に関する取り組みを積極的に継続的に進めていただいた結果だと思っています。

健康経営の取り組みに対する従業員の声

Q：生川さんが健康を意識し始めるようになったきっかけはなんでしょうか？

（生川さん）健康診断で良くない結果が出たことをきっかけに、健康管理センターの保健師さんから「月に1回体重計に乗りに来てください」と言われたことがきっかけで、体重を減らす取り組みをはじめました。具体的には食事内容をあらためるとともに、体を動かす習慣をつけることにしました。「体重がちょっと減りましたね」と言われると嬉しくて、「次にあれやりましょう、これやりましょう」と提案してもらうことに次々取り組むうちにさらに体重を減らしていくことができました。

Q：どのような成果がありましたか？

（生川さん）まず体重はピーク時から20kg減らすことができ、目に見えて体型が変わりました。加えて、血糖値を下げる薬とコレステロールを下げる薬を飲む必要がなくなったことが大きな成果です。また、以前は少し走ったら息切れしてしまっていたのが、だんだん距離を伸ばして走れるようになり、最終的にはフルマラソンに参加するまでになりました。

Q：平尾さんはどのようにして禁煙に成功したのでしょうか？

（平尾さん）私はペアで禁煙を目指すという取り組みに参加しました。社内の非喫煙者にサポート役になってもらい、二人一組で禁煙を目指すというプログラムに参加しました。おそらく自分一人では途中であきらめてしまっていたと思いますが、パートナーが定期的に様子を確認してくれるなどのサポートがあったので、禁煙に成功できました。

Ｑ：このような機会を作ってくれた会社に対してはどのように思っていますか？

（平尾さん）会社がこのような機会を設定して支援をしてくれなければ、10年以上の喫煙習慣をやめることはできなかったので、有難く、感謝しています。

（上原産業医）ちなみに、通常の禁煙サポートプログラムの場合、成功率が40％程度といわれる中、今回平尾さんも参加されたブラザーのペアでの禁煙達成プログラムに取り組んだ人の約80％が禁煙に成功しています。ペアで禁煙に取り組みという一工夫あるプログラムが成功の要因だと考えています。

働けば働くほど健康になる会社へ

（上原産業医）従業員の健康度を上げることは、個人の幸せだけでなく、企業経営においても重要なことです。健康経営の取り組みをさらに進めていき、ブラザーで働けば働くほど健康になる、そういった会社にしていきたいと考えています。

【参考情報】

以下の番組でもブラザーの健康経営の取り組みが紹介されました。