2020年、スポーツ界は未曾有の苦況に立たされている。新型コロナウイルス感染症の世界的な蔓延により世界中のスポーツイベントが中止となり、スポーツクラブ経営は窮地に追い込まれた。スポンサー企業とスポーツクラブは試合開催を見込んだ上で協賛契約を結ぶのが一般的で、世界中のスポーツクラブがスポンサーシップと企業との関係維持に苦戦している。

新規で来季のスポンサー契約を締結した2社

3月8日（日）の第29節以来、ジュピラー・プロ・リーグは休止したままだ。レギュラーシーズンとプレーオフの再開スケジュールは決まっておらず、本来であれば2020年7月末に開幕するはずだった新シーズンの見通しも立たない（2020年5月8日現在）。そんな異常ともいえる状況下で、シント＝トロイデンVV（STVV）と2020−21シーズンの新規スポンサー契約を締結した2社がある。

「一般社団法人日本スポーツ支援機構」と「roi de sharme」だ。

サッカーを愛する娘からの後押しがスポンサードのきっかけ

roi de sharme代表の森田佳王子氏は、子育てをしながら長く個人事業主としてアミューズメント事業に携わってきた。

「もともとハングリー精神が強く、“挑戦”することが好きで、仕事する上でも形になるものを作っていきたいという思いが強くありました。STVVの話を聞いてもっとも共感したのは、日本人のパワーを世界に伝える、世界の舞台で活躍できる日本人を輩出しようとしている、そのチャレンジ精神。日本人のパワーを世界に見せるプロジェクトに興味を持ち、スポンサー契約を締結しました」

しかし、有事とも言える状況下で、スポンサー契約を結ぶ不安はなかったのだろうか。

「私には3人の娘がいて現在も子育て奮闘中なのですが、長女は高校3年間サッカー部のマネージャーを務めていました。STVVへの協賛の件を娘に話したところ、『ママ、日本のサッカーのためになるプロジェクトだよ！絶対やったほうがいいよ！』と（笑）。若い世代の娘の強い後押しもあり、やってみようと」

サッカーを愛する身近な若い世代が背中を押してくれたことが、日本サッカーの若い才能を育てるサポートへの一歩となった。

「私は身体に障害があり、“会社員”という選択肢を捨ててここまで個人事業主としてやってきました。選択肢が少ない中で20代の頃から経験、実績を積み上げてきた自負もあります。強く思うのは、個人事業主というのは自分の強みが何なのかをよくわかっているということ。STVVへの支援も自分のステータスの一つとして、この思いを周りの人に伝えていきたいと思っています」

ステップアップリーグとして知られるジュピラー・プロ・リーグは、個々の選手が自分の力をアピールするサッカー選手の“ショーケース”とも呼ばれる。個の強さがなければ生き残っていけない環境は、森田氏が見る景色と重なる部分も多そうだ。

「まだまだ成長の途中過程で、まずは娘たちをちゃんと育てて、それから自分がやりたいことを追及していくつもりです。自分のライフスタイルを確立したら、将来的には障害者の就労支援の仕組みを作りたいと思っています。現在の障害者の就労に関しては画一的な評価構造もあり、政府の方策に頼るだけでなく、民間からもサポートできることはないか考えています」

「ここから、世界へ」を標榜するSTVV。壮大なビジョンを描くSTVVへの支援を自身のアイデンティティの一つとして胸に掲げながら、森田氏は大きな夢を描いている。

若い世代が輝ける場所を提供したい

同じくこの渦中で、新規スポンサー契約を締結した一般社団法人日本スポーツ支援機構。アスリートから余暇スポーツを楽しむ人たちまで、幅広いスポーツ支援を行う組織だ。具体的には、スポーツスクール集客や人材育成等のコンサルティングや、アスリートのパーソナルトレーニング、教育期間向けイベント「かけっこクラブ」の開催等を行う。

代表理事の水藤英司氏は語る。

「私自身サッカー経験者でサッカービジネスにも興味がありました。そんな折、冨安健洋選手（2018−19シーズンSTVV在籍、現ボローニャ）の活躍を見て、ステップアップのきっかけとなるSTVVというクラブの存在、『ここから、世界へ』というビジョンに強いインパクトを感じ、今回のスポンサー契約を決めました」

緊急事態宣言以降、対面で人と会うことが難しくなり、それは日本スポーツ支援機構においても例外ではない。オンライン商談が一般的になる中、会話の契機となるのが“フットボール”だ。

「初対面のご挨拶がオンラインになった場合も、STVVは話題のきっかけ作りになりやすいんです。ＪリーグやJFLなどとは違い地域を問いませんから。STVVはサッカー好きなら応援したくなるプロジェクトだと思います。Jリーグクラブや地元クラブを応援するのとは違った意味があって、日本サッカー界を強くしたいという思いで繋がれる気がします」

さらにこうも語る。

「微力ながら、スポーツ業界をもっと働きやすい環境にしたいと思っています。たくさんの人がこの業界でやりがいある仕事に就けて、若い人たちが『働きたい』と憧れるような就労環境を整えたい。STVVのプロジェクトのように、若い世代が輝けるような場所を提供していきたいですよね」

STVVのビジョンと、スポーツビジネスの発展を支える水藤氏の思いが重なったからこそ実現したスポンサー締結だ。

サッカーの本場であるヨーロッパに本拠地を置きながら、STVVのスポンサードの半数近くは日本企業が占めている。ユニフォーム掲出等の大口スポンサーの存在はもちろんのこと、STVVを語る上で小口スポンサーからの支援は決して欠かすことができない重要なファクターだ。

「ここから、世界へ」はベルギーと日本、両国の支援があってこそ実現できるスケールの大きい青写真だ。コロナショックによる経済活動の混乱、低迷は終わりが見えない。ともに描く大きな夢があるからこそ、この難局でも企業とクラブが一体となることができる。歩みを止めず進み続ける強さは、STVVと支援する企業の象徴と言えるだろう。

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