このたび、パナソニック ホームズ株式会社が施工した5階建賃貸併用住宅『PLAT295』（東京都墨田区）が、2021年度グッドデザイン賞を受賞いたしました。

築50年以上の木造2階建と鉄筋5階建の２棟は、成約から完成、引き渡しまで1年半を経て、2020年4月に、ユニークなシェア発想で地域に開かれた５階建賃貸併用住宅（重量鉄骨造）へと生まれ変わりました。

上階がオーナーさまの自宅で、その下に賃貸住宅というスタイルはよくありますが、こちらの物件の最大の特徴は、オーナーさまの意向で１・２階に配されたコワーキングスペース『PLAT295』とシェアキッチン『ATELIER295』です。

この創造的な建築意向は、まちづくりに携わっておられるオーナーさまならではの未来志向の計画。オーナーさまと、志を同じくする建築家 ツバメアーキテクツさまとともに、パナソニック ホームズが重量鉄骨造Vieuno（ビューノ）の構法をベースに、まちに開いた多様な使い方が可能な立体的な建物へと展開したことがグッドデザイン賞受賞につながりました。

北側道路からの外観:1・2階の大きな窓からシェアスペースの様子が道からもよく見える

敷地対応力の高さに定評のあるパナソニック ホームズのビューノには、工業化住宅であるが故に、一定の設計ルールがあります。柔らかさのあるデザインやこだわりの実現に向けて、パナソニック ホームズにとっては工業化住宅としてのルールを元に、こだわりを形にするための新たな解釈（方策）を引き出す挑戦的な取り組みでした。担当した岩撫則章（東京東支社、設計担当）は、ご意向と設計に関する指示・相談を受けては、実現方法のご提案を繰り返し一歩ずつ進んだ日々を「千本ノックのような日々だった」と当時を振り返ります。

今回の受賞は、オーナーさまのご理解はもとより、ツバメアーキテクツさまの設計に関する翻訳力とも言える豊富な専門知識と経験、柔軟な発想で工業化住宅の構法の可能性を引き出していただいた成果と言えます。

スカイツリーの足元に広がる、下町に生まれた新たな建築物について、まちづくりを専門に活動されているオーナーさま、建築設計・デザインのプロ、ハウスメーカーと立場の異なる建築のプロが、竣工から約1年半、受賞を機に当時を振り返ります。

●オーナーさま（施主）-中央-

鈴木亮平さま・すみれさまご夫妻：亮平さまは、大学院在学中に街づくり、都市計画のコンサルティング会社、株式会社バルーンの前身となるNPO法人を設立。地方都市や過疎地域、郊外住宅地のストック活用提案などを行う。すみれさまは、建築学科を卒業後、商業施設の建築職も経験。主にデザイン面を中心に設計施工打ち合わせに参加した。

●ツバメアーキテクツさま（設計・デザイン事務所）-右から1番目・2番目-

山道拓人さま：同事務所 代表取締役。法政大学デザイン工学部建築学科専任講師山道拓人研究室主宰。住総研「シェアが描く住まいの未来」研究委員会所属。施主の鈴木亮平さまとは2014年の建築関係のシンポジウムで知り合ったのち、2018年から同研究会にて一緒に活動。

鈴木志乃舞さま：大学院在学中にミラノに留学し、パラッツォのファサードに関する研究を行う。今回の建物外観にはその視点が反映されている。

●パナソニック ホームズ株式会社　–左から1番目・2番目-

竹村和展：東京東支社　営業担当

岩撫則章：東京東支社　設計担当

―なぜシェアスペースを設けようと考えられたのですか？

鈴木亮平さま： 今までは「所有」が価値だったと思うのですが、現在の空き家問題からもわかる通り私自身、仕事を通じて、これからの時代、所有やその管理が負担になることが全国的に広がると感じていました。それをどうやって所有者だけではなく地域で活用していくかとか、住民も参加してちょっとずつ負担を分担して活かしていけるかと考えたりしていました。

今回建て替えた建物は、墨田区で生まれ育ち、ずっとここで暮らしてこられた鈴木亮平さまのおばあさまが住んでおられた木造2階建と鉄筋5階建の物件。2014年に亮平さま・すみれさまの結婚を機に、2階建を自宅兼事務所としてリフォームされ、5階建にご祖父母さまが住まれていた。5階建にはエレベーターがなく老朽化、2階建は築62年だった。

この建物は祖母のものですが、建て替えを決めるきっかけは、祖父母が同時に足を悪くし、認知症が進んだことも重なり施設入所を考え、結果、二人同時に同じ施設に入ったことでした。それで5階建の方が空き家になり、どう管理していくか、どう使っていくかを考えなければいけない状況になり、二人目の子どもが生まれるタイミングで建て替えし、自分たちが使いやすいよう、暮らしやすいようにしようと。

自分が所有することになると考えると、時代に合わせた使い方や維持の仕方を考え、シェアスペースを設けることで祖父母が愛した場所を地域に開いていくことにしました。

　『PLAT295』の名称は、おばあさまのお名前、「冨久子さま」に由来

(写真は若き日の冨久子さま）

2018年に住総研＊の「シェアが描く住まいの未来」委員会に入り、1年目に僕自身が実際に建て替えることになり、そこからシェアを仕事としてしっかり考えるようになりました。ベースとして、賃貸である程度固定的な収入があってプラス、シェアスペースで収益を上げていくみたいなイメージです。第三者にテナントとして貸して安定的な収入があれば一番簡単ですが、自分で会社を経営して仕事をしていることもあり、自分たちが自由に使えたり、カスタマイズできたりと、完全に人の手に渡すのではなくて、自分たちが管理しながら活用していくスペース、それがシェアスペースなのですが、そんなものを作ってみようと思いました。委員会で一緒にシェアを考えているツバメアーキテクツの山道さんに設計してもらって、何かこれからの時代に合ったシェアのカタチ、シェア空間というものを一緒に考えられるといいなと思いお誘いしました。

＊住総研：一般財団法人住総研（http://www.jusoken.or.jp/index.html）

―なぜパナソニック ホームズを選んだのですか？

鈴木亮平さま： かなり間口が狭い土地ですが、敷地いっぱいに建てたい思いがありました。狭い土地に5～6階建が建つ特殊なエリアなので、無足場工法など狭小地対応ノウハウを豊富に持っているパナソニック ホームズが一番良いと思いました。

そんなに下調べはせずに妻と一緒にパナソニック ホームズの本所吾妻橋展示場に行って、いろいろ相談すると竹村さんが「その条件ならウチです」って。家に帰って改めて考えて「確かにそうだな」って(笑)。

鈴木すみれさま： ただ祖母の体調や、祖父の認知症の進行もあり、建て替えるなら少し急がなきゃというイメージはありました。

鈴木亮平さま： ハウスメーカーにお願いしようと思ったのは、やっぱり工事のスピード感でした。ハウスメーカーのベースを活かして自分たち用にカスタマイズできたら一番いいのではないかと。いずれ訪れる相続のこと等を考えると、ある程度スピード感を持って、祖父母が元気なうちに建て替えたいという思いがありました。

パナソニック ホームズの多層階住宅「ビューノ」を無足場工法で建築している様子

―設計・デザイン作業は本当に「千本ノック」だったのですか？

山道拓人さま： まず、パナソニック ホームズの住宅には設計上の綿密なルールがあります。僕らもそれを理解した上で、パナソニック ホームズのルールを超えたデザインを提案できる可能性があるのか、ということを初期段階でずいぶん議論をさせていただきました。パナソニック ホームズの多層階住宅の起源は職住近接でした。「ナショナル」の電気屋さんを建て替えるというのが最初だったそうですね。上が家屋で、下でお店をやる。住む人だけでなく、街の人もその場所に集まる。いわゆる昔ながらの長屋っぽいものに起源があるという点が面白いと思いました。今回のプロジェクトでは集合住宅の中にコモンスペースを充実させるというプロジェクトだったので、このコラボレーションは上手くいくぞと。僕らがこのプロジェクトに入ることによって、パナソニック ホームズにとってもプラスに、ターニングポイントになるのかも知れないと思いました。単なるハウスではなくて、ハウス以外の用途が入っても成立するという事が、これからの社会ではむしろ自然な状態であろうと考えていました。それから、それをデザインにどう落とし込むかが重要になるなと思いました。パナソニック ホームズの構法やデザインルールの中で、他のプロジェクトとは一味違うぞ、というのをどう実現するか。最初は模型や図面で打ち合わせを繰り返していました。

鈴木志乃舞さま： パナソニック ホームズの設計をベースにして、亮平さんとすみれさんがどのようなことを実現したいかという使い方のイメージを聞いていき、1階部分の窓は特に大きいものにした方がいいとか、せっかくスカイツリーが見えるような特別な敷地だからこそ、居場所となるバルコニーを作った方が良いのではないかという具体的な形を導いていきました。それらをデザインに盛り込んでいって、パナソニック ホームズのルールに則りながら実現する方法を皆さんと議論するという、かなり濃密な打ち合わせをさせていただきました。ルールの中で何が出来るのか、難しい場合はどのような解決策があるかを岩撫さんから教えていただきながら、都度フィードバックして具現化していくプロセスを何回も経て、徐々にカタチが決まっていったイメージです。

山道拓人さま： デザインへのこだわりと、法的な規制による変更と、鈴木さんたちのやりたいこと、活動を表現するということでデザインは変遷していきました。角地側に隅切りのエントランスがあったり、1階部分の窓を全部開けると外と繋がるようなポルティコのような雰囲気になるとか、そういう思いをカタチに込めたところもあります。

鈴木亮平さま： 僕自身は、話したことをしっかり受け止めてもらって、それが毎回デザインに反映されていると思っていました。ドンっと提案を頂いたと言うより、ちょっとずつ話し合いながら、そういう感じがいいよね、みたいな感じでした。感覚的には常に話し合いながら、ちょっとずつ決まっていって全貌が見えてくるという感じでした。

鈴木すみれさま： 当初にパナソニック ホームズからいただいた提案と、店舗の位置などは大体同じなんですよ。最初の提案と見た目が違うのは、外から見た窓をすごく大きく設計していただいたり、柱の位置などを調整していただいて窓がキレイに入るように割り当てていだたいたりなどした結果です。ハウスメーカーは機能性から割り当てていかれ、志乃舞さんはファサードもキレイに割り当ててくださる。窓も外からだけでなく、中から見てもいい位置にあるということを意識して欲しいと思っていたので、すごくありがたかったです。

建築業界には携わってきましたが、ここまでハウスメーカーの構法に様々な制約があるとは思っていませんでした。パナソニック ホームズの場合、例えばタイルは15cmという規格があり、柱の位置がちょっとズレると、15㎝単位でズラしていかなきゃいけないとか、そういうルールの中での修正作業がとても面白かったです。岩撫さんは大変だったと思うけど、私は楽しかったです(笑)。

• デザインの変遷

―デザインコンセプトやこだわりポイントは

山道拓人さま： ハウスメーカーは「ハウス」を作ってきた、つまり住む人だけが使うビルディングタイプです。しかし今回は同じ面積をより多くの人がシェア的に使うと、いろいろな条件がバッティングしてきます。例えば換気性能はあげないといけない、つまり手で開けられる大きな窓を作ろうということを最初に考えました。コロナ前に福祉施設の仕事をやっていたのですが、空気が汚染されると3分くらいで身体に影響が出るという事を学びました。長屋のような細長い敷地で大きな窓を全部開けられると、街と繋がったり、たくさんの人が集まっても結構賑やかに楽しめるはずだと考え、僕は「窓を開けよう！窓辺を作ろう!」と、ばかり言っていました。最初にパナソニック ホームズが提案してくださったものと比較すると、めちゃくちゃ窓が大きくなっています。内部空間であるシェアオフィスの風景は、電車のように細長くて大きな窓で、それはここでしか作れないのでとても面白かったです。

大きく開くサッシとベンチで内外連続的に利用が可能

鈴木志乃舞さま： 私たちはいつも内側・外側の両面から設計することを心がけています。特に、街に開き、結節点となるような場所にしたいという思いを体現するため、外観のあり方が最も重要な項目のひとつではないかと思っていました。窓を大きくすると言っても、住宅部分では単に大きければ良いというわけではなく、居室毎に配慮が必要です。例えば浴室やトイレは、どうしても窓が小さくなるので、様々なサイズの窓が入ります。自由度が上がる分、基本的な外観のルールだけでは決められない場面です。今回、タイルで外装を覆ったのは、タイルの色で縁取りができると岩撫さんから教えていただいて始まった検討結果の１つです。ならば「貼分け」をルールでありながら、ちょっとした遊び心として取り入れることで、窓のリズムとタイルの色を関連させていけるのではないかと。そんな話を経てシェアスペース部分は白いタイルで、住居部分は黒いタイルで窓にも縁取りをすることになりました。それから、今回度々議論に挙がったのはバルコニーですね。

本棚通路とテレカンブース　ショーウィンドウのような大きな窓から

外を眺めながら作業が可能

山道拓人さま： バルコニーは結構重要です。東京の人がたくさん住む建築はバルコニーがエアコンの室外機のための空間になってしまいます。中途半端なバルコニーを作ると、室外機ぐらいしか置けないので、もうちょっとテーブルセットくらいを置けるようにする。レンダブル比などの尺度だけでなく、室外機のためではなく、人のために段々の居場所を作るという設計は良いチャレンジをさせていただいたと思っています。

鈴木志乃舞さま： そういったところも岩撫さんとガッツリ相談しながら、二人三脚状態でデザインを詰めていきました(笑)。

段々に配置された大きめのバルコニー

テーブルセットを置いてスカイツリーを眺めることができる

―グッドデザイン賞を受賞して

鈴木亮平さま： まさか自分がグッドデザイン賞を獲るとは思っていませんでしたが、モノを作る過程、それぞれ専門の方が自分たちの得意なものを持ち寄って、少しずつ時代に合わせてカスタマイズしていきながらモノを作り出そうという姿勢が評価されたのかなと思っています。日本だとハウスメーカーが家を作る割合が多いと思いますが、パターンでいっぱい作ることも大事なことですが、これからの時代は、エリア毎とか、住む方や暮らし方の変化とかに合わせて、どうバージョンアップさせていくか、変化させていくか、が出来てくると、日本の住宅はもっと面白くなるのではないかと思っています。

鈴木すみれさま： お客さまが最初はあまりいらっしゃらなかったんですけど、徐々に増えてきたことは、ありがたいなと思っています。箱自体はグッドデザインという評価をいただけたので、中のプログラムもグッドデザインだと思っていただけるよう、しっかり運営していきたいと思っています。

山道拓人さま： 鈴木さんたちとパナソニック ホームズと僕らが、いいバランスでコラボレーションできたのが楽しかったです。互いに相手を活かせるような体制だったので、それが面白かったですね。ハウスメーカーがお客さんにサービスを提供するという一方向ではなく、三社でアイデアをぐるぐる回していく新しいタイプの仕事の進め方だったと思います。今回の仕事が特殊な枠組みではなく当たり前になっていくといいなと思います。「ナショナルの時代に起源を見出す」と言いましたが、当時と違うのは今回、全体の1/3くらいがコモンスペースになっている点です。それが、鈴木さんが言っていた「所有」というより地域との「総有」というようなあり方です。街の人と一緒に使っていくという考え方が外観に表れている。末永く地域の顔になっていくと嬉しいです。

鈴木志乃舞さま： パナソニック ホームズのクライアントからは見えない長年のノウハウが凝縮したルールやシステムの片鱗を見せていただきました。今回、三社協働でこの建物の設計をやってきたのですが、今後、使い方（運用）に関してもいろんな方が入って来られるのだろうなと想像しています。私達の想像以上にこの場所のポテンシャルを引き出す使い方を、使い手の方がどんどん発見してくれる。お住まいの方も、この場所に可能性を感じてご入居いただいているというお話も伺っていますので、また新たな協働がこの場所から生まれることに繋がっていけばいいなと思っています。

竹村： 私が担当する本所吾妻橋展示場の近所に住んでいた鈴木さまご夫妻のご自宅の立地などを伺い、狭小地への対応力が高く、無足場工法によって敷地制限ぎりぎりまで建て られる当社のビューノであれば、お役に立てると自信をもってお勧めしました。こうして喜んでくださっているお二人を見ると、本当にご提案して良かったと思っています。

岩撫： ツバメアーキテクツさまがビューノの設計ルールを理解し、オーナーの鈴木さまの理想とする住まいを実現するために様々な設計提案をしてくださいました。当社の設計自由度を最大限に引き出していただき、従来の設計プランから大きく飛躍した新たな建築物となりました。最後まで並走できたことをハウスメーカーの担当者として嬉しく思います。

建て替えの計画時にはなかった想定外の新型コロナウィルスの感染拡大。1回目の緊急事態宣言発出時に竣工し地域に開かれた『PLAT295』『ATELIER295』は徐々に認知され稼働率もあがっているとのこと。コワーキングスペースは会社員のリモートワーク利用が多く、シェアキッチンも地元で過ごす方々のお食事会やワンデーカフェ利用などで週末はほとんど埋まっているそうです。また、３室ある賃貸のお部屋もすべてご入居者がおられるとのこと。ご祖父母さまが愛されていた場所が時代の変化とともにこれからどんなシェア空間へと変貌していくのか。シェア空間『PLAT295』『ATELIER295』の今後が楽しみです。

シェアオフィス『PLAT295』

シェアキッチン『ATELIER295』

■  PLAT295　概要

所在地 ：東京都墨田区業平1丁目7番9号

設計・建築：株式会社ツバメアーキテクツ一級建築士事務所、株式会社バルーン、パナソニック ホームズ株式会社

施工・建築：パナソニック ホームズ株式会社

構造・階数：重量鉄骨造　Vieuno（ビューノ）5階建

主要用途：事務所、共同住宅 5戸（オーナー住戸＋賃貸）

竣工：2020年4月

HP：https://plat295.com

▶関連ニュースリリースはこちら　https://homes.panasonic.com/company/news/release/2021/1020.html

▶グッドデザイン賞受賞内容の詳細はこちら　https://www.g-mark.org/award/describe/52473

▶グッドデザイン賞の詳細はこちら　https://www.g-mark.org/about/

▶ビューノの詳細はこちら　https://homes.panasonic.com/tasoukai/vieuno5/