～宇宙からのインスピレーション　世界初の「チタニウム製腕時計」の軌跡～

シチズン時計株式会社（本社：東京都西東京市／社長：佐藤 敏彦、以下シチズン）は、1970年に世界初のチタニウムを使用した腕時計を発売してから、今年50周年を迎えます。それを記念して、シチズンのチタニウム加工の技術を集結したチタニウム技術50周年記念フラッグシップモデル『SATELLITE WAVE（サテライト ウエーブ） GPS F950』を2021年1月に発売します。

今回はチタニウム技術50周年を記念する限定モデルの発売に先立ち、新製品開発への想いについて商品企画を担当した商品開発部 杵鞭(きねむち)さんに伺いました。また、1970年にチタニウム素材を初めて腕時計の外装に用いたモデルの発表から現在にいたる50年の軌跡について紹介します。

―今回の新製品の特長について教えてください

杵鞭：

新商品は【宇宙】をテーマに、チタニウムの新しいデザインの可能性を求めて開発を行いました。シチズンが1970年に世界で初めてチタニウム時計の製品化に成功してから半世紀。当時はアポロ計画等、宇宙開発競争が盛んな時代でした。ロケットの素材にもチタニウムが注目されるなど、宇宙とチタニウムの親和性は昔からありました。

新製品は、人口衛星のパネルをイメージした、凹凸のあるバンド。また、文字板は6つのパーツを重ねた多層構造になっており、壮大な宇宙空間を連想させるような奥行きを持たせた近未来的なデザインです。

ケースやバンドは、シチズンが長年培ってきたチタニウム加工技術を駆使し、シャープでソリッドに仕上げ、エッジの効いた直線的なラインが立体面を構成し、陰影のある造形美になっています。また、シチズン独自の硬化技術であるデュラテクトサクラピンクとデュラテクトDLCを表面に施すことで、ステンレスの5倍以上の硬さを実現。小傷が付きにくく、新品のようなきれいな状態が長く続けられるようになりました。

カラーリングは、高級感のあるブラックとサクラ色のコンビネーションに。このコンビネーション色はケースでそれぞれ別体パーツを組み合わせたケースだからこそ、展開が可能になったデザインで、単色と比較して、よりエレガントなカラーリングとなりました。

チタニウム技術50周年記念フラッグシップモデル 『SATELLITE WAVE GPS F950』世界限定 550本 550,000円（税込み）

性能としては宇宙の衛星から時刻情報を受信するGPS衛星電波時計で、世界中のどこでも正確な時刻を刻むことができます。時刻情報のみの受信では、GPS衛星電波を世界最速レベル「最短3秒」で受信する性能を持ち、高速ツインコイルモーターによる針の動きも驚くほど速く、正回転、逆回転共に1時間分（分針一周360°分）の針を動かすのに要する時間はわずか1秒足らずなので、受信から時刻修正完了までをスピーディーに行います。またエコ・ドライブ機能搭載で、文字板に光が当たることで内蔵されている二次電池を充電し、定期的な電池交換の必要もなく、正しい時刻を把握できます。

―開発のなかで味わった苦悩は何ですか？

杵鞭：

今までのシチズン製品には無かった初めてのデザインや形状に挑戦したため、製品化するのは非常に大変でした。

今回の時計はチタニウムの可能性を追求するデザインとするため、かなり精密な加工技術が必要でした。特にチタニウムは柔らかく粘着性の高い素材なので、シャープなデザインとして時計に落とし込むことはとても大変でした。バンドに関しても凹凸のある形状にチャレンジしたのですが、シャープな形状がイメージ通りにいかなかったり、複数のパーツの組み合わせからなるケースに関しても、製造工程の中で下記の問題が発生。

①  チタニウムを熱で加工するので素材そのもののサイズが変形。

②  表面の研磨具合によってサイズが変わる。

③ その表面にデュラテクトのコーティングが追加。

各パーツの寸法がミクロンレベル(１ミクロンは、100万分の1メートル)でずれてしまうと時計として成り立たなくなってしまうため、製造工程における寸法管理に苦労しました。

―開発のなかで辿り着いた決断は?

杵鞭：

トライ＆エラーの繰り返し

PC画面上の設計寸法値としてはうまくできても、やはり作成してみると微妙なバランスがうまく再現できなかったり、見た目のデザインカラーもここにたどり着くまでに様々なカラーリングのサンプルを作りました。

一番良い組み合わせ、デザインはどれだろう、と通常の新製品制作時の2倍以上のデザイン案の中から関係者内での試行錯誤が続きます。各担当者のこだわりから意見がぶつかることもありました。そのなかでも、長年培ってきたチタニウム加工の技術力、デュラテクトのカラーコーティングの豊富さ、このポイントは妥協せずにデザインに盛り込もうという認識が改めてメンバー内で一致しました。

―新製品を通じて実現したい想いについて聞かせて下さい  

杵鞭：

シチズンのチタニウム加工の技術力、またデュラテクト加工が施されたスーパーチタニウムTMの良さをもっとたくさんの人に知ってほしい！

シチズンはチタニウム素材を活用し、表面硬化技術（デュラテクト加工）と組み合わせることで、きれいな状態を長期に渡り保つことができるチタニウムを2000年に開発しました。

それがシチズン独自のスーパーチタニウムTMになります。

特長として、

・耐アレルギー素材であり肌にも優しい

・とても軽量で、さびにくい

・傷に強く、きれいな状態を保ち続ける

単に軽量だけでなく、肌にも優しい為、金属アレルギーなどに悩んでいる方には特におススメしたい素材です。

デュラテクトのコーティング色も従来のチタニウムでは表現できなかった多彩な色調を実現。シルバーはもちろん、ブラック、ゴールド、ピンクゴールドなど様々な色があります。今回のモデルは単色ではなく、複数色でのデザインを用いてエレガントに仕上げたかったという思いがあります。

商品開発にあたっては、構想から約２年の歳月をかけて実現できた妥協なき特別な１本になっています。

―今だから言える背景や開発の裏話を教えて下さい

杵鞭：工業製品といわれるとオートメーションで展開されるイメージを持たれる方が多い中、今回のモデルは加工、研磨、組み立てといった各工程において職人の技術がふんだんに盛り込まれた魂のこもった１本です。世界限定で550本の発売ですが頑張ってもこれだけしか造れない！といわれるくらい、設計や構造は凝ったものになりました。

少し話はそれますが、シチズンのチタニウム技術は、2022年、2023年に月面探査を行う月面探査プロジェクトであるHAKUTO-Rのランダー等にも採用がされる予定です。

50年前の宇宙開発時代に活用が始まった素材を、また現代で宇宙開発事業に貢献できる、この時代で貢献できることをとても嬉しく思います。

シチズンの技術がふんだんに詰まった今回のモデル、ぜひ一度ご覧ください。

参考ニュースリリース（https://citizen.jp/news/2020/20201119-1.html）

～宇宙からのインスピレーション

世界初の「チタニウム製腕時計」50年の軌跡～

◆開発の背景

1960年代は数多くの宇宙ミッションが実施され、未知の分野へ挑戦するフロンティア精神が人々の間に芽生えていった時代でした。シチズンも例外ではなく、宇宙船にチタニウムが使われていることに強い関心を抱いていま した。当時の腕時計は、真鍮(しんちゅう)にメッキを施した外装が主流。メッキが剥がれやすく、サビやすかったため、「一生もの」の腕時計など夢のまた夢の時代でした。シチズンの技術者たちは、ユーザーに満足してもらえる腕時計にとって最適な素材を目指して研究・開発を進めていました。

◆世界初のチタニウム製腕時計の開発

「腕時計にとってよりふさわしい素材は何か?」この問いに日々向き合い研究開発を進める中で、シチズンの技術者が目をつけたのが宇宙開発で脚光を浴びる新素材で、軽く、耐食性に優れ、アレルギーを起こしにくいチタニウムでした。

1964年にシチズンが技術研究所を設立。同研究所において、時計素材としてのチタニウムの研究開発が始まりましたが、技術者たちはすぐにこの素材特有の問題に直面します。

―「チタニウムは柔らかくて粘度も高いため加工が難しい。」― 数年におよぶ粘り強い研究開発が必要になりました。技術や製造方法を確立するために試行錯誤を繰り返した末、世界初のチタニウム製外装を採用した腕時計『X-8（エックスエイト）コスモトロン・クロノメーター』の商品化に成功し、研究着手から6年の1970年9月に発売しました。

しかし、世間からは驚きの声で迎えられた一方で、社内の評価は必ずしも芳しいものではありませんでした。くすんだ色合いやざらついた手触り・・改良の余地を多く残していることは明らかでした。そこで、さらに本格的なチタニウムの研究開発が始まりました。その後、地道で粘り強い研究によって素材の課題と向き合い、海外の文献をあさり、時には夜中まで議論を重ねながら、あらゆる加工方法を試みることでさまざまな難題を解決してきました。

82年に「プロフェッショナルダイバー」に錆びないチタンケースを採用、87年にはつや消しのイメージが強いチタニウムにソフトな輝きをまとった素材感を活かした「アテッサ」初代モデル、93年には金属メタルアレルギーを起こしにくい性質を活かした「アテッサ ノンメタルアレルギーモデル」、2000年には対傷性を向上させたシチズン独自の表面硬化技術であるデュラテクトを初採用した「アスペック」など、各時代を代表するモデルを発表してきました。しかし、シチズンの挑戦はそこで終わることはありません。

◆未来へと歩み続ける

　~発表から50年、再び宇宙船製造技術と融合~

世界初のチタニウム製腕時計発表から50年目を迎える2020年、シチズンの技術と宇宙船製造技術は再び融合しています。スーパーチタニウムTMが、次世代の月面探査計画において使用されるためです。

現在計画が進められている日本初の月面探査プログラム「HAKUTO-R」の技術者たちは、スーパーチタニウムTMの軽量性、強度、なめらかさが宇宙探査機の素材として最適であると考え、月面着陸船ラベンダーの部品に実装すべく、シチズンと共同開発を進めています。宇宙開発の黎明期に行われた挑戦にインスピレーションを得た、時計を変革する技術とともに、これからも未知の領域への挑戦を続けていきます。