海老せんべい〈ゆかり〉を製造販売する坂角総本舖は、130周年を迎えた2021年5月のイベント「BANKAKU KITCHEN(バンカク キッチン)」（※1）開催以降、短期イベントにて海老を使ったフードメニューの提供をスタート。

海老カレーや海老カレーパンなど、さまざまなメニューを展開する中、最も時間をかけて開発したメニューが「BANKAKU 海老カツサンド」です。３つの特徴が光る、他にはない美味しさに仕上がりました。

【3つの特徴】

1．プリプリとした海老の食感を楽しめるよう、たっぷりの海老を使用し、衣は極限まで薄く仕上げました。

2．保水処理していない鮮度の良い海老を使用することで、プリプリ食感と海老本来の旨みの両方をお楽しみいただけます。

3．通常は白身魚を使用するつなぎに、帆立を使用することで、さらに濃厚な旨みを引き出しました。

開発スタートから10年目を迎えた節目に、海老のプロとして坂角総本舖がこだわりぬいた、その開発秘話をご紹介いたします。

↑開発スタートから10年目を迎えた〈BANKAKU 海老カツサンド〉

↑2021年5月「BANKAKU KITCHEN(バンカクキッチン)」のようす

（坂角総本舖公式Instagramより）

（※1）「BANKAKU KITCHEN」とは

坂角総本舖130周年記念事業として、名古屋栄のLACHICで2021年5月13日(木)から30日(日)の期間に開催し、初めて「海老せんべい」ではなく「海老を使ったフードメニュー」を販売いたしました。コロナ禍の緊急事態宣言下でありながら、近隣でお仕事されている方などを中心に4,000人近いお客様にご利用いただき、テレビ7番組、新聞6紙など、多くのメディアにご紹介いただきました。

「BANKAKU KITCHEN」はすでに3回開催。

次回は2023年6月14日(水)～20日(火)に、ジェイアール名古屋タカシマヤ地下1階ウィークリースポットにて開催予定（テイクアウトのみ）。

海老の美味しさ引き出す、新たな切り口の開発

海老せんべい一筋で商売をしてきた坂角総本舖が、海老カツの開発に着手したのは、2014年春のことでした。

これまでの坂角にはない切り口で、海老の楽しみ方をお客様に提供できるようになることが目的でした。

↑坂角総本舖で扱う新鮮な天然海老

海老を扱うプロとして、海老の美味しさを最大限に引き出す、他にはない美味しい海老カツとはどんなものか？

さまざまな海老カツを食べ研究し、またディスカッションを重ね、譲ることのできない開発方針が設定されました。

「海老のプリプリ食感をとことん楽しめること」

「海老の濃厚な旨みをしっかり味わえること」

テーブル試作の海老カツが商品開発会議で承認されたのは、2015年が終わる頃。

一般的に海老カツのつなぎは白身魚ですが、つなぎに帆立を使うことで、海老の旨みに帆立の旨みが重なり、濃厚な旨みとプリプリ食感の両方を追求した、他にはない美味しい海老カツのレシピが出来上がりました。

しかしこの時、この先の道のりの険しさには、まだ気づいていませんでした。

海老カツ開発を阻む、3つの壁

2016年、いよいよ目指す姿の定まった海老カツの販売に向けて、社内で正式に新規事業担当部署が立ち上がりました。

販売するには量産化の必要がありますが、社内には知識も生産ノウハウもなく、手探りでスタートしました。

大変だったのは、まさにここからです。

半年以上量産化テストを続けても、手作りで試作したレシピの美味しさが全く再現できませんでした。

新規事業担当の阿部さんは、当時を振り返って３つの壁について語ってくれました。

↑坂角総本舖マーケティング部新規事業担当　阿部さん

阿部：2016年は当たって砕けての連続でした。テーブル試作では十分に美味しい海老カツレシピが出来上がっていましたが、量産化において、３つの壁が立ちはだかりました。

―――Q：ひとつずつ教えてください。一つ目の壁とは？

阿部：一つ目は形状です。海老のプリプリ食感を楽しめるベストの形状は俵型に決定していました。しかし、俵型の海老カツは厚みがある分、中心まで火が入りにくい。一般的に海老カツは、平たくて火が通りやすい小判型が多いんです。

揚げ方などを工夫しながら、俵型でも均質に火が通るよう調整しました。

―――Q：二つ目の壁とは？

阿部：二つ目は衣です。これが最も高いハードルでした。衣が薄ければ海老のプリプリ食感をダイレクトに楽しめますから、絶対に譲れないポイントだったんですが、再現には本当に苦労しました。

―――Q：薄い衣は作るのが難しい？

阿部：衣が厚い方が、量産化しやすいんです。薄くなればなるほど衣が剥がれたり不良が出やすくなるので、特に衣付けの工程における技術や工夫が必要となります。開発はとにかくトライアンドエラーで進めました。具体的な製法は明かせませんが、衣が剥がれるギリギリを攻めて、衣率約30％の薄い衣に仕上げています。

でも、難しかったからこそ、坂角にしか再現できないプリプリ食感に仕上がったと思っています。

↑〈BANKAKU 海老カツサンド〉に使用している海老カツ。一般的な衣率50％よりも20％低い約30％に抑えて、海老のプリプリ食感を活かした。

―――Q：三つ目の壁とは？

阿部：三つ目は、素材である、海老そのものです。

一般的な海老カツに使用される海老は、保水加工された旨みの少ない海老です。

しかし、坂角では保水加工していない海老を使って、濃厚な旨みのある海老カツに仕上げようとしていました。量産化において、保水加工していない海老をプリプリ食感に仕上げるというのも、苦労したポイントでした。

―――Q：「保水加工」とは？

阿部：海老の身を保水剤に浸してぷりんとした食感を出す加工のことです。

保水加工をすると、身がぷりんとして加工もしやすくなるけれど、旨みが溶け出てしまう。坂角らしい海老の濃厚さが再現できないんです。ここは譲れないポイントでした。海老の旨みなくして、坂角の海老カツは名乗れない。

―――Q：すべての壁をクリアできたのはいつ頃？

阿部：2019年です。レシピ完成からさらに3年をかけて、ようやく量産化においても、目指す美味しさに至りました。

「どんな海老カツが最高に美味しいか」という切り口から開発をスタートしたからこそ、苦労は多かったですけど、他にはない美味しさにたどり着けたと考えています。

海老カツは、海老カツサンドへ進化

海老カツ量産化の成功が見えてきた頃、社内で新しく「BANKAKU KITCHEN（バンカク キッチン）」という企画が立ち上がりました。

「BANKAKU KITCHEN」は、130周年の感謝を込めて、海老を使ったフードメニュー、新・名古屋グルメを提供して、坂角をご存じの方はもちろん、新しいお客様にも楽しんでいただこう、という企画です。

「BANKAKU KITCHEN」企画担当の伊藤さんと、海老カツ開発担当の阿部さんに、当時のことを語ってもらいました。

↑BANKAKU KITCHEN企画担当　坂角総本舖マーケティング部営業企画課　伊藤さん

伊藤：2021年の130周年を目指して、2年前の2019年に「BANKAKU KITCHEN」の企画が立ち上がりました。

社内では昔から「いつか海老を使った料理を提供したいね」と夢のように語られていたんですが、阿部さんがとびきり美味しい海老カツを完成間近に持ってきてくれていたことが、夢を形にする大きな後押しとなりました。

阿部：同時に他のメニュー開発や、ハンドクリーム(※2)の開発時期とも重なっていて、まさに走り抜けた2年間でしたね。

(※2)：坂角総本舖初のスキンケア商品〈EBIKARA MIRAI（エビカラミライ）〉

伊藤：海老カツも、「BANKAKU KITCHEN」のコンセプトに合わせて、ワンハンドで気軽に食べられる海老カツサンドに進化することになりましたからね。

―――Q：海老カツサンドの開発はスムーズでしたか？

阿部：正直、思ったより難航しました。まずは真似から始めようと、様々な海老カツサンドを食べて研究し、試作したんです。

でも世の中の海老カツは、味より食感で食べさせるものが多くて。海老の旨みの足りない分をタルタルソースのような個性の強いソースや、他の具材とのバランスで補ったり。

海老カツそのものの美味しさを追求した海老カツサンドって、実はあまり無いんだと改めて分かりました。

伊藤：思いつく限りの試作をしましたよね。バーガーサンド、ラップサンドとか、パンの種類や形状、あとソースや具材も一通り試しました。キャベツやレタス、キャロットラペとか。どれも悪くないけど、ベストではないというか、決め手がない感じでした。

―――Q：現在のシンプルな海老カツサンドの着想はどこから？

阿部：原点回帰というか、とにかく海老カツの美味しさを生かす、という方針で突き詰めた案です。

海老カツを活かすために、パンは薄めがいい、ソースもシンプルな方がいい、と。

伊藤：いろいろ試した結果でしたが、シンプルなサンドを商品開発会議で提案したら、驚くほどスムーズに満場一致で決定しました。しっとりしたパンとジューシーな海老カツの相性も良かったですよね。

発売してもなお続く、理想の海老カツサンドへの道

―――Q：2021年6月に開催された「BANKAKU KITCHEN」はどのような結果に？

伊藤：コロナ禍の緊急事態宣言中だったにも関わらず、近隣の方などを中心に4,000人近くの方にご利用いただき、大盛況に終わりました。

〈BANKAKU海老カツサンド〉は、「風味が良くてぷりっぷり」「絶対リピートしたい」とたくさん声をいただきました。期間中に再来店してくださるお客様もいらっしゃって。それからスタッフにも非常に評判が良かったです。坂角の若手社員たちがイベントスタッフを担ってくれたんですが、美味しくて家族にも食べさせたいからと休日に買いに来てくれたり。

↑2021年発売当時の〈BANKAKU 海老カツサンド〉

阿部：イベントが終わってすぐ、次に向けての準備を始めました。検証する中で、メニューにおいても様々な改善点が浮上しました。悪いところを直すというだけでなく、より良くするためのアイディアも出てきました。

伊藤：〈BANKAKU 海老カツサンド〉の海老のプリプリ食感が好評だから、さらに追及できないか議論になりましたよね。海老の美味しさ追及は、海老せんべいでも、海老を使ったフードメニューにおいても変わらない、坂角らしいこだわりだと思います。

阿部：昨年開催した「BANKAKU KITCHEN」では、〈BANKAKU 海老カツサンド〉のパンの耳をなくして、海老カツのプリプリ感を、さらにダイレクトに楽しめるようになりました。

現時点で出来うる限りのことを全部盛り込んでいますが、もっと良くできる点があれば、ささやかでも、今後も一つずつ取り組んでいくつもりです。

―――Q：さいごに、ひとことずつお願いします。

阿部：妥協せずこだわりぬいた〈BANKAKU海老カツサンド〉、まずは一度、ぜひ召し上がっていただきたいです。

伊藤：「BANKAKU KITCHEN」では、海老カツサンドの他にも、海老カレーパン、海老カレー、海老コロッケなど、美味しいメニューをたくさん取り揃えています。

今はまだイベント出店のみですが、いずれは常設店舗で提供できるよう、準備を進めています。

今後の展開も、ぜひ楽しみにしていてください。