フラー株式会社（本社：新潟県新潟市、代表取締役：渋谷 修太、山﨑 将司、以下「フラー」）は、創業9周年の日である2020年11月15日、登記上の本店を新潟に移し、柏の葉本社と新潟本社の二本社体制になりました。

柏の葉本社は社長の山﨑、新潟本社は会長の渋谷が常駐。二つの本社で働ける環境や待遇、機会を平等に提供することで、ITの地域格差をなくすことを目指し、それぞれの特徴を最大限に活かした経営を進めています。

コロナウイルスで社会全体が激しい変化にさらされる中、フラーはなぜ、東京ではなく、首都圏郊外と地方の二つの都市に本社を構えたのでしょうか。

フラーの経営トップ二人にその思いと舞台裏を聞きました。（聞き手・フラー株式会社・日影耕造）

代表取締役会長

渋谷 修太

＜プロフィール＞

1988年生。新潟県出身。国立長岡工業高等専門学校卒業後、筑波大学理工学科社会工学類経営工学へ編入学。グリー株式会社を経て、2011年11月フラー株式会社を創業、代表取締役に就任。2016年には、世界有数の経済誌であるForbesにより30歳未満の重要人物「30アンダー30」に選出される。2020年3月、新潟ベンチャー協会代表理事に選任。 2020年6月、故郷の新潟へUターン移住。2020年10月、長岡高専客員教授に就任。ユメは世界一ヒトを惹きつける会社を創ること。

代表取締役社長

山﨑 将司

＜プロフィール＞

1988年生。新潟県出身。新潟県立新潟高校、千葉大学工学部デザイン学科卒業。卒業後は、富士通にてBtoBプロジェクトのUIデザイナーを担当し、 国際的なプロダクトデザイン賞であるiF DESIGN AWARDを受賞。2015年3月にフラーに参画し、執行役員CDO（最高デザイン責任者 Chief Design Officer） 、執行役員COO（最高執行責任者 Chief Operating Officer）を経て、2020年9月代表取締役社長に就任。ユメは世界のデザインに対する価値基準の底上げをすること。

「スノーピークさんにインスパイアされた」

（インタビューは2020年12月、新潟本社で行われた）

ーーそもそも二本社体制という発想自体はどのようにして生まれたのでしょうか？

[渋谷]

一番の直接的なきっかけは、実はスノーピークさんなんです。

スノーピークさんはヘッドクォーター（本社）を機能別に３カ所設けています。三条には開発拠点、見附にはロジスティクス機能、東京には消費地に向けた機能と本当にうまく分解されています。

私はスノーピークさんの全てのヘッドクォーターに行ったことがあるんですが、本当に面白いなと思いまして。そこにすごくインスパイアされました。

[山﨑]

スノーピークさんはフラーの重要なクライアントであるということ以上に、「かっこいい会社だね」っていう話を渋谷とよくしていました。

お仕事をご一緒させていただくようになってからは、本社が複数あってうまくいってる会社の魅力をより意識するようになりましたね。

2020年6月18日ニュースリリース

スマホビジネスのフラー、スノーピークのブランド観を表現する豊富なイメージ写真をアプリから閲覧可能に　「Snow Peak」公式アプリでキャンプ感覚を楽しめるスタイル機能を追加

[渋谷]

ただ、フラーはIT企業ですので、リアル店舗やものづくりを展開するスノーピークさんのようにロジスティクスや開発、消費者との接点など機能別に本社を分けることに大きなニーズはありません。

一方で、当時の新潟拠点立ち上げ後、新潟で急速にアプリ開発やウェブサイト構築を中心とするクライアントワークが成長していた時、ずっと山﨑が言っていたのが「新潟を柏の葉の下にしない、対等とする」という思想でした。

柏の葉は東京と程よい距離感の郊外型の、本当に暮らしやすいスマートシティみたいな立ち位置です。

一方で新潟は割と四季も激しくて雪は降るし、自然と共生する地方都市だと思うんです。

［山﨑］

実はフラーの社員のほとんどは、柏の葉本社や新潟本社の近くに住んでいます。大半の社員の自宅が各本社から徒歩15分圏内です。

職住近接で仕事も生活も街に根ざしていること自体がフラーという会社の大きな特徴だと思っています。

（柏の葉本社から望む景色。天気が良いと富士山が見える）

［渋谷］

そんなフラーの社員が両方の場所で働く際に平等になることを念頭に、スノーピークさんのように複数の本社を持つという発想が生まれたのです。

本当に「両方を平等にする」ということに尽きるなと思います。

そして、本社を複数構えることを検討していたところに、コロナウイルスの感染拡大が最後の背中のひと押しとなったというのが舞台裏です。

人材が集まったことが決め手に

ーー新潟支社から新潟を本社に移行する決断そのものはどのタイミングで行ったのですか？

[渋谷]

一昨年の冬、新潟で大変にお世話になっている企業の代表から新潟を本社にしてほしいっていう熱烈な思いをおっしゃっていただいたのが、自分の中で決断したタイミングですね。

東京のIT企業の経営者が何か集まって「東京を盛り上げよう」とかは絶対ならないですが、新潟では今、「新潟を盛り上げる」という事象の一環として、新潟駅直結のITイノベーション拠点施設「 NINNO（ニーノ）」みたいな場所ができたり、新潟ベンチャー協会（NVA）のような行政・企業・起業家が連携した組織が生まれたりしています。

そういう意味で、新潟の経営者は新潟を盛り上げたいっていう思いや、自分たちが盛り上げてるんだという気持ちが強いなと感じています。

東京とのすごい差ですし、そういう大きな流れに後押しされましたね。

2020年9月10日ニュースリリース

フラー代表取締役 渋谷が新潟ベンチャー協会代表理事に就任

新潟県内での起業家輩出・ベンチャー支援への更なる貢献を目指す

ーー新潟と柏の葉の二本社体制の実現に向け動き出す決め手は何だったのですか？

[渋谷]

シンプルに、新潟で大きなクライアントが着実に増えてきたということはもちろんですが、新潟で採用して人材がちゃんと集まったという実績がものすごく大きいですね。

[山﨑]

それは間違いないですね。

[渋谷]

ありがたいことに、県内の名だたる企業や団体からアプリやDXのお仕事をたくさんいただいて、フラーが開発を手がけたアプリやウェブサイトの存在を通じてフラーというIT企業が新潟にあることを知ってもらい、結果として求人に応募するといった形で、人材がちゃんと新潟に集まって来るようになりました。

2016年に新潟拠点を開設した当時は、こんなにも順調に優秀な人材が集まるとは正直、全然思っていませんでしたが、2018年頃からリファラル（紹介）ではなくて、フラーが手がけたアプリを通じてフラーを知って入社する、Uターンや地元新潟に長く住むメンバーが出始めてから、大きく流れが変わりました。

[山﨑]

渋谷の言う通りで、Uターンや地元での採用が順調にいったことが大きなターニングポイントだったなと思います。東京の有名企業からUターンで新潟に来てくれる人材がたくさんいることは、自分たちの自信にもなりました。

[渋谷]

フラーのような会社を地方に作れば、東京など都市部で働いていたが結婚や出産などライフイベントをきっかけにUターンや移住したい人があつまるという仮説が証明されただけで、ものすごいことだと感じています。

[山﨑]

確かに、そうかもしれない。

[渋谷]

「二本社体制はコロナが契機」という文脈でメディアに取り上げられることがどうしても多いのですが、フラーがいま新潟で起こしている人々の地方回帰・移住の現象は、全国的に見てもおもしろいことなのだということを新潟県民に伝えたいです（笑）。

二本社体制は「ピンチに対するポジティブな行動」

ーー実際に二本社体制への移行に向けた動きが始まったのはいつからでしたか？

[渋谷]

2020年2月頃でしたね。ちょうどコロナウイルスの影響が顕在化する直前でした。コロナの発生は大きく影響しましたが、本当はコロナとか関係なく考えていたんです。

結果として「コロナウイルスの影響を受けた二本社体制への移行」といった視点で全国のあらゆるテレビやラジオ、メディア様にご取材いただき、すごくありがたく、また、逆境に強いなと思っています（笑）。

ーーコロナウイルスで先行きが不透明な状況にもかかわらず、二本社体制という大きな動きを断行したのはなぜですか？

[渋谷]

シンプルにコロナみたいなピンチに対してめちゃめちゃポジティブな動きをしたということに尽きると思います。

例えば、コロナの直後、フラーは東京の秋葉原オフィスをクローズしました。家賃が高い東京ではなく、地方にこそ光が当たるチャンスではないかと考え、即座に行動したのです。

二本社体制も同様です。ピンチが地方への追い風になると強く感じ、一世一代の勝負をしました。

現在、IT企業は東京一極集中であるのが現状です。一方で東京以外の地方には良い企業が本当にたくさんあります。

分散が全くなされていなかったIT企業が僕らみたいに地方に根ざすようになれば、既存の地元企業とIT企業のコラボレーションが生まれ、遅れていると言われがちな地方のDXが進むのではないかと感じています。

フラーの二本社体制は、コロナを最後のひと押しとした、大きな時代の変化への対応です。

地方にデジタルパートナーを求めているいい企業があるから、そこに行こうという考え方に至るIT企業は、まだ少数派ではないでしょうか。本当にそう思えてるかどうかってのはすごい大事なのかなと。

ーー実際に動き出してみて、困難や壁はありましたか？

[渋谷]

今回の二本社体制への移行を通じて、社会にどういうメッセージを発信するのかはすごく悩みましたね。

特に、通常の企業のような単純な機能の切り出しによる支社設立などとは違い、それこそ職住近接で働くフラーのスタイルを全ての場所で等しく実現できるようにするためのものであることを、どう見せていくかはすごく考えました。

[山﨑]

たしかに、社員、株主、取引先などさまざまなステークホルダーにどうやって伝えていくかきちんと考えた上で、こうやって外に発信していくことは重視しましたね。

[渋谷]

新潟本社がある場所自体も、柏の葉と対等で素晴らしい空間にしたいと思い、今回、移転先のビルの持ち主である木山産業さんに新潟本社の構想をお伝えして、木山社長に柏の葉本社にも来ていただき、NINNOというこの新潟本社が入居するスペースを一緒に作ってきました。

（NINNO内にあるフラー新潟本社の様子）

僕は人間がどこに住むか、どう働くかといった決断って、最後は感情で決めるものだと信じています。

だからこそ、新潟駅から下りてすぐの場所に「え、こんなものあるの！？」といった風に一瞬、一発目で感動させる場所としてNINNOができ、そこにフラーが入居していることは、今後フラーの採用や他の企業の誘致にじりじり効いてくると思います。

認知、採用、多様な視点で変化を実感

ーー二本社体制になって1ヶ月ほど経過しましたが、何か変わったことはありますか？

[渋谷]

新潟本社とともに二本社体制となったこと自体への認知がだいぶ進んだと感じています。さまざまな方から連絡がきたり、都内の上場IT企業の経営者などから新潟本社の見学依頼も来ていますね。

[山﨑]

そうですね、柏の葉本社では採用候補者の面接時に柏の葉と新潟のどちらに住みたいか希望を聞くのですが、今まで以上に自信を持って質問できるようになりましたね。大きな自分の心境の変化です。

どちらで勤務しても仕事の内容や職種は変わらないことを伝えることで「えっ、千葉と新潟という選択肢があるんだ」と候補者に驚きとともにフラーのことを覚えてもらえるんです。対等というフラー独自の価値観を候補者に提示できている瞬間だなと思います。

[渋谷]

あとは単純にリスクヘッジの観点で二本社体制はすごく良いと思っています。

コロナウイルスのような非常事態が来て片方の本社が閉鎖されたときも、もう片方があるという状況を作ることができたのは、すごく良かったと思います。

対等とするには「トップのコミット」が必要

ーー他の企業が同様に二本社体制の取り組みを行う際に気を付けるべきことは何ですか？

[山﨑]

自分たちは普通にやってきてることですが、二つの拠点を平等に扱いたいという強い気持ちがないと、なかなか実現できないのかなと思います。

ーー2つの拠点を平等とするため、具体的にどんなことを実践しましたか？

[山﨑]

会社の中心メンバーが当時の新潟拠点開設後、月の半分は新潟に駐在するようにしました。主に当時の共創事業を管掌していた自分が行きました。

[渋谷]

僕も拠点開設後、しばらく新潟に住んでいましたね。

[山﨑]

渋谷や山﨑が新潟にずっといて、ただの拠点じゃないんだよということを、今考えると相当苦労しながらも行動で示していました。

[渋谷]

会社の機能を分割したカスタマーセンターなどを地方に作り、責任者を配置することは簡単です。

しかし、雰囲気やカルチャーを含めて全く同じような場所を作るのは難しいと思います。対等とするには「トップのコミット」が必要です。

（2018年当時の新潟オフィスの様子。渋谷も山崎も足繁く通った）

[山﨑]

今でこそもう必要なくなりましたが、もうひとつ具体的な行動として特に意識したのが社員間の”雑談の輸入”でした。どんなにオンラインミーティングがやりやすくなっても、突発的な雑談はテレワークでは生まれないなと思っていました。

そこで、自分がわざと新潟に来てオフィスでの作業以外の予定を入れない、ということをずっと続けてました。座って仕事しているだけです（笑）。それこそが雑談の輸入のポイントだと思います。

[渋谷]

すげえことやってるな（笑）。

[山﨑]

柏の葉での普段の働きかたの雰囲気をそのまま新潟に持ってくることができるんです。いわば”カルチャーの輸入”ですね。

社員が自由に選べる場所で対等な働き方を

ーー次に本社を作るとしたらどんな場所がいいですか？

[渋谷]

なるべく、その土地単体で魅力あるところがいいなと思ってます。

それと、行政との連携はもちろんですが、僕たちは新潟県内の多くの学校からのアルバイトやインターンを受け入れています。学校との連携も拠点開設の大きな要素になると思います。

[山﨑]

そうですね。フラーで働く人たちに柏の葉、新潟、そして３箇所目の場所から自由に選べることに価値を感じてもらえるような土地がいいなと思ってます。

二本社体制の実現により、フラーだったら若くて優秀なメンバーに地方で活躍してもらえるという知見を得たので、他の地域でもうまくいくと感じています。

一気に拠点を作るのは大変なので一つ一つ丁寧に、柏の葉と新潟の次を考えて作っていきたいと思います。

ーー二本社体制を契機に、フラーを今後どのような形にしていきたいですか？

[山﨑]

両本社で採用をしっかりしていきながら、柏の葉と新潟の社員の割合を1対1と規模の面で平等にしたいですね。

既存の社員についても自由に勤務地を選べるようにしたいです。最近、柏の葉本社の社員で新潟本社に転勤を希望する者に対する”移住支援制度”を整備しました。両本社の差をなくした上で、社員が好きな場所で働けるようにしていきたいです。

あとは、両本社でうまくいった取り組みをしっかりシェアしてお互いの本社間で伸ばしあっていきたいですね。柏の葉の良い事例を新潟で展開したり、新潟での成功を柏の葉に輸入するといった形で、うまく相乗効果を出せたらと思います。

[渋谷]

僕はフラーが二本社体制にしたことでどれくらい圧倒的な経済効果を生み出せたかどうかにこだわりたいと思いますね。

（新潟本社には”コタツ”がある。詳しくはこちらの記事から）

具体的には、地方に本社を構えることでどれくらいの社員が移住し、消費や税収などに対しどれくらいの波及効果が生まれるのか、フラーの柏の葉と新潟の両本社を題材にしっかりデータを集めて示していきたいです。

行政などが移住や企業誘致の支援政策を展開する際に、税収がいくら増えるから実行できるといったロジックの構築や、企業が地方に進出すること自体の価値の証明ができるからです。

これが成り立てば、次にコラボしたい地方やニーズは自ずと生まれてくると思うので、一番大事にしていきたいですね。２、３年あれば圧倒的な経済効果を生み出せると思います。

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聞き手：日影耕造（フラー株式会社）

プロフィール：建設業、農業の各専門新聞記者として合計10年活動後、フラー でコンテンツマーケティング、SNS運営、広告運用、事業広報などを手がける。趣味はギターと焚き火。自転車と登山、釣りも好き。