拡大するハイクラス人材市場で求められる、プロ経営者やCxOの思考・行動原理とは？　普遍的な「絶対法則」を書籍にまとめるまでの道のり

プロ経営者

2023年7月28日 10時00分キャリアインキュベーション株式会社

創業以来、コンサルティングファーム業界への転職支援を行い、現在はプロ経営者やCxOなどのハイクラス人材の転職も支援している「キャリアインキュベーション株式会社」は、2015年以来2冊目の書籍として、『プロ経営者・CxOになる人の絶対法則』（クロスメディア・パブリッシング、小杉俊哉氏との共著）を7月28日に上梓します。

経営人材の転職市場が活性化する昨今、ハイクラス転職支援でトップクラスを目指している弊社は本書で何を伝えようとしているのか、その思いを弊社代表の荒井に聞きました。

◆プロ経営者インタビューについて（2013.9）　

https://www.careerinq.com/interview/manager/executiveinterview/004553.shtml

◆プロ経営者インタビュー一覧

https://www.careerinq.com/interview/manager/

前著に手応え。類書の少ないオンリーワン書籍として

――今回の書籍を出版しようと考えた経緯を教えてください。

もともと2013年から私たちが支援していたプロ経営者の方々にインタビューさせていただいた記事を弊社のホームページ上に掲載していました。実態がよく知られてないプロ経営者について、どんな方が存在し、どのような活躍をされているのかを、プロ経営者の候補者になるような人たちにも知ってもらいたいという思いから始めたものでした。

「プロ経営者の市場創造」という、創業以来からやりたかったことに私たちの能力が追い付いてきて、結果も出てきたタイミングで、その成果を示したいと思ったことも前著を出版した要因の１つでもありました。それまでキャリアインキュベーションは知る人ぞ知る会社だったのですが、外に向けて積極的にアピールしてもよい段階になったと考えたのです。

プロ経営者へのインタビューが一定程度溜まってきたので、弊社の顧問としてお世話になっている慶應義塾大学特任教授であり、アップルコンピューターの人事総務本部長を歴任した小杉俊哉先生にさまざまな角度から分析してもらい、2015年に『職業としてのプロ経営者』を出版しました。当時から、この系統の類書はほとんどなかったこともあり、オンリーワンの書籍を出すことができたと自負しています。

――前著の手応えもあって、今回の書籍に至ったということなのですね。

そうですね。もともと今回の企画は、新型コロナ前の2019年時点から構想としてありました。この時点で前著から4年が経ち、さらなるプロ経営者の需要の高まりを考えても、そろそろ新しい本を作ってもいい頃ではないかと考えていたのです。そんなときにコロナ禍に突入したため、小杉先生とも相談し、感染状況が落ち着いた2022年から始動して制作を進めてきたというわけです。

今回の書籍では、私たちが長く優秀な方々とネットワークを作っていく中で、信用を積み重ねてきたおかげで、プロ経営者やCxOの方々に書籍制作のためのインタビューに応えていただくことができました。

私たちの会社に声をかけてくださるプロ経営者候補の中には、前回の本を読んだという方もたくさんいます。また、前著に登場したプロ経営者の方々にとっても、これまでの自身の経歴をまとめた履歴書のようなものとして世の中に認知されるので、ますます活躍するための材料になったのではないかと思っています。

さらに、今回は日米大手のプライベートエクイティファンドの代表2名の方にも、インタビューを行い、経営人材として活躍する人の特徴についてもまとめています。プロ経営者やCxOを採用する立場からの声をお聞きできたことで、前著にはない大変貴重なコンテンツを盛り込むことができました。

今回の書籍もより深掘りした内容になったので、あらゆる方に読んでいただきたいというよりも、経営人材を目指す方など、本書を必要としている方には確実に刺さる1冊にできたのではないかと思います。

「経営人材のキャリア支援」の必要性に駆られて

――先ほど「やりたいことが能力としてできるようになってきた」というお話でしたが、弊社の歩みはどんなものだったのでしょうか？

私はもともとリクルート出身で、大阪と東京で合わせて10年間勤務しました。その後、創業してすぐのキャリアデザインセンターへ94年に入社し、そこでは6年半勤務しました。キャリアデザインセンターでは、リクルートをはじめ既存の人材サービスとの差別化を図り、ハイクラスの転職市場を狙っていました。そこでの仕事を通じて、私のお客様も外資系のコンサルティング会社などに変わっていきました。

私も営業の責任者としてお客様とお付き合いをしていく中で、ルイス・ガースナーという偉大なプロ経営者を知ることになります。彼はマッキンゼーでパートナーにまで昇進、その後ファンドの投資先の経営を行い、すでに老舗企業になっていたIBMの再生で成功を収めていました。

翻って日本に目を向けると、当時から彼のようなプロ経営者は90年代にはほとんど存在しませんでした。しかし、私は日本でも必ずプロ経営者のような外部から招かれる経営人材が求められる日がやってくるという確信はありました。

そこで企業と個人をインキュベーションするという思いで起業したのが、現在のキャリアインキュベーションの足がかりとなりました。

しかし当然ですが、いきなり最初からプロ経営者の候補となるような優秀な人材と知り合えるわけではありません。そこで、まずは優秀な人材との接点を持つことが大事だと考え、ガースナー氏がたどったように、外資系のコンサルティング会社をお客様とし、こうした会社に入り経験を積むお手伝いから始めたのです。

――いきなりプロ経営者を発掘していこうというのではなく、コンサルティングファームに入るための支援を行ったというのは先見の明ですね。

やはりガースナー氏の成功事例が大きかったです。ただ、当時はコンサルティング企業が日本にもようやく根付き始めた頃で、規模は現在の10分の１程度。また、コンサルタントを志向する人はそれほど多くはありませんでした。

そうした方々がコンサルティング会社を卒業するときに、プロ経営者を招聘したいファンドとマッチングさせるというところから、現在では経営人材専門のヘッドハンターとして支援させていただけるようになりました。

弊社を創業した2000年代初頭は、バブルの後遺症に苦しみ競争力が落ちていた時代ですから、こうしたプロ経営者の転職市場が拡大するかどうかよりも、今の日本にこそ必要だからやらなければ、という思いのほうが強くありました。日本にはプロ経営者になるような優秀な人を長期にわたって支援する会社はあまりなかったので、起業するときは周囲もおおむね賛成してくれました。

相手の立場に立ち、客観的なアドバイスを行なっていく

――創業時の苦労はいかがでしたか？

それが、2000年に創業してから順風満帆で業務は順調に拡大していきました。2001年に起こったITバブルの崩壊のときも、多少の市況悪化はあったものの、大した影響はありませんでした。

その中でも、特に大きな影響を受けたのは、2008年から09年にかけてのリーマンショックの時でした。

どこの会社も採用を縮小に踏み切るどころか、どんどん解雇を進めていき、とにかく社員を減らしてこの難局を乗り切ろうとする会社が増えました。しかし、そういう状況を逆手にとって、苦しい時こそいい人材を得るチャンスだと考える企業も存在しました。

私たちは幸いにして機動力があるので、そうした企業のお手伝いをさせていただくことでなんとか乗り切ることができました。そして、2011年の東日本大震災や2020年のコロナ禍を経ても、ずっと私たちが扱うハイクラスの人材市場は堅調を続けています。

これまで私たちが支援させていただいた方々には、コンサルティング会社のシニアパートナーになっていく方も多くいますし、企業買収ファンドのマネージングディレクターになるような方も複数います。もちろん、ファンドの投資先でプロ経営者やCxOになっている方々もいます。まさに今回の書籍に登場していただいた、4人のプロ経営者と5人のCxOのような方々もお手伝いをさせていただきました。

――実際に御社を通じて転職された方々からはどんな反応がありましたか？

よく言われるのは、「客観的な意見を言ってもらえるので助かっている」という感想です。私たちがお付き合いをしているプロ経営者やCxOの候補になる優秀な方でも、自身のキャリアについて悩みを抱えている点は共通して見られます。そういうときに誰かに相談したいとなっても、その人の立場に立って客観的なアドバイスをしてくれる人はそう多くはありません。

私たちの仕事は、転職希望者の転職が成立してはじめて報酬が発生するので、転職する人にとってその職が良いかどうかよりも、とにかく転職してもらおうと斡旋するような考えになってしまいがちです。しかし、私たちはそうではなく、「本当にその人のためになる転職かどうか」を客観的に見つめてアドバイスすることを心がけています。もしそれが私たちの望む形でなかったとしても、本人にとって良い選択なら、私たちがそれを引き止める理由にはならないのです。

30代で転職市場に出てきた方が60代まで働き、仮に5年おきに転職を繰り返すとすると、私たちが支援できるチャンスは6回あるわけです。そこで相手と長く付き合う必要はないと考えるなら、目先の利益を優先し、本人のためにならない転職に誘導することも簡単にできてしまいます。しかし、それでは信頼は得られず、関係はそれっきりになってしまうでしょう。

転職をする人、転職先の企業、私たちの三者それぞれに利益が生まれなければいけず、私たちはこれを「Win-Win-Win」という共通認識を持つようにしています。昔でいう「三方よし」ですね。

実際に、私たちの支援によりすでに4回も転職のお手伝いをさせていただいた方もいます。このような１つずつの信用と評判の積み重ねこそが、私たちが創業以来大切にしてきたことなのです。

「自律的なキャリア形成」への一歩を踏み出そう

――改めて今回の書籍の内容を教えてください。

プロ経営者・CxOの需要が拡大する中で、求められる質の部分でも変化が見られます。プロ経営者・CxOとして求められる専門的な知見や技術といったハードスキルはもとより、時代の変化に合わせて、コンプライアンスであったり、環境への配慮であったりといったソフトスキルも兼ね揃えていなければならなくなりました。

昨今は環境問題に対し、会社の方針を明確に答えられなければ投資家から資金調達できなくなってきていますし、ダイバーシティへの理解がなければ社員から信頼を得ることはできません。企業価値の向上が経営者の責務ですが、以前に比べてその際に適用されるルールが増えたという認識で、そのルールを守った上で結果を出すことが経営人材には求められているのです。

また、経営者のカリスマ性で社員を先導していくようなリーダーシップから、サーバントリーダーシップなどと言われるように、部下を尊重、信頼して協力しながらともに自身と企業の成長を果たしていくようなリーダーが求められるなど、リーダーシップのあり方自体も変化が見られます。

今回の書籍を作るにあたり、多種多様な経営人材の方々にインタビューさせていただいたおかげで、このように今の時代に必要な行動原理や思考原理が新たに生まれていることがわかった一方で、創業から前著を出すまでの15年、そこから今までの8年を通じても、プロ経営者やCxOに求められる資質の根幹の部分は大きく変わってはいない、ということにも気づくことができました。

時を経ても変わらない資質というのは、これから先も普遍的に大切なものとしてあり続けるはずです。これらをまとめて「プロ経営者・CxOの絶対法則」として言語化し、提示することで、より再現性の高いキャリアのつくり方として学べる1冊として表現できたのではないかと自負しています。

――では最後に、今回の本を通して読者に一番訴えたいことは何でしょうか？

これからもプロ経営者・CxOを取り巻く環境は変わり続け、マーケットも拡大していきます。転職市場そのものも、今後はさらに流動性が高まっていくでしょう。その中でも、プロ経営者を外部から招聘する事例はさらに増えていくだろうと見ています。

それにもかかわらず、プロ経営者・CxOを志向する人は依然としてその数が増えていないのが現状です。志願者からすれば、このマーケットは大変な売り手市場になっているため、報酬の面でも大きなチャンスが到来しているといっていいでしょう。

日本には優れたスキルや感性を持っているけれど、未だにチャレンジへ踏み切れていない方がたくさん眠っています。特に大企業で能力を生かし切れていない人材は多いと思いますので、早いうちにこの本を手に取っていただき、「こんなキャリアもあるのか」と大いに刺激を受けていただき、自律的なキャリアづくりを行うために一歩を踏み出してほしいです。