ビズクルー株式会社は、歴史と文化、豊かな自然に囲まれた千葉県佐倉市という場所にあります。昨年、崖の上のヤギがニュースでも連日話題になったような平和な土地、人口17万人ほどの「ちょうどいい田舎」に、2019年4月に誕生した従業員数5名のちいさなデザイン会社です。

2020年10月、「月極デザイン 助太刀丸」という低額＆定額のデザインサービスをはじめました。もちろん価格破壊だとは思っておらずビジネスモデルの工夫をした結果なのですが、そんなサービスが誕生するまでのお話をさせていただきます。

→ https://sukedachi-maru.jp/

コロナ禍のなか、今思えばだいぶリスキーなチャレンジだったと思っています。

もともとやっていたのはウェブ関連

会社設立当初は、私ひとりでウェブサイト制作を始めとするデジタルな領域を取り扱っていました。それまでは会社員として人材関連やマーケティング、一時は看護専門学校に通って卒業したあとに訪問看護師をやったりしていたのですが、その過程で小規模事業者や中小企業のデジタル化の遅れを強く感じていたことがきっかけです。

ウェブ関連はすべてGoogle先生からの独学。会社員時代から片手間にいろいろ勉強していたので、独学とはいえ意外と歴は長かったと思います。

当社も小規模事業者なので同じなのですが、こういった企業に共通するのは「情報」「マンパワー」「資金」の不足。せめて情報とマンパワーの部分だけはサポートしたいと思い、コンサルティングを含め中小企業をサポートすることを使命としてビジネスを展開してきました。

「ウェブの活用が企業を救う」

当時はそう信じきっていました。

ウェブに固執するのはどうもしっくりこないと感じ…

ウェブサイト制作やウェブ集客、デジタル化による業務効率化などは今の時代に絶対に必要なことですし、否定する要素も一切ありません。しかしそれまでの過程で、会社の利益だけではなく取引先の売上のことも真剣に考えたとき、ネットだけに頼っていても顧客の利益に繋がりにくいことに徐々に気づいていきます。

ウェブだけ強化すればよい業態や企業もありますが、こと地方においては、BtoC業態のエリアマーケティングは「紙」の力がまだ優勢です。

ウェブサイト制作もSEO対策もネット広告も、次々と新しいサービスが出てきたりテクノロジーの変化が起こったりして、戦国時代の様相を呈してきたところです。ツールを使ってシステムを作れるけど、うちにはプログラミングができる人間もいません。

それならば、歴史ある紙媒体に立ち返って何かしら風穴を開け、真に中小企業の役に立つビジネスを展開していったほうがよいのでは。「時代に大きく逆行」していますが、そんなことを考えていたのがちょうど2020年に入った頃の話です。

紙媒体の必要性を考え、リサーチし、そんなときにコロナがやってきた

既存顧客へのアンケートを踏まえ、当時漠然と考えていたのは以下のようなことです。

• お店を開いているから地域住民はみんな知っていると思ったら、それは大きな間違い。広報活動は必要。
• 仮にホームページを作ったりネット広告を打ったとしても、商圏のユーザーが探す行動に移さない限りネットでは届かない。
• 紙は手元に残りやすく来店機会に繋がりやすいが、ウェブだと情報の多くがスルーされやすい。紙からホームページやポータルサイト、グルメサイト等に流れるのが自然な流れ。
• じつは、エリア集客は紙だけで十分なケースも多数ある。プラスアルファでSNSくらい。大手の接客業態や、あれだけハイテクなUber Eatsでさえ、紙のポスティングは必ず行っている。
• ただし、訴求可能なチラシやポスターのデザインをプロに外注すれば、安くても1点4～5万円かかる。1回きりなら可能かもしれないが、売上を上げるためにいろいろトライしようとすると手が出せない現実がある。

2020年3月、「1日500円で可能なプロのデザインサービス」を本格的に考えようとなった矢先、新型コロナウイルスによる自社ビジネスへの影響が出始めました。

商談中だったウェブサイトの大きな案件が2件、4月に入ろうかという時点で無期延期に。紹介や検索で普段ならほどほどにあった問い合わせもプッツリと途切れてしまいました。

それでも上手くいっている制作会社もあったとは思いますが、うちはいよいよヤバいと胸騒ぎの毎日だったことを覚えています。

良くないことが続きましたが、無事に借り入れもでき、おかげで今後の会社の動きを考える時間がたっぷりできました。守りより攻め。当社も確実に変革が必要で、上記で考えていた紙媒体デザインビジネスの検討を急ピッチで進めることになります。

もしかすると、こんな機会でもなければ漠然としていた考えをビジネスとして形に変えることはなかったかもしれません。

当時、飲食店を中心とした「街の企業」がコロナ禍で苦しんでいました。地元のテイクアウト情報サイトを立ち上げながらでしたが、それも地域の実情を知る良い機会となり、苦しいときにこそ使ってもらいやすい、リーズナブルで勝手のよいサービスが必要だと考えました。

むしろ、コロナ禍が長引いてしまったときこそ攻めの姿勢で販促を進めてほしいと考え、遅くとも秋には新サービスを立ち上げたいと考えました。

外食産業に限ったサービスではなくどんな業態でも活用できるのですが、コロナの影響で困っている飲食店をサポートしたいと考えたことが、サービス誕生の大きな後押しとなったのです。

新規事業を具現化するための苦労と行動

4月～5月は、だいぶ減ってしまった通常業務に加え、新規事業の企画に没頭していました。これが後の「助太刀丸」に。7月を目指し、千葉県の「経営革新計画」承認に向けて自身で事業計画も準備することになります。（後に7月承認）

1. ビジネスとして成り立ち、街の企業の支援につながるかどうかのリサーチ。

「お店」を経営する10事業者にヒアリングするも、コロナで先が読めない中で次への展開が定まらない企業がほとんどでした。販促も「怖い」というのがホンネ。

そんな状況でも、料金の問題さえ解決できれば必要とされるサービスになるという確信は得られました。

2. クオリティを落とさずに、街の企業でも手が出せる「1日500円でデザイン頼み放題」まで下げるための仕組みづくり。

当然ですが、単純な値下げでクオリティを保つことは不可能です。安かろう悪かろうではリリースする意味がありません。料金を抑えられそうな要素を抽出し、16のポイントを踏まえ仕組み化することで実現可能な目処が立ちました。この企画部分だけで丸1ヶ月以上を要したと思います。

同時に、業界にありがちなブラックな就労環境を完全ホワイトにした仕組みにすることも、経営者として考えるべき重要なポイントでした。

従事するデザイナーのワークライフバランスを考えることは絶対ですし、経費面を考えても、低料金の定額サービスですから無駄な残業は経営を圧迫するだけです。採用のことを考えても、ホワイトな就労環境は魅力のひとつになります。

3. 事業を始めるための責任者・デザイナーの採用に、24名の現役DTPデザイナーと面接

募集のかけ方を工夫し、たくさんのデザイナーの皆さまから応募をいただきました。

技術や将来性、人間性などはもちろんですが、ただデザインするだけの仕事ではサービスの理念を醸成させていくことはできません。デザイナーの一人ひとりにも、街の企業を盛り上げサポートするという気持ちが絶対に必要でした。

人材は新しいサービスの血液となる部分です。

人手の確保とともに、そういった気持ちをもった社員を集めることに意外と苦労したのは記憶に新しいです。

4. コロナ禍でリリースしてもいいのだろうか、その葛藤

デザインをもっと身近に感じていただくことで、中小事業者の販促、ひいてはミクロな経済を動かしたいという使命感がありました。しかし、このタイミングでの採用や、まったく新しいサービスのリリースは恐怖でしかありません。

サービスの主要顧客はBtoCの事業者です。そういった事業者の皆さまが苦戦している状況で、私たちの気持ちに応えていただけるのかどうかという疑問は常にありました。

私たちはまだまだ体力のない会社です。リリースしても会社が潰れてしまっては顧客に迷惑をかけ、社員を路頭に迷わせるだけのマイナスしか残りません。

それでも、この話をした既知の企業様からはたくさんの応援をいただきました。「うちはサービス使うよ」と、早くも応えていただける企業様もちらほらと。

サブスクとはいってもシステムに任せるだけの仕組みではありません。人件費や手間も大きく掛かる事業なので半分はギャンブルだったかもしれませんが、必要としている事業者の助けになるならと、意を決して前進してみることにしました。

思いに共感してくれたDTPデザイナーが集まり、「月極デザイン 助太刀丸」をリリース

今になって分かることかもしれませんが、本当に素敵な人材が社員として集まってきてくれたと思っています。

結果的に女性デザイナーのみでチームが構成されることになったのですが、良い意味でスマートな性格の持ち主が集まりトラブルもなく、それでいて顧客とのコミュニケーションも抜群です。ストイックで繊細なデザイン力はお客様からのウケもよく、一方で個性もよく反映されています。

もちろん、皆が同じベクトルで仕事をしてくれています。

当初考えていたサービスの仕組みも皆で話し合いながら修正を繰り返し、2020年10月に、晴れてサービスが世に放たれることになりました。

正直に言えば、当初の反響はそう多くなかったです。

全国対応のサービスですが少ない広告予算で展開していく必要があったので、広範囲に認知してもらうことが難しかったのが一点。デザイン定額サービスはだいぶ増えてきたものの、まだ市民権を得られていなかったことが一点。

それでも、お手紙を送った知り合いや既存取引先の12.5％もの企業様にサービスを導入していただいたり、情報に敏感な企業様からプレスリリースや広告を通してお申し込みをいただいたりしました。

現在は広告をほぼ打っていません（効果がイマイチなので）が、導入いただいた企業様や、そこに関わるコンサルタントさんが新規企業様を紹介してくれたりなど、「つながり」によって広がっていることがほとんどです。

紹介がつながるのは誇れることで、コストパフォーマンスの良さだけが魅力なのではなく、技術面でもコミュニケーションでも、デザイナー陣が頑張ってくれている結果だと思っています。

当社も地方の「街の企業」です

これまでにない斬新なことをやってみたいし、こんな世の中だから会社が生き残るための動きもしていきたい。これらも新しいサービスに挑戦した理由のひとつです。

ただ、もっとも強く抱いていたことは、どんな小さな企業でも積極的に販促活動ができる材料を提供していきたいということでした。

冒頭にも書きましたが、価格破壊を積極的に起こしているわけではありません。個人店という単位であってもプロのデザインをもっと身近に活用してもらうにはどうしたらいいのか、それを詰めていったときに、助太刀丸というリーズナブルな定額サービスが生まれたのです。

私たちビズクルー株式会社は、従業員5名の地方のちいさなデザイン会社です。いわゆる「街の企業」です。こんな時代でも、明るい未来に向けて街の企業同士でWin-Winの関係を築けたら最高です。

結果的には「街の企業」だけにとどまらず、個人飲食店から中小企業、スタートアップ企業、上場企業に至るまで、幅広い規模と業態の企業様にご活用いただいています。

各社さまざまな活用の仕方がありますが、せっかくコロナ禍の真っ只中にリリースしたわけですから、少しでも経済を回すための力になれればいいなと強く願っています。