「介助犬協会」設立まで～介助犬と暮らす女性の支援のために～

　今年、設立から16年目を迎える社会福祉法人日本介助犬協会。非営利団体を支えるNPO法もなかった1992年、ある重度障害を持つ女性がアメリカから介助犬を迎えて、介助犬の普及活動を始めたことが設立のきっかけだった。当時盲導犬しか知られていなかった日本で、ボランティアが集まり、手足に障害のある人を助ける「介助犬」の育成と普及を目指した活動が東京都八王子市で始まった。介護ヘルパーなどのアルバイトで収入を得ながら、全員が無給で介助犬の育成や啓発活動、募金活動を始めた「介助犬協会」。介助犬になる犬は、盲導犬と同じく、ラブラドール・レトリーバーなどの大型犬。大型犬が複数頭いるというだけで、事務所として借りることができる物件を探すにも苦労の連続。安定しない収入で綱渡り状態の運営を続けてきた1990年台後半。そんな頃、世の中では、介助犬がメディアに取り上げられる機会も少しずつ増え、介助犬育成を掲げる団体も増加し、良いも悪いも玉石混交となっていた。

介助犬研究班と日本介助犬アカデミー

　私、専務理事の高柳は当時、介助犬協会のことは知ってはいたが、団体外の立場で介助犬普及を目指していた。介助犬を知ったのは医学部4年生の夏。アメリカの大学に短期留学していた時に介助犬や動物介在療法について研究をしていた博士に出会ったことがきっかけだった。手足に障害がある若者を、「落としたものを拾う」「電話の子機を持って来る」などの動作で介助する様子、そして介助犬が隣にいることで障害者にとって精神的効果や、より人から話しかけられるようになる「社会的潤滑油効果」があるといった研究分野があることにただただ感動するとともに、「犬がどれほど人にとって重要な存在であるか」について確信できた介助犬との出会いは私の人生を変える転機となり、介助犬育成、動物介在療法の普及啓発は、医師としてのライフワークとなった。

　1997年、アメリカでのカンファレンスに向かう飛行機の中で介助犬ユーザーのスーザン・ダンカン氏の映像が流れ、目を奪われた。そして運命的にもその後出席したカンファレンスで実際のスーザン氏にお会いする事が出来たのだ。多発性硬化症による歩行障害で介助犬と生活していた看護師の彼女は、介助犬育成団体があまりにも障害についての知識、医療知識がないことに課題を感じておられた。私が医師だと話すと「あなたのような医療従事者が介助犬育成のあるべき姿をしっかり発信しなくては！！」と力説されたことで正しい情報普及の重要性を感じ、スーザン氏を日本に招いて講演会を開催することを企画した。当時日本には介助犬を守る法律はなく、スーザン氏と介助犬を受け入れるにあたりホテル・飲食店・新幹線・電車等の利用に向けて一つ一つの課題に向き合い・解決するには膨大な時間とエネルギーがかかった。1年余り闘い続けた準備期間を経て、東京都庁を始めとした全国各地の４会場で1,200名余りの方にスーザン氏の講演会を聞いて頂くことができた。スーザン氏は、障害当事者でもある看護師として、介助犬育成に医療従事者が関わることの重要性を説いた。メディアにもたくさん取り上げて頂き、介助犬の認知度向上、前例がないことを打ち破る実績作りに大きく貢献できた。

　その後、大学院生であった私の元に、「介助犬が欲しい」「介助犬トレーナーになりたい」などの相談が来るようになった。個人で受けることの限界を感じ、情報機関を、と考えて日本介助犬アカデミーを設立し、まずは正しい情報普及を目指した。設立と時期を同じくして、国会では介助犬法制化についての質問があった。当時の厚生労働省担当者は「法制化は難しいがまずは研究を」と回答、日本介助犬アカデミーに国の科学研究費助成事業で介助犬研究班として国内外の実態調査や今後の展望について調査研究をするチャンスが巡ってきた。後にこの研究班が行った5年間の調査研究報告書が、身体障害者補助犬法の核となる事になった。

悲願の介助犬法制化　社会福祉事業としての介助犬育成

介助犬研究班として、介助犬育成に必要な技術や日数、経費、実態等々の調査が必要となった。1998年当時、介助犬育成を謳う団体の数こそ５団体以上あったが、実績があり、まともな育成を行なっていた団体は、現在当会の訓練部長である水上言が所属していた介助犬協会だけであった。研究班は介助犬協会に実態調査等の研究協力を依頼、候補犬の導入からレトリーバー種に頻発する遺伝性疾患、それらの検査時期と方法や費用、訓練にかかる期間等の実態を調査し、法学者による国内外の法律や資格制度等の比較法学的調査も行なった。また、国会質問にあがった介助犬法制化の動きを受けて全日本盲導犬使用者の会そして数少ない聴導犬使用者からもロビー活動があり、介助犬・盲導犬・聴導犬の三種を総称して身体障害者補助犬とする方向での法制化が進められることとなった。

「身体障害者補助犬を推進する議員の会」会長は故橋本龍太郎元総理。懸命なロビー活動を経て、2002年5月22日、補助犬使用者悲願の法律「身体障害者補助犬法（以下補助犬法）」が国会で成立した。補助犬法によって盲導犬・介助犬・聴導犬は、ホテル・飲食店・病院等あらゆる公共の場所で拒んではならない存在となった。残念ながら法制化から18年以上経つ現在も、補助犬法を知らずに同伴拒否があるのが実態であり、法律の啓発活動には現在も力を入れている。

補助犬法成立に伴い、社会福祉法が改正され、介助犬育成事業は任意事業から社会福祉事業となった。これにともないNPO法人介助犬協会は社会福祉法人となる道が開かれた。たくさんの個人と、団体、そして多大なる貢献をして下さる企業とのご縁も頂き、社会福祉法人設立をするために私は同協会の職員になることになった。多くの介助犬を希望される方に安定的に介助犬の育成・提供を行い、継続したサポート体制を築くため、2004年に「社会福祉法人全国介助犬協会」（2006年に「社会福祉法人日本介助犬協会」に名称変更）が設立された。犬を通して一人でも多くの方が笑顔になってもらえるよう、日本介助犬協会の挑戦は続いている。