IoTウェアラブル企業が高機能マスクを開発した理由　～震災・産業復興を目指した福島工場をフル活用～

マスク

2020年8月21日 19時06分ミツフジ株式会社

<マスク不足が叫ばれていた3月、ミツフジ株式会社は初の個人向け商品「hamon AG（ハモンエージー）マスク」の販売を始めた>

ミツフジは、西陣織帯工場として創業された64年目の老舗企業。現在、自社で研究・開発した導電性の高い銀めっき繊維を使った「着衣型ウェアラブル製品」を製造しています。それらの製品から着用者の心拍などの正確な生体データを取得、独自のアルゴリズムで解析し様々なお客様やユーザーをとりまく社会課題の解決を目指しています。

そんなミツフジは、なぜマスクの開発・製造に取り組んだのでしょうか？

廃業寸前からの復活

1956年、西陣織の帯を作る工場としてスタートしたミツフジ。その後、着物産業の斜陽化に伴い、初代（現社長の祖父）は「織り」から「編み」へ事業転換を行います。しかし、日本の繊維産業の衰退はますます加速、同社は苦境に立たされます。

この状況を打破すべく、2代目（現社長の父）が機能性繊維を求めて渡米。1995年には、銀めっき繊維を製造するアメリカの会社と独占販売契約を締結しました。この糸を日本に持ち帰った後、長年の改良と研究を経て独自に開発したのが銀めっき導電性繊維「AGposs（エージーポス）」。高い抗菌性と電磁波シールドなどの機能を持ち、抗菌靴下や静電気防止用エプロンなどの資材として使用されました。

その後も、新たな活用用途を探りましたが、他の抗菌材の登場により徐々に業績が悪化、一時は社員がわずか3人となっていました。

そんな中、当時外資系で働いていた3代目（現社長）に「このままでは資金がショートして、社員全員が路頭に迷ってしまう」という電話が入りました。当時、「家業を継ぐつもりは一切なかった」という現社長。しかし、自分を育ててくれた親への恩返しや、祖父の思いを最後までやり切りたいという気持ちから、悩んだ末に家業を継ぐことを決意します。

3代目になった手始めに、まずすべての取引先を訪問し、赤字になっていた取引先を停止。出金を減らすことに注力しました。すると、残ったわずかな取引先の中に、大手企業の研究所の名前があることに気が付きました。その研究所を訪ねてみると、「ミツフジの糸は導電性が非常に高いので、ウェアラブル製品の研究に使っている」と判明。

そこで得た、「導電性」をヒントに銀めっき繊維「AGposs」を生かし、生体データを取得・活用するウェアラブル市場という新たな道を見出します。

「その日の湿度・温度に合わせ、ナイロン1本1本にまで銀メッキを施した繊維。これは代々引き継いできた繊維加工技術を生かした、ミツフジ独自の職人技です」（hamon AGプロジェクト部長・澤田曉宣）

その後、2016年に着るだけで心拍などの生体データを取得できるソリューション、「hamon」を発表。今では建設、製造、保育、スポーツ、介護などの幅広い業界で活用されています。

<正確な生体情報データを取得し、独自のアルゴリズムで解析。さまざまな課題解決へに応用しています>

顧客の要望を受け、わずか1カ月でマスクを販売へ

繊維事業ではなくデータ活用までを含めたIoT分野で注目を浴びる企業へと成長を遂げたミツフジ。

新型コロナウイルス感染拡大が叫ばれ始めた2月初旬、数多くの顧客からマスク製造を求める声がミツフジへ寄せられはじめました。

「弊社は繊維業を祖業としており、現在は着るだけで体の状態がわかるウェアラブル製品を製造開発する企業。当社にとってもマスク作りは初めての試みでした。しかし、お客さまや多くの方々がお困りになっている状況下で『自分たちの技術を用いて、できる限りの対応をしたい』と考えたのです。ベンチャー的な社風もあって意思決定はすぐ行われました。」（澤田）

<震災・産業復興や地域支援にも力を入れ福島県川俣町に工場を竣工>

とはいえ、ミツフジにとっては初の個人向け商品。最初はとまどいもありました。

「慣れないことばかりで、少しでも早くお客さまに届けられるよう、社長を含め、社員総出で取り組みましたね」(澤田)

クオリティにこだわり抜いた高機能マスク

そうして発売されたのが「hamon AG（ハモンエージー）マスク」です。これまでに培ってきた銀めっき繊維やウェアラブル開発の知見を生かし、着け心地の良さや、顔への高いフィット感を実現。さらに3月時点ではまだ珍しかった50回洗濯が可能な耐久性も備えるなど、クオリティにとことんこだわったマスクを約1か月で開発。