1990年にホテルウィング1号店をオープンして以来、約30年にわたりホテル＆レストラン事業を展開している株式会社ミナシア（旧：株式会社フォーブス）。コロナの真っただ中、2020年4月に社名を「株式会社ミナシア」に変え、2021年2月にはマーケティング強化のために新社長を迎えて新体制となった。コロナ禍で社内を見つめ直して課題を整理し、まずは「お客様の声に向き合うこと」、そしてブランディング強化のために何をどう進めてきたのか？行動制限で人の流れが止まったコロナ禍でホテルが生き残るために何をしてきたのか？

ホテル事業やレストラン事業を通じて、持続可能な社会の実現に貢献するためにESGやSDGsの考え方を意識しながら3つのテーマ【環境に配慮したホテル運営】【地域連携強化】【未来を担う子どもをサポート】を軸に継続的な取り組みを行っているが、今回は、【地域連携強化】について深掘りした。

▶コロナ禍のホテル業界。8割以上の需要減少による人材流出が深刻に

2020年、新型コロナウイルスの感染が拡大し、国内のホテル・旅館は苦境に直面した。

それまで好調だったインバウンド需要がゼロに近い状態となり、緊急事態宣言によって国内の出張や旅行需要も低迷。観光庁の発表によると、コロナ蔓延後はじめてのゴールデンウィークとなった2020年5月の国内ホテル宿泊者数は、前年同月比－84.9％という結果になった。観光需要や地域産業の低迷を受け、2020年7月からGo To トラベルキャンペーンが実施され、宿泊者数は緩やかに増加傾向になったものの感染拡大を理由に12月には一時停止。その後も緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が発令されるたびに需要も上がったり下がったりを繰り返し、将来がどうなるのか不安で明るい兆しが見えないホテル業界からは多くの人材が流出し人手不足が深刻になった。

宿泊者数減に対応するために何をすべきか、変わりゆく世の中に素早く対応し、「テレワーク応援プラン」や「長期連泊プラン」のほか、朝食の提供方法を工夫するなど、どのホテルチェーンも試行錯誤しながら耐え凌いでいた。ミナシアが運営するホテルウィングでも前述に加え、ホテル内で手作りのお弁当「宿弁」を準備して客室内で食べていただけるサービスを提供したり、自主隔離できるプランを作ったり、さまざまなアイディアを形にしながら凌いできた。

世の中の動きや政府の旅行支援施策に左右されるホテル業界。2022年後半は、全国旅行支援や水際対策の緩和などによるインバウンドの増加によって徐々に回復傾向にあるが、苦しかった過去3年に背負った傷はまだ癒えていない。

凛としたホテルマンに憧れを持ち、お客様と接することが好きなスタッフが多いホテル業界。近い将来、かつての賑わいが戻ることを誰しもが願っている。

▶コロナ禍は体制を整えるチャンスだった。どのような価値を提供したいのかを見つめ直し強みを再認識。

コロナで出張者や旅行者が減り、宿泊需要が低迷しているからと言って、会社存続のためには下ばかり見ていられない。そこで、マーケティング強化のために新社長を迎え、ブランディングに着手した。

コロナ前までは、独自の出店戦略やインバウンドバブルの恩恵もあり、積極的な情報発信や広告宣伝にコストをかけなくても高稼働な状態だった。その結果、ホテルウィングチェーンは全国に約40ホテルを展開していながらも認知度があまり高くないという課題が浮き彫りになった。

まず、新社長が就任してレピュテーションマネジメントを導入した。競合ひしめく市場で「いかに選ばれるホテルになるか？」を考え、お客様の声としっかり向き合い、見える化して分析することで、何をすればより満足していただけるか、課題をひとつひとつ潰していき、お客様の声を経営にも活かしていくことが意思決定された。

さらに、ブランディングを強化して認知度を上げていくことを目標としたが、認知度を上げるために単に広告を打って名前を知らしめることは考えていなかった。自分たちはどういうホテルチェーンなのか、差別化するためには何を強みにするのかを明確にしないとお客様には伝わらない。そこで強いブランドを築くために常に意識することとして「ホテル各店舗のコアターゲット」「地域との連携」「アットホームなサービス」の3つを掲げ、これらを意識しながら商品・サービスを開発することを習慣化するよう再認識した。

約30年にわたりホテル運営をしてきた当社は、「アットホームなサービス」を強みとしてきた。フレンドリーで温かいサービスは、研修で「家族と接するようにサービスを提供する」という考え方だけを伝えられ、あとはスタッフそれぞれの自由な発想や個性に任せられている。その「アットホームなサービス」の磨き上げを意識した。

また、以前から地域との連携はホテルごとに行っていたが、当社のミッションでもある「その街に永く愛される“ランドマーク”をつくる」を具現化するためにも、ホテルを展開しているそれぞれの街・地域との連携をさらに強化することを決めた。

単純にホテルに宿泊していただくのではなく、“地域として迎える”イメージをスタッフ全員が持ち、地域の食や文化に触れて新しい発見や驚きを提供するホテルを目指し、その結果、当社が運営するホテルに宿泊すると地域に迎えられる感じがして、訪れた場所が好きになり、地域のファンになって欲しいという想いからタグライン「泊まる、ローカル、好きになる」も決定した。

各ホテルでは、その地域で作られた工芸品が飾られてあったり、チェックイン時に地元の銘菓のプレゼントがあったり、レストランではご当地メニューが楽しめたり、地元の観光地やアクティビティと連携したり、ホテルをひとつのメディアをとして地域を紹介して集客し、にぎわいの創出にホテルが力になれないかという発想。

それまでも各ホテルでは、独自にさまざまな取り組みを行ってきたが、点と点であったものを「おらが町プロジェクト」としてひとつにまとめ、お客様の目に触れるあらゆるところで統一感をもって発信し、実際に体験していただくことでサービスやブランドへの認知度と好感度を高める（=経験価値マーケティング）が「おらが町プロジェクト」の狙いでもある。

2021年9月に始動した「おらが町キャンペーン」は、コンテンツを集めたWEBサイトを立ち上げ、月2回のコンテンツ追加を継続している。

おらが町プロジェクト 特集サイト

https://www.hotelwing.co.jp/oragamachi/

【コンセプト】

いつもと少し違う旅の思い出を！

出張の疲れも吹き飛ぶような、ちょっとプラスなワクワクを。

ガイドブックには載っていない観光スポットや周辺情報、地元の美味しいお店など、知る人ぞ知る情報をピックアップしています。

また、地域の魅力を熟知したスタッフが「この町を盛り上げたい」「この町をもっと知ってもらいたい」という想いでアイディアを出し合って、“おらが町”の「見て」「聞いて」「嗅いで」「触って」「感じて」わかる魅力をお届けします。

ホテルウィングやテンザホテルに泊まることで、その町に愛着がわき、自然と笑顔になれるコト、思わず写真や動画を撮って誰かに伝えたくなるような面白いコトを次々と発信していきます。

おいしい日本へ旅に出よう！ご当地グルメつきペア宿泊券が当たる！！ホテルウィング・テンザホテル「おらが町プロジェクト」プレゼントキャンペーン実施中（2022/12/1～2023/2/28）

▶継続は力なり！人と人との繋がりを大切にしてきたからこそ「おらが町プロジェクト」が一歩前進し、地域連携を強化したいという我々の想いが形に。

2021年9月からスタートした「おらが町プロジェクト」。スタッフのアイディアが集結し、地域と連携した数多くのプランやサービスが生まれ、WEBサイトも充実してきた。

「ただ、それだけでいいのか？もっと出来ることがあるのではないか？」

数か月が経ち、全国各地のスタッフが提案する地域連携のプランやサービスをみると、ホテル周辺地域にある産業や伝統など多くのものが見えてくる。また協力してくださる地域の方々と話をしていると課題も見聞きすることがあった。

そして地域で共存共栄するために、この土地でホテル運営させていただいている会社として、街のために出来ることをもっと増やして貢献したいという思いが強くなっていった。

2022年4月、「おらが町プロジェクト」の一環として、福島県須賀川市のホテルウィング須賀川では、須賀川市農業公社の転作作物や維持管理を受託している梅の実を活用して製造された生味噌や梅加工品を取り入れたメニューを開発し、レストランの夜メニューで提供を開始した。

農業公社によると、「高齢化などで農作業を継続できない」「兼業の仕事が忙しく定年まで農作業ができない」など、さまざまな理由から耕作放棄地となってしまった農地が市内にはたくさんあるという。そうした農地を利用可能な状態に再生し、ナタネや大豆などの作物を農業公社が栽培している。作物の栽培を行いながら肥料を散布し、草刈などをして農地としての機能を維持しなければならず、耕作放棄地の問題は、地域の課題となっているという話を伺った。須賀川市の新規就農者支援にも宿泊施設として協力している関係性があるが、耕作放棄地問題もホテルウィングとしても何かお役に立てることができないか？と具体的な取り組みを模索するようになった。

そして、地域連携を強化したいという当社の想いがカタチになり、2022年7月に須賀川市と連携協定を締結することになった。

須賀川の地で約30年にわたりホテルを営業させていただいている当社と農業公社との繋がり、人と人との繋がりから、行政と一緒になって地域課題を解決し、街を盛り上げるためにアイディアを出し合うことに喜びも感じ、継続的な取り組みができるよう本部には「おらが町課」が立ち上がった。

■協定を締結する連携項目

（1）地産地消の推進に関する事項

（2）須賀川産の農産・加工品等（地場産品）のPRおよび販路拡大に関する事項

（3）遊休農地の再生利用に関する事項

（4）新規就農者等の支援に関する事項

具体的な取り組みとして、いくつかスタートしていたことを継続するほか、当社が耕作放棄地をお借りし、ニンニク栽培にチャレンジすることになった。

近年、土いじりに没頭することで心身ともにリフレッシュしたい、ストレス解消をしたい、子どもに体験させたいなど、理由はさまざまですが、都市部に住む人たちを中心に農業体験に対する興味関心が高まっていることもり、ニンニク栽培や地元農家さん協力のもと野菜の収穫体験などを組み合わせた農業体験宿泊プランを企画して2022年10月に実施した。初年度はモニタープランとして2組の親子に参加していただき、盛りだくさんの2日間を過ごしていただいた。ニンニクの成長具合は定期的に参加者にも知らせ、来年の収穫時期にもまた須賀川に来ていただけるよう努めている。

30区画あるニンニク畑は、本部スタッフが中心となり、ボランティアの手も借りながら約3,000本のニンニクを植えた。（一部区画は農業体験プランで使用）

また来年、農業体験プランを企画し、来街者を増やす取り組みや須賀川の魅力をどんどん発信していく予定だ。

来年収穫するニンニクは、ホテルウィング須賀川のレストランで提供するほか、加工品としても商品化し、全国の運営ホテルで提供する仕組みも模索中。

こうした取り組みを全国各地に広げていき、「地域のために動くホテル」としての認知度も上げていきたい。これもブランディングの一つで「選ばれるホテル」になるためにやること。

コロナ禍を生き残り、数多くのホテルの中で「選ばれるホテル」になるには、ホテル名の認知度を上げるだけでなく、どういうホテルチェーンなのかをしっかりと伝える。

これからも小さな事からコツコツと積み重ね、「経験価値」と「サービス」でしっかりと選んでいただけるホテルチェーンになるよう挑戦はつづく。