幻の発酵原料「みりん粕」を通して発酵食材の楽しみをお伝えしたい～地元水産市場の新たな挑戦～

開発秘話

2023年7月14日 11時00分株式会社　丸魚　魚沼水産

昭和25年創業の株式会社丸魚魚沼水産では、広域開発事業にて新潟の郷土料理などのお総菜加工事業を行っています。まぼろしの発酵食材とも呼ばれる「みりん粕(通称：こぼれ梅)」を使用した「クリームチーズみりん粕漬け」を2021年10月より発売を開始しました。

なぜ、地方水産市場を長年にわたって営んできた当社が、地元新潟の魅力を伝えるために「クリームチーズみりん粕漬け」を開発、販売に至ったのか。商品開発を担当した広域開発部門の長谷川より、現在までの軌跡についてお伝えします。

クリームチーズみりん粕漬け（プレーン）

新潟県小千谷から日本の魚食文化へ貢献してきた丸魚魚沼水産

新潟県のほぼ中央、県内でも有数の豪雪地帯である小千谷（おぢや）市。地域の中央を流れる大河信濃川では、江戸時代に北前船を通じた北海道との交流がありました。北海道からは棒鱈・鮭・昆布などの豊富な海産物を、小千谷より米や酒、そして農作業ができない冬の間、春を待つ中で培われた千年以上の歴史を誇る麻織物「小千谷縮（おぢやちぢみ）」を送るなどなど様々な交流を経て、小千谷の食と文化を豊かにしてきました。

そのような小千谷という地で長年水産業を営んできた私達は、創業より地方水産市場として全国からの魚介類を地元消費者の方へ安定供給することに務め、日本の魚食文化に貢献。時代の変化と共に、丸の魚だけを売っていた時代から、切身、焼く、煮る、味付けをしてすぐに食べられる食品を製造販売するまでに至り、人々の心の豊かさと健康に貢献するために、おいしく新鮮で安心・安全な水産物の安定的な提供をしています。

株式会社丸魚　魚沼水産　本社（昭和62年当時）

新入社員から出た、新たな食品ブランドの提案が挑戦のきっかけに。　自社開発で進める決意の裏側。

創業以来の思いを受け継ぎ、2017年より就任した現代表の田村敦之は、変化する時代の中で、新たな取組を模索することを決意。魚沼水産で製造される商品は主に地元スーパーなどで販売され、今まで県内で消費されていましたが、田村はこの点に着目。新潟だけではなく、いずれは全国へ向けた商品展開を図ることを視野に、新商品開発や新ブランド展開などを外部支援機関と検討を重ねていきました。

そのような中で新しく入社した社員より新ブランドについての提案がありました。

提案内容は外部からの視点にて当社の強み・弱み、現在の市場動向、今後の可能性と展望

そして新ブランドの名称案まで、今まで気付かず、見過ごしていた事など改めて考えさせられる内容でした。

提案を受けた田村は、外部支援機関の力を借りる前にまずは自分達で考え、実行する事を決断。社長みずからブランドロゴイメージを考え、新たに立ち上げた食品ブランドが【新潟せんのや】です。

ブランド名の「せんのや」は小千谷市の地名より命名。ロゴの桜については父である先代社長が小千谷市民に愛されている山本山を桜の名所にすべく、1,000本の桜を植えるプロジェクト「千本桜の会」を立ち上げた経緯もあり、郷土を愛する想いと先代の意思を受け継いでいく覚悟を表現しました。また桜の中央部分には水産会社であるという誇りにて魚の模様をあしらい、新たな挑戦として2020年11月より展開を進めています。

ブランドのコンセプトは、「雪国で生まれた食文化、その伝統をつむぐ」。

当社が長年手掛けてきた新潟郷土料理・魚料理を更に深掘りし、新潟の季候風土にて古くから根付いている発酵食の魅力を全国の食卓へお届けし、笑顔にする。

その中で郷土の伝統の物語、作り手の想いをを合わせてお伝えしたい。

社員一同、このブランドコンセプトにて、気持ち新たに取り組んでいく事を決意します。

本ブランド立上げに伴い、商品ライナップの見直し、整備にて前社長にて父親である　　故田村晃の名前より命名した【魚晃（うおこう）】ブランドを終了し、新潟せんのやに一本化する大きな決断を下す事となります。

代表の田村は生前、父より言われた「後はお前がやりたいようにやればいい」という言葉を思い起こし、父が築き上げてきた食品加工事業を自分たちの力で更に発展させていく事が父への最大の恩返しと考え、突き進んでいく事を決意します。

幻の発酵原料「みりん粕」を通して発酵食材の楽しみをお伝えしたい。試食時の驚きが原体験に。

当社は地元の各醸造元様よりご提供頂いている味噌や醤油、酒粕・塩麴などの発酵原料を使用した商品作りを手掛けており、その中で新潟県南魚沼の醸造元より本みりんの副産物にて生産量が少なく「幻の発酵原料」ともよばれる「みりん粕（通称：こぼれ梅）」ご提供頂き、みりん粕と越後味噌をブレンドしたオリジナルの漬床にて魚介類を漬込んだ「蔵人漬（くらんどづけ）」を商品化してまいりました。

　商品開発担当となった長谷川はみりん粕の名前は知ってはいましたが、味わった事がなく初めて蔵人漬を試食した際、上品でほのかに優しい甘みをまとったその味に驚きを感じたと言います。

発酵原料に馴染みがあった長谷川でも食べたことのなかった「みりん粕」。この食材を、魚だけでなくさまざまな商品に活かすことでたくさんの人へ知ってもらいたい。発酵食材の楽しみをお伝えしたい。という強い想いから、新商品の開発が始まりました。そのような経緯から、同じ発酵食材であるチーズに漬け込むことで誕生し、2021年10月より発売を開始した商品が「クリームチーズみりん粕漬」です。

開発当初、社内会議にて「クリームチーズみりん粕漬」を提案したところ、製造部門からは懐疑的な反応がありました。「当社の製造免許にて製造することが出来るのか」、「どういう方法で製造したらよいのか」、「和惣菜を長年手掛けてきた中で、当社が製造する意味が果たしてあるのか」などさまざまな声があがったのです。製造部門の協力がなければ商品化することは難しい。担当者は問題の解決に動き出します。保健所へ商品製造方法を伝え、所持している製造免許にて製造可能かどうか、県の研究機関へは加熱殺菌処理方法について指導を頂くなど、一つ一つ疑問点を解消しながら、一歩一歩商品化へと進めてきました。

2020年12月の社内会議にて商品企画案を提示後、保留・見送りとなっていた中、2021年２月より商品開発が本格的にスタートしました。

もともと和惣菜を手掛けてきた職人達にて、チーズの加工についてはほぼ始めて。

チーズを和包丁にてカットにて綺麗に仕上げる事ができず、新たにチーズカッターを導入するなど、全てが初めての試行錯誤の連続でした。

試作の中で、ポイントとなったのは「みりん粕の上品な甘みをどう伝えられるか」。

漬床の割合、漬込む日数、他フレーバーとの相性など幾度となく試作・試食を重ね、

理想とする味に徐々に仕上げていきました。

新潟の特産品にこだわった3種類のフレーバーで老若男女楽しめる商品が完成。これからも日本の魚食文化と新潟の発酵食文化を全国へ

新しい挑戦が数多くあった本商品の開発ですが、８カ月という開発期間を経て、遂に完成し、2021年10月21日に一般販売をすることが出来たのです。

商品化にあたって、こだわったポイントは国産食材を使用するという点。特に「みりん粕」同様に新潟県の原料を多く使用することを目標に掲げました。結果、クリームチーズについては北海道十勝産生乳100％使用にて製造されたものを使用し、3種のフレーバーには、どれも地元新潟の特産品を使用することに成功しています。

　　　　　　　　写真左より、プレーン、かんずり入り、ジェノベーゼ

どのフレーバーも「みりん粕」の優しい甘さが加わり、フレーバーによってお子様からご年配の方まで老若男女だれでも楽しんでいただける商品に仕上がりました。

そして「みりん粕」には、清酒「八海山」で知られる八海醸造株式会社様の酒蔵麹を含むこだわり製造された「三年熟成本みりん」のみりん粕を使用しています。

商品ご紹介にてお客様の第一声は「みりん粕って何ですか？」。

酒粕や麹に比べ、まだ馴染みがないみりん粕という発酵食材をチーズという身近な食材を通して、まずは知って頂きたい。これこそ発酵原料の楽しみを伝える第一歩として本商品を企画した一つの理由にて、その先に郷土料理などにも興味を持って頂ければと考えています。

新潟せんのやブランドを立上げてから、ようやく3年目を迎えようとしております。私たちは新潟県魚沼地域にて水産会社を営むなかで、日本の魚食文化を伝えていく事が最も大事な使命と考えてきました。さらに、長年手掛けてきた郷土の伝統食を今の時代に受け継ぎ、また古くから発酵食文化が根付くここ新潟にて発酵食材の様々な楽しみ方をお伝えしていくことも私たちの一つの使命だと感じております。