2019年8月3日、株式会社ポプラ社と、東京大学大学院教育学研究科附属 発達保育実践政策学センター（以下東京大学Cedep）は、「子どもと絵本・本に関する研究」プロジェクトを共同で開始すると発表。そして半年後の2020年2月18日、第1弾メディア向け説明会にて、第1弾の研究成果とあわせ、改めて研究の背景と今後の研究予定について発表を行いました。なぜこのプロジェクトが始まったのか、そして何をやろうとしているのかを改めてここでお伝えします。

▲（左から）東京大学教育学研究科Cedep：野澤祥子、東京大学教育学研究科長：秋田喜代美、株式会社ポプラ社代表取締役社長：千葉均、東京大学教育学研究科Cedepセンター長：遠藤利彦

子どもの本の出版社としてスタートしたポプラ社。今赤ちゃん・子どもに普及する「デジタルメディア」

戦後1947年に児童書の専門出版社としてスタートしたポプラ社は、現在では学習資料書籍や一般向けの書籍に領域を広げています。

70年以上の歴史の中で「ズッコケ三人組」「かいけつゾロリ」、「おしりたんてい」等、たくさんの子どもたちに愛される人気シリーズを刊行し、現在も児童書出版社として高いシェアを持っています。

「ぴょーん」や「ねずみくんの絵本」シリーズ等、読み聞かせにぴったりのミリオンセラー絵本も刊行してきました。しかし今、赤ちゃんや子どもたちの間にもデジタルメディアが急速に普及しています。2歳ほどの赤ちゃんもスマートフォンで動画の操作をするようになっています。

「のびのび読み」で伝えたい「絵本はコミュニケーションツール」

▲「のびのび読み」ホームページより

「うちの子、絵本を読んでも全然ちゃんと聞いてくれないけど、動画は好きみたい」。友人たちのリアルな声を聞いたパパママ社員が、親子を取り巻く変化に危機感をもち、絵本や読み聞かせのハードルを下げるために2017年に始めた読書推進活動が「のびのび読み」です。

「絵本はコミュニケーションツール。どんどん手に取って、のびのび読んで、親子で遊んでみて！」というメッセージを伝えるために、啓蒙パンフレットやホームページをつくり、絵本が選びやすい売り場提案や、大型イベントで赤ちゃん絵本の体験コーナーを作る等様々な活動を行ってきました。

▲イベントでの「のびのび読み」体験コーナーの様子

その活動から出てきたのが、絵本と動画は、子どもにとってどう違うのか？という問いです。出版社にいる私たちは、絵本や読み聞かせの良さを“体験”や“経験値”として知っています。でも「絵本はデジタルメディアや動画とどう違うの？」と聞かれたときに、科学的な根拠に基づいて説明することはなかなかできません。そして動画やデジタルメディアに絵本とは違う良さや面白さがあることも、実際に使ってみて日々感じます。

子どもの発達にとっての‘絵本・本’は何がいいのか？デジタルメディアとの違いは？　そこをはっきり説明できる、科学的な“根拠”が欲しい。私たちの中で、その思いがどんどん強くなっていきました。

東京大学Cedepとの共同研究が始まるまで

「のびのび読み」の活動を本格的に初めて1年が過ぎた2018年5月。東京大学の産学連携を推進する部署の方がポプラ社に来訪し、「東京大学と共同研究したいテーマはありませんか？」との呼びかけがありました。

「絵本とデジタルメディアの違いを知りたい」「小学生くらいまで追いかけてデジタルと本の違いを調べたい」「それなら東大にCedepという保育に関する研究機関がある。ほかの研究との連携もできる」初顔合わせの打ち合わせは大いに盛り上がり、このプロジェクトを実現したいという気持ちを双方で強く持ちました。

「のびのび読み」をはじめ様々な読書推進活動を推進する当社では、「絵本・本」と子どもの発達に関わる研究というコンセプトは共感を得て、企業活動の基盤にしていけると早々にプロジェクト準備に取り掛かることができました。

そこから約1年。研究の中身を議論しながら、寄付や研究費用についての社内手続きや、双方での正式承認等様々なプロセスをクリアし、2019年8月3日、安田記念講堂で行われた東京大学Cedepのシンポジウム内で、遠藤センター長より共同研究のスタートが発表になりました。

▲共同研究の全体概要図

最初に来訪した方に、出版社で最初にポプラ社に声をかけた理由を尋ねると「子どもの頃ズッコケ三人組が大好きだったから」という答えが返ってきました。子どもたちに愛される本を送り出してこられたことが、後押しをしてくれました。

2020年2月に第1回目の研究成果記者発表を実施

▲東京大学本郷キャンパスで行われた記者発表会場の様子

実験・調査・事例研究を三つの柱として共同研究を進める中で、まず調査研究の第一弾で「全国初」となる「全国保育・幼児教育施設の絵本・本環境実態調査」の結果を報告しました。

小中学校に比べ幼児施設の図書予算や蔵書が少ないこと、園によって格差が大きいこと等、私たちにとってはショッキングな調査結果が、多くのメディアで取り上げられました。

また今後は、就学前の子どもの絵本・本環境の実態や優れた取り組みを引き続き調査していくこと、実験研究ではデジタル絵本やアニメーション動画と絵本・本の相違点について、親子の視線行動や言葉かけの違いから明らかにしていくこと等を発表しています。

このプロジェクトはポプラ社としても出版業界にとっても礎となる知見を目指した研究であり、広く社会に発信していきたいと考えています。20社以上のメディアが集まったこの発表会で、社会や教育関係者、メディアからの期待も非常に高いことを感じました。

新型コロナウイルス感染拡大の影響で研究手法やスケジュールの見直しを余儀なくされていますが、引き続き研究の進化と深化を目指し、子どもと‘本’の環境改善につなげていきたいと考えています。