食べ物を無駄にしない未来へ。アップサイクル・フード開発を通じて日本の食品ロス削減を目指す

プロジェクトの裏側

2023年7月12日 10時00分 ICS-net株式会社

ICS-net株式会社（以下、当社）は、『大切な食資源を活かす』をパーパスとし、テクノロジーで食品産業をアップデートするべく、食品業界にまつわる事業を多岐にわたり展開しています。

創業当初から展開する「シェアシマ」は、食品原料の売り手と買い手をWeb上でつなぐサービスです。その目的は、食品原料のロス削減に取り組むこと。一般的に取り上げられる食品ロスの大部分は、飲食店やコンビニなどで販売される「完成品」に起因していると考えられがちです。しかし実際には、食品製造業からのロスも大きな割合を占めています。「シェアシマ」は、この”事業系食品ロス”と呼ばれる、食品製造段階のロス削減に取り組むために立ち上がりました。

今回ご紹介する「アップサイクル・フード事業」は、長野市と共同で立ち上げた、未利用原料に付加価値をつけ、新たに商品企画・開発する取り組みです。本記事では、アップサイクル・フード事業発足の経緯、商品開発秘話、今後目指すビジョンなどをご紹介します。

ICS-net株式会社　代表取締役小池祥悟

持続可能な未来への一歩として、長野アップサイクル・フード事業とスマートシティが連携

アップサイクル・フード事業は、長野市の産学官⾦の連携組織「NAGANOスマートシティコミッション」の立ち上げがきっかけでした。長野市は、2001年以降に県外への転出者数が県内への転入者数を上回る人口減少の状況に直面していました。この人口減少を食い止めるため、長野市は国土交通省が提唱する「スマートシティ構想」(※)を掲げ、令和3年から取り組むことを決めました。

一方、私たちの会社は、当時から食品原料の売買プラットフォーム「シェアシマ」を運営していましたが、未利用の原料を活用した商品開発には取り組めていませんでした。アップサイクル事業のアイデアは創業当初からありましたが、資金が限られているスタートアップ企業としては、開発に一定のコストがかかるアップサイクル事業に踏み切るのは困難でした。

しかし、先に述べた「スマートシティ構想」に基づき、長野市が新たな産業の支援体制を整える姿勢を示してくれたおかげで、食品ロスに取り組む私たちの事業にも声がかかったのです。そうして「スマートシティ構想」の推進組織である「NAGANOスマートシティコミッション」が設立されました。これが、長野アップサイクル・フード事業が具体化するに至った経緯です。

※IoTやAIなどの最新技術を活用して環境問題や人口減少などの課題を解決する取り組み

長野市による「スマートシティNAGANO」基本計画

https://www.city.nagano.nagano.jp/documents/1754/745742.pdf

缶詰ブームを追い風に―。未利用の食材から生まれた『ふくふくレバー』

プロジェクト発足後、私たちは長野市内の食品企業を対象に、未利用の食品原料に関する実態調査を行いました。しかし最初は、各社が口を揃えて「余剰原料はありません」と答えるため、その実態がなかなか明らかとなりませんでした。元食品メーカーの経験からすると、各社で余剰原料が存在することは知っていました。なぜなら、日本の食品メーカーのほとんどは中小企業であり、自社内ですべてを処理するエコシステムを構築するのは困難だからです。しかし、「余っている＝悪いこと」という固定観念があり、企業がそれを明るみに出したがらないのです。

それでもあきらめず、野菜の残渣や食肉など、さまざまな食品ロスについて調査を進めました。そんなある日、食肉加工工場で「鶏のレバーとハツが余っている」という声を耳にしました。レバーやハツは焼き鳥屋やスーパーでも見かける一般的な食材ですが、他の部位と比べて消費量と供給量のバランスが合わないようです。そこで養鶏場に調査を行ったことが、「ふくふくレバー」商品企画のきっかけです。

福味鶏養鶏場の様子

次に、未利用の鶏レバーとハツをどのように活かして商品化するかが課題となりました。そこで最近、日本で缶詰ブームが起きていることに着目しました。缶詰は元々は備蓄用食材として知られていましたが、最近では凝った料理や日常の食卓に並ぶ一品として楽しまれるようになっています。私たちは、鶏のレバーとハツを活かしたグルメ缶詰を作ることにしたのです。このアイデアの転換が、私たちのプロジェクトの方向性を大きく変えることとなりました。

商品開発の舞台裏：　挑戦と創造性が織り成す「美味しさ」への追求

缶詰の製造工程では、中心部の温度を120℃で4分間以上加熱殺菌する必要があります。このプロセスは短時間で菌を除去できる一方で、内部が煮すぎとなるリスクも存在します。そうした缶詰ならではの特徴を考慮しながら、当時私たちは8種類の試作品を作りました。また開発の過程で、新たなレシピも考案されました。特に「アヒージョ」と「パテ」は油を多く使用することで、缶詰の特性を活かした旨味豊かな製品へと仕上がった一例です。

しかし、開発の道のりは決して平坦なものではありませんでした。例えば、試作品の開発は計4回にわたりましたが、製品を造るたびに追加の費用がかかるため、補助金があるにせよ毎度慎重に取り組む必要があったためです。

缶詰試食会の様子

また工場側は、当初自社の調味液で製品を作ることを推奨しました。しかしながら、消費者の嗜好をおさえた缶詰を作るためには、既存の調味液だけに留まらず、新たな発想の転換が必要だと考えました。こうして工場に何度も掛け合い、新レシピの考案を交渉しました。最終的には私たちの熱意に押され、工場も美味しい製品を作り上げるために共に奮闘してくれました。それで出来た製品が、先ほど申し上げた「アヒージョ」「パテ」です。

このように、私たちは「美味しいものを作りたい」という思いを胸に、最高の味を追求しました。その結果、未利用原料を活かしたアップサイクル・フードでありつつも、上質な味わいを持つ「ふくふくレバー」が出来上がったのです。

左から、「ご褒美パテ」「生姜香る時雨煮」「贅沢ネギ塩」

左から、「至福のアヒージョ」「おとなの焼肉味」「旨辛ッヤンニョム」

食べ物を無駄にしない未来へ。アップサイクル・フードが導く日本の食品ロス削減

こうして「ふくふくレバー」は2023年年明けに商品化され、2月には長野・東京の2ヶ所で記者発表会を行いました。あの記者発表会の場で、メディア関係者を介して一般消費者の皆様にお披露目できたこと。それが、今まで大変だった出来事をきれいに浄化してくれた気がします。それから「ふくふくレバー」は徐々に販路を拡大し、長野県のほかにも、東京都内の複数箇所での販売が決定しました。

銀座NAGANOで行われた記者発表会(上)と、商品が店頭に陳列された様子(下)

さらには、日本缶詰協会公認の缶詰博士・黑川勇人氏とラオックスによるコラボレーション企画「日本の本当に美味しい缶詰」にも選出いただくなど、徐々に認知を拡大していきました。なお「アップサイクル」というワードも、数年前と比べるとよく検索ワードで目にするようになりました。これは、持続可能な社会への取り組みに対して、我々をはじめ各業界が真剣に取り組んだ成果でしょう。

しかし、まだまだ道半ばです。私たちが本当に目指したい世界は、食品ロスがない社会の実現です。そのためにも、まずはシェアシマが中心となって、食品業界全体で良い循環を生み出せるセカンダリーマーケットを構築していきます。

日本には「もったいない」という言葉がありますよね。モノの価値を十分に生かしきれておらず、無駄になっている状態を惜しむ意味がありますが、日本人は従来そういう価値観を大切にする民族なのです。その日本人が本来持つ価値観を、私たちはただ普通に戻したいだけなのです。

持続可能な未来を創る、日本の食品イノベーションのために

ちなみに日本は、「365日新商品が出る国」だということをご存じでしょうか。例えば、カップラーメンだけでも、1年で数百種類もの新商品が登場します。なぜこんなにも多くの商品開発が行われるのでしょうか？それは、「お客様ファースト」という言葉に起因しています。日本は高度経済成長期、お客様の要望に応えることで事業を成長させてきました。常にお客様の期待に応えるために、食品メーカー各社はしのぎを削って新商品を大量に開発してきた歴史があります。もちろんそれにより、日本が短期間で急激な成長を果たした国であることは事実です。しかしその代償として、食品業界においては先進国の中でもトップクラスの食品ロスを生む結果にも繋がっています。

私は、商品開発競争の時代は終焉を迎えつつあると考えます。それよりも、いまある食材や技術を最大限に活用し、いかにおいしくて地球にもやさしい製品をつくるか、それが今後は重要なテーマになってくると考えます。なお、日本の企業はすでにそのための技術を持ち合わせています。ですからあとは、一刻も早くその可能性に気づき、行動を起こすことが大切です。私たちはそのための新たな価値観の醸成を、シェアシマを通じて広げていきたいと考えます。

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