2021年にプレスリリース発信文化の普及と発展を目的として始まった「プレスリリースアワード」。2024年10月28日に、2481件のエントリーの中から10部門の賞に決定した11社を讃え、授賞式が開催されました。
本記事では、「地方から全国への情報発信」という共通項を持つ、株式会社岡崎竜城スイミングクラブ、株式会社七越製菓、有限会社稲垣塗装所をピックアップ。プレスリリースを配信した背景や目的、受賞に対する想いや周囲の反響などを伺いました。
株式会社岡崎竜城スイミングクラブ:インドでの水難訓練を通し水難防止への真摯な想いを発信
愛知県岡崎市で50年の歴史を持つ、株式会社岡崎竜城スイミングクラブ。市内2つの校舎で子ども向けスイミングスクールを運営し、そのカリキュラムを各国に提供・伝達する事業を展開しています。
2021年には同社が30年以上続けてきた水難訓練(着衣泳)に特化した、一般社団法人パワーストロークを設立。「水難訓練を当たり前に」というミッションを掲げ、国内外での水難訓練の実施や各団体へのカリキュラムの提供、「着衣泳」を教えることができる「着衣泳訓練士」の普及に取り組んでいます。
一般社団法人パワーストロークが実施した、インドでの水難訓練の様子を伝えるプレスリリースは、特別賞(各部門賞には当てはまらないが表彰したプレスリリースや発表者の行動を讃える賞)を受賞。「インド=泳げない国」という意外性をフックにして、スイミングスクールによる水難訓練という真摯な取り組みの背景と意義を伝えている点が高く評価されました。
【受賞プレスリリース】「泳げない国」インドの水泳コーチを対象に岡崎市の老舗スイミングスクールが水難訓練を実施
【受賞理由】
インド=泳げない国という意外性をフックにして目を引きながら、スイミングスクールによる水難訓練という真摯な取り組みと、その背景と意義をデータを用いながら余すところなく伝えている。水害にみまわれることが多い日本で蓄積されたノウハウを海外へ伝えていく覚悟と信念を感じさせるリリース。(審査員:勝俣 哲生 日経クロストレンド編集長)
株式会社岡崎竜城スイミングクラブ ジェネラルマネージャー
クラブ創設者の祖父から受け継いだ志をもとに、運営と広報を担当しています。アメリカでの幼少期を経て、名古屋大学法学部を卒業、東京大学ロースクールを経てエディンバラ大学で社会学の修士号を取得。競泳、水球、アーティスティックスイミングに青春を捧げた経験を活かし、地元岡崎と国内外で水難防止に取り組む社会貢献活動を推進しています。
──まず、受賞したプレスリリースを配信した背景や目的をお聞かせください。
一番の目的は、日本で行っている弊社の取り組みが、海を超えたインドでも役立つことを広く伝えるためです。弊社は日本のスイミングスクールの中で、唯一海外での水難事業に取り組んでいます。プレスリリースを配信することで、この試みをより多くの人に知っていただきたいと思いました。
私たちは、2018年に日本の私営スイミングスクールで初めて「ジェンダーフリー水着」をデザインして導入しました。しかし、当時はプレスリリースで情報を発信していなかったため、メディアの方々に興味を持ってもらうまでに数年かかってしまったのです。せっかく画期的な取り組みをしても、世の中に知っていただくまでに大きな時差を感じました。その反省を生かし、社内での活動を積極的に発信していくことを決め、今回の活動のプレスリリースを書くことにしたのです。
──プレスリリースの配信後はどのような反響がありましたか。
日本経済新聞の『Insights from India(NIKKEI Briefing)』にプレスリリースの内容が掲載されました。私たちの活動とインドの水難の状況について、このような大きなメディアで取り上げていただけたことをとても嬉しく思います。
岡崎竜城スイミングクラブの従業員の多くは、岡崎市で水泳指導をすることを主な業務としており、実際にインドへ赴いたわけではありません。そのため、弊社のインドでの取り組みを具体的にイメージすることが難しかったと思いますが、プレスリリースを作成したことによって、活字で活動を理解することができ、会社へのロイヤリティー向上にもつながったと感じています。
──今回のプレスリリースを作成するうえで、どのようなことを意識されましたか。
会社の取り組みをただアピールするだけでなく、背景を関連論文やインド政府が出しているデータを交えながら説明することで、活動の意義を伝えるように意識しました。
特に海外での取り組みは、正しいデータに基づかなければ不用意な偏見につながってしまうという懸念もあったため、「客観的データに基づいた文章」はこだわったポイントのひとつです。
──パワーストロークさんは非営利団体ですが、プレスリリースを配信することの意義はどのような点にあると思いますか。
多くの場合、非営利団体を営む根底には何かメッセージやミッションがあるはずです。私たちも「水難訓練を当たり前に」というミッションを掲げていますが、地道に活動をしていても、自分たちの力だけでは周知するにも限界があります。
例えば広報PRをせずに水難訓練のイベントを実施した場合、そこにいらっしゃる方々はもともと興味・関心を抱いている方が多く、リーチも限定的です。しかし、プレスリリースを配信することによって、さらに広く水難訓練のイベントを実施したという情報を届けることができるため、私たちのミッションを達成する大きな力になると思います。
──最後に、今回の受賞が決まってからの想いをお聞かせください。
社内で広報PRを担当しているのは私ひとりで、これまでにプレスリリースを書いた経験もなく、手探りで取り組んできました。プレスリリースの配信後も、何が正解かどうかの判断基準もなく、時間や経費を無駄にしてしまったのではないかと考えるときもあったんです。
しかし、今回このような名誉ある賞に選んでいただいたことで、ひとり広報としてやってきたことの答え合わせができました。今後の広報PR活動も自信を持って取り組めると思います。
株式会社七越製菓:動画とモノクロ写真を巧みに使い、歴史と作り手の想いを情緒的に発信
次に紹介するのは、埼玉県さいたま市に本社を構える株式会社七越製菓。1984年の創業以来、手づくりの心を大切にしながら、味と製法にこだわった米菓をつくり続けています。
今年の6月には、米菓業界にとって死活問題となる「米不足」という難局を乗り越えるための施策として、創業40周年と同社の看板商品である「手揚げもち」の発売25周年を記念した、「復刻版手揚げもちしょうゆ味」を期間限定発売。
動画やモノクロ写真を効果的に用いたプレスリリースは、「自社の商品への理解と、それを知ってもらうための見せ方」が評価され、「ストーリー賞」を受賞しました。
【受賞プレスリリース】【七越製菓】創業40周年と手揚げもち25周年を記念して、「復刻版手揚げもちしょうゆ味」を期間限定発売。
【受賞理由】
冒頭の動画から始まり、創業当時を物語るモノクロ写真、このようなリリースは見たことがなく、ただただ圧倒されました。一つの創業物語を読んでいるようで、歴史と作り手の想い、こだわりなどがしっかりと伝わってきて、食べてみたいなと思わせる説得力があります。日々たくさんのリリースが配信される中で普通だったら目に留まりにくいであろう「手揚げもち」という商品をいかに魅力的に伝えていくか?
自社の商品への理解、それを知ってもらうための見せ方を考え抜いたことが伝わって来るリリースでした。(審査員:石﨑 寛明 小学館DIME編集長)
株式会社七越製菓 取締役 キャリアコンサルタント
埼玉県さいたま市(旧与野市)出身。就職情報・進学情報メディア会社であるディスコ(現キャリタス)で約20年の勤務経験後、株式会社七越製菓の取締役に就任。以後、管理全般・Bto C業務・Eコマース・広報を管掌。最近では、越境ECチャネル展開も行い、現在に至る。
──今回受賞したプレスリリースは、御社にとって初めて作成したものだと伺いました。このプレスリリースを配信することになった背景を教えていただけますでしょうか。
今夏は、店舗の棚から白米がなくなりお米が買えなくなる騒ぎがありましたが、実は米菓業界内では昨年から米不足になることが予見されていたんです。この難局を乗り越えるための施策として考えたのが、当社の看板商品「手揚げもち」の復刻版限定発売でした。
復刻版は昔ながらの旨みたっぷりのしょうゆを使い、創業当時の懐かしい味わいを再現したもので、今まで食べていたおかきとはひと味違う自信作です。このニュースをぜひ広く多くの方に知っていただきたいと思い、さいたま市産業創造財団に相談をしたところ、PR TIMESでプレスリリースを配信することを勧められました。その後、原稿作成や撮影プランの助言、動画撮影の援助、文章の編集に関する伴走もしていただき、プレスリリースを配信するに至ったという流れです。
──プレスリリースの配信後は、反響はいかがでしたか。
10以上の媒体に取り上げていただくことができました。実は原材料高騰により規格や内容を変更したので、売り上げが減少することも危惧していたのですが、実際は売り上げは5%伸び、ECサイトでも復刻版の「手揚げもち」を目当てに購入されるといった傾向が見られました。
プレスリリースの配信はデジタル販促ですが、実店舗でも客足が伸びたことは驚きでした。また、プレスリリースに動画を載せるためにYouTubeチャンネルを開設したり、ネットショッピングのサイトを刷新したり、社内でさまざまな販促の連携が実現したことも、プレスリリースの配信で得られた効果のひとつだと思います。
──今回の受賞されたプレスリリースは、冒頭の動画やモノクロ写真などを効果的に活用することで、ひとつの創業物語を読んでいるような、歴史とつくり手の想いが伝わる点が高く評価されていました。このプレスリリースを作成するにあたって、どのような点にこだわったのでしょうか。
プレスリリースを作成するにあたり、ブランドコンセプトやコミュニケーションのインフラ整備など、大切なことは何かを熟考しました。そのすべてがブランディングにつながってくるからです。またプレスリリースの配信と同時に、アナログの口コミの派生を促すことも工夫したことのひとつです。
プレスリリースは昨年の11月から準備を始め、今年の3月に配信することを目指して取り組んでいました。ところが、その最中である今年1月に創業者が亡くなってしまったんです。当時はプレスリリースの配信を取りやめることも検討しましたが、「ピンチはチャンス」と考えて、創業者にもプレスリリースに登場してもらうことにしました。その結果、亡くなった後もプレスリリースの原稿の中でいきいきとした姿を見せてくれています。
──最後に、今回受賞が決まってからの想いをお聞かせください。
プレスリリースの広報PR担当者と、原稿内に登場した当社の職人、販売スタッフの三人が一体となる良い機会だと思いました。これからも、受賞プレスリリースで紹介した商品を丁寧に広報PRしていきたい思いますし、心を込めてつくり、販売していきたいという想いが湧き上がっています。
有限会社稲垣塗装所:「先祖の供養」という難しいテーマに正面から向き合い革新的なサービスを提案
時代や住環境の変化の中で、仏壇の扱いに困っている方は多いのではないでしょうか。最後に紹介するのは、センシティブで話題にしにくいこの問題に正面から向き合い、新たな選択肢を提案するのが、静岡県静岡市で50年の歴史を持つ仏壇再生工房を営む有限会社稲垣塗装所です。
同社のサービスを伝えたプレスリリースは、覚悟を持って発信に挑戦し、もっとも飛躍したプレスリリースに贈られる「グレートステップ賞」を受賞。消費者のニーズに寄り添った新しい仏壇を提案するだけでなく、伝統に対する想いが伝わるプレスリリースとして高く評価されました。
【受賞プレスリリース】思い出の詰まった仏壇を手のひらサイズにリノベーション 仏壇供養サービス「結壇(Yuidan)」を 2024 年 2 月に開始
【受賞理由】
センシティブな話題だけに相談もしにくく、あまり顕在化していませんが、時代の変化や住まいの変化の中で仏壇の扱いに困っている人は多いと思います。今回のリリースでは仏壇メーカー自らがあえて仏壇を手放すという自社のビジネスを揺るがしかねない提案を行っているようでいて、きちんとしたデータの裏付けをもとに時代や住まいの変化など消費者のニーズに寄り添った新しい仏壇を提案しているリリースとしての完成度の高さに驚かせられました。仏壇に手を合わせる文化を守っていきたいという想いもしっかりと伝わって来るリリースだったと思います。(審査員:石﨑 寛明 小学館DIME編集長)
有限会社稲垣塗装所
静岡県出身。仏壇製造業を営む家に生まれ、家業と向き合いながら、同時に自らEC事業を展開。業界が「仏壇離れ」による売り上げ低迷や職人不足という課題に直面していることを痛感し、伝統文化を守りつつ、現代のニーズに応えるべく「結壇」サービスを立ち上げた。現在は、広報、マーケティング、企画、営業といった製造以外の全業務を担い、次世代に向けた仏壇業界の未来を創造するために精力的に活動している。
──今回、プレスリリースを配信した背景や目的をお聞かせください。
当社には仏壇処分に関する相談が増えていました。
「仏壇の置き場所に困っている」「子どもに仏壇を引き継いで困らせたくない」「仏壇を処分した時の周りの目が気になる」など、処分を検討される理由やお悩みはさまざまですが、どこか申し訳なさや寂しさを感じている方、本音では手放したくないという気持ちがある方が多いように感じました。
このような声を伺ううちに、私たち自身も「仏壇に手を合わせる文化」の重要性を再認識し、仏壇の歴史と家族の想いを次世代に結ぶ「結壇」という新たなサービスを立ち上げました。
「結壇」は、大切な仏壇をただ処分するのではなく、新たな形で残すための解決策です。「結壇」がこうした悩みの一助になると考え、多くの方に知っていただきたいと思いプレスリリースを配信しました。
──なぜプレスリリースという手法にたどり着いたのでしょうか。
限られた資源の中で、自社の力だけでは十分な宣伝が難しいと感じたためです。新しいサービスである「結壇」を、必要としている方々に届けるためには、メディアをはじめとする外部の力をお借りすることが不可欠だと考えました。
ただ、当社は、社長と職人だけの小さな会社ということもあり、これまで情報発信に取り組む機会がありませんでした。プレスリリースは私たちのような小規模な事業者でも、信頼性を持って広範囲に情報を届けられる手段。限られたリソースや予算の中で最大限の効果を発揮できる方法だと思い、選びました。
──実際にプレスリリースを配信してみての反響はいかがでしたか。
ありがたいことに、テレビ局や新聞社など地元を中心に多くのメディアに取り上げていただきました。
また、「テレビで紹介されているのを見てすぐに連絡しました」「新聞の記事を読んで問い合わせました」と、取り上げられた内容を見ての反響も次々と寄せられました。
当社へのご相談はお寺や業者からの紹介がほとんどだったこともあり、「この新しいサービスが本当に必要とされるのだろうか」「悩んでいる方にきちんと届くだろうか」と不安を抱えていました。ご注文の数も、仏壇の修理が中心だったため、月に1〜2件程度でした。
しかし、「こういったサービスをずっと待っていました」「大切な仏壇を残せる選択肢ができて、本当に嬉しいです」といった多くの温かい声をいただき、「結壇」を始めてからの注文の数は現在3~4倍ほどに増え私たちも胸をなで下ろしています。今年の10月からは大手物流会社と業務提携を結び、全国でのお仏壇引き取りが可能に。それに伴い、全国からの注文が受けられるようになり、さらなる売り上げの拡大を見込んでいます。
プレスリリースをきっかけにいただいた皆さまからの反響は、私たちの取り組みを支える大きな励みとなっているんです。
──受賞したプレスリリースはどのような点を工夫されたのでしょうか。
私自身、これまでプレスリリースを出したこともライティングを学んだ経験もありません。それでも、このサービスを多くの方に知ってもらいたい一心で、社長や職人と何度も話を重ねました。
その中で感じたのは、職人たちのものづくりへの「想い」、お客さまに喜んでいただきたいという「想い」、そして伝統や文化を未来につなぎたいという「想い」です。このサービスには、関わった人々のさまざまな「想い」が詰まっています。
また、市場ニーズを把握するために実施した仏壇保有者を対象とするアンケート調査を活用したのもポイントです。調査結果を踏まえ、より多くの方にこのサービスの価値が伝わるよう、何度も文章を見直しました。
──初めてのプレスリリースで受賞。決まってからの想いをお聞かせください。
私も弊社の代表も驚きが大きく、正直なところまだ実感が湧いていないのが本音です。それでも、このような「大きな賞」に選んでいただけたことを光栄に思いますし、とても嬉しく感じています。
何より、この受賞を通じて、これまで以上に仏壇の処分で悩んでいる方にサービスが届き、多くの方に「結壇」を知っていただける貴重な機会になることが嬉しいです。
──最後に稲垣塗装所さんが目指されていることを教えてください。
住宅事情の変化により、仏壇離れが進行しています。そのような中で、現在のライフスタイルに合った「結壇」が、仏壇の新たなスタンダードの形となれば、次の世代への継承のハードルが下がり、仏壇文化の継続に貢献できると考えています。また、私たちは日本において大切な「先祖や仏様に手を合わせ、敬う文化」を未来に残していきたいと願っています。
地元の静岡では、仕事を失い困っている仏壇職人も多くいます。当社では、自社の職人に加え、外部の職人の力もお借りしながら製造を進めており、「結壇」の受注が増えることで、職人たちに新たな仕事の機会を提供できると考えています。今後は、若手職人の育成にも力を入れ、日本の伝統である仏壇製造の技術を次世代に伝えていきたいと考えています。
まとめ:取り組みへの想いを丁寧に伝え、地方から全国へ自社への理解を促す
今回お話を伺った3社に共通するのは、プレスリリースの執筆が初めてであったこと。しかし、経験やリソースの少ない中で試行錯誤しながら作成したプレスリリースは、自社を知ってもらいたいという強い想いがストレートに伝わるものばかりでした。
- 関連論文などを引用し、取り組みの意義を伝える
- 動画や写真を用いることで読み手の情緒に訴えかける
- 客観的なデータで消費者のニーズを裏付ける
プレスリリースの配信により、地方から全国への認知拡大に成功した3社の事例は、業種を問わず参考にしていただけるのではないでしょうか。
記事内の受賞理由は、プレスリリースより引用しています。
引用:過去最高2481件の応募から11件の受賞プレスリリースが決定。プレスリリースアワード2024受賞企業とBest101を発表
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