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自動車業界100年に1度の大変革期。企業イメージを変えた広報部の挑戦|株式会社アイシン

2021年にアイシン精機株式会社とアイシン・エィ・ダブリュ株式会社が経営統合し、現在の企業体制となった株式会社アイシン(本社:愛知県刈谷市)。パワートレイン、走行安全、車体など、自動車を構成するさまざまなシステム・製品を開発・生産し、約4兆4,000億円(2022年度実績)もの売上規模を誇る自動車部品のグローバルサプライヤーです。

前身のアイシン精機の創業から半世紀以上。電動化・自動化・コネクテッド・カーシェアリングなどの技術革新が急速に進み、「100年に1度の大変革期」に突入したといわれる自動車業界において、事業価値や企業価値をどのように高めていくのか。

本記事では、広報部部長の富田さんに取り巻く環境の変化が大きな業界で広報部としてどのように企業に貢献してきたのか、現在はどのような取り組みに力を入れているのかなど、歴史を振り返りながらお話を伺いました。

株式会社アイシンの最新のプレスリリースはこちら:株式会社アイシンのプレスリリース

株式会社アイシン 広報部 部長

富田勝巳(Tomita Katsumi)

2007年から広報部に所属、2021年に現職。現在30名から成る広報部のリーダーとして、メディアリレーション、危機管理広報、社内広報、展示会、Web、SNSのプラニングなどを統括。社内外の情報収集方法に革新をもたらし、特にEVシフトやカーボンニュートラルといった業界のトレンドに対する広報戦略において重要な役割を担う。

危機管理の観点から整備された広報体制

──まず、広報PR体制について教えてください。

現在、広報部に所属しているのは30名。メディアリレーション、危機管理広報、社内報、展示会、Webサイトの制作、SNSなどのプラニングをしています。2021年にアイシン精機とアイシン・エィ・ダブリュが経営統合した際には、新会社のCISの策定を行ってきました。

──前身のアイシン精機の創業から半世紀以上と長い歴史がありますが、その中で広報PR体制の変化などはありましたか。

広報部が独立した組織になったのは1997年以降です。それ以前は総務部の中に情報広報室があり、主に社内報を発行していました。

1997年はアイシン精機の刈谷工場で火災が発生した年です。この火災によって、トヨタ自動車の製造ラインを止めてしまうという事態が起きたのですが、当時は広報部も設置されておらず、危機管理広報という概念もなかったため、社外への情報開示が遅れてしまいました。その経験から、社会との関わりを持つことや、何かあったときの危機対応というのがとても大切ではないかという議論がなされ、広報部の設置につながっています。

取り巻く環境によって変える広報PR

──富田さんが広報部に配属された2007年以降、リーマンショックなど製造業に関わる大きな出来事がありました。広報PRとして、どのように乗り越えてこられたのでしょうか。

その時代ごとの出来事に応じて、伝え方を変えてきましたね。リーマンショックでは当社も赤字に転落しましたが、今の危機的な状況をどのように伝えていくのか、メンバーと議論を重ねました。当時はまだ紙の社内報でしたが、置かれている状況や好転の兆しを伝えることで「前を向いていこう」という会社のメッセージを発信。

2012年以降、世界景気が上向き始めたころからは、海外メーカーにもっと拡販するために世界各地でのモーターショー出展を多く企画してきました。サプライヤーにとってモーターショーは、自動車メーカーのトップに会うことができる絶好の機会です。ブースの構えやおもてなしなど、商談ができる環境と見せ場をつくることに注力してきましたね。

株式会社アイシン インタビュー01

「100年に1度の大変革期」広報としての取り組み

「トランスミッションだけ」でないことを伝える

──近年も大きく環境が変わっていますよね。

そうですね。まず統合以降は、総合自動車部品メーカーとしての規模の大きさや幅広さをしっかり見せていくことを心がけました。

車を構成する部品のうち半分以上をアイシンが開発・生産していますが、その中で売り上げの多くを占めるのがガソリン車向けの製品である「トランスミッション」です。そのため、EV向けの部品が少なく、電動化対応に遅れているなどと投資家をはじめとするステークホルダーから指摘されるようになりました

そのネガティブなイメージを払拭するためにも、トランスミッションだけの会社ではないということをきちんと伝える必要があったのです。

今は「電動化」と「カーボンニュートラル」をテーマに

──私も正直、トランスミッションの印象がありました。

今、自動車業界は100年に1度の大変革期といわれていますが、その中でも広報部として重要なキーワードになっているのが「電動化」と「カーボンニュートラル」。この2つをテーマに、うまく外に発信していくことを3年ほど前から取り組んでいます。

──今はそのテーマに尽きますよね。貴社くらい大きな会社ですと、現場からトピックを得るのが大変な気もするのですが、どのようにキャッチアップしているのでしょうか。

そうですね。もともとはどこかの部署から挙げられた情報を社内外に発信するだけで、企業としての一貫したメッセージが弱かったと思います。「電動化」や「カーボンニュートラル」のメッセージを出していくためには、情報を広く取ってきて、広く発信する。この両方がないとうまくいきません。

そこで、広く情報を取ってくる「弾込め部隊」と、広く外に出していく「発信部隊」とに分かれて活動していた時期もあります。

情報を取ってくるといっても、大きな話から現場のものづくりのように細かい話までさまざまです。大きな話は責任者のみが把握していることも多く、そういう方々との会話を増やすことを意識。弾込め部隊の若手にも責任者のところに躊躇することなく足を運ぶように伝えています。

3段階で広報PRの効果を最大限に

──発信する側のポイントはありますか。

広報PR活動全体の話になりますが、ESG説明会やIRイベントなど、会社としての大きな方針や考え方を説明する機会が年に数回あります。これは広報部だけではなく、総合企画部や経理部など関係する部門とも連携しています。

また、方針や考え方の理解を深めるため、ものを見せる、実際に車に乗ってもらう、工場を見学してもらうなど、現場レベルを見てもらう機会を数ヵ月に1回設定しており、それに加えて個別の取材を複数受けるという感じです。

「大きな方針」「触れる機会」「個別の取材」という3段階で深めることで、ここ最近の広報PR活動がうまくいき始めている実感があります。もちろんこれは、広報部だけの力ではなくて、経営層も含めて一貫したメッセージを発していこうというスタンスでやってきていることも大きいと思います。

投資家の見方もかなりポジティブに変わってきましたし、メディアの掲載でも「アイシンは電動化が遅れている」というところから、電動化に関する記事ではアイシンが取り上げられるようになってきたかなと感じています。

「誰に何をどのように伝え」「どう思われたいのか」

──環境や企業体制の変化に応じて、広報部の取り組み、取り組み方も変化されているんですね。これまでの広報PR活動のターニングポイントとなった出来事、ご苦労を乗り越えたエピソードなどはありますか。

2021年頃からは、社会の変化や社内的にも経営統合があり、あらためて「誰に対してどのように発信するのか」「メディア掲載時にどういう見出しを狙いたいのか」「電動化に遅れているというネガティブなイメージがある中でどういうメッセージを発信するのか」というところをかなり意識しました。そのような状況の中、トップが広報PRの重要性を理解し、期待してくださっていたのはありがたかったですね。

あらためて、「誰に何をどのように伝えて、どう思われたいのか」という基本の部分を大切にしながら、連続性を持った情報発信に力を入れられるようになったと思います。今の会社がどう見られるべきか、どう見られたいのかという部分を各部署が同じ目線で受け止めるようになったことで、ブレずにメッセージを発信できるようになりました。

株式会社アイシン インタビュー02

実体験から掲載につなげるメディアリレーションズ

──これまでに手応えを感じた広報PR施策にはどのようなものがありますか。

2022年7月にトヨタ自動車が新型クラウンを発売しましたが、そこにアイシンの新製品「1モーターハイブリッドトランスミッション」が搭載されました。このような場合、通常は「新製品が採用されました」というプレスリリースを配信して終わりですが、もっと話題性をつくるために、「クラウンとアイシン」という特別展示企画を実施しました。

クラウンの歴史とその中に採用されたアイシンの歴史、そして今の新製品を並べた展示会を当社のグループの企業展示館「コムセンター」で開催。長く話題が続き、新聞に掲載された記事やホームページを見た方など、車好きの方が来場してくださいました。リアルに体験してもらうことがうまく成功した事例だと思います。

──「実際に見てもらう」を大切にされているのですね。

そうですね。数年前から積極的に取り組んでいるのがメディア向け試乗会です。当社の試験場に1周3キロほどのテストコースがありますが、そこに開発中の製品を搭載した試乗車を並べ、実際にメディアの方々に試乗してもらいます。そうすると、みなさん「ここまで開発が進んでいるのか」と驚かれて、それをトリガーに関連するネタで新しい取材を誘引することもできるんです。

試乗会などは手間がかかりますが、実際に体験することで実感を持って書いていただけますし、このひと工夫で取り上げ方も違ってくると感じています。

株式会社アイシン インタビュー01

株式会社アイシンのプレスリリース活用

1.一般の生活者に向けた配信:リアルタイム音声認識アプリ「YYProbe」が25万ダウンロード突破、11自治体に実証実験で採用

──ここからはプレスリリースについてお伺いさせてください。どのような配信で反響がありますか。

こちらの例は、PR TIMESのみで配信するために記事を作成し、一般の生活者に向けて配信しました。こういった生活者に近いサービスに関するプレスリリースは、実際にビュー数も伸びることが多く、拡散の実感があります。

株式会社アイシン プレスリリース01

参考:リアルタイム⾳声認識アプリ「YYProbe」が25万ダウンロード突破、11自治体に実証実験で採用

そのほか、一般の生活者に向けた配信例

2.学生の方に向けた配信:“自分らしく働きたい”を叶える、アイシンが取り組むキャリア支援

──今年6月に、「“自分らしく働きたい”を叶える、アイシンが取り組むキャリア支援!」というプレスリリースを配信されていましたが、こちらは学生に向けての発信だったのでしょうか

そうですね。若い方たちに読んでいただきたいと思い配信しました。反響としては、女性誌からの問い合わせや、タイアップのご提案をいただきました。女性誌の掲載において声がかかるのはめったにないので、新たな取り組みだったと思います。

株式会社アイシン プレスリリース02

参考:“自分らしく働きたい“を叶える、アイシンが取り組むキャリア支援

「少し先の未来」をどう伝え、企業価値をどう上げるか

──前身のアイシン精機創業からまもなく60年ですが、広報PRとして歴史を大切にしつつ、新しいエッセンスを加える取り組みなどはされていますか。

コムセンターには、製品の進化や、過去のおもしろい取り組みなどがたくさん展示されていて、歴史を伝えることを会社として大切にしています。

また、当社は製品の歴史だけではなく、失敗の歴史も大事にしているんです。例えば、1997年の火災発生以降は、二度と火災を起こしてはいけないということで、火災をはじめ、品質、安全などさまざまな面での失敗や過去のよくない事例も共有しています。歴史を大切にしながら後世につなげていこうというのが、会社が重視している姿勢です。

今やっていることをきちんと伝える部分はもちろん、少し先を描いたことをどう伝えていくのかというところも、広報PRの重要な役割だと考えており、うまくいった最近の事例が、今秋に東京で開催された「Japan Mobility Show 2023」での施策です。

これまで培ってきた歴史と、部品メーカーとしてこの先どういうモビリティ社会を描きたいのかを、広報PRを中心とした社内で議論を重ねました。その結果、単に製品を並べるだけではない従来と異なる展示ができ、「部品メーカー・アイシンとして描くモビリティの未来」をうまく表現することができたと自負しています。

──最後に、自動車部品メーカーの広報PRとして、今後どのような部分に力を入れていくべきだと思いますか。

100年に1度の大変革期で、自動車業界が大きく変わってきています。株式市場の目も厳しくなる中で企業価値をどのように伝えていくのかという部分で、当社だけでなくいろいろな会社で広報PRの役割は大きくなっているのではないでしょうか。会社が事業価値や企業価値を上げることはもちろんですが、それをうまく広報PRすることによって、長期的価値の上がり方は絶対に変わってくるはずです。

私たちも、広報PR活動を通じて会社のイメージが少しでもよくなり、企業価値が正しく、もしくはそれ以上に評価していただけるように、日々仕事をしています。

株式会社アイシン インタビュー04

アイシンに学ぶ企業価値を高める広報PRのポイント

時代の変化に柔軟に対応しながら、今は「電動化」や「カーボンニュートラル」を重点的に広報PR施策を行うアイシン。事例を交えた広報PRの取り組みや、情報を発信するうえで大切にしていることなど、具体的で参考になる点が多数ありました。

  • 多様なメッセージの発信:製品だけではなく企業の歴史や未来に向けた思いを積極的に発信
  • 広報PRの多角的なアプローチ:メディアリレーション、危機管理、社内報、展示会、Webサイト、SNSなどのさまざまなチャネルを通じて情報を発信することで、さまざまなステークホルダーに効果的にリーチ
  • 実体験に基づくメディアリレーションズ:試乗会などの実体験に基づくイベントを通じて、メディアに製品を紹介することでより深い理解を促す
  • 多様なステークホルダーへのアプローチ:株主、社会、顧客、社員など、伝える相手によってアプローチを変更

自動車部品メーカーはもちろん、業界問わず広報PR施策の参考にしてみてはいかがでしょうか。

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