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年商1/3から再起。缶の新しい価値を展開する、創業116年老舗企業の挑戦|側島製罐株式会社

プレスリリースの可能性拡大に貢献した企業と担当者を讃える「プレスリリースアワード2022」が、プレスリリースの日である10月28日(金)に開催されました。二回目の開催となる今回、初年度である昨年のエントリーの3倍を超える1,412件の中から、10社が受賞しています。

参考:総エントリー1412件から受賞10社を発表 「プレスリリースアワード2022」 茨城、東京、愛知、和歌山、大阪、京都、広島のスタートアップから老舗まで

10社のうち、インフルエンス賞(発信と活用により社内外へ最も広く好意的な影響をもたらしたプレスリリースに贈る賞)を受賞した側島製罐株式会社。審査員から「思わず語りたくなる」と評価されたプレスリリースを書いた同社石川貴也さんを取材しました。

側島製罐株式会社

石川貴也(Ishikawa Takaya)

愛知県出身。2011年に慶應義塾大学経済学部を卒業後、日本政策金融公庫に入庫、国民生活事業本部にて浜松支店、千葉支店、審査企画部、内閣官房への出向、事業企画部とキャリアを進める。約10年勤めた時に、実父が経営する側島製罐に跡取りがいないという現実と向き合い、一念発起して2020年4月に転職。創業100年を超えるレガシー企業にてデジタル化、プロ人材の採用、広報活動、理念の形成などを通じた組織の立て直しを行っている。

【インフルエンス賞 受賞プレスリリース】
【老舗缶屋の挑戦】「いつか一緒におしゃべりしようね」親子の絆を深める缶”Sotto”新発売!

【審査員より】
受賞理由:株式会社PR TIMES 広報PR管掌取締役 三島映拓より
製品発売のプレスリリースでありながら、その背景ストーリーが濃密で、思わず語りたくなる。年商が落ち込み苦闘する老舗缶メーカーが、「宝物を託される人になろう」という新たに策定したビジョンの下で、下請けでなく当事者として挑戦した新製品。文面と小見出し、写真からひしひしと伝わる想いが、この製品に価値を乗せている。ビジョンの下でとても真摯にものづくりしてきた様子が伝わる、リブランディングの好例。

側島製罐株式会社(愛知県名古屋市):最新のプレスリリースはこちら

新しい価値でマーケットを広げる

同社は、2000年(年商およそ15億円)から売り上げが落ちはじめ、2020年には5億円を割り込み、苦しい状況が続いていたそうです。そんな状況下、家業を継ぐために戻った石川さんは「Sotto」の販売を開始。一缶3,000円という、缶としてはあまり耳にしない価格の「Sotto」の販売背景とは。

当たり前を疑い、新しい価値を創出

──「Sotto」の販売の背景を教えていただけますか。

家業に帰ってきたとき、すごく不思議だったんです。卸値は、一缶100円程度が相場ですし、さまざまな缶が100円均一でも販売されています。しかし、スタッフのみんなが一生懸命、きれいなものを作って「本当に100円の価値?」と思ったのがスタート地点。みんなで作っているものの価値を最大化したい、もっと報われてほしいという想いからです。

──当たり前を疑ったんですね。

そうですね。「Sotto」と別ですが、10年前に販売を開始して長期在庫になっていたカラフル缶があって、廃棄処分の予定でした。しかし、処分前にTwitter(現 X )でそのことを投稿したところたくさんの方が見てくださって、昨年からBASEで通販を開始。さらには大手企業様との取引にも至ったということもありました。BtoBの販売としてはほとんど売れていなかったので、「素人の僕が何かやっても難しいだろうな」「今まで散々手を尽くした結果だろうし」と思っていましたが……。使い道発見!という感じでしたね。

参考:Twitterでバズった1.4万いいね!の缶、ついに新宿マルイ本館へ!エコアクションを推進する“推し活缶コレクション”を3/11(金)より発売!

ほかにもオリジナルのデザインの缶を販売をしているのですが、一般的にはオリジナルのデザインで缶を作ろうとすると、印刷工程がネックで少なくとも3,000缶からしか作れません。しかし、僕たちが在庫としてオリジナルデザインの缶を用意しておいて、それを切り売りして販売することで、町のお菓子屋さんなどの200〜300缶のご要望にも応えられるようになりました。

側島製罐株式会社取材01

新しい価値が生まれ、マーケットが広がる

──新しい缶の用途を提案してマーケットを広げているんですね。

僕は、他社の売り上げを奪い合って、自社だけ売り上げが伸びても嫌なんです。だから、製缶業界以外を見ています。新しい価値をつくらない限りマーケットは広がらないし、缶をひとつ100円でしか売れないような状況に疑問を持たない限り、この状況からの脱却は難しいと思っています。

広く訴求し、より一層の価値向上を図る

缶の使い道を提案し新しい価値を展開してきた石川さん。しかし、それを世の中の人に知ってもらう必要があります。

「値段だけで選ばれない」ための広報PR活動

──石川さんが「広報やろう」と思ったきっかけや前職での経験・エピソードはありますか。

カラフル缶のTwitter投稿が反響を呼び、仕事の引き合いが増えたことです。広報としてのノウハウは一切なく、「こういう仕事の取り方もあるんだな」と思ったのがきっかけでした。

僕たちの業界は、決まった形のものをたくさん作る量産の仕事で、技術的な差異が生まれにくい製品なんです。判断される軸は、「QCD(Quality/品質、Cost/コスト、Delivery/納期)」。缶を運ぶというのは空気を運ぶようなもので、高い輸送費がかかります。それにもかかわらず、「Cost/コスト」がもっとも重視されているんです。

──出荷先が遠いと、より高くなりますよね。

そうなんです。地の利が悪く、中部地区から東京や大阪に出荷するだけで価格も他社と比べると高くなるんです。そんな会社が生き残っていくためにどうしたらよいかと常に考えていて……。その答えのひとつに「値段ではなく、側島製罐に製品を作ってもらいたいと思われる会社を目指す」がありました。そんなことを考えていたときに、広報PR活動で感触を得たんです。それで、いろいろやってみようと思い、広報っぽいことを始めました。

社運をかけた挑戦をプレスリリースで

──石川さんのご入社後からプレスリリースを配信されていますが、「Sotto」の発表はどんな想いでプレスリリースを配信いただいたのでしょうか。

渾身の一作、社運をかけた挑戦だったと振り返って思います。缶を一缶3,000円で売るというのは、既成概念をぶっ壊す製品だと思うんです。一般的には、柄が入った缶でも300円程度でしょうか。同じくらいの大きさの缶(参考:Sotto縦31.3cm×横23.2cm×高さ10.0cm)に、お菓子などが入って2,000~3,000円くらい。それが、中身が何も入っていないのに3,000円するんです。

風穴開ける。と言ったら偉そうですが、それくらいのことを取り組まないと、自分たちの業界が生き残っていく、缶の価値やバリューを高めない限り生き残っていくのは難しいと思っています。自社のためはもちろん、缶というプロダクトのためにも、多くの方に広く知っていただきたいと思って配信しました。

──配信には、多く広くの方に知っていただくほかに、発注数を増やすという目的もあったのでしょうか。

結果そうなればいいなと思ってましたが、それは目的にしていなかったですね。知っていただきたかったのは、側島製罐がやっていること、こんなことをやっている人がいるということ

僕たちは地方の中小企業ですが、想いを込めて製品を作り、少しでも世の中を良くしたいと思っています。そんな会社としての考えやスタッフみんなの頑張っている姿を知っていただきたかったんですよね。

受賞プレスリリースはどうやって生まれたのか

会社の取り組みや考え、スタッフが頑張っている姿を知ってほしいという想いから配信されたプレスリリース。見事、社内外へもっとも広く好意的な影響をもたらしたとしてインフルエンス賞を受賞しましたが、どのように作成されたのでしょうか。

いちばんの武器はストーリー

──プレスリリースの構成が非常にわかりやすかったのですが、意識していたポイントはありますか。

プレスリリースの型のようなものは意識していなかったです。僕自身、書き終えてみて「ランディングページみたいだな」という感想を持ったくらい、プレスリリースっぽくはないかもしれませんが、個人的には満足していました。

知らない会社がよくわからない製品を出すことに対して、メディアの方は注目しないと思うんです。プレスリリースは目を引かないと、たくさん配信されているプレスリリースに埋もれる。プレスリリースが埋もれなかったとしても、数ある新しい製品のひとつにすぎない。

自分たちのいちばんの武器は何かと考えたときに、「ストーリーだろう」と思ったんですよね。「自分たちが何者であるのか」「どんな想いでやってきたのか」「これまでに失敗もあったが、今はこうやってがんばっている」、そんな良いことも悪いこともすべて包み隠さず世の中に発信することが、僕たちのいちばんの届け方だと思っています。

そのため、型にはまった書き方よりも自分たちの想いが伝わるようなストーリーを意識していますね。

──販売に至った背景がさまざまな角度から書かれていて、より多くの方に想いが届くのだろうと感じましたが、こだわったポイントを教えてください。

「なぜ」がないと読む理由を感じてもらえないと思うんです。

プレスリリースには、すごくきれいなことが書いてありがちです。しかし、きれいな文章にまとめることよりも、多少不格好でも自分たちの想いが伝わることのほうが大切だと思っています。自分たちが「なぜ」やりたいのかということをわかりやすく言語化することが大切で、書き手やその会社の人たちの熱量がにじみ出るような、手触り感があるプレスリリースが素敵だなと個人的には思います。

「なぜ」Sottoを販売しているのか、「なぜ」Sottoという名前になったのか

側島製罐株式会社取材プレスリリース01

「なぜ」今の会社状況にあり、「なぜ」理念をつくり、「なぜ」Sottoが生まれたのか

側島製罐株式会社取材プレスリリース02

<このプレスリリースのポイント>

たくさんの「なぜ」には、「起承転結・展」の要素がまとまっています。

  • 起:「なぜ」Sottoを販売し、「なぜ」今の会社状況にあるのか(世の中に対する価値、自社というふたつの軸でSottoの販売にあたっての背景を伝えています)
  • 承:「なぜ」理念をつくったのか(起:会社状況を踏まえ、転:次のステップにつながる布石、構成要素です)
  • 転:「なぜ」Sottoが生まれたのか、「なぜ」Sottoという名前になったのか(起:販売背景、承:理念を踏まえてできています)
  • 結:「なぜ」Sottoを販売しているのか
  • 展:「なぜ」Sottoを販売し、「なぜ」理念をつくったのか

「オープンにする」が自分のキーワード

──ご自身でプレスリリースアワード2022の受賞の秘訣を挙げるとすると、どのような点だと思いますか。

そうですね……。ほかの会社さんと違うとすれば、ダメなところをオープンにしている点かと思います。プレスリリースに限らずですが、自分たちのうまくいった部分をきれいに整えて発信している方が多いと思います。でも、僕がいちばん大切なのはプロセスだと思っていて。「たくさん失敗した。その結果、今がある。」と伝えられている点は大きなポイントかな、と思っています。

また、オープンにするというのは自分の中でキーワードなんです。普段のSNSの発信においても、失敗したこと、うまくいったこと双方隠さずに書いています。人間なので、うまくいかないこともある方が親近感もあるかな、と。

側島製罐株式会社取材02

連鎖する依頼、働くスタッフへの影響

──メディア露出以外にも登壇依頼などさまざまな反響があったと伺いました。

プレスリリースを見て、メディアの方に取材していただいたりテレビに出させていただいて。そして、その記事や放送を見た方から登壇依頼をいただいて。登壇依頼はいくつかありますが、中小企業の立て直しについてお話したり、大学教授が集まる研究会や分科会に呼ばれてお話したり。すごく連鎖していて、仕事の引き合いはとても増えましたね。ホームページのリニューアルをするなど、一概に広報PRの効果と言えませんが、会社への新規の問い合わせ件数は5倍ほどになっています。

また、反響ではないですがスタッフのモチベーションアップにもつながっていると思います。BtoBの会社の場合、自分たちの仕事が世の中の生活を豊かにしているかが見えにくいと思うんです。加えて、1万缶に1缶でも不良品があると怒られる世界ですから。その中で、メディアに取り上げていただいたり、インタビューで実際に買ってくれたお客さまの声が聞けたりという体験は、自分たちの普段の仕事の価値が認められたように感じる機会になっているのではないかと考えています。

側島製罐株式会社取材03

側島製罐に学ぶ|新しい価値の創出と訴求

石川さんは、自社だけという「点」ではなく、街やその街の企業という「面」で広報PRをやりたいという思いも語ってくれました。広報PR活動として街と一緒に何かできないかと働きかけているそうです。

老舗企業の新しい挑戦の背景にあった、新しい価値を提供すること、業界全体を盛り上げようとする姿、どうやって訴求するのか、など。プレスリリース配信するものの、届けたい相手になかなか響かない……という方にとって、参考にしたい考え方が多かったのではないでしょうか。

  • これまでの「当たり前」を疑い、新しい価値を提供することができる
  • 会社や製品で選ばれるために、価値を広く訴求することが必要である
  • 「なぜ」があるストーリーこそが武器になる
  • きれいごとではなく、オープンな発信は人を感じ、他社との差別化になる

側島製罐株式会社のほかに全9社が受賞しています。「プレスリリースアワード 2022受賞プレスリリース」より、全受賞プレスリリースをご覧いただけます。

(撮影:近澤幸司)

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この記事のライター

丸花 由加里

丸花 由加里

PR TIMES MAGAZINE編集長。2021年、PR TIMESに入社し、「PR TIMES MAGAZINE」、ご利用企業向けのコミュニティイベント「PR TIMESカレッジ」の企画・運営を行う。2009年に新卒入社した大手インターネットサービス運営会社では法人営業、営業マネージャーとして9年半、その後オウンドメディアの立ち上げに参画。Webコンテンツの企画や調査設計に携わる。メディアリレーションズを主とした広報を経て、現職。

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