2021年にプレスリリース発信文化の普及と発展を目的として始まった「プレスリリースアワード」。2024年10月28日に、2481件のエントリーの中から10部門の賞に決定した11社を讃え、授賞式が開催されました。
本記事では、社会課題の解消を事業として取り組む2社の受賞プレスリリースをピックアップ。株式会社ヘラルボニーの小野静香さんとピジョン株式会社の緒方真優さんに、プレスリリースを配信した背景や目的、受賞に対する想いや周囲の反響などを伺いました。
株式会社ヘラルボニー:多くの共感を集めた「#障害者を消さない」
「異彩を、放て。」をミッションに掲げ、障害へのイメージ変容と新しい文化の創出を目指し、「異彩作家のアート」を軸にした事業を展開する株式会社ヘラルボニー。国内外の主に知的障害のある作家とアートに関するライセンス契約を結び、さまざまな事業を展開しています。
創業6年目を迎えた今年は、世界各国の革新的なスタートアップを評価する『「LVMH Innovation Award 2024」において、日本企業として初めてファイナリスト18社に選出、「Employee Experience, Diversity & Inclusion」カテゴリ賞を受賞』。『フランス・パリでの子会社を設立』するなど、同社にとってこれまで以上に大きな飛躍の年となりました。
また、1月31日から3月15日には、初主催となる国際アートアワード「HERALBONY Art Prize 2024」を開催。単なるアワードで終わらせるのではなく、受賞者の作品が実際に企業に起用されるなど道筋まで見いだすことで、多様性を尊重し合える社会の実現に取り組んでいます。
そして、今年1月1日に発生した能登半島地震の際には、避難所などにおいて困難を抱える障害のある人たちのためのガイドラインや災害時に役立つ情報をまとめたWebサイトを開設。同時に障害のある人のための災害情報を届ける活動「#障害者を消さない」をスタートしました。そのプレスリリースは、「プレスリリースアワード2024」において社会的な存在意義に対する忠実な姿勢が高く評価され、社会とのつながりを表現し深めることにもっとも貢献したプレスリリースに贈られる「ソーシャル賞」を受賞しています。
【受賞プレスリリース】:ヘラルボニー、障害のある人のための災害情報を届ける活動「#障害者を消さない」を始動
【受賞理由】
1月1日の地震からわずか2日でサイトを立ち上げて開示。同社の社会的な存在意義に忠実な姿勢を感じる。地震後の障がい者の方々を思って、まずは災害情報を届け、そして当事者の声を集める活動。引用されている当事者家族のコメントに胸が苦しくなる。シンプルでタイムリーだからこそ情報が強い意味と力を持ち、ここから始められることがあると信じられるプレスリリース。(審査員:三島 映拓 株式会社PR TIMES 広報PR管掌取締役)
株式会社ヘラルボニー 広報室 シニアマネージャー
ITベンチャーにて子会社の広報部門立ち上げなどを担当したのち、2022年よりヘラルボニーに参画。広報室の責任者としてPR戦略の策定、コーポレート広報、BtoB広報、BtoC広報、メディア向けPRイベントの企画・運営など、メンバーと共に幅広くPR業務を担当。昨年は「ガイアの夜明け」などテレビ露出を含む年間1,000件以上のメディア露出を実現。2023年ACC「PR部門」グランプリを受賞。
──今年1月1日に発生した能登半島地震からわずか2日で、今回の受賞プレスリリースが配信されています。取り組まれてきた経緯を教えていただけますでしょうか。
能登半島地震が発生した日の夜に、ヘラルボニーCo-CEOの松田崇弥と文登から社員にSlackで「今回の地震を受けて本質的に障害福祉の力になれることについて、スタートアップとしてスピード感を持って実行・実現していけたら。明日の午前中に双子で会議を主催しますので(ご無理だけはなさらず、これは心の底から本気です、年始なので)もしも出席できる方がいらっしゃればお願いします!」と呼びかけがありました。ヘラルボニーは岩手県に本社を構え、両代表とも岩手県出身で学生時代に東日本大震災を経験しています。東北の企業として「自分たちだからこそできることはないか」と意見を出し合う中で、東日本大震災の際に「避難所から障害者が消えた」という言葉にみんなの関心が集まりました。障害のある人たちが避難所から追いやられたり、「迷惑をかけたくない」と自ら避難所を去ったり、いつまた余震が来るかわからない恐怖の中、半壊する自宅に戻らざるを得ない状況があったというのです。
たしかに、連日のように災害状況が報じられる一方で、「障害のある当事者向けの情報」はほとんど報じられていません。「いない」ことにされている、と考えるとハッとしました。障害のある人の中には、環境の変化にパニックを起こして大声を出し、落ち着きを失ってしまう傾向がある方も多くいます。しかし、避難所ではこうした特性への配慮が欠けていたり、十分ではなかったりといった課題もあるのです。これは、災害大国に生きる我が国の一人ひとりが見つめるべき社会課題であると捉え、特設サイトに障害のある人に向けた情報をキュレーションし、SNSで当事者からの声を集める「#障害者を消さない」という活動を立ち上げました。
そして、これは単なる障害のある人向けの災害情報を発信するにとどめず、障害のある人の尊厳を証明する社会活動と捉え、世の中の多くの方に伝えるためにプレスリリースを配信しました。
──プレスリリースを配信後、どのような反響がありましたか。
ありがたいことに取材依頼も殺到し、朝日新聞や毎日新聞、TBSラジオ、Webメディアなど計41件のメディアに取り上げられました。また、2月には、NHK「おはよう日本」で特集も組まれ、あらためて障害のある人が置かれる災害時の課題にスポットを当てていただくことができたと思います。
東日本大震災の際には、障害のある人の避難に関する課題を取り上げるメディアは非常に少なく、そういう状況にも課題を感じていました。しかし、今回多くのメディアから取材をいただいたことには社会の関心ごとの変化を感じます。さらに、取材の際にメディアの方から「マイノリティの現状を知らせる重要性を感じた」という声もいただくことや、自治体の方から「障害のある人の避難の状況についてヒアリングさせてほしい」「避難研修の参考にしたい」といった話もありました。メディアを巻き込んで「世の中を変えていくきっかけ」を多少なりともつくれたのではと手応えを感じています。
──反響の中には、障害がある人やそのご家族からの声もあったのでしょうか。
当事者からも多くの共感の声が寄せられ、Xで募った「#障害者を消さない」への投稿数は、開始から1ヵ月で760件を超えました。
その中には、「東日本大震災では、息子が不安から騒ぎ、周囲に迷惑をかけるのがわかっていたから避難所には行けなかった」「防災訓練で『避難しませんよね?』と言われた。重度の知的障害と自閉症のある子とともに避難することは、周りも自分自身も難しい」という声もありました。
障害のある人と暮らす家族が、周囲の目を気にして最初から避難所に行かない・行けないと感じている課題が明らかになったのです。また、実際にインタビュー活動をする中で、福祉避難所を増やしてほしいという声や、避難所の中にパーソナルスペースがほしい、落ち着ける空間(カームダウンスペース)が必要、ヘッドフォンなど周囲の音を遮断できる物資の提供が必要といった、障害のある人の特性に応じた支援の必要性もわかりました。
──今回の受賞プレスリリースは、当事者家族のコメントを引用するなどインパクトのある構成も評価されたポイントのひとつでした。プレスリリースを執筆するにあたって、何か意識したことはありますか。
何よりも重視したのはスピードです。緊急性の高い情報でしたので、最速でアクションすることにコミットしていました。地震発生の翌日には社内でミーティングが行われ、1月3日には特設サイトの公開と同時にプレスリリース配信というスピード感でした。私を含め、広報チームのメンバーも年末年始の休暇中でしたが、被災地のことを思うと「1秒でも早く」という思いで、原稿のチェック、入稿、SNS発信を行いました。
また、「#障害者を消さない」という強くてシンプルなコピーを採用したのもこだわったポイントです。弊社では普段、「障害者」という言葉を用いないという表現ポリシーがあるため、「社内でも別のコピーが良いのでは?」といった意見もありました。しかし、議論の結果、今回のケースでは「伝わるインパクト」とハッシュタグでもしっかり使われることを重視。プレスリリースのOGP画像にもシンプルにそのコピーを載せました。
──最後に、受賞が決まってからの想いをお聞かせください。
能登半島地震発生からしばらくは、テレビや新聞、SNSも「地震」に関するニュースであふれていました。しかし、年の瀬が近づくにつれて、能登半島地震がだんだん遠い存在になっているのではないかと感じています。そのような中で、今回の受賞がきっかけとなり、世の中に「#障害者を消さない」を伝える機会が生まれたことをありがたく思います。
ヘラルボニーは、この活動を単なる災害時の情報発信ではなく、障害のある人の存在価値を表明するための社会活動と考えています。災害時にいかに障害のある人に対する支援という視点が欠落していたのか、この活動を通じて私自身も初めて知ることが多くありました。今回の受賞が、社会課題を風化させず、またここからアクションを起こすきっかけにつながるとうれしく思います。
ピジョン株式会社:当事者の心情に配慮し、口唇裂・口蓋裂への理解を促進
次に紹介するのは、育児用品をはじめ、マタニティ用品、介護用品、保育サービスなどを手掛けるピジョン株式会社。60年以上にわたる研究に基づき、当事者のニーズに寄り添った製品やサービスを提供することで、「赤ちゃんにとってもっとやさしい世界」の実現を目指しています。
今年4月には、口唇裂・口蓋裂や疾患などで哺乳が困難な赤ちゃんとご家族のために開発した哺乳器「ロングフィーダー」を発売。単なる商品の紹介にとどまらず、当事者の心情に配慮しながら疾患に対する理解を促したプレスリリースは、プロダクトや社員、顧客に対する愛と情熱がもっとも感じられるプレスリリースに贈られる「ヒューマン賞」を受賞しました。
【受賞プレスリリース】:口唇裂・口蓋裂や疾患などで哺乳が困難な赤ちゃんと家族のための哺乳器 病院と家族の声をもとに、より使いやすい仕様に改良した「ロングフィーダー」新発売
【受賞理由】
口唇裂・口蓋裂という、まだまだ一般の認知度は高くない疾患により、哺乳が困難な赤ちゃんとご家族のための商品。患者の画像を使うことがもっとも興味を喚起できるだろうと短絡的に考えてしまいがちです。そこで一歩立ち止まり、当事者の心情を傷つけないような画像選びに何度も議論を重ねたと伺いました。その姿勢に、きちんと顧客に向き合う愛情を感じます。情報は単なる羅列だと、相手に伝わるものにはなりません。商品の説明も丁寧でわかりやすく、何をどの順番でどういうふうに伝えるか。あまり目立たない部分かもしれませんが、そういった丁寧な編集も素晴らしかったです。(審査員:桜川 和樹 グローバル・ブレイン株式会社 Partner / Editor in Chief)
ピジョン株式会社 ベビーケア事業本部 PR推進部 PRグループ
2021年、ピジョン株式会社に入社。当初は、人事部にて労務管理業務に従事。その後、専門的なケアが必要な赤ちゃんとご家族のための活動である「ちいさな産声サポートプロジェクト」に共感し、社内公募に応募してPRグループへ異動。現在は、母乳バンク支援や世界早産児デー啓発活動、商品PR業務を担当。
──「プレスリリースアワード2024受賞」、おめでとうございます。最初に、受賞したプレスリリースを配信した背景や目的について教えていただけますでしょうか。
新商品「ロングフィーダー」の発売と、弊社の支援を紹介するためにプレスリリースを作成しました。この商品は、口唇裂・口蓋裂や疾患などで哺乳が困難な赤ちゃんとご家族のために開発された哺乳器です。弊社では40年以上前から、専門的なケアを必要とする赤ちゃんとご家族のための哺乳器「細口哺食器」を提供していましたが、この度病院と家族の声をもとに、より使いやすい仕様にリニューアルしました。
「ロングフィーダー」は店頭に並ぶことはなく、対象者が非常に少ない商品です。そのため、プレスリリースには不向きなのではと考えていました。しかし、「この世界をもっと赤ちゃんにやさしい場所にする」ことを目指して活動しているピジョンにとっては、「専門的なケアを必要とする赤ちゃんへの商品開発を昔から大切にしていること」「さまざまな赤ちゃんがいること」を多くの方に知っていただき、それぞれのペースで成長する赤ちゃんをみんなで見守ることができる社会になることを願って、プレスリリースを配信しました。
専門性が非常に高い商品でしたが、23件のメディア掲載につながりました。日本医療衛生新聞でも取り上げていただき、関心がある層へアプローチできたと思います。
また、「ロングフィーダー」を導入されている病院の先生からは、「ミルクが最後の1滴まで乳首に流れてくるので、きっちり飲ませることができるようになり、いい改良だった」と、お声をいただきました。本商品のプレスリリースを配信したことで、少しでも口唇裂・口蓋裂をはじめとする専門的なケアが必要な赤ちゃんとご家族への理解促進につながってくれたらうれしいです。
──受賞プレスリリースは、きちんと顧客に向き合う姿勢が高く評価されていました。プレスリリースを作成する際に、どのような点にこだわったのでしょうか。
今回のプレスリリースを書くにあたってこだわったポイントは2つあります。1つ目は「口唇裂・口蓋裂」という、普段は聞き慣れない疾患について皆さんにご理解いただくための工夫です。疾患の画像を用いた表現については、社内の開発担当や研究担当と何度も議論を重ね、当事者を傷つけることなく正確でわかりやすさとは何かを模索しました。
2つ目は、利用者の声を取り入れたことです。読んだ方が使用状況を想像しやすく、自分ごと化できるよう含めました。
──疾患を持つお子さまの写真は胸が痛むものでした。しかし、「ロングフィーダー」がなぜ必要か、という点を初めて見た人にとっても理解することができたと思います。最後に、受賞が決まってからの想いや、今後予定している御社の取り組みについてもお聞かせください。
「ロングフィーダー」は、なかなか知っていただく機会が少ない商品ですが、弊社の「赤ちゃんをいつも真に見つめ続け、この世界をもっと赤ちゃんにやさしい場所にします」という存在意義を体現する、非常に想いがこもった商品です。今回のプレスリリースによって、その魅力が伝わったことを大変うれしく思いました。また、開発担当者がとても喜んでくれたことで、プレスリリースを配信することのやりがいを感じました。
弊社では「ちいさな産声サポートプロジェクト」と称して、早産や低出生体重で生まれた赤ちゃんなど、専門的な治療が必要な赤ちゃんとそのご家族へ向けたサポート活動を行っています。今後の取り組みとしては、その一環として、11月17日の世界早産児デーに合わせ、今年は11月16日(土)に東京都第一本庁5階大会議場にて「世界早産児デー啓発イベント2024~ちいさく生まれたこどもと家族を支えるあたたかい社会へ~」の開催が決まっています。
日本では、約20人に1人の割合で生まれる早産に対して理解や支援が進んでいないのが現状ですが、早産・低出生体重児で生まれた赤ちゃんとそのご家族への理解を促進し、社会全体で支えられる未来を目指して、引き続き啓発活動に取り組んでまいります。
まとめ:「当事者を大切に想う気持ち」を軸に社会課題の解決に立ち向かう
株式会社ヘラルボニーの小野静香さんと、ピジョン株式会社の緒方真優さんにお話を伺いました。社会的な努力が求められる課題に対し、自社がどのような形でその解決に貢献できるのかを常に考え、行動する両社の姿勢は、襟が正される思いです。
2社の受賞プレスリリース、広報PRにかける想いからの学びは3点です。
- 目的に応じて、時にはインパクトのあるコピーで課題の本質を伝える
- 当事者の声を取り入れることで、「自分ごと化」を促す
- 当事者の心情に配慮しつつ、事実をしっかりと伝える
上記のポイントを意識した両社のプレスリリースは、単にサービスや商品の情報を伝えるだけでなく、社会課題に対して世の中が考えるきっかけを生み出しています。社会性や公共性を大切にした事業を展開する企業の広報PRにとって、参考になる事例といえるでしょう。
記事内の受賞理由は、プレスリリースより引用しています。
引用:過去最高2481件の応募から11件の受賞プレスリリースが決定。プレスリリースアワード2024受賞企業とBest101を発表
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