男子プロバスケットボールリーグ、B.LEAGUE(Bリーグ)の中でも注目度が高い「千葉ジェッツふなばし」。2023-2024年シーズンは、天皇杯での2年連続5度目の優勝や日本クラブとして初めてのEASL(東アジアスーパーリーグ)での優勝を果たしました。日本生命 B.LEAGUE CHAMPIONISHIPはベスト4で終え、シーズン三冠は逃したものの躍進を続けています。
本記事では、同チームの広報PRを務める株式会社千葉ジェッツふなばしの芳賀宏輔さんにインタビュー。SNSやプレスリリースを巧みに使ったファンとのコミュニケーション術や情報発信で大切にしていること、情報収集のコツなどについてお話を伺いました。
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株式会社千葉ジェッツふなばし チーム統括本部 チームブランディング部 メディアチーム リーダー / ジャンボくん マネージャー
埼玉県出身。大手芸能プロダクション「研音」でマネージャーを務めた後、製菓メーカー「BAKE(ベイク)」の広報に転身。その後、千葉ジェッツの試合を見て衝撃を受け株式会社千葉ジェッツふなばしへの転職を決意。当時の代表取締役社長で現バスケットボール男子Bリーグの島田慎二チェアマンの秘書を1年務めて現職。
GM直轄の部署で選手・チームの魅力を発信
──本日はよろしくお願いいたします。早速ですが、「千葉ジェッツ」の広報PRの組織体制について教えていただけますでしょうか。
千葉ジェッツの広報PRを担う私を含めた3人は、チームのGM(ゼネラルマネージャー)が統括する「チーム統括本部」に所属しています。広報PRはマーケティング部など事業部側に置かれることが多いと思うのですが、広報PRチームが選手や千葉ジェッツというチーム側に寄り添いながら、フロントスタッフとのかけ橋としての役割を担うため、2023年の組織編成で現在の体制になりました。
──「チームとフロントスタッフとの架け橋」ということですが、チームや他部署との連携ではどのようなことを大切にされているのでしょうか。
チームとの連携に関していうと、とにかく選手たちと接する時間を増やすことですね。練習を終えた選手に声をかけて話を聞いたり、その光景を写真や動画にしたりして、選手の表情をファンの皆さんに届けられるようにしています。
SNSに投稿すると選手が絡んでくれて、さらにコミュニケーションが生まれることもあります。多くの選手との接点を大切にしたいと思い、練習がある日はできる限り毎日選手に会いに行くようにしているので、シーズン中は事務所にいるほうが少ないかもしれないですね。
他部署との連携に関していうと、テキストコミュニケーションだけではなく直接会話することを心がけています。コロナ禍以降はSlackでのやり取りが中心でしたが、親会社が変わり規模が大きくなったこともあり、テキストコミュニケーションだけでは行き違いが生じることが増えてしまいました。大切なことほど対面や電話での直接の会話が必要だと感じています。
チームだけでなく企業としての可能性を伝えていく
──芳賀さんはじめ、千葉ジェッツの広報PRとしての目標はどこに置いていますか。
今シーズンからホームアリーナが収容客数1万人規模の「LaLa arena TOKYO-BAY」に変わるこのタイミングで、さらに注目度を高めていきたいと考えています。例えば、BリーグにおけるSNSのフォロワー数やYouTubeの登録者数をすべて1位にすることも目標のひとつです。
また、バスケットボールがこれだけ注目され始めている中で、メディアにどのように取り上げてもらうのかをしっかりと考えていくことが必要だと感じています。例えば、今までは、チームの試合結果や選手についての発信が中心でしたが、「株式会社千葉ジェッツふなばし」が企業としてどう成長しているのか、バスケットボールという競技自体がビジネスとしてもエンターテインメントとしてもどんな可能性があるのかなど、プロバスケットボールチームとしてだけでなく企業としても注目されることをめざしたいですね。
参考:【千葉ジェッツ】Bリーグ「ソーシャルメディア最優秀クラブ」2年連続4回目の受賞!!一過性の流行だけに頼らない地道な広報PR活動が受賞を後押し!
参考:Bリーグ【千葉ジェッツ】が運営するYouTube「ジェッツチャンネル」が登録者15万人を達成!!
──具体的に、どのような広報PR活動をしていきたいと考えていますか。
すべての試合を1万人の観客で埋めていくことを考えると、今まで出ていなかったメディアにも掲載されて、より幅広い層のお客さまに知ってもらう必要があると思います。例えば、今まで選手が出ることが少なかった女性誌とコラボレーションすることによって、新たなお客さま層に注目していただくこともひとつです。
また、ビジネス系メディアに企業として掲載されることも理想的だと考えています。株式会社千葉ジェッツふなばしは今、30億ぐらいの売り上げを立てられるようになってきていて、Jリーグの1部リーグのクラブと同等の規模感でビジネスを展開できるようになってきました。そういう部分も取り上げていただくことで、バスケットボールのクラブチームで働くことやバスケットボールに関連する仕事をすることに興味を抱いてもらえるように、という視点でもしっかり発信していきたいですね。
ファンコミュニケーションで意識している2つのこと
試合結果だけにしないストーリーの発信
──ファンとのコミュニケーションの取り方で、どのような点を大切にしていますか。
SNSをとにかくこまめに発信することを大切にしていて、実際の発信量はほかのスポーツと比べてもかなり多いほうではないでしょうか。また、発信の際には「ラフな投稿」「親しみやすさ」を意識しています。スポーツはどうしても勝利によって大きく左右する事も多いので、その中でラフな投稿をしていると「そんなことをしているから負けるんだ」と言われてしまうリスクもありますが、バスケットボールを勝敗だけでなく、エンターテインメントとして捉えてもらうよう意識しています。選手の情報だけではなく、練習が終わったあとのちょっとした表情やその日のできごとなどをユーモアを交えて発信することで、できるだけ毎日チームに触れていただきたいと思いSNSを運営しています。
社会課題解決のハブをめざす地域貢献活動
──チームや選手に関することだけでなく、最近ですと「農林水産大臣賞」受賞のニュースなど地域貢献活動に関する発信も多いのが印象的です。
千葉ジェッツは地域に支えられて活動してきたチームで、地域チームとして成長してきました。チームが大きくなってできることが増えたため、今度は私たちが支える側になりたい、地域課題を解消していくハブという思いで、「“ささえる”からはじまる社会貢献」をスローガンに『JETS ASSIST(ジェッツアシスト)』という社会貢献プロジェクトを立ち上げています。
千葉県の子どもたちを試合に招待させていただく「ちば夢チャレンジ☆パスポート・プロジェクト」や、ひとり親世帯を対象としたバスケットボール教室の開催、さまざまな事情で支援が必要な家庭に食品を届ける「フードドライブ」などを通して、経済的・社会的に恵まれない境遇にある方々への支援活動や啓発活動に力を入れています。自身が患った病気の経験を踏まえ、長期療養をしている子どもに向けたプロジェクトを自主的に立ち上げている選手もいるんです。
参考:【Bリーグ】「千葉ジェッツ」が第八回食育活動表彰において「農林水産大臣賞」を受賞!!
メディアに対する話題性と企業広報に伝えるチームの可能性
広くアンテナを張る日々の情報収集
──芳賀さんは他社のプレスリリースもよくチェックされているそうですが、どのように情報を探されているのでしょうか。
前職のBAKEで広報PRを担当していたときに、「プレスリリースを上手に書きたいなら、とにかく毎日PR TIMESと日経MJを読みなさい」と上司に言われて以来、この2つをチェックすることが習慣になっているんですよ。特にPR TIMESは掲載されているプレスリリースの件数が膨大なので、「今日のランキング」「SNSで話題」「スポーツ」「エンタメ」のカテゴリを中心に、ランキングが上位のものに目を通すようにしています。
また、流行しているものを知りたいときにはTikTokを活用します。誰が人気で、どんな音楽が流行っていて、どういうお店が注目されているのかなどの「今話題のもの」はTikTokを見るとわかりやすいですね。自分の年齢が上がってきて若者たちの興味がわからなくなっているからこそアンテナを広く張り、XやInstagramだけでは得られない情報を得るようにしています。
ほかとは一味違う遊び心を
──狙い通りもしくはそれ以上の効果が得られたプレスリリースや企画はありますか。
ふなっしーの選手契約のプレスリリースは予想以上の反響がありましたね。Xの反応も歴代投稿の中でも高かったですし、多くのメディアが取材してくださいました。ご当地キャラが応援団長や応援アンバサダーを務めるケースはほかのスポーツでもありますが、選手契約をしたチームはなかなかないと思います。GMのコメントを載せた遊び心のあるプレスリリースが大きな反響につながったのではないでしょうか。バスケットボールが好きな人やふなっしーのファンだけでなく、異なる業界の方からも「こんなにおもしろいことをしているんだ」と注目していただけたと思います。
その後も、ふなっしーの対談を企画してプレスリリースを配信したことで、選手契約時、対談時、試合当日と3段階でメディアに取り上げていただくことができました。
参考:千葉ジェッツ 梨界のスーパープレーヤー「ふなっしー」とBリーグ マスコット総選挙3連覇の「ジャンボくん」と期限付きプロ選手契約のお知らせ
【ふなっしーの選手契約のプレスリリースのポイント】
2019-20シーズンより2022-2023シーズンまでに4シーズン連続で期限付きプロ選手契約。満了時にも本来の選手同様プレスリリース発表を行っています。
参考:千葉ジェッツが4シーズン連続で、梨界のスーパースター「ふなっしー」と「ジャンボくん」と期限付きプロ選手契約のお知らせ
参考:【千葉ジェッツ】梨界初の1億JETS円プレイヤー #274 ふなっしー選手、#200 ジャンボくん選手との期限付きプロ選手契約満了のお知らせ
また、2023-2024シーズンには、ふなっしーを期限付き「CEO(Chief Entertainment Officer/最高エンタメ責任者)」に迎え、新たな話題をつくっています。プレスリリースでは「CEO」と置くことで、最高経営責任者を想起させ、意外性も非常に高く目を引きます。
参考:ふなっしーが富樫勇樹率いる「千葉ジェッツ」の期間限定「CEO」に就任!!
(PR TIMES 取材担当者より)
メディアだけでなく企業広報に向けたプレスリリース
──プレスリリースを配信する目的は、メディアに向けたもの以外にありますでしょうか。
PR TIMESで配信するプレスリリースは、メディアの方々はもちろん、異業種の広報PRを担当している方にも見ていただくことを目的としています。
スポーツビジネスはパートナー企業さまに応援していただくことが大切なので、企業の広報PRを担当している方がバスケットボールに注目するきっかけとしてもプレスリリースを利用しているんです。最近は、開幕から30試合すべてのホーム開催チケットが完売していることやバスケットボール界が盛り上がってきていることを伝えるプレスリリースを配信しました。スポーツチームに協賛をしたいと考えている企業が、「千葉ジェッツにしよう」と思うきっかけになればよいなと思っています。
そのためPR TIMESで配信するプレスリリースは、一般企業の方にも刺さる内容であることはもちろん、スポーツ以外のメディアの方が見てもおもしろいと思ってもらえるように意識しています。地域貢献の取り組みやYouTubeの登録者数が何人を達成しましたというニュース性があるもの、おもしろいイベントなど、一般生活者の方にも注目していただけるようなものを配信したいですね。
参考:Bリーグ【千葉ジェッツ】が運営するYouTube「ジェッツチャンネル」が登録者15万人を達成!!
ファン拡大とプロバスケットボールリーグの評価につなげる広報PR活動
──最後に、広報PRチームとしての今後の展望をお聞かせください。
今シーズンからは「LaLa arena TOKYO-BAY」での試合が始まるので、とにかく満員にしてお客さまに楽しんでいただくことが一番の目標です。そのためには、今まで以上に地域に根差して幅広い層のファンを増やしていく必要があるので、広報PRチームとしても重点的に取り組んでいきたいですね。
バスケットボールが少しずつ注目されるようになってきたものの、サッカーや野球と比べるとまだまだメディアへ取り上げられることは多くありません。そこを打破するためにも、選手個人の価値を上げたり、バスケットボールが盛り上がっていることを理解してもらえるような発信をしたりしていくことも広報PRの役割だと思っています。
また、これまでのようにSNSやYouTubeでの発信にも力を入れていきたいです。TikTokを活用して子どもに向けたコミュニケーションを広げて未来のファンをつくっていくことはもちろん、さまざまなSNSを使い分けて、幅広い世代に認知を広めていきたいと思います。
そして、最近はスポーツ業界の誹謗中傷も課題として感じています。この問題を少しでも緩和するにはどうしたらよいのか考えたときに、選手が普段どのように頑張っているのかをもっと発信していくべきだと感じています。その選手の競技への向き合い方や人柄を知ることで、「こんな選手なんだ」「こんなに頑張ってるんだ」と、誹謗中傷が応援の気持ちに変わってくるのではないでしょうか。
千葉ジェッツも、今後は選手たちがどのように競技と向き合っているのか、どのような思いを持っているのかという部分の発信を増やしていきたいと考えています。いろいろな意見があるのは当然ですが、励ましや応援の方に気持ちがシフトしていくような発信を意識したいですね。
まとめ:試合結果だけではない。応援されるチーム、バスケットボール事業の価値向上をめざす
「幅広い層での新規ファンの獲得」を目標に掲げる、株式会社千葉ジェッツふなばし チーム統括本部チームブランディング部の芳賀宏輔さんに話を伺いました。
千葉ジェッツ・芳賀さんに学ぶ広報PRのポイントはこちら。
- 毎日選手に会いに行き、できるだけ接点を多く持つことで温度感のある情報を発信
- 「メディアにどう取り上げられたいのか」を考え、さまざまな視点での情報発信を意識
- プレスリリースはメディアやスポーツ業界だけでなく多方面に刺さる内容に
- 選手の競技への向き合い方や思いを発信することで、「応炎したい」気持ちを醸成
新たなファン層の獲得とメディア掲載の拡大をめざし、SNSやプレスリリースを駆使したアプローチを展開する千葉ジェッツ。「これまで地域に支えられて成長してきたチームだからこそ、今度は支える側になりたい」と、地域貢献活動にも積極的に取り組んでいます。デジタルメディアを活用した巧みな情報発信と、地域貢献活動を通じたふれあいを軸にした同社の広報PR活動は、スポーツ業界はもちろん、地域に根差したファンづくりをめざす企業にとっても参考になるのではないでしょうか。
※千葉ジェッツでは皆さまからの「応援」を「応炎」と表現しています
そして2024-2025年シーズンからは渡邊雄太選手が加わり、収容客数1万人規模の新ホームアリーナ「LaLa arena TOKYO-BAY」での活動が始まります。これからの千葉ジェッツの取り組み、広報PR活動にますます注目です。
【Behind the Scenes:目標達成のために主体的に動く組織へ】
ここでは、広報PR活動に限らず取材時にお伺いした組織運営についてまとめています。2020年に代表が変わった千葉ジェッツふなばしではどのように目標を定め、活動してきたのか。合わせてご覧ください。
──芳賀さんは、島田さん※が代表時代に秘書を経験されたと伺いました。その経験から学んだことなどあればお聞きしたいです。
秘書としていろいろな講演会に同行し、島田が大切にしている思いなど「千葉ジェッツが成長するための材料」を知ることができました。島田は、「動員数で一番を取ろう」「ホスピタリティNo.1のチームにしよう」など明確な目標を立てて、そこに向かってチーム全員で取り組む組織づくりがとてもうまいんです。その明確な目標があるからこそ、意見が分かれたときにも芯がぶれずに正しい選択ができるのだと、とても勉強になりましたね。
※島田慎二(現:B.LEAGUE チェアマン・日本バスケットボール協会 (JBA)副会長、旧:株式会社千葉ジェッツふなばし代表取締役社長)
──「明確な目標設定」はどのようにして立てられるのでしょうか。
これまでの課題を解決するための目標というよりは、未来に向けての目標ですね。「業界初」「No.1」など、とにかくプレスリリースを配信する際にわかりやすいものや、注目されやすいものを目標にしていました。
注目選手がたくさんいるチームであれば、メディアに注目してもらうことができますが、千葉ジェッツはもともとそれほど強いチームではなかったので、尖らせるということを相当意識していたと思います。SNSでリプライを積極的にしたり、たくさん発信したりしたのも尖らせるための取り組みのひとつでした。
──2020年には、代表取締役社長が島田さんから田村征也さんに変わりました。組織として変わったことはありますか。
以前は島田という強い経営者に引っ張られて組織が成長してきました。しかし現在は、全従業員が主体性を持って動く組織にしたいという考えです。部署ごとにとにかく考えてボトムアップできる形を大切にしていて、指示を待つのではなく、一人ひとりが主体的に考えることを意識した組織づくりをしたいと思います。本部性にして各部署に部長を置き、部署ごとにしっかり目標を達成していくことで、会社の目標を達成する形です。
自分たちの特色を生かしながら各部署が取り組み、新しいことに積極的に挑戦するようになったと思います。
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