2023年に人口増加率で全国1位となった茨城県つくば市。全国に約1,700ある市区町村の多くが、人口減少を喫緊の課題としている中で、子育て世帯の増加による人口増加を連続で達成しています。
本記事では、民間出身で市長公室参事事業推進相談監兼プロモーションプランナーとして着任した、酒井謙介さんにインタビュー。同市の広報PR体制や市民の共感を得るSNS活用術など、情報発信の際に大切にされていることについてお話を伺いました。
つくば市(茨城県つくば市):最新プレスリリースはこちら
つくば市 市長公室参事 事業推進相談監 兼 プロモーションプランナー
1975年生まれ、中央大学総合政策学部卒。IR支援会社、東証一部上場企業のIR・CSR担当を経て、2016年4月につくば市の「プロモーションプランナー」に任期付職員として着任。2024年4月より「事業推進相談監」を兼任。
市役所全体の広報PR活動をとりまとめる広報戦略課
──本日はよろしくお願いいたします。早速ですが、つくば市の広報PRの組織体制について教えていただけますでしょうか。
つくば市は基本的に各部署が事業の広報活動をしていますが、各部署で作成された広報ツールやプレスリリース、SNSの投稿内容のチェック、記者クラブへの連絡などは、私が所属する広報戦略課の役割です。また、広報戦略課は、市内12万世帯に配布されている広報紙などのデザインをする「デザイン係」と、ホームページやSNSなどの運営をする「魅力発信係」の2つに分かれていて、写真や動画の撮影・編集、DTP編集など、印刷を除くほとんどすべての業務を広報戦略課で内製しています。
役所内で異なる部署が同じような取り組みをしていたり、複数の課が関わっていながらもお互いに連携が取れていなかったりするケースもあります。そこを広報戦略課から関連性のあるイベントをつなぐアドバイスをするなど、市政全体を俯瞰するのもつくば市の広報PR体制の特徴です。
──広報戦略課としてもっとも力を入れている活動や取り組みについて教えてください。
各部署が作成したチラシなどの広報物のデザインチェックは、広報戦略課が特に力を入れて取り組んでいることのひとつですね。
集客力の高いイベント以外はなかなか広報PRの予算がつかないため、ほとんどのチラシは職員がパワーポイントなどを用いて自作しているんです。そのクオリティの向上を図るために、広報戦略課がデザインをはじめ、コピーライティングやレイアウト、適切な表現の仕方や写真などの著作権の取り扱い、チラシの配布方法に至るまでアドバイスをしています。
チラシを作るうえで大切なのは「読者目線」で考えられていること。デザインの専門家が制作したデザインのように洗練されたものを作ることは難しくても、全体的なクオリティの偏差値を少しでも底上げできるよう、それぞれのチラシに対して細かくフィードバックをしています。
毎年400件ほどのデザインチェックを行っていますが、これまでのフィードバックを反映して取り組んでくれることで着実に全体のクオリティは上がってきていると思いますし、周知に対する積極性も強くなっていると感じます。
【広報戦略課で行っているデザインチェックの例】
Before
After
デジタルとアナログの2軸で実現する「誰も取り残さない広報」
シティプロモーションの対象は都市圏からローカル圏へ
──これまでに、広報PR活動のターニングポイントはありましたか。
つくば市ではこれまで、移住者獲得など都市圏をターゲットとしたシティプロモーションに力を入れてきました。しかし近年では、つくばエクスプレス沿線に人が集中してしまい、通勤に便利な駅近の土地は売り切れて、保育所や小学校の受け入れ体制など人口が急増しすぎたことによる課題も目立っていたんです。
一方で、つくばエクスプレス沿線の新しい市街地に対して、その周辺市街地では少子高齢化が続いています。それを解決する方法を考えようと、都市圏からの積極的な移住者の呼び込みは見直し、少子高齢化が進む地域に対して人の流れをつくっていくことに重点を置くようになりました。
おかげさまで人口増加を連続で達成し、昨年には増加率で全国1位にもなりましたが、それは駅近の市街地が中心の話で、市全体でみれば楽観できるものではありません。今後は都市を持続的に維持していくための取り組みや広報PR活動が重要になってくると思います。
──周辺市街地の少子高齢化の問題に対して、実際にどのような取り組みをされているのでしょうか。
つくば市の市街地には大きく8つの地域があり、これらの地域にちなんで、「つくばR8(アールエイト)」という取り組みを周辺市街地振興課が中心となって進めています。
ここで目指しているのは、地域が自立して自走できるようになることです。これまで閉じられたコミュニティ内だけで実施していたイベントやお祭りに外からの参加者を歓迎したり、空き地を生かしてマルシェなどのイベントを開催したり、田舎での起業や創業を目指す方に向けた制度を運営したり。こうしたさまざまな取り組みを通して地域の活性化を目指し、広報戦略課では活動に関する周知などの手伝いを行っています。
多言語による広報とSNSを駆使した情報発信にも注力
──つくば市では多言語による広報PRにも取り組んでいると伺いましたが、詳しく教えていただけますでしょうか。
はい。つくば市には筑波大学や研究機関が官民合わせて150以上あり、留学生や外国人研究者をはじめ約120ヵ国から来日した12,000人の外国人が居住しています。
多言語による広報は、広報戦略課と同じ市長公室下にある国際都市推進課が対応していて、8ヵ国語による多言語広報紙の発行や、英語とやさしい日本語、中国語、韓国語の3ヵ国語による多言語ホームページの運用などを行っています。
──XやInstagramなどSNSを使った情報発信も積極的にされているそうですね。
SNSの運用体制を整えることは、入庁後私が取り組んできたことのひとつです。2017年に開設したInstagramは、フォロワーを一定数まで増やすために、自らカメラとスマートフォンを持って、写真や動画の撮影に出かけ、カジュアルな投稿ができるベースをつくってきた感じですね。
コロナ禍にはInstagramで「#つくばえテイクアウト」というキャンペーンを実施しました。市の飲食事業者向けの支援策に対して約700の事業者から申請があったのですが、こうした事業者さんからの情報をInstagramストーリーズでタグ付けをして徹底的にシェアする広報支援を展開。シェアしたストーリーズ数は2020~2021年で1.6万件近くになっていました。フォロワーが少なかったお店が一定のフォロワーを獲得することに影ながら貢献できたと思います。
その後、コロナ禍が一服し、グルメ情報などをSNS上で積極的に発信する事業者や一般の方が増えてきたため、そうした発信はお任せするようになりました。駅前の公園など公共施設を利用して開催しているマルシェの情報や、飲食や工芸などを開業している個人事業主を紹介する情報など、行政だからできることを考えてSNSのプロモーションを行っています。
特にInstagramは、市民がどういったことにシビックプライドを感じているのか、投稿の反響で伝わってきます。例えば、筑波山のある風景の投稿には常に大きな反響があり、つくば市のもっとも象徴的な存在だとあらためて実感しますね。
──つくば市は、市内在住・在勤者に各種情報を提供するアプリ『つくスマ』も開発・運用されているそうですが、今後、さまざまな情報発信をデジタルに一本化していく予定などはあるのでしょうか。
つくば市はもともと学術・研究機関に従事する方々が多く住んでいることもあって、60代、70代の方でもスマホやSNSを使いこなす方が多いんです。そうした方々や若い世代を中心に、広報紙をはじめとする紙の回覧などをすべてデジタル化してほしいという要望は多くあります。しかし、その一方でスマホを持たない方や紙媒体しか読まない方も多数いらっしゃいますので、デジタルに一本化するのはまだ現実的ではありません。
また、デジタル化することは効率的かもしれませんが、コミュニケーションが希薄化したり、デジタルデバイドによる孤立を促進するデメリットがあるのも事実です。コミュニケーションギャップが生じたり、自治体と地域の人との関係性が希薄になったりするリスクも考えると、現時点ではデジタルとアナログのハイブリッドを維持することが最善なのだと思います。
自治体の広報PRとして大切なのは「誰も取り残さない」ということ。行政に携わる者として、そういう感覚は常に持ち続けていたいですね。
「行政だからできること」を意識した価値のある情報発信
──ここからは、プレスリリースについてもお話を伺いたいと思います。プレスリリースを配信するうえでどのようなことを大切にしていますか。
役所側の視点や都合だけでプレスリリースを配信するのではなく、客観的な視点を大切にしながら「関心を持っていただく」「読者目線でわかりやすく伝える」「共感していただき、アクションにつなげる」ということを意識しています。
届けたい対象者が限定的で、多くの方にとってはニュースバリューが低いであろう事業や、新聞やテレビなどメディアでは取り上げられないであろう事業を闇雲にプレスリリースにすることはありません。きちんと対象者を想定したうえでニュースバリューを感じていただけるものを見極めることが大切です。その中でも、全国的に知らせたいニュースについてはPR TIMESを使って情報を発信しています。
また、プレスリリースを配信する際には添付資料のクオリティも重要です。事業の印象を捉えるうえでも極めて大事な役割を果たすので、写真もできるだけ添えるようにしています。
──配信したプレスリリースに対する反響はいかがですか。大きな反響のあったものなどあれば伺いたいです。
つくば市のプレスリリースは、いわゆるBtoCのものとBtoBのものがあり、数値的な反響はまったく異なります。PR TIMESさんからの配信については、特に苦戦しがちなBtoBの発信において、地元の記者会や地域メディア以外のルートで想定しているターゲットに届くことを期待しています。
例えばBtoBでは、今年5月に配信した「スマートシティ社会実装トライアル支援事業」の募集を呼びかけたプレスリリースでは、2,500PVの反響にとどまりましたが、結果的に十分なエントリーを得ることができました。これは、国が提唱する「Society 5.0」という未来社会の実現や、「スマートシティ」「つくばスーパーサイエンスシティ構想」「つくば市を実験台にしてあなたの事業をしてみてください」など対象となる範囲は広く全国から募集するプロジェクトです。例年実施しているのですが、今までご存じなかった事業者に周知するうえで、PR TIMES上にこうしたプレスリリースのアーカイブがあると来年度以降、エントリーを検討する事業者さんの参考になるのではないかと思います。
参考:地域課題の解決に資する先端技術のトライアル(実証実験)を募集しています
BtoCの例では、人気漫画『弱虫ペダル』のマンホールカードの配布開始のお知らせも大きな反響があったプレスリリースのひとつです。市内に設置している『弱虫ペダル』デザインマンホール7枚のうち、作者の渡辺航先生が描き下ろしたオリジナルデザインのマンホールカードを無料配布するという企画で、即日配布が完売するほどの反響でした。
このように、募集系やエンタメ系のプレスリリースはPR TIMESでの配信が効果的であるように感じています。
──広報PR活動を強化する際に気になるのが目標と効果の部分ですが、プレスリリースをはじめ、広報PR活動の効果測定などはどのようにされているのでしょうか。
一般的に、広報PRでの効果というと「バズる」のがよいとなりがちですが、行政の場合は当事者が確実にその情報を目にして、実になっていればそれでよいと思っています。
例えば、コロナ禍でセミナーなどが開催できなかった時期に、認知症や引きこもりの方などのための福祉関係の動画を作成したことがありました。申し込みがあった方のみにURLをお知らせして視聴いただくもので、再生回数は数百回程度です。しかし、もともとのリアル開催のセミナーは1回20人を集める規模のもので、オンライン開催についてもその開催回数に応じた人数が動画を確実に見てくれることが重要なポイントになると思います。
「ニュースバリューがあったか」「正しい方法で情報発信されていたか」というところをしっかり検証することも大切で、基本は「伝えるべき人たちに伝わったか」ということにあると思っています。KPIは設定の必要性も含めて検討しつつ、どこで広報PRの効果を確認するのかを意識することが大切だと思います。
──最後に広報戦略課として、今後のミッションや展望などをお伺いできればと思います。
つくば市の人口増加は今後もしばらく続くといわれていますが、その伸び率もいつかはピークを迎えます。こうした環境の変化においてもニーズを常に把握し、求められる情報発信を続けることが、広報戦略課の今後の課題になっていくでしょう。子育てや教育、老後、病気をしたとき、防災情報といった生活の安心安全に関する情報や、ずっと暮らすことができる地域として広く知っていただくための発信など、行政にしかできない情報発信があり、そこはまだまだ不十分であると思っています。そういう点にも力を入れていきたいと思います。
また、デジタル化が進み、生成AIなどが進化していく中で、今後は情報の出所がすぐにわかること、より明確にしていくことも重要です。将来のつくば市のWebサイトにあるべき姿は「デジタル市役所」であることを念頭におきながら、取り組んでいきたいと考えています。
まとめ:地域社会の持続的な成長を後押しするつくば市の広報PR活動
つくば市役所全体のさまざまな事業の広報やプロモーションを伴走的に支援する、事業推進相談監兼プロモーションプランナー、酒井謙介さんにお話を伺いました。
酒井さんにお聞かせいただいたつくば市の広報PRの4つのポイントは以下の通りです。
- 各部署の広報PR活動を横断的にサポートし広報PRのクオリティの向上を図ることで、自然体の情報発信力を強化
- SNSや市独自のプッシュ配信メディアの運用などデジタル化の推進と紙媒体の併用によって、すべての人に平等に情報を浸透
- プレスリリースは、客観的な視点を大切にしながら「関心を持っていただく」「読者目線でわかりやすく伝える」「共感していただき、アクションにつなげる」ことを意識
- PVなどの反響の大きさではなく、必要な人に必要な情報を届ける「行政だからできる情報発信」を重視
少子高齢化が進む市街地の活性化やシビックプライド醸成のための取り組みは、地域社会の持続的な発展を支える重要な要素となっています。自治体の広報PRに携わる方にとっても、大いに参考になる事例ではないでしょうか。
PR TIMESのご利用を希望される方は、以下より企業登録申請をお願いいたします。登録申請方法と料金プランをあわせてご確認ください。
PR TIMESの企業登録申請をするPR TIMESをご利用希望の方はこちら企業登録申請をする