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経営者は言葉の力を磨こう。言語化能力は会社の未来を見通す力になる|石川貴也

本記事では、明治から続く愛知県の製缶メーカー側島製罐株式会社の六代目代表取締役に就任し、数々の新たな挑戦を進める石川貴也氏に執筆していただいています。

経営者として事業を担っていくうえでさまざまなスキルが求められる中、特に重要なひとつが「言語化能力」だと石川さんは言います。どのような場面で「言語化能力」が必要となり、広報PR活動にどうつながっているのか解説をご覧ください。

側島製罐株式会社 代表取締役

石川貴也(Ishikawa Takaya)

愛知県出身。慶應義塾大学経済学部を卒業後、日本政策金融公庫に入庫、国民生活事業本部にて支店、審査企画部、内閣官房への出向、事業企画部とキャリアを進める。実父が経営する側島製罐に跡取りがいなかったことから、一念発起して2020年4月に転職。創業100年を超えるレガシー企業で広報、デジタル化、プロ人材の採用、理念形成などを通し老舗ベンチャー企業を目指す。2023年4月に代表取締役就任後も側島製罐のプレスリリースは主に本人が書いている。

(この記事を読んでいただく方へ)
言葉を使ってビジョンを明確にし、社員やステークホルダーに伝える力は、企業イメージを発信するパワーに直結します。高い言語化能力は一朝一夕に獲得できるものではありませんが、地道な広報PR活動を通じて磨いていくことが可能です。今回の記事では、言語化能力が経営にどのような影響を与えるのか、またどのようにしてこのスキルを高めるのかについて詳しく解説していきます。

そもそも経営者として言語化能力を高める意義

経営者にとって、言語化能力は単なるスキルではありません。経営者の重要な役割のひとつとしては、「日常的に会社のビジョンや戦略を共有し、組織内外へ正しく伝えていくことを先導していくこと」が挙げられます。その点において、言葉を生み出す力は経営者にとってもっとも重要な力のひとつといえるでしょう。

広報PR活動の場面に限らず、言語化能力はどれだけわかりやすく正確に自分の想いを伝えられるかどうかを左右するため、社員との日々のコミュニケーションや組織統制、社内外に向けたメッセージの発信などのあらゆる場面で有用なスキルだといえます。動画や写真など、最近ではさまざまな方法でコミュニケーションを取れるようになりましたが、それでも概念は言葉にしない限りまとめたり、理解したりすることは難しいものです。誰しもが共通の意味を理解することができるという点において、言葉はもっとも優れたコミュニケーションツールであり、経営者がその力を磨くことは非常に有意義だと考えます。

広報PR活動は言語化能力を高めるチャンス

会社経営をする中で、「なかなか自分の想いが社員に伝わらない」「自分の事業についてうまく説明できない」このようなお悩みを抱えたことはないでしょうか。言葉には想いを伝えて人の心を動かす力がありますが、伝えたいことを的確に表現することができなければ、十分に伝わらなかったり、時には誤った解釈をされて歪んで伝わってしまったりすることもあります。経営者の大きな役割のひとつは会社の方針やビジョンを語ることによって、組織をダイナミックに動かしていくことにありますが、そのためには自分の想いを適切な言葉にして表現する力が欠かせません。

私は広報PR活動を通じて、自分の想いを言葉で適切に表現する「言語化能力」を鍛えることができると考えています。広報PR活動においては、前提知識がない方々に向けて業界や事業内容、自社のビジョンについて伝えていく必要があります。社内や業界内での日常的な会話とは異なり、人間関係を前提とした「言わなくてもわかるだろう」という阿吽の呼吸や普段使っている業界用語などが一切通用しない環境です。そのような環境の中でメッセージを発信することは慣れるまで大変なことではありますが、誰が聞いても正確かつ簡単に理解できるような言葉で説明するための言語化能力を伸ばすための絶好の機会となります。

経営者自身が常日頃から広報PR活動に真剣に取り組むことによって言葉の力は磨かれ、有名な事業家の言葉やビジネス本に書いてあるような借り物の言葉ではなく、自分の口や手からピュアな独自の言葉を生み出せるようになります。

事業の魅力は言語化によって再発見できる

広報PR活動をしていると事業についてあらためて説明する場面が多くなります。その過程で「なぜこの事業をやっているのか」「どんな想いを大切にしているのか」といった、事業の根幹にかかる部分を言語化していくことになるわけなのですが、これが事業の魅力を再発見することにつながります。そもそも、事業で何をやっているか(=What)どうやっているか(=How)については、日常業務で説明する機会はありますが、なぜやっているか(=Why)についての説明は日々の活動においては必要性がないため、向き合う機会がほとんどありません。しかしながら、この“Why”の部分と向き合って深く言語化していくことは、事業の棚卸しや再評価をすることにもつながり、あらためて自社の経営資源を掘り起こしたり、認識していなかった強みに気付くことができたりする貴重な機会です。そのプロセスを経ることによって、何をやっているか(=What)どうやっているか(=How)についてもブラッシュアップしてより芯の通ったメッセージを対外的に発信することが可能になっていきます。

特に歴史のある中小企業や次世代の経営者(アトツギ)にとって、事業の棚卸しは必要な作業です。長い歴史を持つ企業では、伝統的な価値観や過去の成功事例に囚われがちです。しかし「お客さまの御用聞きをする」という答えが用意された時代のビジネスとは変わって、これからの不安定で不確実な答えのない時代に適応していくためには、自分たちの強みや現状を正確に把握したうえで、自ら問いを立てて事業展開をしていくことが重要になってきます。幸いにして、歴史のある中小企業でも「広報PR」という領域は未着手であることが多いため、次世代の経営者が新たに取り組みやすいものです。事業承継を行う前段階として、広報PR活動に取り組んで言語化スキルを磨き、同時に事業の棚卸をしながら助走期間で経営者の資質を高めていくことは大事なプロセスなのではないかと思っています。

経営者の言葉は採用活動にも波及する

「広報PR活動を通じて言語化能力を鍛えることができる」ということについて説明してきましたが、経営者が言葉の力を鍛えていくと企業の採用活動においてもその効果は波及していきます。売り手市場と呼ばれる現代においては、ただ求人情報を広告するだけではなく、会社の魅力を発信して認知を広げることは採用活動における不可欠な施策のひとつです。ここで問われるのが経営者の言語化能力だと考えています。

広報PR活動で鍛えられた言葉の力は、面接や入社後のオンボーディングまでの過程でのミスマッチを減らしていくことを可能にします。求職者はメディアや求人広告で見聞きした内容から期待感を持って面接を受けに来るわけですが、実際に会ってみて経営者から出てくる言葉に一貫性がなかったり、わかりにくかったり、そもそも経営者から熱のこもった言葉が発せられていなかったりすると、その違和感から選考辞退になってしまうケースもあります。もちろん、求人広告自体はプロのライターに頼むことで魅力的な言葉を掲載することはできますが、経営者が実際に自分の言葉で熱く語ることができなければ、どれだけ美辞麗句を並べたところで求職者にその想いは伝わりません。

求職者が「メディアで見た内容と面接で聞いた内容が一致している」と感じることで初めて企業に対する信頼感が生まれ、「この企業で自分もそのビジョンを実現する一員になりたい」という想いをリレーすることができます。経営者が言語化能力が高めることで、採用活動は単なる人材募集から企業のビジョンに共感する仲間を見つけるプロセスへと変えられるわけですね。

自分だけの言葉を見つけよう

今回は経営者にとって言語化能力の重要性について書きました。広報PR活動の精度を上げることはもちろん、なかなか日常的には気付きにくい事業の魅力の再発見や採用活動への波及効果など、言語化能力を磨くことで事業の推進に大きなインパクトを与えることができるということはある程度ご理解いただけたのではないかと思います。

しかしながら、ここまで読んでいただいた方の中には「でも自分は話すのが苦手だ」「言葉にまとめるのは難しい」という方もいらっしゃるかもしれません。そんな経営者の方はぜひ、自らプレスリリースを書いてみてはいかがでしょうか。

「プレスリリースを書く」というと少しハードルが高く感じるかもしれませんが、そもそもプレスリリースに正解はありません。今はSNSやPRプラットフォームなど、世の中に発信する方法はたくさんあります。記者クラブへの持ち込みやメディアへの直接送付でも構いません。プレスリリースは対外向けという性質上、最低限の形式は必要になりますが、まずは不格好でも不十分でもよいのでプレスリリースを書いて誰かに届けてみましょう。

どんな取り組みをしているのか、どんな人に自分たちの想いを届けたいか、何のために自分たちは事業をやっているのか、そうした事業の根幹の部分に一つずつ向き合い丁寧に言葉にしていく作業を通じて、言語化能力を高めていくことができるはずです。どんな経営者も最初から自在に言葉を操っていたわけではありません。誰かに何かを伝える、という場面で真剣に自分自身や事業と向き合い、言葉で表現することを諦めずに突き詰めていき、結果として人の心に残る言葉が生まれていくものです。企業の歴史や事業内容は千差万別で、あなたの会社からしか生まれない言葉がきっとあるはずです。ぜひ、広報PR活動を通じて、自分だけの言葉を探してみてください。

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この記事のライター

石川貴也

石川貴也

側島製罐株式会社 代表取締役 愛知県出身。慶應義塾大学経済学部を卒業後、日本政策金融公庫に入庫、国民生活事業本部にて支店、審査企画部、内閣官房への出向、事業企画部とキャリアを進める。実父が経営する側島製罐に跡取りがいなかったことから、一念発起して2020年4月に転職。創業100年を超えるレガシー企業で広報、デジタル化、プロ人材の採用、理念形成などを通し老舗ベンチャー企業を目指す。2023年4月に代表取締役就任後も側島製罐のプレスリリースは主に本人が書いている。

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