本稿は、武内一矢氏による寄稿です。
企業や自治体によるSNS活用は現在、業界問わず非常に一般的なものとなっていますが、企業SNS市場はこれまで複数のターニングポイントを経て変化してきました。
「流行っているから」「同業他社がSNSで盛り上がっているから」「時代に追いつくために始めてみた」などの抽象的な理由で運用に着手するケースも多く見られますが、変化の激しい企業SNS市場において、マーケティングやPRの施策として成果を上げるためにはしっかり市場と動向を理解し、ポイントを押さえてSNS運用に取り組むことが重要です。
今回の記事では、これまでの企業SNS市場の大きな変化と各SNSの特徴、最新動向とSNSを運用するにあたって押さえるべき大切な5つのポイントについてお伝えします。
SNSは単なる情報発信の手段にとどまらない、双方向性があるコミュニケーションツールです。マーケティングにもPRにも活用できるものなので、ぜひこの記事を基に運用を見直したり、これから取り組む施策の参考にしたりしてお役立てください。

株式会社NAVICUS 代表取締役
早稲田大学卒業後、コミュニティサービス運営のITベンチャーを経て、株式会社ディー・エヌ・エーに入社。SNSマーケチームの立ち上げを担う。その後、ふるさと納税ポータルサイト大手「ふるさとチョイス」を運営する株式会社トラストバンクでのマーケティング責任者などを経て、2018年、コミュニティ・SNSマーケティング支援を行う株式会社NAVICUSを設立、代表取締役に就任。2022年10月、九州を中心にWebマーケティング支援を行う株式会社NAVICUS九州のCMOに就任。
企業SNS市場の歴史と変化
SNSが私たちの生活に馴染み、企業のマーケティング・PR施策として活用されるようになった時代の変遷として、ここでは大きな4つのターニングポイントをご説明します。
ターニングポイント1(2009年):企業アカウントが誕生
それ以前にもSNSツールは存在していますが、X(旧 Twitter)上で「企業アカウント」が生まれた2009年あたりがひとつのターニングポイントといえます。
Xを中心としたSNSの利用者が一気に増え、その中で企業名を冠した公式アカウントができ始めました。当時台頭していたのは、実店舗を持つ飲食店や小売店、航空会社やコミュニティサイトを運営するIT企業など、すでに接客文化が根付いている企業です。日頃のホスピタリティをSNS運用に持ち込み、いわゆる「中の人運用」でユーザーとコミュニケーションを取ることにより、企業アカウントの先駆者として注目されました。
当時は公式アカウントを運用すること自体に目新しさがあり、他社との差別化ポイントとなっていましたが、企業や自治体によるSNS活用が一般的になった現代においては、「ただ運用しているだけ」では差別化にならない点が大きな違いです。一方、「対面で接客しているようにコミュニケーションを取る」という考え方については、今でも大事にしたい考え方となります。
ターニングポイント2(2011年):東日本大震災を機に自治体アカウントの投稿数・フォロワー数は10倍に
次に大きなターニングポイントとなったのが、2011年の中でも東日本大震災が発生したタイミングです。このときに、Web上の情報発信価値が社会的に大きく上昇しました。皆さんの中でも、この出来事をきっかけに電話やメール以外の連絡手段を用いるようになったり、マスメディア以外にWeb上で情報収集をするようになったりした方は多いのではないでしょうか。
3月11日の震災当日以降、被災地域の自治体が運用するXアカウントの投稿数は約10倍に増え、アカウントのフォロワー数も約10倍に増加しています。
参考:コラム 震災時におけるTwitterの活用状況について

画像参照:被災地域の自治体アカウントのツイート数等の推移(総務省)
また、情報収集だけでなく救助要請や安否確認など、個人間のコミュニケーションツールとしても需要が拡大し、のちにLINEが誕生しました。
ターニングポイント3(2015年):動画系SNSの台頭とアルゴリズムの進化
2011年をきっかけにWeb上での情報発信やコミュニケーションが盛んとなり、2015年から2020年にかけて通信規格が4Gから5Gへと移行するなど、インターネットは飛躍的に進化しました。
この変化に伴い、世の中ではYouTubeやInstagramといった動画コンテンツをメインとするSNSが台頭。Xには140字の制限がある一方で、動画は多くの情報を伝えられることから瞬く間に支持を集めました。テキスト情報よりも、動画で直感的に伝えられるコンテンツが求められる時代へとシフトしたのです。
一方、SNSの選択肢が増えたことで、ユーザーは複数のプラットフォームを併用するようになりました。その結果、「友だちの情報が追いきれない」「重要な情報が埋もれてしまう」といった問題が顕在化。情報の供給過多が大きな課題となり、各SNSはユーザーに最適なコンテンツを届けるためのアルゴリズムを強化し、個人に合わせて情報がレコメンドされる仕様に変わっていきました。こうした流れの中で、企業や自治体のSNS運用においても、本当にユーザーから求められている情報を発信することや、SNSの特性を理解した運用をすることの重要性が高まっています。
ターニングポイント4(2020年):新型コロナウイルス感染症の拡大による日常生活のオンライン化
最後に、直近の大きなターニングポイントといえるのが2020年以降の新型コロナウイルス感染症の拡大です。コミュニケーションに限らず、働き方や日常生活のオンライン化が世界中で加速しました。
また、AIやコンテンツ制作ツールの進化に伴い、近頃のSNSではフェイクニュースなど情報の正確性や権利の擁護も問題視されています。
企業や自治体のSNS運用においては、自身が発信する投稿の正確性のほか、オンライン上に出回る情報の注視や、企業・自治体としての対応方針(スタンス)を明確に定めるといったリスクヘッジの重要性も高まりました。従来は、従業員やサービスにおける過失など内部起因の問題への対策が主でしたが、現在は外部起因の問題に対する幅広い対策と柔軟な対応フローも求められます。
2025年:AI活用と人間味のバランスが重要に
これまでの変遷を踏まえて、2025年はどのようなSNS運用がトレンドになるのか。主要SNSごとの動向はこのあとお伝えしますが、全体の大きな特徴としてひとつAIの活用が加速すると考えられます。2025年に入ってからすでにXではAIアシスタント「Grok」が搭載されたほか、InstagramやFacebookを運営するMetaも広告機能でAIの活用を強化しました。企業や自治体のSNS運用においても、コンテンツ制作やカスタマー対応、分析にAIを活用する動きが活発になりそうです。
AI活用などデジタル化が進む一方、各SNSのアルゴリズムの特徴として、アカウント同士の親密度や投稿への関心度が重要視されるようになっています。すでに「フォロワーがたくさんいれば投稿もそれだけ多くの人に見てもらえる」というシンプルな構図ではなくなっているため、今後はフォロワー数といった面の広さだけでなく、エンゲージメント率やUGC(ユーザー生成コンテンツ)の数といった関係性の深さを測れる指標が重要になってくるでしょう。
ただアカウントをフォローして閲覧するだけではなく、投稿に反応したり自ら発信をしてくれたりするユーザーを増やすためには、企業や自治体の価値観やテーマに共感してもらう必要があります。AIを活用してSNS運用を効率化しつつ、人間ならではの共感やストーリー性を活かし、ユーザーとの自然なコミュニケーションを保つバランスが求められる年になりそうです。
企業SNS市場の歴史と変化:まとめ
ここまで、2009年以降の4つのターニングポイントを踏まえてSNSの利用状況に関する変化と2025年の動向をお伝えしてきました。
年々SNSの利用は個人・団体共に拡大していますが、それに伴ってひとりあたりが受け取る情報量も増加しています。そのため現在は、ユーザーにとってノイズとなり得る広告コンテンツはどんどん精査される傾向にあるほか、情報に対するユーザーからの懐疑的な目も強くなりました。
しかし、SNSが広告媒体とは異なり双方向性があるコミュニケーションツールであることは変わりません。オンラインコミュニケーションが主軸になった現在だからこそ、SNS上で継続的に情報発信をし、ユーザーに求められるコミュニケーションを図ることで信頼関係を築けるツールとなります。
ではここからは、「各SNSの特徴と2025年の動向」、それを踏まえた「2025年のSNS運用で大切な5つのポイント」をご紹介します。
各SNSの特徴と2025年の動向
ここでは、企業や自治体のSNS運用でよく利用される主要SNSの特徴と、2025年の動向をご紹介します。

中でも、企業や自治体の利用で主流なのがX・Instagram・LINE・Facebookです。プライベートで利用している人も多く、「慣れているから」「ほかの企業も運用しているから」という理由で選ばれがちですが、公式アカウントとして運用するうえでの懸念点や最新の動向にも注目して検討することをおすすめします。
X
運用するうえでの懸念点
時事性やトレンドをスピーディーに把握して運用できたほうが効果が見込めます。ネガティブな反応が起こったときの拡散も早い点に注意が必要です。
運用をする際は、トレンドや関連情報をスピーディーにキャッチアップする力のある人を担当者にし、状況に合わせて投稿内容やタイミングを柔軟に調整できる十分な体制を整えましょう。
2025年の動向
Xの特徴として、投稿の届きやすさが都度変化するため、継続的な戦略が立てづらかったり、効果測定が難しかったりする場合があります。
また、イーロン・マスク氏が率いるxAICorp.が開発したAIアシスタント「Grok」が搭載されたほか、動画コンテンツの閲覧に特化したビデオタブも追加されました。テキスト主体だった当初の姿から一変し、今後も機能やアルゴリズムの変化が起こることが見込まれます。
運用するうえでの懸念点
SNSの特性上、高品質な画像や動画の制作が求められます。事業内容やメッセージによっては、クリエイティブで訴求するための素材が確保しづらい場合があるため、中長期的な運用を見据えながらコンテンツの素材と制作環境を整え運用に臨みましょう。
2025年の動向
2025年1月、Instagramのサムネイル表示が正方形から縦型に変わったアカウントが多く見られるようになりました。これにより、作り上げてきたアカウントの世界観や見た目に影響を及ぼし、調整に苦戦するケースが出てきています。同じく2025年1月、Metaから無料の動画編集アプリ「Edits」が発表されました。今後、アプリとの親和性を高めるために機能の変更が起きる可能性があります。
LINE
運用するうえでの懸念点
無料で開始できる点はXやInstagramと同様ですが、メッセージ送信数に上限があります。登録者数が増えるほど、メッセージの送付にコストがかかってくることが特徴です。このあと紹介する運用のポイントを参考に、アカウントの拡大規模やそれにかかるコストも踏まえて戦略を立てることが重要です。
2025年の動向
主な仕様上、ユーザーと1対1のやりとりになるため、LINEのみで情報の拡散を狙ったり、コミュニティ形成したりすることは難しくなっています。この課題を解決する可能性があるのが「LINEミニアプリ」です。
ミニアプリとは、ユーザーが新しいアプリをダウンロードしなくても、LINE上で登録・利用できるWebアプリケーションです。これまで企業アカウントと1対1だったコミュニケーションが、ミニアプリ上で興味・関心が近いユーザーとつながることができたり、LINE上で簡単に友人へミニアプリを共有できたりすることで、企業アカウントの運用バリエーションが広がることが期待できます。
運用するうえでの懸念点
アルゴリズムの変更により、親和性の高いアカウントの投稿が優先して表示される仕様になっているため、オーガニック投稿でリーチを獲得することが難しくなっています。運用する際は、広告の活用も視野に入れて戦略を立てましょう。
また、実名登録であることがFacebookの大きな特徴です。そのため、ユーザーによる投稿もほかのSNSと比べハードルが高いことを念頭に置いて運用することが大切です。
2025年の動向
Facebookでは2025年1月に規約・ポリシーの改定が行われました。ヘイト行為や誤情報の拡散を防ぐ意識も強く、意図せず抵触してしまった場合アカウントが停止されてしまう可能性があります。企業アカウントを運用するために紐づけた担当者個人のアカウントが停止されてしまった場合、解除されるまで運用が止まってしまうため、複数人で管理するなど体制に注意が必要です。
また、広告機能も日々アップデートされています。他SNSと比べ匿名性が低い分ターゲティング精度も高くなり、豊富な配信手法を駆使することで広告効果の高いSNSになることが見込まれます。
2025年のSNS運用で大切な5つのポイント
ここまで企業SNS市場の歴史と変化、主要SNSの特徴や動向についてお伝えしてきました。では、その情報を踏まえ企業や自治体はどのSNSを活用するべきか、それはずばり「目的次第」です。一概に絶対これがおすすめといった答えはないので、現状をポイントに沿って整理し、体制を整えたうえで適切なSNSを選択しましょう。
ポイント1:特に情報を届けたいユーザー層の明確化
SNS運用を通して「誰に情報を届けたいのか」「誰とコミュニケーションを取りたいのか」を考えましょう。既存顧客や潜在層・求職者などさまざまあるかと思いますが、特に情報を届けたいユーザー層はできる限り具体的に、相手の顔がイメージできるくらい明確に定められると良いです。例えば、既存顧客であれば取り組みが長く続いているクライアントの業界や事業規模、担当者の所属部署といった特徴を整理したり、求職者であれば社内で実際に活躍している社員をペルソナに設定したりして、運用に携わる人の中で共通認識が持てる状態をつくることがおすすめです。
なぜユーザー層を詳細に設定する必要があるのか、それはSNSごとにユーザー属性が大きく異なるためです。また、「ターニングポイント3」でもお伝えしたようにSNSのアルゴリズムは現在も頻繁に変化しており、ユーザーも常に自分に合った情報を取捨選択しながら過ごしています。情報を届けたいユーザー層が不明瞭のまま手当たり次第に情報発信をしても反応が得られず、それがアルゴリズムでもネガティブな評価を受けてしまうため、特に情報を届けたいユーザー層を明確にしてSNSを選定するようにしましょう。
ポイント2:メッセージの明確化
情報を届けたいユーザー層を定めたら、次は「メッセージ」を明確にします。SNS運用を続けているのに目に見える効果が得られないという場合、特にこの「メッセージ」が定まっていないケースが多く見られます。SNSはコミュニケーションツールなので、「ターニングポイント1」でもお伝えした「対面で接客しているようにコミュニケーションを取る」という考え方は現在においても変わりません。
目の前にユーザーがいたらどのように声をかけるか、商品やサービスのどんな情報を伝えたいか、どんなコミュニケーションを取れることが理想なのかを具体的にイメージしましょう。
ポイント3:コンテンツ作成
情報を届けたいユーザー層に対するメッセージを定めたら、次はそれをコンテンツにする計画を立てましょう。SNS運用は短期的に大きな成果を期待するのではなく、継続的に取り組む必要があります。コンテンツがネタ切れしないよう、投稿に使える文章・画像・動画といった素材があるかを洗い出してみましょう。
SNS用に毎回新しい素材を制作するだけでなく、すでに社内にある撮影画像やクリエイティブ、社内報やプレスリリースなどの原稿をアレンジして流用することも効率的です。
ポイント4:体制整備
ほとんどの企業・自治体において、SNS運用に専任の担当者を設置することは難しいですが、SNS運用において担当者の選定はとても重要になります。現在のSNSは機能の変更も多いため、運用業務についてはSNSに慣れている若手の方やプライベートでも日常的にSNSを利用している方を担当にできると、比較的効率良く運用を行うことができるでしょう。
また、「ターニングポイント4」でも述べたように、情報の信憑性を判断したり、あらゆる可能性を考慮したりしてリスクヘッジをする思考も欠かせません。リスクヘッジについては判断基準を属人化させず、チームで取り組むことによって多角的な視点から判断することが有効です。理想的なチーム体制は、例えば以下のようなイメージです。
▼上流整理や最終判断をおこなう上司の役割
- 戦略策定
- プロジェクトマネジメント
- リスク、権利関係の確認や判断
▼運用担当者の役割
- コンテンツの実制作(画像や動画といった専門技術が必要な制作は、デザイナーもチームに加えて実行できると良いでしょう)
- データ分析
- SNS上の情報収集、リスクの抽出
ポイント5:AIを味方にする
1から4までのポイントは運用時期に限らず従来から重要だったポイントですが、これはとりわけ今後2025年の運用で大切にしていきたいものになります。
生成AIの発展によるリスクや危険性に関する話題もありますが、AIを正しく活用することで少ないリソースでも質の高い運用が可能になりました。具体的な活用方法の例を下記でご紹介します。
▼投稿作成での活用
AIを使って、トレンドとサービス・商品内容をかけ合わせた投稿文やクリエイティブの生成が可能です。投稿文の生成については、解禁前の情報を扱って情報漏洩につながらないよう、AIの学習設定をオフにするなど対策をお忘れなく。また、クリエイティブの生成については著作権を侵害したものにならないよう、使用素材の設定などを確認してください。
これらの注意点を踏まえたうえで、投稿で獲得したい反応や盛り込みたいサービス・商品の内容、投稿のテイストに関する条件を指定するとクオリティの高い投稿を作成することができます。
▼リスクヘッジでの活用
AIに過去の炎上事例や、早急にキャッチアップしたいネガティブなコメント・投稿を学習させておくことで、投稿前の確認時にリスクのある表現を指摘したり、SNS上にリスクのあるコメントが上がった際にアラートを通知したりすることができます。
運用担当者がほかの業務を兼務していて頻繁にチェックができない場合などに便利です。
▼分析での活用
過去の投稿データを学習させることで、エンゲージメントの数値を自動計算したり、反応が良かった投稿の共通点を探したりして投稿内容の改善に役立てることができます。
ほかにも、フォロワーがアクティブな時間帯や曜日ごとの傾向を可視化することで最適な投稿スケジュールを立てるなど、分析を基にした改善アクションまで出すことができるので、PDCAのサイクルをスピーディーに回すことにつながります。
まとめ
今回の記事では、企業SNS市場の歴史と変化・各SNSの特徴と2025年の動向・2025年のSNS運用で大切な5つのポイントをお伝えしました。
2009年から3〜5年おきにターニングポイントを迎えているSNS市場は、今や世界中の政治活動にも影響を及ぼす力を持っています。2025年に入ってからも変化が多く、今年はまたターニングポイントを迎えるのかもしれません。
しかし、SNSがユーザー間のコミュニケーションツールであることに変わりはなく、AIなどを活用しながらも「対面で接客しているようにコミュニケーションを取る」という意識が基本となります。大切なポイントを定期的に振り返りながら継続的に取り組んでいくことで、ユーザーと信頼関係を築き、企業や自治体の求める成果につなげることができます。
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