広報PR担当者は、日々さまざまなツールやサービスを活用して情報発信を行っています。しかし、「コンテンツ制作のための協力を得づらい」「閲覧数などの反応が思うように獲得できない」と、悩むこともあるのではないでしょうか。
PR TIMESでは、2025年11月14日にセミナー「社会課題に取り組む病院広報に学ぶ“選ばれる組織”の発信戦略」を開催。湘南藤沢徳洲会病院のInstagramでコンテンツ制作・発信を手掛ける町田 詩織さんと、筑波メディカルセンターの広報PRを担当し、プレスリリースエバンジェリストとしても活動する遠藤 友宏さんにお話いただきました。
また当日は、医療業界を中心に広報支援を行う袈裟丸梨里子さんがおふたりからのお話を引き出すべく、モデレーターとして進行されています。
院内外のステークホルダーと関係を構築するための意識の持ち方や、行動変容を促すコンテンツ制作など「選ばれる広報PR」の秘訣が詰まった講演の様子をレポートします。

公益財団法人筑波メディカルセンター 総務部経営企画課 広報係
2009年、近畿日本ツーリスト株式会社に入社。教育旅行分野の添乗・営業を経て、2012年、公益財団法人筑波メディカルセンターへ入職。2015年6月より法人広報部門にて、広報誌の企画編集、動画制作、公式SNSの運営、プレスリリース配信などを担当。2021年に実施したクラウドファンディングでは広報・PR実務を担い、プロダクト完成後に配信したプレスリリースが、株式会社PR TIMES主催のプレスリリースアワード2022「ヒューマン賞」を受賞。プレスリリースアワード2025「Best101」ノミネート。現在はNPOや訪問美理容系スタートアップの広報支援、自治体と協働したイベント企画などにも参画。2023年10月よりPR TIMES公認プレスリリースエバンジェリストとして活動。

テックベンチャー総研 企業広報研究会事務局長/一般社団法人パワーストローク広報顧問/株式会社AJプランニング 代表取締役社長/広報コンサルタント・メディカルプランナー
医療系BtoB企業の広報部立ち上げとマネジメントを経験後、医療ロボットベンチャーからオファーを受け転職するも、コロナ禍の影響で半年で倒産の憂き目にあう。この経験をバネにTech系専門広報として独立し、ピーク時には7社を請け負うまでに成長。そのうちの1社から多数のメディア露出実績を認められ執行役員CMOとして事業成長に貢献。退職後は幅広い経験を生かし、大手企業の広報アドバイザリー業務、講師活動、教育系事業支援などに積極的に取り組んでいます。2024年10月よりPR TIMES公認プレスリリースエバンジェリストとして活動。
認知獲得で終わらない。採用・集患につなげた広報PR|湘南藤沢徳洲会病院
Instagramフォロワー数1万人超を誇る湘南藤沢徳洲会病院は、SNS運用を通じて看護師・薬剤師の採用につなげただけでなく、遠方からの来院者を増やすなど、採用・集患の両面で成果を上げています。SNS運用のテクニックではなく、成果につなげた広報PR活動を伺いました。
感情が動く投稿を積み重ね、行動につなげる
湘南藤沢徳洲会病院のInstagram運用は、コロナ禍による人手不足をきっかけにスタート。当初は「まず知ってもらうことが大事」と考えていたそうですが、認知獲得だけでは応募にはつながらない、と運用を見直すことに。「誰かの心を動かし、行動に変えてもらうにはどうすればよいか」そこから逆算して設計するようになり、運用開始からわずか3ヵ月で薬剤師の中途採用に成功。その後も看護師や研修医の応募につながっていったそうです。
Instagramを見て「なんとなく良さそうな病院」と感じてもらうだけでは行動にはつながらない。「ここで働きたい」「この先生に診てもらいたい」と思ってもらうために、人の心に刺さるものでなければなりません。感情が動く投稿を継続的に届けることで、知らず知らずのうちに印象が強まり、親しみが湧き、やがて行動につながる。そういった「ザイアンス効果(単純接触効果)」を生むような心が動く投稿を積み重ねることで、ある時ようやく「応募」や「受診」という行動変容が起きると町田さんは語ります。
AI時代のカギは「届けたい相手」への最適化
SNS運用において、「誰に向けて発信しているか」が何より重要です。そのため同院では、職員採用、患者向け、研修医向けなど、目的に応じてアカウントを分け、「1目的1アカウント」で運用。加えて、アルゴリズムに最適化された投稿設計を行っています。
「AIには明確な意図や方針があり、時には人格すら感じられることから、親しみを込めて『絶対神アルゴリズム』と呼んでいる」と町田さん。適切な対象に届けるために、AI神が「この投稿はこの人向けだ」と判断できる構造を考え、テクニックに走るのではなく、「誰に何を届けたいのか」という軸をぶらさずに設計しているそうです。
採用、そして集患を実現。広報PRを「病院の未来を変える武器」に
そして現在は、採用にとどまらず、患者・家族向けの情報発信も強化していると言います。なかでも、機能的神経疾患センターのアカウントでは、患者にとって有益な疾患・治療情報を提供。
治療法や疾患名すら知られていない領域だからこそ、まずは知ってもらうことを大切にしつつ、集患につなげるために「この先生に診てもらいたい」と思ってもらえる投稿を意識しているそうです。テレビ番組への出演を機に注目度が高まった後も、SNSでの定期的な情報発信を継続した結果、東北や九州など、遠方から「Instagramを見ました」という患者の来院も増えていると言います。
「赤字で閉院する病院も少なくない今、『選ばれる病院』になるためには、広報こそが鍵だと思っている」と町田さん。SNSはあくまで手段にすぎず、知ってもらい、心を動かし続けること。病院の未来を切り拓くための行動設計のヒントになったのではないでしょうか。

対話で理解と共感を呼ぶコンテンツ制作|筑波メディカルセンター
筑波メディカルセンターの社内報や取材記事の制作などを手掛ける遠藤さん。がん治療や救急医療に強みを持つ医療機関ですが、2021年にはクラウドファンディングを成功させ、「病院アート活動」というユニークな取り組みにも力を入れています。
病院広報の効果を上げる患者と現場との関係性
「医療サービス以外の発信も重要」と語る遠藤さんは、コーポレート広報の一環として多様なテーマのコンテンツを発信。広報PRの効果を高めるうえで取り組んでいることや、ステークホルダーとの関係構築など、4つのポイントを軸にお話いただきました。
1.病院の医療サービス以外の強み・取り組みによって、理解を促す
私たちは普段、「休みの日にどこへ行こう」「週末は何を食べに行こう」と考えますが、「どの病院に行こう」という話はあまりしません。しかし、いざというときにはホームページなど限られた情報から条件を見て短時間で病院を選ばなくてはなりません。
このとき自院を選んでもらうためには、コーポレート広報として医療サービスに限らないさまざまな取り組みを発信し、日頃から病院の存在を認知してもらうことも大切とのこと。医療サービスの強みを発信するサービス広報と、医療サービス以外のさまざまな取り組みを発信するコーポレート広報。いずれも集患を目的としていますが、それぞれに向き・不向きがあるため、より効果的な集患には「両方動かしていかないといけない」と遠藤さんは言います。
町田さんのお話にもあった「行動変容」に至るまでには、行動を起こす土台作りが必要であり、これをコーポレート広報が担っているのです。
2.ステークホルダーを同心円上に可視化して距離感をつかむ
同院は2021年にクラウドファンディングを実施しましたが、ここから広報PR活動の見直しもしています。広報PR活動は「ステークホルダーを明確にし、関係構築に有効な手段を考えること」と定義する遠藤さん。ターゲティングを考える際には、ステークホルダーと自分たちがどの距離感にいるのかを考えているそうです。
このときに意識しているのがクラウドファンディングの広報PRで学んだ「同心円上の図(ステークホルダーマップ)」。自分たちを中心にしたとき、近い層は誰か、その周りにいるのは誰か、さらにその先にはどんな人たちがいるのか、と思考していきます。こういった関係性を図解できることで、地域イベントなどさまざまな広報PR活動を展開していく際にも、伝える相手と使用ツールを検討しやすくなるのではないでしょうか。
3.現場と一丸となるためのコミュニケーション
ここからは、社内での関係性構築のためのコミュニケーションについてです。医療の現場は忙しく、「協力してほしい」とお願いしても、快く受けてもらえなかった方も多いのではないでしょうか。
そこで、相手にも納得して広報PR活動に協力してもらうためには、「現場のスタッフにどんなメリットがあるのか」を伝えることが重要になります。メールによるコミュニケーションであったとしても、「情報発信をすることでこんなメリットがありますよ」ときちんと記載することがポイント。また、協力をあおいだ際には、「目標より閲覧数が伸びました」「こんな反響がありました」とフィードバックを届けることで、現場からも「次も協力しようかな」と思ってもらえると言います。
現場を巻き込みながらも、広報PRとして本来やりたいことを続ける。そのために、スタッフへの取材や病院食の試食などの広報PR担当者でもできる現場体験を、遠藤さん自ら行っているそうです。
4.現場が持つストーリーを盛り込んだ情報発信を
最後に重要なのが、発信する情報にストーリーと、それを感じられるビジュアルを付けることです。舞台裏や背景を伝えることで、読み手の理解度は高まります。このストーリーを持っているのは現場の人たちです。遠藤さんいわく、広報PR担当はあくまでもストーリーをつないで発信しているだけ。
社内報に掲載した職員インタビューでは、病院職に至った背景を学生時代のお話から聞けたそうです。こういった「現場にしかないストーリー」があるかないかで、読み手の理解は大きく変わってきます。
ストーリー性のあるプレスリリースは「担当者コメント」がカギ
最後に、「僕たちが持っている広報PRの熱源を使って、現場の人に光を当てることが大切」と遠藤さん。プレスリリースにおいてもこれは変わらず、ストーリー性を意識することが重要だと言います。
特にこだわっているのは、プレスリリースに掲載する「担当者コメント」とのことです。クラウドファンディングのプレスリリースでは、現場の医師や看護師、アートコーディネーターのコメントを掲載。当事者の声を載せることで、「現場の先生や担当した人たちはどう思っているのだろうか」という読み手の疑問をクリアにしました。

参考:茨城県産ヒノキ材を使用した院内の“温かな相談場所づくり”

【質疑応答】参加者からの質問に、町田さん・遠藤さんが回答
質疑応答の時間には、町田さんと遠藤さんへの質問も多数寄せられました。ここでは、参加者の方からの質問に対する回答をご紹介します。
──SNS運用以外にも業務があり忙しいと思いますが、投稿するネタ探しについて教えてください。
町田さん(以下、敬称略):当院はシリーズ物を複数同時に走らせ、当番制で回していくことでネタ切れを防いでいます。シリーズごとに視点や切り口が異なるので、投稿にバリエーションが生まれやすく、長期的に安定して運用できるのが特徴です。
──コンテンツ制作を進めるうえで「役員の理解」は必要だと思いますが、どうやって乗り越えてこられたのでしょうか。
町田:若手の看護師さんに出演を依頼しても、組織の構造上、上からの指示がないと動けません。そこでまずは、院長・看護部長・事務長の3役へしっかり意図を説明し、理解を得ることから始め、各部署の所属長にも順に話を通していくというステップを踏みました。
遠藤さん(以下、敬称略):たしかに看護師さんたちをはじめ、病院内には職種別に縦のつながりがありますよね。当院も、やっぱりSNSアカウントを開設した当初は「そんなことやって意味があるのか」ということも結構言われました。ただ、投稿を続けると一般の方や職員も見てくれたりフォローしてくれたりするので、「誰かが見てくれるんだな」と思って運用できるようになりました。
町田:また、「ある程度結果を出す」ことも重要だと感じています。新人看護師の自己紹介の中で「Instagramを見て雰囲気がよさそうだったから入職した」という声が多く聞かれるようになり、看護部全体のSNSに対する向き合い方や協力体制が大きく変わっていきました。
──日々変化するアルゴリズムをどうつかんでいらっしゃるんでしょうか。
町田:アルゴリズムは2〜3ヵ月で別物になるくらい変化するため、情報収集は欠かせません。Instagramならアダム・モッセリ氏、Xならイーロン・マスク氏など、プラットフォームのトップが発信する情報を常にチェックして、方向性の変化を掴むようにしています。例えば「Instagram=ハッシュタグ」のイメージが根強いですが、今はAIが発達しているのでハッシュタグはいらない、と言われています。こうした進化の流れをキャッチして、投稿内容や発信の手法に柔軟に取り入れることを意識しています。
──遠藤さんはステークホルダーを同心円上に可視化するということでしたが、どういう基準で埋めていくべきか、工夫していることがあれば教えてください。
遠藤:あまり難しく考えず、常にステークホルダーを足していくようなイメージで考えています。ざっくり作って、関わっていく中で「この人もいたな」「あの人にも伝えられたらいいな」となると思うので、そこを追加していく。また、B層からA層に移動するということもあるので、常に足したり移動させたりとステークホルダーとの距離感を日々調整していくことが大切だと思います。

まとめ:「選ばれる組織」は、関係構築とコンテンツ制作を怠らない
おふたりのお話からは、広報PR担当者として単体で動くのではなく、現場を巻き込んだ施策が重要であるということがわかりました。
- アルゴリズム(=AI神)に最適化し、届けたい相手に見てもらえる投稿設計を
- 行動変容を促し、選ばれるには高品質で高頻度な情報発信が必要
- ステークホルダーは同心円上の図で可視化し、距離感をつかむ
- 広報PR担当者と現場の一体感には双方のコミュニケーションが大切
- 発信する情報には、現場のストーリーを盛り込む
また、広報PR活動で重要なアルゴリズムを「AI神」ととらえたり、ステークホルダーを「同心円上」で考えたりと、病院広報以外でも参考になる点があったのではないでしょうか。自社の商品・サービスの魅力を発信し、あらゆるステークホルダーとの関係構築を図り、「選ばれる組織」を実現するためのヒントにしてみてください。
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