人口減少や高齢化、人材不足、地域コミュニティの希薄化などのさまざまな課題解決のために、広報PR活動に注力する自治体が増えています。岐阜県の最北端に位置する自然豊かな飛騨市もそんな自治体のひとつ。
「プレスリリースアワード2024」において、2,481件の中からローカル賞(発信と活用により地元の魅力を内外へ広げることにもっとも貢献したプレスリリースに贈る賞)を受賞した「ヒダ×10代ケンシン」以外にも、「ドSなインターンシップ」や「おしゃべりOKな図書館」「保育園留学」など全国に先駆けた数々の取り組みを市内外に向けて魅力的に発信しています。
本記事では、岐阜県飛騨市の広報PR担当を務める土田治昭さんと桜井鈴花さんにインタビュー。プレスリリースアワード受賞のインタビューで伺いきれなかった、飛騨市の広報PRの体制や情報発信の目的、注目されている取り組み、これから取り組んでいきたいことなど、たっぷりとお話しいただきました。
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岐阜県飛騨市 企画部総合政策課 課長補佐
岐阜県飛騨市出身。大学卒業後、民間企業勤務を経て、2002年に当時の神岡町役場に入庁。2004年の市町村合併による飛騨市誕生後、基盤整備部や商工観光部、市民福祉部などを経て、2017年から企画部総合政策課政策担当に配属。市役所全体の政策調整業務のほか、飛騨市の最上位計画「飛騨市総合政策指針(第Ⅰ期)」を策定。2023年からは広報広聴を担当し、市民への情報発信に加え、市外への政策広報やシティプロモーションの強化に努めている。
岐阜県飛騨市 企画部総合政策課 主事
愛知県丹羽郡大口町出身。大学卒業後、2023年から飛騨市役所の長期インターンシップ生第1号として企画部総合政策課に配属。採用活動の広報プロモーションの伴走支援を担当。その後、2024年に飛騨市役所に就職。現在は広報誌作成とSNS運用を担当。
政策広報を強化する飛騨市の新体制
すべての情報を取りまとめる「広報プロモーション係」
──本日は、「プレスリリースアワード2024」の受賞作品だけでなく、飛騨市の広報PR活動全体のことをお伺いさせてください。まずは、飛騨市の広報PR体制を教えていただけますでしょうか。
土田さん(以下、敬称略):飛騨市の広報PRは「広報プロモーション係」が担っており、私と桜井のほかに、動画やホームページを担当する会計年度任用職員1名が在籍しています。「プレスリリースアワード2024」で受賞したプレスリリースを発表したときに、主に担当してくれていた職員が10月に異動してしまったため、現在はこの3名です。
私の主な業務は、プレスリリースの作成や他部局との折衝、記者の方との調整。また、ホームページやケーブルテレビ、SNS、同報無線で流す原稿など外に出す情報は、各部局から上がってくるものも含めすべて最終確認・添削して仕上げています。イベントの多い時期は、1日に何十件もの原稿をチェックしていますね。そのほか、広聴事業も担当しています。
桜井さん(以下、敬称略):私は主に広報誌の発行とSNS運用を担当しています。広報誌は1ヵ月のサイクルがある程度決まっていて、月末に各部局へ原稿の募集をかけて月初に回収。集まった原稿をすべて確認して、掲載できるかどうかを判断したり、添削したりしています。3、4回の校正を経て完成、翌月の中旬に発行するという流れです。
また、岐阜県との連携もあります。県から毎月送られてくる情報の中から、飛騨市内で開催される岐阜県主催のイベントや、秋の交通安全運動など県全体に関わる情報は広報誌に掲載していますね。
土田:ほかにも、ちょうど明日参加するのですが、岐阜県の各市町村の広報PR担当者が集まり情報交換を行う会議があります。毎回テーマのようなものがあり、参加する各自治体からの質問に対する回答や課題感などを事前に集め、それに対して担当者同士が意見を出し合うんです。
他部局との密な連携で政策広報を強化
──各自治体のノウハウを持ち寄るんですね。飛騨市はプレスリリースの配信数も多く、外に向けた情報発信を積極的にされていますが、広報PRに注力するようになった転機があったのでしょうか。
土田:私はこれまで、別の部署で6年ほど市の政策事業全般の調整役を担っていて、広報PRの担当になったのは昨年からです。
以前の広報PR活動は、どちらかというと市民を対象とした内向きのものが多く、外に向けた発信は多くありませんでした。今までは各部局から情報が上がってくるのを待って発信していたのですが、昨年からは企画の段階から広報PRとして関わり、伴走しながらプレスリリースを配信するまで持っていく形が少しずつできるようになりましたね。その頃から、PR TIMESを利用して外への情報発信をするようになったんです。
そのタイミングで、広報係の業務の幅を広げていきたい、またそのことを市役所内でも意識してもらいたいと思い、「係名を変えてみてはどうか」と市長に提案し、現在の「広報プロモーション係」に名称を変更しています。
──都竹市長には、土田さんの異動で飛騨市の広報PRを強化したいという思いがあったのでしょうか。
土田:飛騨市の政策をプロモーションして外に発信する「政策広報」を強化したいという思いは直接聞いていました。飛騨市はさまざまな政策に取り組んでおり、話題になりそうなものや、メディアに取り上げてもらえそうなものが多くあります。そこで、市の政策全般に6年間携わっていた私が外への発信を任されたのかなと思います。
また、以前は政策担当係と広報係は席が離れていたのですが、今は同じ島で隣合って座っているので、双方がより密に連携できるようになっています。
広報誌とホームページの併用でより多くの情報を届ける
──自治体の中には、市民からの要望で広報誌をWeb配信に切り替えることを検討しているところもありますが、飛騨市ではいかがですか。
土田:デジタル化を進めたいという思いがありつつも、高齢者の中にはスマホを使えない方も多くいらっしゃいます。また、飛騨市では毎年「市政世論調査」という市民へのアンケート調査を、人口22,000人のうちの2,000人を対象に行っています。その中で市の情報をどこから入手しているのかを調べたところ、大半が広報誌という結果が出ているんです。この調査では広い年代の方が広報誌から情報を得ているということもわかっており、現時点ではWebのみに切り替えることは考えていません。
桜井:広報誌は何度も校正を重ねる必要があり、1ヵ月に出せる情報が限られていて、せっかく多くの情報が集まっていても精査しなくてはいけないのも事実です。そのような状況にもどかしさを感じることもありますが、広報誌とホームページ(Webでの情報提供)を併用することでより多くの情報を届けるように努めています。
土田:例えば、飛騨市で行われるイベントの様子を毎月多くの数の取材に行っていますが、40〜50本ほどある中で広報誌に載せられるのはすべてではありません。文字数もかなり限られているので、より詳しい内容はホームページの「まちの話題」に掲載し、広報誌とホームページを併用して、さらに多くの情報を届けられるようにしています。
──先ほど、市民2,000人を対象にした市政世論調査をされていると伺いましたが、そのほかに市民の声を広報PR活動に反映していることはありますか。
桜井:SNSの反応などは大切にしていて、どのような投稿が見られているのかを普段から意識していますね。また、飛騨市は「広報モニター制度」を導入しているんです。約100人のモニターの方に、広報誌だけでなくホームページやSNSなど飛騨市の広報全般に対する市政世論調査よりもさらに詳細まで伺うアンケートを定期的に実施しています。
例えば、広報誌で新しく始めた特集に対して、「この企画はおもしろい」「これは見づらくてダメ」など、モニターのみなさんの意見を集めるんです。大切な意見として広報誌だけでなく、広報PR活動に反映するようにしています。
先進的な取り組みで飛騨市の知名度を上げる
──飛騨市の広報PRとして、特に力を入れているのはどのような部分ですか。
土田:多くの地方自治体が人口減少を課題として抱えていると思いますが、飛騨市の都竹市長は市政として「人口減少を抑制します」とは言っていないんです。日本の人口はいずれどの自治体も減っていくもので、それが早いか遅いだけかの違いという捉え方をしていて、私たちは「飛騨市は人口減少先進地」と言っています。今直面している人口減少に関する課題は、おそらく30年後ぐらいには日本全国どこの自治体でも体験することになるので、それに先駆けて「課題先進地」としての取り組みをしているのが飛騨市の特徴のひとつかもしれません。そのひとつとして、「飛騨市ファンクラブ」など関係人口に関する取り組みを何年も前から注力しています。
──先進的な取り組みでいうと、「ドSなインターンシップ体験」もかなりインパクトのある企画だなと思いました。
桜井:飛騨市も人手不足はほかの自治体と同じ状況で、職員がなかなか採用できないという課題を抱えていました。なんとか職員を募集しようということで「ドSなインターンシップ」というキャッチフレーズで、短期と長期のインターンシッププログラムを実施したんです。例えば、学生の方を対象にした「5Days インターンシップ」では、内定辞退率をゼロにすることを掲げ、10以上のプログラムを用意。希望に合わせて受け入れるという形を取っており、今年も実施しました。
土田:自治体のインターンシップは短期間のものが多かったと思いますが、初めて社会人に向けた長期のインターンシップを実施したんです。実はその第1号が桜井さんで、インターンシップ終了後もそのまま飛騨市に就職してくれています。
参考:【岐阜県飛騨市】課題先進地の挑戦!ベンチャー市役所でのドSなインターンシップ体験で公務員のイメージを変える
桜井:短期インターンシップはほかの自治体でも探せばありましたが、数ヵ月単位の長期で受け入れてくれる自治体はなかなか見つかりませんでした。新卒の学生だけでなく、中途でも受け入れている飛騨市はめずらしかったと思います。
シビックプライド醸成の一助につながる広報PR
──飛騨市の広報PR活動をするうえで、土田さんが大切にされていることは何ですか。
土田:自治体では、市民に情報がしっかり伝わることがもっとも大切です。事細かく情報を書き連ねるだけのいわゆる「アリバイ広報」ではなく、「伝わる広報」であること。市民へのお知らせが市民のみなさんにしっかり伝わって、それを見て行動を起こしてもらうということを重視しています。
特に政策に関する広報は背景や目的までを掘り下げて書かないと、「こういうことをします」だけではなかなか伝わりません。そこで、効果的なプレスリリースにするために、私たち広報PR担当者だけでなく、情報を上げてくれる市役所の各部署から特に若手の職員が気軽に学べるような機会を設けているんです。
──プレスリリースに期待する部分でいうと、やはりメディアに取り上げられることが大きいのでしょうか。
土田:そうですね。都竹市長が広報PR活動を大事にするという意味で「メディアに取り上げられていない政策はやっていないのと同じ」と職員に言っているのですが、やはりメディアに取り上げてもらい、市民に広く知っていただくことは重視しています。
飛騨地域には飛騨市、高山市、下呂市、白川村の三市一村がありますが、その中でもうちは一番知名度が低かったと思います。しかし、メディアへ取り上げられることを強く意識するようになってからは、飛騨市についての掲載が増えてきました。その結果、「飛騨市のニュースをよく見るね」「飛騨市っていろいろ取り組んでいて元気だね」と、市民の方や周辺エリアの方からお声をいただくようになり、市民のみなさんの誇りにもつながっているのを感じます。メディアに取り上げてもらうことにはやはり大きな意味があると思いますね。
ふるさと納税をしてよかったと思える自治体を目指す
──プレスリリースを配信するうえで心がけていることはありますか。
土田:心がけているのは、幅広い情報を発信することです。メディアの記者さんたちからも「飛騨市はプレスリリースをたくさん出していて、ネタに困ることがないのでありがたい」と言われることがあります。それぐらい本当に細かいところまでプレスリリースを配信しています。
──「幅広い情報の発信」で言うと、ふるさと納税の使い道を伝えるプレスリリースが印象的でした。ふるさと納税の寄付金を「どう使ったか」を伝えるプレスリリースを配信したのには、どのような狙いがあったのでしょうか。
土田:飛騨市は2020年から、「飛騨市は、“日本一ふるさと納税をして良かったと思っていただける自治体”を目指します!」と掲げて、ふるさと納税にかなり力を入れてきました。ふるさと納税では希望する寄付金の使用用途を選びますが、飛騨市はその用途が細かく分かれていて、19もの選択肢から使い道を選ぶことができるのが特徴です。
【岐阜県飛騨市:ふるさと納税の使用用途(2024年11月時点)】
1.地域振興・観光・まちづくり・防災に関する事業
2.福祉・子育て支援、生きづらさや困難を抱える人たちへの支援に関する事業
3.教育・文化・芸術・環境保全に関する事業
4.飛騨市こどものこころクリニックの運営と発達支援に関する事業
5.東京大学宇宙線研究所との連携推進事業
6.レールマウンテンバイクガッタン・ゴーによる地域振興事業
7.飛騨市オリジナル映画ドラマ制作プロジェクト
8.飛騨市を舞台とした若手音楽家・芸術家の育成プロジェクト
9.飛騨市の子どもたちの夢を育てる!ドリームプロジェクト
10.飛騨みやがわ考古民俗館の茅葺き民家を保存・活用する事業
11.飛騨市民病院による地域医療を支える人づくりに関する事業
12.飛騨市で開催する関西中学生ラグビーフットボール大会への支援に関する事業
13.東北大学宇宙素粒子研究連携事業
14.飛騨市での私立大学立地への支援
15.飛騨の子どもたちをスポーツで元気に
16.「神岡に鉱山の歴史あり!」鉱山資料館のリニューアルを目指して
17.女神に恋する立ち達磨を恋の聖地に
18.市制20周年に子ども達へ大輪の花火
19.先駆的なこどもまんなか支援の実践
寄付してくださった方々に感謝の気持ちを伝えるためにも、その寄付がどのように使われたのかを伝えるプレスリリースが必要だと思いました。
今回の「旧中村家」の修復工事のプレスリリースもそのひとつです。「旧中村家」は飛騨市の茅葺き民家で、飛騨市ふるさと納税の使途メニューの中の「修復工事へのご寄付」に約6,000万円の寄付が集まったことで、修復工事が実施できました。文化財の保護に力を入れているということと、修復工事に伴う曳家を一般公開するという珍しさもこのプレスリリースの配信を決めたポイントです。
参考:【岐阜県飛騨市】茅葺き民家を全国からのふるさと納税で修復!感謝を込めて修復に伴う”曳家”を一般公開します
──最後に、広報プロモーション係として今後取り組んでいきたいこと、より一層強化していきたいことなどを教えてください。
桜井:実際に1年間働いてみると、市民が安心して暮らせることや、誇りを持って暮らせることが何よりも重要なことだと強く感じるようになりました。「ドSな市役所」という攻めのアピールをしてはいますが、個人的には市民を守るような広報PR活動をまずは大切にしていきたいなと思っています。その「守りの広報」が飛騨市に賑わいをもたらして、その賑わいに人が集まり、その結果「守り」が「攻め」になるような広報PR活動をしたいですね。
飛騨地域の方言に「あんきに(安心して・気軽に)」という言葉がありますが、市民が安心して楽しく暮らすことができる「あんきな」広報PR活動を目指したいと思います。
土田:一番は市民のみなさんに情報をしっかり伝えることを大切にしつつ、飛騨市はおもしろい取り組みをたくさんしているので、それを全国のみなさんにも広く知っていただきたいと思います。
また、飛騨市は職員も少なくてどの部局も広報PR活動にまで手がまわらない状況です。そこをもっと広報プロモーション係が頑張って伴走して、市民が飛騨市を誇りに思えるような広報PR活動をしていきたいと思います。
まとめ:広報PRの力で、市民が誇りに思える飛騨市に
岐阜県飛騨市の土田治昭さんと桜井鈴花さんにお話を伺いました。人口減少や高齢化、人手不足などの課題に対し、ユニークで先進的な取り組みで解決を目指す岐阜県飛騨市。広報PRの丁寧な発信がきっかけとなり、全国的に注目を集めたものも多くあります。
自治体の広報PR施策として、市民に必要な情報を正しく届けることを最優先にしつつ、「攻めの広報」の姿勢で「課題先進地」として全国へ認知拡大を目指す飛騨市は、同様の課題を抱える地方自治体にとって参考になる点も多いのではないでしょうか。
誠実さと遊び心あふれる飛騨市の広報PR活動は、今後も目が離せません。
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