身近な地元企業やメディアから広報PRに関する学びとヒントが得られる「そこで、PRゼミ!」。2024年1月30日には、「“選ばれる”企業への第一歩愛知・東海の経営は広報PRで変わる」をテーマに名古屋で開催されました。
本レポートは、旅人に寄り添うガイドブック『地球の歩き方』を手がける株式会社地球の歩き方の宮田崇さんと、『千原ジュニアの愛知あたりまえワールド☆』など人気番組のプロデューサーを務める、テレビ愛知株式会社の藤城辰也さんによるトークセッションをまとめています。
株式会社地球の歩き方 取締役 コンテンツ事業部 部長
神奈川県横浜市生まれ。立教大学経済学部経営学科卒業後、2001年に株式会社ダイヤモンド・ビッグ社に入社。2002年より「地球の歩き方」編集部所属となり、100以上の旅の書籍を手がける。2017年より編集長。「御朱印」「島旅」シリーズの拡大、「旅の図鑑」シリーズや「東京編」をはじめとする国内版のプロジェクトを立ち上げる。2021年1月より株式会社地球の歩き方へ。
テレビ愛知株式会社 報道制作局制作グループ プロデューサー
2001年テレビ愛知入社。制作・報道・事業等を担当。GHレギュラー番組「千原ジュニアの愛知あたりまえワールド☆」など30本以上の番組・イベントを企画・立案・制作。特番「千原ジュニアの愛知最強!個性はげしめタウンBEST20」は自社制作番組歴代1位の視聴率を獲得した。
愛知の人以外の視点を入れた制作体制
──地域の魅力を引き出すコンテンツの数々は、どのようなチームによってつくられているのでしょうか。
宮田さん/地球の歩き方(以下、敬称略):旅行ガイドブック『地球の歩き方』は、10人ほどのメンバーで取材をこなしており、1冊を1年以上かけて制作しています。
大切にしているのは第三者の視点をチームの中に取り入れること。愛知のガイドブック『地球の歩き方 愛知 2024~2025』の制作の際も、地元の人や愛知に詳しい人だけでチームをつくることはせず、東京の人が旅で訪れたらどうなのか、「旅から見た愛知」という視点を意識してスタッフを組んでいます。
藤城さん/テレビ愛知(以下、敬称略):僕は、地域の魅力は「ほかの地域との違い」だと思っていて、『千原ジュニアの愛知あたりまえワールド☆』の制作体制も、違いに気づくことを意識したチームを組んでいます。構成作家はあえて東京の人に入ってもらい、愛知県に住んでいる人では気づきにくい視点を取り入れ、スタッフチームには、女性目線での気づきを得るために主婦の方が加わっているのもポイントです。
また、実際の現場で動く「映像制作チーム」のディレクターは、60代のベテランから20代の若手まで個性的なメンバーを集めました。中にはミュージシャンや普段はカメラマンをしているディレクターもいて、それぞれの視点で取材対象とほかとの違いを見いだしています。
制作は「一期一会」「ほかとの違い」を大切に
──次に、宮田さんと藤城さんがコンテンツ制作において大切にしていることを教えてください。
宮田/地球の歩き方:大切にしているのは、旅が「一期一会」であるということです。『地球の歩き方』はもともと海外旅行のガイドブックだったので、同じ国は二度と訪れないという前提でつくられています。「その土地を人生で一度だけ訪れるとしたら、どんなことを経験してほしいのか」といったことを心に留めて情報を届けているので、流行を追うことはしません。
一方で、情報の網羅性も『地球の歩き方』の特徴です。例えば、シェフが一人で切り盛りしているレストランを紹介した場合、お店がパンクしてしまうことも考えられます。違う料理が運ばれてきて、その旅の思い出が楽しくなくなってしまうのはとても残念なので、受け入れ側の体制がきちんとできているお店なのか、という点も取り上げるポイントになります。
藤城/テレビ愛知:「ほかとの違い」をとことん追求していまして、取材対象者のおもしろどころを見つけて言語化し、それが引き立つストーリーを考えます。
以前番組で紹介した大府市のうどん屋さんの例ですが、安くて味がよく、行列のできる人気店でした。ただ、安さの説明はテロップやナレーションが10秒で終わってしまうし、行列を写しても数秒、厨房で撮影してもせいぜい30秒なので、15分のVTRには足りません。ほかとの違いがないかを追求した結果、店主の個性に注目したんです。
常連さんが行列に並んだ瞬間にいつも頼むメニューをつくり始め、席に座った瞬間に料理を出したり、急に会話に入ってきて話をまとめたり、ほかの店主と明らかに違っていて。それで「せっかちうどん」と名づけて、そのせっかちぶりをストーリーで描きました。
ウケる企画を生む「読者の声」と「僕の空想」
──広報PR担当者の多くが気になると思うのですがどのように企画をつくっているのでしょうか。
藤城/テレビ愛知:空想からはじめてみることも方法のひとつだと思っています。
僕はよく、「海の中に潜ったらすごいものが出てくるのでは」「空から愛知県を見たら何か発見できるかも」というような、「あったらいいな」という空想をディレクターに話すんですが、実際に実現したものもあるんですよ。
50年前に渥美半島の海に沈められ、発見できていなかった名古屋市の市電があるのですが、現地の漁師さんたちに聞いても「そんなものは消えてなくなっている」と言うんです。それでもうちのディレクターが諦めずに取材を続けて場所を特定した結果、本当につり革が見つかりました。新聞社に取材されたり、特番のドキュメンタリー番組になったりと大きな成果につながった事例です。空想からはじまり、現場の熱意で実現するというのが「ウケる企画」なのかなと。
宮田/地球の歩き方:改訂本や新刊をあわせて年間80本ほどつくっているので、日々届く読者の声を即時に反映して企画を考えています。
「円安・物価高騰の影響でハワイでの食事をどうしよう」という声をもとに、「1食10ドル以下で食べられるおいしいお店」や「スーパーマーケットの活用術」をすべてのガイドブックに入れたこともありましたし、育休産休中でしばらく旅行にいけない方の声から、人々の生活の近いところに『地球の歩き方』を届けられるよう、『地球の歩き方』のオリジナル商品も販売しました。
直近では「もしも地球の歩き方がカレーをつくったら」をテーマに、レトルトカレーを発売。あえて日本人の舌に合わせず、現地の味をそのまま再現することにこだわっています。
メディアが教える魅力の引き出し方
──広報PR担当者の中には、自社の魅力や価値をうまく伝えられずに悩んでいる方も多いのではないでしょうか。魅力を引き出すポイントがあれば教えてください。
1.当たり前を疑って新しい視点を持つ
|自分の価値を周りから教えてもらう
宮田/地球の歩き方:以前、佐渡のガイドブックを制作したとき、いきつけの回転寿司屋に取材をお願いしたところ「うちなんて、築地に出荷していないようなその辺で獲れたマグロを、東京には送られないような地元のお米でちゃちゃっと握って出してるだけだから」と言うんです。築地に出荷できないのはサイズが小さいからで、地元のお米は新潟でも一番おいしいといわれる佐渡米。素材はどれも一流で、2貫100円で提供しています。当人は「うちなんて」と言うけれど、旅人側にとってはすごく有益な情報だったりするんです。ですから、自分の価値を周りの人に教えてもらうことも大切だと思います。
|愛着を感じられる方法を意識
藤城/テレビ愛知:そうですね。価値がない商品はないと思いますが、BtoBの製品の場合は一般の生活者に伝わりにくいのも事実です。『工場へ行こう』という情報バラエティ番組で、ある会社の特殊バルブを紹介するときにとても苦戦しました。
世界トップシェアの日本が誇るすばらしいバルブなのですが、スマホやパソコンなどの電子機器に使われている小さな部品を洗浄する装置の中で使用するかなりマニアックな製品。これを製造工程を紹介する中で、どう視聴者に魅力的に伝えるのか、僕たちは正直悩んでいました。そのとき、インタビューで「このバルブは、プラスチック素材の中でも相当いいものを使っていて、例えるならプラスチック界の貴公子です」と言ったんです。その言葉を聞いて、視聴者が愛着を感じられるよう、プラスチックを擬人化することに決めました。
2.伝えたい対象者の解像度を上げて言葉を選ぶ
──今回、1社限定で宮田さんと藤城さんへの公開相談会を実施。広報PRにまつわるお悩みに対してコメントいただきます。
相談内容
海外では親しまれている発酵ドリンク「Kombucha」を活用した、日本初の本格クラフトノンアルコールドリンクの専門ブリュワリーを営業しています。ノンアルコールドリンクの魅力を「おいしい」という言葉だけでは、伝えたいことが足らないと感じています。お客さまが「どうしても飲んでみたい」と思うような表現をアドバイスしていただきたいです。
藤城/テレビ愛知:一般的には、ノンアルコールはアルコール好きからすると物足りなさや「飲んでいる気がしない」というイメージがあります。その中で、ほかとの違いを見つけて「飲んだ人の気持ち」を言葉にするなら、まず「アルコールを飲んだ感じがする」といった表現がいいのかなと。例えば、「飲んだ感ナンバーワンのノンアルコール飲料」なら、飲みごたえの部分は伝わりますよね。
あとは、海外でスタンダードに親しまれているということなので、「海外では今や常識」「海外では当たり前」のような枕詞を入れるのもいいかなと思います。情報量が多すぎると伝わりにくいので、なるべく削ぎ落として優先順位をつけることがポイントです。
宮田/地球の歩き方:お酒の好きな人が本気ですすめるのはやっぱりアルコールだと思うんです。それなら「お酒好きがうなる」のほうがしっくりくるのかなと。お酒好きが納得できるかどうかが基準になるので、エビデンスを取るためにお酒が好きな人を100人ぐらい集めて、本当にお酒の代わりになるのかを白黒はっきりさせてみたり、取引先の方々に仕入れた理由を聞いてみたりする。それを積極的にアピールするというのも方法のひとつだと思います。
あとは、Kombuchaを名前から外してしまうのはもったいない感じがしますね。世界的に浸透しているものは非常に重要で、認知度のあるものを利用して自分のブランドをどう広めていくのかは大切なポイントです。Kombuchaを商品名の下に入れて、営業に行く先々で「Kombuchaって何ですか?」と質問されるような仕組みをつくってみてはどうでしょうか。
3.既存の商品の魅力を引き出すために視点を変える
最後に、当日会場から出た質問に対する宮田さんと藤城さんの回答をご紹介します。
会場からの質問
新しいものは紹介しやすいのですが、昔からあるものをメディアに取り上げてもらうための秘訣を知りたいです。
宮田/地球の歩き方:SNSでの発信をしていないのなら始めるべきですし、発信の頻度も増やすべきだと思います。『地球の歩き方』がコロナ禍から取り組んでいったことのひとつが、SNSでの定期的な発信です。基本的には毎日発信していて、大きな反響を得られることもありますし、そこに気づきがあると思うんです。それぞれのSNSでチャンネルを開設することもポイントだと思います。
藤城/テレビ愛知:僕は別に新しいものがいいとは思っていなくて、古いものでもいいと思っています。大切なのはそれをどのように見せるのか。
例えば、鉄板で料理を出す喫茶店を番組で取り上げたことがありますが、その隣には行列ができるうなぎ屋さんがありました。そこで、「行列のできるうなぎ屋の隣にある店はどれだけ流行っているのか」という視点で取材をしました。何かひとつをかけ合わせてみたり、ランキングで見せ方を変えてみたり、そのほうが楽しく魅力を伝えられるのではないでしょうか。
まとめ:地域も商品も視点を変えると新たな魅力が見える
コンテンツ制作で大切にしていることから企画の生み出し方まで、役立つノウハウが共有された愛知PRゼミの第一部レポートをお届けしました。メディアが教える地域企業の魅力を引き出すポイントは以下の通りです。
- 外からの視点・第三者の視点を大切にする
- ほかとの違いを探し、ストーリーを描く
- 伝える対象者の解像度を上げ、情報に優先順位をつける
広報PR活動においても、上記の視点を大切に、そして実践してみてはいかがでしょうか。
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