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デジタル時代の旅館・ホテル広報PRとは?|当事者が語る企画とSNS戦略

プレスリリース配信サービスなどを運営するPR TIMESは、広報PR活動に力を入れたい旅館・ホテルの経営者、広報PR担当者を対象に、2月28日にセミナーを実施。「地方旅館・ホテルにおけるPR戦略の可能性とは」をテーマに、当日は現地・オンラインで約200人の関係者が参加しました。

群馬県の観光業に新たな風を吹き込む白井屋ホテル代表取締役の矢村功氏、ホテル・レストランの専門誌「HOTERES」マネージングディレクター岩本大輝氏、ホテルインフルエンサーのやよぴ氏が登壇し、観光業の広報PR戦略やトレンドなどについて議論を交わしました。

草津温泉とは勝負しない。ここでしかできない体験を前橋市で生む(第一部)

第一部で登壇したのは、群馬県前橋市で廃業した老舗旅館を再生した「白井屋ホテル」代表取締役の矢村功氏。人気の観光地とは異なった価値を提供する、独自の広報PR・マーケティング戦略について語りました。

白井屋ホテル 代表取締役

矢村功(Ko Yamura)

大阪大学大学院を卒業後、広告代理店を経て、アイウエアブランド「JINS」を展開するジンズホールディングスでマーケティング、商品企画を担当。2019年より現職に。2020年12月に廃業した老舗旅館を再生した「白井屋ホテル」を開業。

前橋市に新たな観光需要をつくるホテル

セミナー当日の投影資料
セミナー当日の投影資料より引用

ホテルへのアクセスは、JR両毛線前橋駅より徒歩約15分、タクシーで約5分。建築家の藤本壮介氏が手がけた建物は、コンクリート造りの白い壁と、外壁を覆う緑が特徴です。「想像力と出逢い五感を満たす旅先」としての価値を提供しており、アーティストや旬な飲食店とのコラボも頻繁に行っています。

セミナー当日の投影資料
セミナー当日の投影資料より引用

群馬県で有名な観光地といえば草津温泉で、宿泊するお客様の推計は年間200万人を超えます。一方で前橋市は40万人。ビジネスホテルはありますが、観光の需要はあまりない場所です。そもそも群馬県は観光消費額単価が全国42位というデータもあり、他の都道府県と比べると非常に低い。これらの事実は、私が白井屋ホテルの事業を始めるにあたりもっともチャレンジングだと思ったところです。

草津温泉や箱根などの有名な温泉地とはお客様を奪い合わずに、前橋市に新たな観光需要を創り出す──。これは今も試行錯誤している、私たちにとって大切なテーマでもあります。

プレスリリースは質より量。ときには虎の威も借りる

プレスリリースは創業から約2年で95本、つまり1週間に1本ぐらいのペースで出していることになります。「このプレスリリースを出す価値があるのかどうか」を悩む前に、質より量を意識して発表するようにしています。企画がどういった成果につながるかは、発信してみないとわからないからです。前橋という地名を聞いて「観光しよう」と思ってくださるお客様は少ないはず。だからこそ、まず白井屋ホテルそのものを知り、想起してもらうきっかけを作りたいと思っています。

セミナー当日の投影資料
セミナー当日の投影資料より引用

また虎の威を借りる、とまでは言いませんが、自分たちだけの企画・発信では効果に限度があるので、他社とコラボレーションした広報PR企画に積極的に取り組んでいます。例えば、プレスリリースの配信先について、他社の方はわれわれと異なるリストを持っているので、共有することで今までアクセスできなかったメディアに発信できますね。白井屋ホテルが出せないようなおもしろい情報を持っている他社と組めば、それを企画に活かすこともできます。

加えて、単体では取り上げられにくい企画も、組み合わせれば露出を増やせます。例えば、開業から約1年後に、テナントにベーカリーが開店することになったときは、ベーカリーのオープンと宿泊体験をセットで発信しました。するとメディアの関係者が何人か足を運んでくれたんです。オープンから1年のホテルの宿泊体験、もしくはベーカリーの開店。それぞれ個別の企画では興味を持ってもらえなかった企画も、組み合わせることで効果を発揮した瞬間でした。

「ワクワクする企画」を高スピードで回す醍醐味

私たちホテル側が新しい企画やチャレンジにワクワクしてないと、お客様は当然ワクワクできないな、という風に思っています。与える側と受け取る側がともに「ワクワク」するという前提をとても大切にしています。

あとは、企画したサービスをスピード感を持って回せることも、宿泊業ならではの醍醐味。例えば、スマホメーカーの社員がおもしろい商品を思いついたとして、スマホの金型などから作る必要があります。商材に投資が必要だったり、企画の着想からリリースまで、半年以上はリードタイムがかかったりするものが多いです。おのずと広報PRも息の長いものとなるでしょう。

ホテル・宿泊業の場合は、サービスや企画そのものが商品。スピード感をもってトライアンドエラーが繰り返せるのは、強みではないでしょうか。商品と情報とオペレーションを同時に考えることが大切だと思っています。

うちでは、ホテル内にあるサウナを誰かが「薬草サウナにしたい」と提案したら、漢方の専門店や問屋に行って3日後からさまざまな漢方をテストして、1ヵ月後にローンチできます。悪いところがあれば、企画を走らせながら改善することも可能です。商品と現場のオペレーションが重なり合っていることから、ホテル・宿泊業のPRには大きなポテンシャルがあると感じています。

インフルエンサーとメディア目線で語る「発信のポイント」(第二部)

第二部ではホテルインフルエンサーのやよぴ氏、ホテル・レストランの専門誌「HOTERES」マネージングディレクター岩本大輝氏も加わり、インフルエンサー・メディア目線で考えた発信のポイントなどについて、トークセッションを行いました。

やよぴ(yayopii)

TwitterとInstagramのフォロワー計12万人超の「ホテル暮らしOL」。2013年サイバーエージェントに入社後、複数のIT企業にて事業開発やマーケティング、PRまで幅広く従事。2020年9月よりリモートワークになったことをきっかけにホテル暮らしを始める。全国さまざまな宿に宿泊した経験をもとに、SNSを通じてホテルの情報を発信している。

株式会社オータパブリケイションズ執行役員、マネージングディレクター

岩本大輝(Daiki Iwamoto)

防衛大学校卒業後、2004年に横須賀にあるバー経営企業を経て、2007年に株式会社オータパブリケイションズに入社。新規事業としてホテル業界に特化した求人事業などを立ち上げ、ホテル・レストラン業界唯一の専門誌「週刊ホテルレストラン(HOTERES)」編集長に就任。2019年より現職。

「推し宿」を12万人に伝えるインフルエンサーの情報収集

やよぴ氏:コロナ禍をきっかけにホテル暮らしを始めたら魅力に取りつかれてしまい、365日ホテル生活を続けて、気づいたら3年弱は経っていますね。TwitterとInstagram合わせて約12万人(2022年2月末時点)のフォロワーに向けて、泊まってよかったと思う「推し宿」について発信しています。メインのフォロワー層は20代半ばから30代。コンセプトやストーリーが明確であったり、ワーケーションができたりする宿などの紹介が多いです。

セミナー当日の投影資料
セミナー当日の投影資料より引用

情報収集には、潜在的、顕在的なアプローチの2通りがあります。

普段SNSをなんとなく見ている中で潜在的に情報を収集しているときは、旅・ライフスタイル系のことを発信しているアカウントをフォローして、自分のタイムラインに流れている中で気になる投稿をお気に入りなどに保存しています。

顕在的な情報収集については、自分で旅行に行こう、とアクションを起こすとき、ホテル名・エリア・価格帯などでGoogle検索したり、予約サイトで絞り込んだりします。SNSではホテル名を検索してリアルな声を見てから、行くかどうかを決めています。

反響が多い投稿・ツイート

以下の点を多く押さえた投稿は、数々のツイートのなかでも反響が大きかったと認識しています。

  • ターゲット
  • 使用シーン
  • 推しポイント
  • 価格
  • 期間限定
  • 雰囲気が分かる写真

旅行・ホテル分野のインフルエンサーのトレンドとしては、最初は旅行や宿全般を紹介するアカウントが主流だったのですが、最近はどんどん「ファミリー向け」「カップル向け」「おひとりさま向け」「コスパ宿」など、ジャンルが細分化されています。ユーザーの細かな需要に応じた発信で、濃いファンを獲得するパターンが増えてました。

ユーザー目線では、公式のホームページ以外にも「一休」や「じゃらん」などの予約サイト、SNSなど、ホテルを知る手段はたくさんあります。そのため、あらゆる媒体で一貫したメッセージやクリエイティブがあって、それらの情報が統一されていると、より魅力が伝わりやすいはずです。

インフルエンサー的「PRがうまい」ホテル

バリューマネジメント株式会社のPR TIMES企業ページ
バリューマネジメント株式会社のPR TIMES企業ページより引用

バリューマネジメント株式会社が運営する「VMG HOTEL」のPRは、インフルエンサーの仲間内でもよく話題に上がります。なかでも、PR TIMESで発信するプレスリリースの数が本当に多いです。定期的な発信で、ユーザーとの接点を持とうとしている姿勢が伝わります。

SNSの投稿は、キャンペーンで新規のユーザーとの接点をしっかりと作ろうとする設計で作られています。おそらく宿のことだけを発信していても、なかなか新規のユーザーと接点を作る機会が難しいため、その宿があるエリアのおすすめスポットやグルメ、写真が撮りやすいスポットなども投稿して、対象を広げてコンテンツを作っているところは実に考えられていると思います。私もよく投稿を見に行っています。

メディアごとに異なるニュースバリュー

セミナー当日の投影資料
セミナー当日の投影資料より引用

岩本さん:1966年創刊の「週刊ホテルレストラン(HOTERES)」という業界誌を発行しています。「食洗器」「客室清掃」「ホテルリネン」などのコアな特集もありまして、週刊ダイヤモンドやWEB LEON、GOETE(ゲーテ)などにもコンテンツを提供しています。われわれ業界誌と一般の方が読む一般誌では、ニュースとして求める情報が異なります。

ライフスタイル誌や経済誌などの「一般誌」においては、ありきたりなものではなく他にはない魅力のある商品・サービスが取り上げられやすいです。バズワードでクリックを誘発することも盛んに行われています。業界誌では普遍性のある取り組みや成功事例を掘り下げることが重要なため、媒体のジャンルによって求める情報は異なるといえます。

ホテル・観光プレスリリースの事例紹介

第三部では、PR TIMES営業本部の高山亮真がプレスリリースを発信するときに重要な「9つのフック」を活用した事例を4つ紹介しました。

セミナー当日の投影資料
セミナー当日の投影資料より引用

【9つのフック】

  • 時流 / 季節性
  • 意外性
  • 逆説 / 対立
  • 地域性
  • 話題性
  • 社会性 / 公共性
  • 新規性 / 独自性
  • 最上級 / 希少性
  • 画像 / 映像

なお、「9つのフック」についてはこちらの記事でも紹介しているので、参考にしてみてください。

事例1)一般財団法人休暇村協会

高山:プレスリリースのデジタル化で、メディア関係者だけでなく生活者に直接情報が届くようになってきました。読み手を引きつける「9つのフック」を踏まえて発信することが重要です。

ここからは、「9つのフック」を意識したプレスリリースの事例を紹介していきます。最初は、一般財団法人休暇村協会の「季節限定!希少な日光産のメープルシロップができるまでを学んで味わう 樹液採取&試飲を体験できる無料プログラムを実施」のプレスリリース。冬限定でホテル周辺のカエデから樹液を採取し、試飲するまでを体験できるというプログラムです。

セミナー当日の投影資料より引用

こちらの体験は、地域性と話題性以外に冬ならではのイベントで季節性もあります。累計1,323PV(2023年2月末時点)を獲得し、テレビの取材が1社入ったとのことです。

事例2)ソラーレホテルズアンドリゾーツ

ソラーレホテルズアンドリゾーツの「いちごアフタヌーンティー with 出来立て0秒プレミアム生ショートケーキ」のプレスリリースは、春ならではの季節性だけでなく、タイトルや企画のネーミングにかなり独自性や新規性があり、話題性も高い内容です。予約開始の8日前に発表しています。反響としては、1月13日の予約開始当日にこちらの商品はほぼ完売し、しかも815人のお客様の予約につながったとのことです。Webメディアに75件掲載されたほか、テレビの取材も入りました。

セミナー当日の投影資料より引用

PR TIMESは1件あたり3万円から配信できるのですが、こちらの施策の広告換算費を出したところ、120万円程度の効果が得られたそうです。加えてお客様からも好評のため、急遽期間を延長したとのお話を聞いています。

事例3)合資会社親湯温泉

社会性のあるプレスリリースで効果を出している事例として、合資会社親湯温泉の「【社員ワクチン接種率】98.3%の宿、【ワクチン接種優待プラン】を販売開始。政府の【ワクチン接種証明書】活用の方針を受け決定。(合資会社 親湯温泉)」を紹介します。

2021年の9月に、社員120人の98.3%がワクチンを接種済みであるという情報を記載しつつ、優待プランを紹介するプレスリリースです。通常であれば公表されることがない社員の接種率をあえて出す、チャレンジングな内容です。

累計2,891PV(2023年2月末時点)を獲得しただけでなく、コロナ禍の社会情勢を見越しつつ先回りでプランを出した点で、メディア関係者からの反響があったそうです。全国ネットの朝と夕方の情報番組、地元メディアでも紹介されました。結果として、こちらのプランは5800組以上のお客様が利用したとのことでした。

事例4)リゾーツ琉球

リゾーツ琉球株式会社の「“すべての人を最高の状態で送り出したい” 朝食にこだわりぬいた、おいしい朝食を食べるためのホテル「The BREAKFAST HOTEL」が誕生」のプレスリリースも秀逸です。こちらは朝ごはんに特化したホテルという新規性に加えて、話題性もある内容です。実際のメニューを撮影した画像を多く使っているのもよいですね。

全国放送のテレビ番組の担当者から取材依頼が舞い込んだり、地元メディアからの取材もあったりしたようです。また、プレスリリース自体も累計6,390PV(2023年2月末時点)と比較的よく見られていました。朝食込みでの予約率がかなり上がりました、という嬉しい声も担当者からいただいています。

白井屋ホテルのケースにもありましたが、継続してプレスリリースを発信していくという点で、地域とメディア関係者と接点を持つことができます。リレーションを継続することで、情報の受け手側で「今後もまた新しい企画が出るのでは」といった期待感が醸成されて、信頼にもつながります。

企画ごとに適した発信手法で、地域ならではの魅力を伝える

本セミナーでは、プレスリリースやSNS、メディアなどの発信を通じ、「ここにしかない」地域の魅力を伝え続ける行動者の方々が登壇しました。観光地から外れた立地でありながら発信の頻度と内容を考え抜く白井屋の発信手法や、インフルエンサーが発信する時のポイント、9つのフックなど、さまざまなトピックが詰まった2時間でした。

「広報PRを強化したい」「情報発信に取り組んでいるが手ごたえがない」と感じるホテル・観光業の方も、明日から実践できる方法があるはずです。立地にとらわれず、独自性や季節性に特化したキャンペーン、地元メディアとのリレーション構築を考える際に、これらのノウハウが活きるのではないでしょうか。

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この記事のライター

渡辺 香里那

渡辺 香里那

PR TIMES MAGAZINE編集部。大手新聞社に2015年新卒入社。経済、社会、写真映像部で約7年間記者とカメラマンを経験したのち、「読者のニーズによりそった企画を考えたい」とPR TIMESに入社。広報PRパーソンにとって役立つと思った企画を日々、提案しています。趣味は写真撮影とスポーツ観戦です。

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