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正しい価値提供が私たちの責任。共感から生まれるビジネスですべての人の人生を豊かに|株式会社スープストックトーキョー

首都圏を中心に食べるスープの専門店「Soup Stock Tokyo」を展開する、株式会社スープストックトーキョー。1999年の1号店オープン以来、経営理念である「世の中の体温をあげる」の実現に取り組んでいます。そして2024年4月、株式会社スマイルズよりSoup Stock Tokyo事業を会社分割した2016年から社長を務めてきた松尾真継さんが退任。新たに取締役社長のバトンを受け取ったのが、資生堂、ユーグレナと最前線で活躍してきた工藤萌さんです(※)。

マーケティングやブランディング領域での豊富な知見を持つ工藤さんですが、根幹にあるのは、世の中へ価値の提供をしたいという志と行動力だと感じました。本記事では、これまでのキャリアを通して学んだことや今後の展望、広報PRやマーケティングという仕事への想いを伺っています。

※参考:スープストックトーキョーが経営体制を刷新。2024年4月1日付で取締役の工藤萌が社長に就任します。

株式会社スープストックトーキョーの最新のプレスリリースはこちら:株式会社スープストックトーキョーのプレスリリース

株式会社スープストックトーキョー 取締役社長

工藤 萌(Kudo Moe)

新卒で株式会社資生堂へ入社し、営業経験後、一貫してマーケティングに従事。低価格メーキャップブランドで当時史上最年少ブランドマネージャーを務めた後、サンケアブランドのグローバルブランドマネージャーを務める。第一子出産を機に2019年バイオテクノロジー企業の株式会社ユーグレナへ転籍し、マーケティング部門の立ち上げや事業本部長、執行役員を歴任。2023年3月より株式会社スープストックトーキョー顧問、2023年8月に同社へ入社し、取締役に就任。価値づくりユニット長も兼務し、ブランド戦略を軸に経営執行を推し進める。2024年4月より現職。

工藤さんに聞く。仕事に対する向き合い方

「仕事の意味を考える」ことは人生で成し遂げたいことへの問い

──まず、工藤さんの仕事観について伺いたいと思います。社会人になってから続けていることややめたことはありますか。

変わらず続けているのは仕事の意味を考えることですね。それは、自分の人生において何を成し遂げたいかという問いでもあります。私は、「仕事は仕事」と割り切ることができなくて、仕事と志が一致していないと落ち着かないですし、頑張れないんです。だからこそ、今は好きな仕事しかしていない状態になっているのかもしれません。

反対に、やめたことは好きではないこと。納得がいかないこと、自分の志や意義から外れていることは常に取り除いています。

やりたいことの実現のために限界を決めない

──では、大変だったりつらいと感じたりすることに対して、どのように乗り越えてきたのでしょうか。

大変なこと、つらいことはありますが、すぐに切り替えができるし、物事に意味を見いだせる思考回路なんだと思います。

資生堂でブランドマネージャーを経験したことが大きくて。ブランドマネージャーはいわばブランドの経営者であり親。子どもを育てるように「自分が守らなければ死んでしまう」という覚悟を持ってブランドを育てています。「PLを管理する仕事」「広告を制作する仕事」と思ってしまうと成果に結びつかないことも多く、自分の限界を自分で決めないことが大切だと心から思いましたね。

また、自分がやりたいことを社長に提案するのであれば、経営者の視点に立たなければ承認を得ることができません。どんな提案ならこのブランドに投資したいと思ってもらえるのかという経営視点もその中で培われたと思います。

周囲を巻き込む自己開示

──スープストックトーキョーは、ステークホルダーのすべてが幸せになることを大切にされている印象です。関係人口を増やしていくうえで大切にされていることをお伺いできますでしょうか。

まずは、スープストックトーキョーの人間としてではなく、ひとりのお客さんとしてフラットにいることだと思います。

また、社内の人たちには私がどこから来てどこに向かいたいのか、そのために何を今しているのか、背景の部分をたくさん語るように意識しています。言語化されていないだけで、みんな「ここにいる理由」があると思うんです。もちろん「なんとなく好き」でもいいと思いますが、そこをより意識していくほど働くことが楽しくなる気がします。私自身、自分が頑張れるポイントを発見できたからこそ、強くもなれたし、生きやすくなれました。少しでも生きづらさを感じている方がいらっしゃるなら、ヒントになればいいなという思いもあってお話をしています。

株式会社スープストックトーキョーインタビュー01

共感をつなぐ。正しい価値提供が私たちの責任

──これまで一貫してマーケティングに従事して来られましたが、工藤さんが考える「マーケティング」を教えてください。

マーケティングは、総合格闘技のようなイメージです。一般的にマーケティングと言うとKPIで動くことを想像するかもしれませんが、それだけでは社会を動かすことはできません。狭義のマーケティングではなく、商品開発・情報発信・店舗運営など、幅広いさまざまな活動によってバリューチェーンをつないでいくことだと思うんです。でもそれはひとりでは絶対にできない、範囲の広い仕事で、ステークホルダーとの連携が必要。そういう意味で、マーケティングは経営の一部なのかもしれないですね。

──マーケティングの中でも、「世の中の顕在ニーズにとらわれない」ということを大切にされていると思いますが、工藤さんが入社後に取り組まれたことはありますでしょうか。

最近だと、3月4日から販売している「女川産さんまのつみれスープ」の売り上げの一部を、能登半島地震で被災された方々に寄付するという取り組みがあります。もともと東日本大震災の復興支援として、女川町のさんまを適正な価格で買い、売上利益の一部を女川町の復興の寄附金に充てるというもので、2011年から続いています。今回、女川の方々とも話をして、能登への寄付を決めたんです。

これは決して世の中のニーズではなく、私たちの想いに共感してくださる方々への発意から生まれるものです。もちろん、おいしいから食べてくださったりリピートしてくださったりする方もいますが、私たちの姿勢に共感してくれて「また来るね」と応援してくださる方もいらっしゃるんです。

それにはロジックで詰めていくのではなく、「心から熱中できる」「なんとしても実現したい」という一人ひとりの気持ちが大切です。今回も、「スープを通じて震災で辛い思いをしている方に何かをしたい」「この規模の会社でも何かできることがあるはず」という想いを持った人が何人もいました。そういう心の動かし方を私たちはとても大切に考えていますし、私たちらしいな、と思っています。

株式会社スープストックトーキョープレスリリース

参考:繋げるバトン。2024年3月4日(月)より「女川産さんまのつみれスープ」を販売します。

──少しお伺いしづらいのですが、価格設定についてお伺いさせてください。こだわらなければ100円くらいでスープが買えたりしますが……。

私たちは、生産者の方々がどんな想いでつくっているのかを現地で見てきています。例えば、当社で使っているお米はすべて富山県産で、毎年必ず現地に行って田植えと稲刈りをお手伝いさせていただいています。生産者の方々とお話をする中で、「自分がつくったお米がこういうふうに使われていることを知らなかった」と喜んでくださる方もいるんです。これも「共感」です。

スープを安く売ることで、生産者の方々に還元できなくなることはしたくありません。もちろん、お客さまにいたずらに高いものを買っていただくわけにもいきませんのでバランスが必要です。

共感をつないでいくことで生まれる物語があります。そうした物語をお客さまにお伝えし、いかに正しい価値で買っていただくのかを考えるのが私たちの責任だと考えていますね。

株式会社スープストックトーキョーインタビュー02

企業としての姿勢が称賛を集めた「炎上対応」

──昨年4月に離乳食の無料提供を開始することを発表し、SNSを中心にさまざまな声が上がりましたよね。あの時の対応は、どうやって決めたのでしょうか。

発表して翌日から、かなりの数のご意見がX(旧 Twitter)に書き込まれ、中には部分的な解釈でご意見をいただくこともありました。そこは悔しいなと感じていましたし、私たちのことを正しく知ってほしい、と。知っていただいた結果、それでもなおいただくご意見については、私たちも向き合って考えていくことができると思うんです。

また、働いているみんなにとっても不安だったと思います。そのためにも、「私たちはこういう想いでやっているのだから大丈夫」「信念を曲げるつもりはない」ということを、社内に向けて伝える意味でも、言語化していくことが必要だと感じました。

──会社としての姿勢をあらためて発表した後、論調が好転したように思います。

そうですね。日々論調が変わっていったと記憶しています。どんな課題であっても「こっちの方が絶対にいいからこうした方がいい」と、強く提案したり、何か否定したりすることは私たちらしくないと思っています。「そういう考え方もある、私たちだったらこうするよ。どう思う?」と選択肢を示していく方法が私たちらしさです

私たちの理念「世の中の体温をあげる」に即して、いろいろな考え方や背景がある人も含め世の中に投げかけていく。そして、その提案も常に軽やかでセンスの良いものでありたいと思っています。そうでなければ魅力的に思っていただけないかなと。

株式会社スープストックトーキョーインタビュー03

関わるすべての人の人生が豊かになる会社に

得意なスープで「食のバリアフリー」を

──Soup Stock Tokyoという揺るがないブランドを確立している中で、今後手がけていきたいことはありますか。

飲み込むことが難しく嚥下食を必要とする方をはじめ、「食のバリアフリー」を実現したいですね。

少しの配慮で同じものを食べて同じ食卓を囲めるはずなのに、それができていない現実があります。私たちは創業当初から「Soup For All!(いつでも、どこでも、誰にでも、おいしいスープを。)」という価値観を大切にしていますが、私たちが得意とするスープでこの課題を解決することが挑戦していきたいひとつです。お店にもぜひ来ていただきたいですが、加えて、おうちでもおいしく楽しく食事ができるように、ECサイトなどの販売体制も整えていきたいと考えています。

──それは、販路を広げていくということでしょうか。

そうですね。現在、直営店が65店舗ほどありますが、私たちの商品を必要と思ったときに手に取っていただける状況をしっかりつくっていきたいと思っています。

最近は、赤ちゃん本舗さんでも私たちの商品を置いていただいていますし、保育園で売店的に販売する取り組みも広がっています。忙しい親御さんたちがお子さんたちに安心して食べさせることができるようにという想いから始まりました。また、大阪のある産婦人科にも当社のスープを置いていただいています。もともと、その病院の先生の奥さまが出産で疲れた体を癒していただきたいと、わざわざデパートで買ってくださっていたそうです。

病気になったり、退院したり、そういうさまざまなシーンに、私たちがまだ出会いきれていないと思うので、ECを含めてさらに販路を拡大していきたいですね

──「安心」というのも大切なキーワードのひとつですね。

創業者の娘さんがアレルギーだったこともあり、安心なものを食べさせたいという想いからスープの開発が始まっているのですが、その想いは今も変わりません。私たちが素材にこだわる理由もそこに通じていて、時間をかけて素材の味を引き出す作り方をしています。

また、女性の社会進出に伴い、時間をつくるのが大変なご家庭もたくさんあると思うので、ぜひ便利に使っていただきたいです。私自身、本当に助かっていて、あまり野菜を食べてくれない5歳の娘も、ミネストローネは食べてくれるのでありがたいです。ご飯を混ぜてリゾットにして、チーズをのせるだけで、「ちゃんと料理している」感じもしますしね。

株式会社スープストックトーキョー
工藤さんご本人提供(冷凍スープにお米をいれて胡椒をトッピングしたアレンジレシピ)

──今後、工藤さんはスープストックトーキョーをどのような会社にしていきたいとお考えでしょうか。

ブランドをつくっているのは一人ひとりの人間です。その人たちが、自分たちのやっていることが何につながっているのかをきちんと実感できることが、その人の人生にとって大事だなと思います。

会社の利益が云々というよりも、その人たちの人生が豊かになるような選択ができる会社にしていけたらいいなと。社員だけでなく生産者の方々も含めて、私たちと関わることで「社会を温める」ことに貢献できていると感じられる、自分にはそういう仕事ができるんだと誇れるようなネットワークにしていきたいですね。

人の認識・行動を変え、社会を変える

──最後に、広報PRやマーケティングに携わる際に、どのようなことを大切にしていくべきかお聞かせいただけますでしょうか。

広報PRでもマーケティングでも、私が大切にしているのは人の認識や行動を「どのように変えるのか」です。

例えば、地球温暖化に取り組んだ結果その問題が解決したとしても、それを維持していくのは一人ひとりの行動です。そこが変わらなければまた同じことを繰り返してしまう。そう考えると、一人ひとりが自分の個性を大切にできて、価値があると実感できる社会にしていくことで、利他が生まれたり、持ちつ持たれつに思える社会になって、みんなが少し未来のことに想いを馳せられるようになると変えられるのではないでしょうか。

広報PRやマーケティングに携わる一人ひとりが、変える矛先を「社会をこんなふうにしたい」と、社会につなげることを大切にしていくと、社会は絶対に良くなっていくはずです。それぐらい私たちはすごい仕事をしていると思います。

株式会社スープストックトーキョーインタビュー04

まとめ:「共感」は価値をつくり、ビジネスをつくる

これまでブランディングを軸にキャリアを重ねてきた工藤さん。広報PRやマーケティングは社会を変えられる仕事であり、「それぐらい私たちはすごい仕事をしている」という言葉には、優しく穏やかな語り口の中にも、芯の強さを感じました。

工藤さんのお話には、広報PRやマーケティングにおいて大切にしたいポイントがたくさんあります。

  • やりたいことを実現するためには、自分で限界を決めない
  • 顕在ニーズにとらわれず、「共感」を生み、ビジネスにつなげる
  • 使命や理念を明確にし、幅広いアプローチでバリューチェーンを構築
  • 共感から生まれた物語を伝えることで正しい価値で提供する
  • どんな考えも否定せず、相手を尊重した提案を

「共感」と働く人たちから自発的に生まれる「想い」を大切にしながら、世の中の体温をあげていく。スープストックトーキョーのこれからの取り組みに注目です。

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この記事の監修者

丸花 由加里

丸花 由加里

PR TIMES MAGAZINE編集長。2021年、PR TIMESに入社し、「PR TIMES MAGAZINE」、ご利用企業向けのコミュニティイベント「PR TIMESカレッジ」の企画・運営を行う。2009年に新卒入社した大手インターネットサービス運営会社では法人営業、営業マネージャーとして9年半、その後オウンドメディアの立ち上げに参画。Webコンテンツの企画や調査設計に携わる。メディアリレーションズを主とした広報を経て、現職。

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