SNSやPR TIMES上で話題になったPR事例の裏側に迫る本連載。今回取り上げるのは、PR TIMESで配信され1,300以上のいいねがつきSNSでも話題になった、こちらのプレスリリースです。
カピバラと相席してソーシャルディスタンスを確保 | 株式会社伊豆シャボテン公園のプレスリリース
プレスリリースが配信されたのは、一部地域で緊急事態宣言が解除されだしたものの、都道府県をまたいだ不要不急の移動を控えるよう言われていた5月20日。自粛ムードから抜け出していいのか判断がつきづらく、今以上に多くの広報担当者が、どのように自社の情報を発信すべきか悩んだ時期ともいえるでしょう。
そんな中、ぬいぐるみのカピバラと相席を楽しむ、その愛らしいアイキャッチがSNSで話題に。やっとの想いで掴んだコロナ禍での営業再開への道のりを、伊豆シャボテン動物公園さんはどう歩むのか。お金をかけずに工夫で乗り越えた裏側をお伺いしました。
株式会社伊豆シャボテン公園(静岡県伊東市):最新のプレスリリースはこちら
株式会社伊豆シャボテン公園 企画広報部 課長
1977年、静岡県生まれ。新卒で、株式会社伊豆シャボテン公園に入社。フロント業務を担当し、直接お客様に接客することで、サービス業の楽しさを知る。2007年、現在の企画広報部でPR、撮影、イベント企画等、伊豆シャボテン動物公園グループ全体の広報業務を担当する。「カピバラの長風呂対決」など他園とのコラボ対決を企画立案し、シリーズ化している。広報精神は、ポジティブになんでも楽しむこと。
あるものを工夫して、みんなを巻き込んで企画をつくる
──企画の経緯を教えてください。
新型コロナウイルスの感染拡大に伴う休園要請を受け、1ヶ月ほど休業していました。晴れて5月16日より伊豆シャボテン動物公園や、園内の「森のどうぶつレストランGIBBONTEI(ギボン亭)」の営業が再開できたのですが、このご時世で来園してもらうには、とりわけレストランという屋内施設へ足を運んでもらうにはどうすべきか、という新たな課題が生まれました。
そしてそのためには、ただ営業を再開したという事実だけではなく、安心安全への取り組みの発信も不可欠です。
もともとギボン亭には、園内のショップで販売しているカピバラのぬいぐるみが複数置いてありました。これを活かして、癒しの提供から安心安全の確保へと視点を切り変え、ぬいぐるみの配置を変えようというアイデアが社内で出ました。
──もともとレストランにあったぬいぐるみを活用されたのですね。
はい。もともと2018年のレストランリニューアルの時に、森のどうぶつレストランというコンセプトに沿って4人テーブルにぬいぐるみを一体ずつ配置していました。今回の企画に合わせて、お客様同士が対面しないよう、さらにぬいぐるみを増やしています。
いまは、食事をする時は友人たちと距離を取らなくてはいけない状況ですが、食事を取るときぐらい、楽しく、笑顔で過ごしていただきたい。すこし離れて食事することにはなりますが、ぬいぐるみがいることで寂しさが和げばいいなと考え、すぐに取り掛かりました。
──企画にはどんな方々が関わったんでしょうか。
レストランの責任者を筆頭に、ショップの担当も巻き込んでディスプレイや使用するグッズの選定などを相談しました。
ただ、この企画自体には様々な角度から全社員が関わっています。例えば、プレスリリースの末尾に記載した「ソーシャルディスタンスは大人のカピバラ二頭分」の表現が生まれたり、「この動物担当のあなただったらぬいぐるみはどんな配置にする?」と聞いて回ったり。園のみんなで完成させた企画ですね。
──アイキャッチのインパクトでたくさんの反響があったプレスリリースですが、配信する前から手応えを感じていましたか?
1ヶ月の休園期間を経て、やっと営業再開した一発目のお知らせとなるので、手応えというより、これは出さないといけないという義務感と、お客様に来ていただきたいという気持ちでいっぱいいっぱいでした。
不特定多数の人が集まる場を提供する者として、1日でも早く業界へのマイナスイメージを払拭したくて。テレビもコロナウイルス一色だったので、地域の方に、社会に温かい話題を提供したいなとは思っていました。結果的に多くの方に「行きたい」「面白い」「かわいい」というポジティブな反響をいただけて良かったです。
スピード重視で発案から2〜3日でプレスリリースを配信、リスク対策も園全体で
──コロナウイルスの様々な影響がある中、プレスリリースを配信するのに不安を感じる広報担当者も多いのではと思います。山本さんはどんなことに気をつけましたか?
もはやコロナウイルスと共存しないといけない時代になったので、世間からの反応が不安だから、怖いからという理由でプレスリリースを出さないという選択肢はありませんでした。
ただ、やっぱり不安はありました。例えば、ぬいぐるみを置くのがむしろ不衛生ではないかという意見や、様々な地域で来訪を控えるよう呼びかけていたのに本当に足を運んでもらえるのか、など。
プレスリリースを配信すると決めた時点で広報部内では園長や各部門の責任者と連携してリスク因子の特定と対応対策も急ピッチで進めました。ぬいぐるみやテーブルの消毒フローの見直しや、スタッフのケアなどはとくに徹底しましたね。営業中のみならず、テレビ取材時にもスタッフ誰もが丁寧に説明できるよう協力してもらいました。
──プレスリリースを配信するタイミングはどのように決めましたか?同業他社に先駆けて発表されたと感じましたが……
社内で企画が生まれてから、2〜3日で配信しました。「二番煎じにはならない」というのが企画広報部のモットーです。まだ同業他社からソーシャルディスタンス対策への取り組みがあまり発表されていなかったので、プレスリリースとして広く、早く発表しようと考え、スピードはかなり重視しましたね。1週間後ろ倒しだったら、もうこれほどのインパクトは出なかったかもしれません。
──営業再開の案内ではなく、この企画をプレスリリースとして配信されていたのが印象的でした。
5月16日の営業再開については、決まり次第SNSやコーポレートサイトで告知したほか、自社のメディアリストを使って地元メディア向けにはプレスリリースも送っていました。
このように、地元の方ファンの方向けの情報は公式HPやSNSで、社会的意義のあるものや広く多くの人に知ってもらいたい内容はPR TIMESでの配信と使い分けているんです。有料ツールなので、配信する内容は吟味しています。
自分が楽しんで企画することが大事、そのためには余裕が必要
──1,300以上のいいね!がつくなど話題を呼んだその後の反響はいかがでしたか?
複数のマスコミからの問い合わせがありました。キー局の朝の情報番組でオープニングトークで触れていただいたり、提供した動画を流していただいたりしました。
来場への反響については、もともとお客様の7割は東京や神奈川の方なので、まだまだ戻って来ていないのが現状です。土日に関しては平時の8割くらいのお客様は戻ってきたかな……というところ。
でも、「テレビやSNSを見て来ました」と言ってくださる方は一定数いらっしゃるので、このプレスリリースがなかったら、足を運んでくださる方はもっと少なかったと思います。何より、社員がいちばん喜んでいるので、プレスリリースを通じて一致団結できて良かったです。
──いまは来場者数をいかに増やすかが広報としてのミッションなのでしょうか。
これまでは来場者数が広報活動の指標のひとつではありましたが、むしろ最近はコロナウイルスという外部影響が大きいので、参考程度にしかみていません。とくに今は存続のためにも来場してもらう以外の手段で売上を上げねばなりません。
そこで、昨年ショップ事業部で立ち上げたECサイトの広報にも注力しています。具体的にはSNSでファンの方々とに交流したり、商品を紹介したりしていて、5月はECの売上があがりました。
──ウィズコロナと呼ばれる時代は、業界での第一声をあげることに二の足を踏むことが少なくないはずです。そんな状況下で奮闘する広報PR担当者に、アドバイスをお願いします。
皆さんにアドバイスさせていただくなんておこがましいですが、私が大事にしているのは、「自分たちが楽しんで企画する」ということです。そうでないとお客様に想いは伝わりません。
真面目であることは大前提ですが、心に余裕を持たせないといけないなと。不安なことや、目の前のことで頭がいっぱいいっぱいになると、視野が狭くなってしまう。こんな時だからこそ余裕を持って、楽しくお客様に情報を提供するという姿勢が大事だと思っています。
──楽しく余裕を持つためにも、ひとりで抱え込まずに積極的にスタッフと連携して企画を前に進めていけるのですね。
企画は、ひとりでは絶対にできません。例えば私がチケットを売り、販売、動物の飼育、レジャーの受付……すべてやるのはまず不可能です。公園事業は人と人とのかかわりあいが非常に重要なんです。
だからこそ、年次や部署を超えて色々な人の意見を聞き、これからもみんなで楽しんで企画を作っていきたいです。
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難しい状況の中でむやみに発信を怖がるのではなく、しかるべきリスク対策を取りながら「みんなで」「楽しんで」企画をされた山本さん。スピードが重視される局面では、つい自分ひとりで物事を進めてしまいたくなる中で、「企画はひとりではできない」という言葉がとても印象的でした。
園の皆さんがお客様の安心安全を真剣に考えながらも楽しんで企画を作り上げたからこそ、多くの方の心を掴み、話題を呼んだのだなと納得した取材でした。
(写真は株式会社伊豆シャボテンさんおよび山本さんよりご提供いただきました)
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