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サッシから窓へ。売上5,000億円企業の転換期を支えた広報室|YKK AP株式会社

1990年に創業し、世界11ヵ国/地域に進出する窓メーカー、YKK AP株式会社。業界の中でいち早く海外進出を果たし、2022年度の売り上げは過去最高の5,086億円となりました。

かつては「サッシのYKK」と知られる部材メーカーでしたが、2005年、人々の暮らしの一端を担う「窓」を作りたいと宣言して事業を転換。全社一丸でのPR活動の甲斐あって、今では「窓を考える会社YKK AP」というフレーズがすっかり浸透しています。

本記事では、YKK APの執行役員であり長く広報PR活動に従事してきた河合知恵子さんに、部材でなく窓を作ることになった経緯、BtoB企業でありながらエンドユーザーに向けた広報PR活動を盛んに行う理由などについてお話を伺いました。

YKK AP株式会社の最新のプレスリリースはこちら:YKK AP株式会社のプレスリリース

YKK AP株式会社 執行役員 広報室長

河合 知恵子(Kawai Chieko)

前職での広報PR経験を買われて、2005年入社。即戦力として本社機能の一部である広報業務に従事し、2021年、「Architectural Productsで社会を幸せにする会社。」というパーパスの策定にも貢献。

グループのAP事業として誕生した歴史

──まずは、YKKグループとYKK APの関係性からお話いただけますでしょうか。

私が所属するYKK APは、ファスニング事業のYKKの子会社という位置付けにあります。YKKは1934年に創業し、当初はアメリカから機械を仕入れて製造していましたが、自社開発に踏み切ったことで高品質な製品を大量生産できるようになり、一気に国内トップメーカーに上り詰め、海外進出を果たすまでに発展しました。

当時、導入したアルミ押出機がとても大きく、ファスナーに使うには余力がある。その展開先として1959年に建材事業がスタートしたんです。ちょうど高度成長で住宅がどんどん建てられた時期だったこともあり、サッシが普及し、一時期はトップシェアに躍り出たこともあります。そこでYKKの一事業ではなく建材に特化した子会社として独立させよう、と方針が出て、1990年にYKKアーキテクチュラルプロダクツ(現YKK AP)が誕生したんです。

──経営理念や方針などもYKKグループのものを受け継いでいるのでしょうか。

そうですね。YKKグループでは共通して大切にしている思想があり、それが「善の巡環(Cycle of Goodness)」です。創業社長である吉田忠雄の「他人の利益を図らずして自らの繁栄はない」という考えを短くまとめたものであり、社員なら誰でも語れるほど浸透しています。この「善の巡環」を発展させた経営理念が「更なるCORPORATE VALUE(企業価値)を求めて」です。

また、2011年に創業家以外で初めて社長に就任した堀秀充(現会長)の後、社長に就任した魚津が打ち立てた方針が「Evolution 2030」であり、私たちが掲げるアーキテクチュラルプロダクツの進化で世界のリーディングカンパニーを目指す旗印となっています。

YKK AP株式会社インタビュー01

企業成長とともに広報PRを拡充

──事業の転換期で、広報PRの体制も変わったのでしょうか。

私が入社した2005年の広報室は広報事務の2人と私の3人体制でした。当時の主なミッションは、数あるサッシやガラスの業界紙の方々と交流して情報収集や発信に努めること。その後、AP連結体制が敷かれ、11ヵ国/地域にある建材事業の海外会社16社がYKK AP直下の管轄となり、国内のみならず海外も含めた広報PRを担うことになりました。

2009年からは現在の広報室の体制となり、今は20名のメンバーで遂行しています。また、2016年には重要拠点である富山県黒部市にも広報メンバーが在籍しているんですよ。

──河合さんがご入社時から7倍ですか。会社の成長に伴い広報PR業務も拡大していったんですね。転換期はご苦労もあったのではないでしょうか。

2005年、サッシを作る会社から窓メーカーへ事業転換する方針を打ち立てたときは大変なこともありましたね。私たちは部材ではなくユーザーの暮らしに欠かせない窓を作りたい、窓メーカーになると宣言したところ、業界紙の方から「川下の仕事を奪う行為だ」「商流が変わる」などとご批判を受けましたし、社内からも「取引先での印象が悪くなるような判断をトップが下すなんて信じられない」という声も挙がりました。

──そのとき、広報室は、どう対応していったのでしょうか。

業界紙に対しては、当時の社長であり、創業者でもある吉田忠裕がご批判も含め、丁寧に対応しました。「業界は今後変わっていく」「われわれのお客様は流通ではなくエンドユーザー」「エンドユーザーである生活者にとっての最適を考えていくべき」といった内容を、社長が自らの言葉で話すのを私も隣で聞いていましたので、そのことを他の方に同じように説明していましたね。

今思えば、部材ではなく窓として売る会社も出てきましたし、職人さんも減って人手不足は深刻です。時代を先取りしただけで方向性としては間違ってはいなかったと思っています。

YKK AP株式会社インタビュー02

窓を作るメーカーになるべく活動した転換期

──それ以降、広報PR活動も変化していったのでしょうか。

そうですね。事業転換と同じタイミングで広報PR活動も変化を求められていました。自動車会社での広報経験を買われて、その年に入社したのが私です。入社して間も無くAPWという窓ブランドを発表した際、YKK APではこれまで行っていなかった窓を並べてお披露目する商品発表会を新車発表を真似て行いました

また、商品自体もデザイン重視で開放感、換気性に優れたものから、樹脂を使用した断熱性能に優れた戦略商品へと変わったのですが、樹脂に対する理解を深めていただけるよう、社内に対しても丁寧な発信を心がけましたね。

──理解を深めるための丁寧な発信とは、具体的にどんな取り組みを行われたのでしょうか。

例えば、意識を変えるために行ったのが「窓の広報活動」や「座談会」です。

現会長の堀が経営企画室長になった2007年、広報が経営企画室の管轄になったことで広報PRにも力が入れられるようになり、社員に向けた窓の啓発も行うことに。まずは社内報で窓特集や窓連載を組みました。

窓事業に関わる何名かの社員を選抜し、当時の社長である吉田と窓について語る「座談会」も4、5回実施しています。そして、その内容を社内報に掲載して社員に還元する。啓発活動が盛んになったと感じるタイミングです。

マルチステークホルダーとのコミュニケーション

非上場でも上場企業並みの情報開示を

──これまでの会社の歴史がよくわかりました。では、YKK APが広報に取り組む理由は何でしょうか。

BtoB企業である当社が広報を必要とする理由は、非上場企業ながら上場企業並みの情報開示をしようというトップの方針が強いからです。上場企業、とりわけプライム上場並みに、自分たちが開示する情報について厳しく管理している、責任を持っていることのアピールになります。

また、メディアに向けて定期的に発表する機会を設けていますが、計画値に達しない年が何期か続くと、記者から「努力目標ですか」と厳しい質問が出ることもあります。この質問自体は望ましいことではないですが、記者の厳しい目でチェックしてもらえ、襟を正す貴重な場だと捉えています。

──その考え方は、何かきっかけがあって生じたものでしょうか。

上場企業並みの情報開示をする方針を出した創業者の吉田、チェックやガバナンスの意味合いでメディアを活用しようと決めた堀。最初からトップの広報の必要性や役割に対する理解が高かったと思います。

メディアを通じて社員に伝える

──では、河合さんにとって、広報PRとは。

難しいですが、あえて一言で言うなら、「風を読む」仕事だと思っています。社内の風通しを良くするのも広報なら、世の中の流れを読んで、それをバネにして風力に変えられるのも広報。これまで私たちが経験した数々の批判もそうですが、外部で吹き荒れる嵐に対して、社内の方向性を示して理解を図るような、風向きの調整も広報の仕事ですから。もちろん、時代を読むという意味も含んでいます。

例えば、企業の長期的・持続的な成長にESG(Environment環境・Society社会・Governance企業統治)が欠かせないと言われるようになって、当社にもこの考えを取り入れる必要があると感じ、2019年から統合報告書を出すようになりました。組織横断の有志でサスティナビリティの研究に関する社内セミナーや勉強会などもスタートさせていたので、報告書としてまとめておく必要性を感じていたんです。

YKK AP統合報告書 2023

参考:「YKK AP統合報告書 2023」発行

──統合報告書をプレスリリースで発信する狙いはありますか。

環境主導だったり、経営企画主導だったり、統合報告書を作る部署は会社ごとに違うと思いますが、私たちは広報主導で制作しています。社内報も手がけているので情報は豊富ですし、そもそも何を広報したいのかを熟知している部署の目線で作ることができると思っています。

プレスリリースを活用する狙いとしては、社内の多くの方に読んでもらいたいという点です。メディアにも発信することにより、ステークホルダーである社員が読む機会がより増えることを期待しています。

会社全体の理解につながりますし、社会に誇れる取り組みをしている会社なのだと実感していただきたいんです。

──それでは最後に、多様なステークホルダーとコミュニケーションを図るうえで心がけていることを教えていただけますでしょうか。

そうですね。まず広報室の方針としてマルチステークホルダーの提唱を掲げています。2019年から広報室で企業ウェブサイトやSNSなどの運営も担当していますが、それらのツールを使って幅広いステークホルダーに伝えるということが必要になってきます。広報からの発信、伝え方は、伝えたい相手や活用する媒体によって変える一方で、伝えたい方針を一貫するという点は、徹底していますね。

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広報が風を読み、追い風を作り出す

非上場企業だからこそ上場企業並みの情報開示にこだわり、メディアを駆使して丁寧に発信し続けるYKK AP。そんな広報PR活動において大切にされているポイントは下記の通りです。

  • 社内外に繰り返し、丁寧に発信し続ける広報PR活動
  • 上場企業並みの情報開示でチェック、ガバナンスにも対応
  • 伝えたい相手によってメディアは変えても伝えたい方針は一致
  • 広報は風を読む行為と捉え、企業イメージの普及に風を役立てる

同社にとって転換期となるタイミングで入社した河合さん。前職での経験を活かしながら、自社の方針に即した手法を模索し、実行してきました。奇をてらわない、まるでお人柄や企業柄を表すかのような実直な広報PR活動を伺うことができました。

2023年11月30日、より広いステークホルダーとの関係を築くための「YKK APグローバルウェブサイト」公開を発表したYKK APに今後も注目です。

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