「ビールに味を!人生に幸せを!」をミッションに掲げ、大人気のクラフトビール「よなよなエール」をはじめ、品質にこだわった個性的で味わい豊かなクラフトビールを展開する株式会社ヤッホーブルーイング。「プレスリリースアワード2024」において、初となる2年連続インフルエンス賞(発信と活用により社内外へもっとも広く好意的な影響をもたらしたプレスリリースに贈られる)を受賞しました。
ユーモアのある独自視点で社会課題に切り込み、注目を集める同社の広報PRの背景にはどのような取り組みがあるのでしょうか。
本記事では、広報PR担当を務める渡部翔一さんにインタビュー。プレスリリースアワード受賞のインタビューで伺いきれなかった、受賞プレスリリースが誕生するまでの経緯や渡部さんが大切にしていること、広報PRがチームで取り組んでいることなどをお話しいただきました。
株式会社ヤッホーブルーイング(長野県北佐久郡軽井沢町):最新のプレスリリースはこちら
株式会社ヤッホーブルーイング ヤッホー広め隊(広報) ユニットディレクター
東京農工大学大学院農学府修士課程を修了後、2017年ヤッホーブルーイングに新卒で入社。プロモーションユニットでPR起点の動画プロモーション「チーム“ビール”ディング」や、SNSを活用した製品プロモーションを担当。2019年に広報ユニット(ヤッホー広め隊)に異動し、2022年にユニットディレクターに就任。「隠れ節目祝い by よなよなエール」「ゆっくりビアグラス」などのPR領域を担当。
連続受賞に導いた「企画力」と「チーム体制」
個人と社会それぞれの課題にアプローチ
──プレスリリースアワード初となる2年連続での受賞となりましたが、渡部さんは連続受賞につながった要因をどのようにお考えでしょうか。
企画を考える際に、課題の大小に関わらず「私たちだからできることは何か」を大切にしたことがひとつのポイントになっているのではないでしょうか。
例えば、昨年受賞した「隠れ節目祝い」は、社会的にはそれほど注視されていないけれど、当事者にとってはとても大切な「卒乳」という課題に対して、私たちだからこそできるお祝いの仕方を提案したところ、情報がSNSを中心としたパパ・ママコミュニティで共感とともに拡散されました。
今年受賞した「ゆっくりビアグラス」は、社会的にも関心を集めている「適正飲酒」という課題に対して、私たちだからこそできる楽しい解決策を提案したものです。適正飲酒に対する啓発活動は大手のビールメーカーも力を入れていますが、クラフトビールメーカーの私たちだからこそできるユーモラスな方法で、「ゆっくり飲むのもいいな」と思っていただきたいという想いが、メディアや生活者の方に受け入れられたのだと思います。
プロモーションチームとの連携で精度の高い企画を創出
──今回、7月16日に受賞プレスリリースが配信されていますが、企画そのものはいつごろから動き始めましたか。
厚生労働省から適正飲酒に関するガイドラインが出されたのは今年の2月ですが、企画は昨年12月から動き始めていました。私たちとしては、適正飲酒という大きな流れが世の中の関心として高まっていることを感じていたので、厚生労働省のガイドラインがなかったとしても進めていた企画だと思います。
しかし、ガイドラインが発出されたことで、社会の適正飲酒への流れが加速することが予想できましたし、自信を持って今このタイミングでこの企画をやろうという後押しになりました。
──昨年12月ごろから企画が動き出したということですが、広報チームとしてはどのタイミングから関わったのでしょうか。
私たちの会社では、企画をメインで進めるプロモーションチームに広報チームが合流し、どんな企画にするのか、一緒になって考える体制をとっています。これも連続受賞につながったポイントのひとつかなと思いますね。プロモーションチームと広報チームが企画の上流から一緒になって進めてきたことが、企画の精度を高めるという意味ではすごく効果的だったのではないでしょうか。
一般的にマーケティングを成功させるアイデアは「プロダクトアイデア」と「コミュニケーションアイデア」の2つに分けて考えられますが、どんなにプロダクトアイデアが優れていても、それが情報として広がらなければ売れるものも売れません。だからこそ、両者が手を取り合って、コミュニケーション前提でプロダクトから考えたほうが、より伝わる内容になるんだと思います。
受賞プレスリリースに学ぶ「刺さる企画」
──今年の受賞プレスリリースを作成するうえで、渡部さんが特に工夫されたポイントを教えていただけますか。
特にこだわったのは、裏付けとなるファクトです。可能な限りすべて用意しました。「ゆっくりビアグラス」は、ともするとジョークグッズのように受け取られて終わってしまう可能性もありますが、私たちが目指したのは「ゆっくりビアグラス」を通して「ゆっくり飲む」という認識や行動の変容を起こしていくことです。そのためにはやはり、「確かさ」が非常に大切だと考えていました。
具体的に意識したのは、「アンケート調査」「有識者のコメント」「『飲みづらさ』の定量化」の3つのファクトを集めること。さらに、「なぜこのグラスの形になったのか」も気になる部分だと思ったので、どんな方々に協力していただいたのか、どういうプロセスを経てこの形になったのかなど、このグラスが誕生した背景もしっかり伝わるようにプレスリリースに盛り込んだ点もポイントです。
──「ゆっくりビアグラス」の企画を進める中で苦労されたことなどありましたか。
大変だったのは「グラスの形をどうするか」ということですね。「飲みづらいグラス」というテーマは今年1月の段階で決まってはいたものの、その形をどうするのかはかなり議論を重ねました。
「重すぎて飲みづらいグラスはどうか?」「センサーを内蔵して傾けてもビールが出てこない仕組みは?」などいろいろなパターンを出し、5月ぐらいに現在の形にたどり着きました。ゆっくりと時間を刻む「砂時計」の形も、「ゆっくり飲む」というこの企画のコンセプトに合っていましたし、香りが特徴の「よなよなエール」には、香りが楽しめるこのグラスの形状がぴったりだったと思います。
実は「砂時計」の形にすることが決まってからも、くびれの部分をミリ単位で調整して6種類の試作グラスをつくっていて。飲み比べを行い、香りや味わい、そして「理想の飲みづらさ」を試して出来上がったんです。
──では、広報チームとしてはいかがでしょうか。何か苦労されたことや大変だったことはありましたか。
常に大変でした、というのが正直なところですね。特に、グラスの形状が砂時計に決定したあたりから本格的に「どう発信していくのか」を考え始めたのですが、先ほどの3つのファクトを用意するのにかなり労力がかかりました。
有識者への依頼、仮説を基にしたアンケート調査の質問設定、調査の実施・回収と分析に加え、16人のモニターに「ゆっくりビアグラス」で実際に飲んでいただき、本当に飲みづらいかを確認する作業はなかなか苦労しましたね。
──7月16日には発表会も行ったそうですが、メディア誘致で何か工夫されたことはありますか。
今回の企画は、厚生労働省のガイドラインがひとつの軸になると考えていたのですが、実際にその認知度を調べてみたところ、2割程度の人にしか知られていないという結果が出ました。適正飲酒は社会の課題であるのに対し、「生活習慣病のリスクを高める1日あたりの飲酒量が、純アルコール量換算で男性は40g、女性は20g」ということを、わずか2割の人しか知らなかったんです。
これは大きな課題だと思い、そのあたりのこともきちんとメディアの方には伝えました。メディアとしても「なぜクラフトビールメーカーがこの企画に取り組むのか」という納得できる情報がなければ、発表会に参加したり、取材には至らないと思います。「世の中の認知度はこの程度だけれど、その中でうちはこの企画をやります」ということを具体的な数字と併せて伝え、7月上旬にメディア関係者約400人と記者クラブへ案内を出したんです。
──発表会やプレスリリースの配信後、かなり大きな反響があったと伺いました。メディア関係者からは具体的にどのような声が聞かれましたか。
ありがたいことに、私たちが行ってきた1社単独の発表会としては、過去最大級の人数のメディア関係者の方にご参加いただきました。案内の方法は従来と同じだったので、これはやはり「情報のインパクト」が大きかったのが要因だと思います。
具体的な反響としては、大手の啓発施策を数多く見てこられた経済系メディアの記者の方から「変わった適正飲酒の施策だね」「ほかとは違う角度からきたね」と好意的に受け止めていただきました。また、ガジェット系のメディアは、やはりグラスの形がユニークなので興味を持たれていて、ガジェットとしての強さも評価してもらえたと思います。
さらに、日本テレビさんを中心に数多くのテレビにも取り上げられ、朝の情報番組から夕方の番組まで一連で転載いただいたところもありました。「適正飲酒という流れの中でユニークなグラスをつくったメーカー」として、普段とは違った文脈で扱っていただけたのも今回の反響の特徴です。今回の企画を機に、取り上げていただくメディアの層がかなり広がったと思います。
大切にしている「究極の顧客志向」
──ここからは、ヤッホーブルーイングさんの組織体制についてお聞きしたいと思います。
話題の企画が次々と発表されていますが、どのような方が活躍されているのでしょうか。
広報PRに限らず、活躍しているのは「誰に向いているのか」の解像度が常に高い人だと思います。弊社の経営理念のひとつに「究極の顧客志向」があるのですが、顧客に向き合うことをとても大切にしていて。常に顧客第一で考えている人はやはり良い行動をしていますし、良い製品を開発しています。
広報チームの場合ですと、「顧客=メディア」と定義していて、メディア関係者がどのような情報を求めているのか、どのような原理で動いているのかということを解像度高く考える人が良い成果を出していると思います。ポイントは、「メディア」の解像度と「メディア関係者」の解像度は違うということ。例えば、あるニュース番組に対する解像度が高くても、そのニュース番組をつくる担当者がどのようなことを大切にして取材をしているのかが見えていなければ、本当に求められていること、求められている情報は理解できません。
どのような情報を求めているのか、どのような番組の作り方をしているのか、担当者ごとに興味のある軸が違うこともあるので、メディアとしての解像度と、メディア関係者(担当者)としての解像度のふたつをそれぞれ定めていくことが大切だと思っています。相手のことを正しく理解して、相手が求めている情報をきちんと用意する。用意できないときは、提案するタイミングではないという判断をしています。
──相手に対する理解はどの仕事においても大切ですよね。では普段、情報収集や競合調査などはどのようにされていますか。渡部さんならではのコツなどあればお聞きしたいです。
気になった事例やニュースなどを定例会でシェアして、分析を行っています。私たちにとってメディアで取り上げられる組織や団体、企業は業界を問わずすべてが競合と捉えていて、お酒に絞らずさまざまな業界の事例を見て、「なぜその企業が紹介されているのか」「どういう要素がニュースになるのか」を分析するんです。その中で生まれた気づきや学びを、「私たちの製品・サービス・企画にどのように転用できるのか」まで考える思考トレーニングを毎週行っています。
また、反対に「企画としてはおもしろそうだったのに話題にならなかった」ものの分析をすることもあります。時にはプロモーションチームも加わって事例の分析をすることもあって、その繰り返しによって共通の言語ができて、アイデアが自然に出てくるようになるのを手応えとして実感しています。
広報PRの最終ゴールは認知獲得ではない
──ここからは、渡部さん自身についてもお話を伺えればと思います。渡部さんが仕事をするうえで大切にされていることは何でしょうか。
常に大切にしているのは、「楽しく仕事をして価値を見いだす」ということ。そのために必要な要素を考えたとき、私自身は広報PR担当者として「ただ伝える」だけでなく、「自分が本当に伝えたいものを届けたい」という気持ちが強いんです。だからこそ、プロジェクトの初期段階から企画や戦略に関わることで、伝えることに対する愛情や情熱を育んでいきたいと思います。
「広報は経営機能」とも言われているように、自分が企画の上流からしっかりと関わっていくことが、結果的に広報力を高めることにつながっているのかもしれません。伝えるという発信役にとどまるのではなくて、常に発信したいものを自分で探しに行ったり、「発信したくなるにはどうすればよいのか」「世の中がどう受け止めるのか」ということまでを考慮したりしながら関わっていくことが、私が大切にしている広報PR活動の形です。
──「広報が経営戦略の一部である」ということを広報チーム内の共通認識にするために、取り組んでいることなどはあるのでしょうか。
広報チームとして、「ヤッホーの広報は何を目指すのか」を言語化したビジョンを掲げています。これは、過去の広報チームの責任者や先輩方が築いてきたものを受け継ぎながら、私や現チームのメンバーが大切にしてきた価値観を見直したもので、ケン・ブランチャードの考え方を参考に「有意義な目的(存在意義)」「価値観(行動規範)」「未来のイメージ」を定めました。
- 有意義な目的(存在意義):製品の認知度やブランド価値を向上させるために、適切なタイミングで適切なメディアに情報を提供し、Win-Winな関係を築いていく
- 価値観(行動規範):有意義な目的を達成するための行動規範として、経営理念に対する理解は大前提とし、以下の順番で大切なことを定めている
- 誠実さ:偽りなく、真心を込めた対応をすること。広報チームとしてもっとも大切
- 情熱的:自社や自社製品を好きであること。自分が心から発信したいと思う内容でなければ、相手には響かない
- 冷静かつ客観的:情熱が強いと盲目的になりがちだが、それが社会にとって有益かどうかを冷静に判断することが必要
- オープンなマインド:広報PRは社会に対して開かれた役割を担うため、あらゆる意見を受け入れる姿勢が求められる
- 取材優先:すべての取材を受けるわけではなく、冷静に判断して優先順位をつけることも重要
- 未来のイメージ:最終的な目標は「知ってもらう」ではなく、「好意的に思ってもらう」こと。ヤッホーブルーイングや「よなよなエール」の名前がメディアに載るだけでなく、価値のある情報とともに広めてもらうことで、受け手の心を動かすような広報PR活動をする
価値観(行動規範)に挙げている項目の順番も大切で、このビジョンを軸にすることで、広報チームが同じ方向を向き、常に迷うことなく広報PR活動に取り組むことができていると思います。
──最後に、これから考えている取り組みなどありましたら教えていただけますか。
今は「ゆっくりビアグラス」を広めていきたいと考えています。先日プレスリリースでも配信しましたが、これまで限定販売だった「ゆっくりビアグラス」を、通常・通年販売することが決まりました。
それに併せて、これからの忘年会シーズンに向けて、一杯目を「ゆっくりビアグラス」で乾杯するプランを企画したり、賛同してくださる飲食店さん50店舗に「ゆっくりビアグラス」を2つ無料提供したりする企画も発表しました。今後は、一般のお客様だけでなく飲食店にも広げていくことが軸になっていくと思います。
「ゆっくりビアグラス」は形状が特殊なため、これまでは職人さん2人で1日5個しかつくることができませんでした。しかし、このグラスをほしいという方が2,700人以上もいらしたので、これはきちんとつくって広げていくことが真に適正飲酒「ゆっくり飲む」ということの啓発にもつながるはずだと、何とか大量生産できる体制を整えています。初回分は発売開始日の夜には完売してしまったので、今は次の生産に向けて準備をしているところです。
参考:飲みづらいグラス「ゆっくりビアグラス」量産決定!全国飲食店へ無料提供・忘年会プラン開始・通販で通年販売
まとめ:話題づくりで終わらせず、「自分たちらしさ」を軸に取り組む
プレスリリースアワードで2度目の受賞を果たした、株式会社ヤッホーブルーイング。その背景には、ユーモアとクリエイティビティあふれる企画で注目を集め続ける一方で、「単なるおもしろ企画や話題づくりに終わらせない」という覚悟を持って、社会課題に寄り添う企業姿勢、広報チームの活動がありました。
まずは何よりも自分たち自身が楽しむということ。そして、「自分たちにしかできないこと」や「自分たちだからこそのメッセージ」を大切にしながら社会との接点を見いだし、根強いファンを拡大していく同社の活動は、広報PRの方法に悩む企業にとって参考になる点も多いのではないでしょうか。
プレスリリースアワード3年連続の受賞となるのか。ヤッホーブルーイングの今後の広報PR活動から、目が離せません。
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