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経営難を発想の転換で脱却。手のひらサイズの仏壇で想いを次の世代へ|有限会社稲垣塗装所

静岡県静岡市で50年以上の歴史を持つ仏壇再生工房を営む有限会社稲垣塗装所は、「先祖の供養」というセンシティブで話題にしにくい問題に真摯に向き合い、新たな選択肢として手のひらサイズの小さな仏壇『結壇』を発売。同サービスを伝えたプレスリリースは、「プレスリリースアワード2024」において、グレートステップ賞(覚悟を持って発信に挑戦し、もっとも飛躍したプレスリリースに贈る賞)を受賞しました。

既存の仏壇をコンパクトなサイズにリノベーションするという革新的なサービスは、どのような背景で誕生したのでしょうか。

本記事では、同社代表取締役の稲垣豊さんと広報PR活動を担う稲垣亘佑さんにインタビュー。プレスリリースアワードの受賞インタビューで伺いきれなかった、小さなお仏壇「結壇」誕生の経緯や業界課題に対する想い、プレスリリースの作成で工夫したこと、企業としてのこれからや業界として目指していきたい姿をお話いただきました。

有限会社稲垣塗装所(静岡県静岡市):最新のプレスリリースはこちら

有限会社稲垣塗装所 代表取締役

稲垣 豊(Inagaki Yutaka)

1963年3月5日、静岡県静岡市生まれ。18歳の頃から仏壇業界に身を投じ、その後1998年に同社の代表に就任。40年以上にわたる豊富な経験を背景に、仏壇の製造、修理、再生において深い知識と経験を有する。同社の2代目代表として、伝統的な技法と現代技術の融合を推進し、仏壇業界の革新に情熱を注ぐ。

有限会社稲垣塗装所

稲垣 亘佑(Inagaki Kousuke)

静岡県出身。仏壇製造業を営む家に生まれ、家業と向き合いながら、同時に自らEC事業を展開。業界が「仏壇離れ」による売り上げ低迷や職人不足という課題に直面していることを痛感し、伝統文化を守りつつ、現代のニーズに応えるべく「結壇」サービスを立ち上げた。現在は、広報、マーケティング、企画、営業といった製造以外の全業務を担い、次世代に向けた仏壇業界の未来を創造するために精力的に活動している。

手のひらサイズの仏壇で想いを次の世代へ

──本日は、「プレスリリースアワード2024」の受賞作品だけでなく、御社の広報PR活動についてもお伺いさせてください。最初に、御社の成り立ちやサービスについて教えていただけますでしょうか。

稲垣 豊さん(以下、敬称略):稲垣塗装所は1967年に私の父・稲垣裕史が設立した会社です。静岡市は昔から職人の街として知られていて、木地屋や塗装屋、組立屋の職人が多く住んでいる地域でした。私の家も例外ではなく祖父が漆職人で、父は塗装職人。稲垣塗装所の創業当初は家具の塗装をメインにしていたのですが、父の塗装技術に惹かれた仏壇メーカーからの依頼が増えたことで、仏壇の製造・塗装へと事業を広げていきました。

そのような環境の中で、私自身は18歳の頃から仏壇業界に身を投じ、主に仏壇の修理・再生をする作業に携わっています。

──仏壇というと、家の仏間に代々置かれているものというイメージが強かったのですが、修理や再生ができるものなのですね。

豊:そうですね。稲垣塗装所では、当時の静岡ではまだ珍しかった痛みや汚れのある仏壇を解体し、木地の補修や塗り直しを施して新品のようにきれいにするという、仏壇のリフォームを行っていました。

昔の仏壇は、国産の上質な素材を使って職人が手作りしていたので値段がとても高く、古くなった仏壇を新しく買い替えるよりも、修理や手入れをして代々受け継いでいくのが一般的だったんです。

ところが最近は、海外の工場で大量生産された仏壇も増えてきています。そうしたものがかなり安価な値段で市場に出回っているので、昔と状況は変わってきているでしょうね。

──仏壇の修理・再生を主要事業にされていた御社が、小さな仏壇「結壇」のサービスを提供することになった経緯についてもお聞きしたいです。

稲垣亘佑さん(以下、敬称略):さまざまな事情で仏壇を手放す人が増えているという状況を何とかしたいと思ったのがきっかけのひとつです。私自身、実家には昔から大きな仏壇があって、順番でいくと長男である私の兄が父の次にその仏壇を継承することになりますが、正直なところ、あれだけの大きさの仏壇を引き継ぐのは難しいのではないか感じていて、「仏壇が手のひらサイズなら、どんな家でも持っていくことができるのにな」と思ったんです。

また、幼い頃に母を亡くしたこともあり、仏壇が心の支えになっていました。私は次男ですが、子どもの頃から毎日のように仏壇に手を合わせてきたので、兄が引き継ぐことでその対象ではなくなってしまうことに寂しさも感じていました。しかし、ひとつの仏壇から複数の小さな仏壇を作ることができれば、兄弟や親族でシェアできるわけです。このように、自分の仏壇に関する悩みを考えたことが、「結壇」の誕生につながっています。

豊:昔は日本の家には仏間があって、仏壇に手を合わせることは生活の一部でした。しかし、住宅の洋風化など住宅事情の変化によって、仏壇を同じ形で守っていく人が急激に減ってきたんです。そのため、私たちも14〜16号ぐらいのサイズ(高さ44〜49㎝、幅30〜32㎝、奥行25〜26㎝ほど)に仏壇を小さくすることを始めました。そうすれば仏壇を手放さずにずっと維持してくれるのではと考えたんですね。でもまさか、「結壇」の話を聞いたとき、あそこまで小さいサイズにするとは思いもよりませんでした。

実は私は当初、「結壇」にはどちらかというと反対だったんです。いくらなんでも小すぎると思っていたんですよね。ところが、あるときふと漆職人だった父が結壇と同じような形のオルゴールを作っていたことを思い出したんです。シンプルな長方形で、蓋を開けると大切なものを入れられるようになっていたのですが、その「大切なものを入れる」という部分が仏壇のイメージと合致して、「この形ならいいな」と納得できました。

有限会社稲垣塗装所「結壇」

──「結壇」に対する周りの反応はいかがでしたか。

亘佑:あのサイズまで小さくすることや、ひとつの仏壇から複数の結壇を作ってシェアができるということは、みなさん想像もしていなかったと思います。しかし、普段からお付き合いのあるお寺さんからは、前向きな反応をいただくことが多かったです。

お寺も仏壇業界と同じように、檀家さんの減少や墓じまいなど「お寺離れ」という課題を抱えています。その中で「仏壇や手を合わせる文化を残そうとすることはすばらしいこと」と多くの方が賛同してくださいました。

豊:お寺の方々も賛同してくれていると思いますし、仏壇を手放すことを考えていたお客さまの中にも、「結壇」のサービスをとても喜んでくださる方が多くいました。おひとりで住んでいた方が施設に入所し、空き家になった家に仏壇を残してきてしまったという方がいたんです。その娘さんから相談を受けて、私たちがその家まで仏壇を引き取りに行き、「結壇」として仏壇を再生して施設に届けたこともありました。ご本人も娘さんもとても喜んでくださっていましたね。

有限会社稲垣塗装所「結壇」

自社サービスだけでなく業界の課題も発信

──「結壇」は次の世代に引き継ぐだけでなく、ご高齢になって施設に入られる方にとっても喜ばれる仏壇の形なのかもしれませんね。ここからは、広報PRに力を入れようと思った当時のことをお伺いさせてください。

亘佑:仏壇離れが進む中、稲垣塗装所の経営をしていくうえで多くの方に知っていただく必要がありました。しかし、広告費をかけることが難しかったというのが理由のひとつです。新しいサービスである「結壇」を、必要としている方々に届けるためには、メディアをはじめとする外部の力を借りることが不可欠だと思いました。

──PR TIMES STORYでは、「結壇」のサービスを始めた背景だけでなく、仏壇職人の減少など、業界の課題にも触れられていたのが印象的でした。

亘佑:仏壇業界の市場規模は515億円ほどで、いわゆる大手と呼ばれる7社(152社中)ほどがそのうちの7割の売り上げシェアを占めています。残りの95%の私たちのような零細企業や中小企業で3割の売り上げを分け合っているわけですが、そういうところがどんどん廃業しているのが現状です。

また、私たちのような小さな会社や職人さんは下請けがメインなので、先ほど社長が話していたような仏壇の低価格化が進むと安く請け負うしかなくなり、結果的に経営が厳しくなってしまうケースが増えています。そうした現状を隠すことなく外に発信していく必要があると思いました。私たちの会社を含め、職人さんの多くはこれまでもの作りだけをやってきた方も多く、それが結果的に今「集客ができない」という現状につながっているひとつだと感じています。

豊:数年前まではそれでも何とか生き残ろうとするところもありましたが、子どもに継がせることなく自分の代で終わり、と事業をたたむところが増えています。仕事さえあれば何とかつないでいくこともできますし、職人としてまだ続けたいという人も多いと思うんですがね。

参考:仏壇を手放す際の新しい選択「結壇(Yuidan)」。家族の思い出を小型仏壇に再生する稲垣塗装所の挑戦

──「結壇」のサービスを始めたことで、そうした現状に何かインパクトを与えることができたと思いますか。

豊:私の知り合いの塗装工場が廃業したのですが、結壇の注文が順調に入るようになったことで、最近は仕事を手伝ってもらっているんです。

職人さんたちは、みんな仕事が本当に好きな人ばかりなんです。好きだけれど、仕事がなくなってしまいやむを得ず廃業するしかなくなっているので、結壇によってひとりでも多くの職人さんが仕事を続けられるようになり、わずかでもその人たちの力になることができるとうれしいな、と思っています。

有限会社稲垣塗装所インタビュー

プレスリリース配信後の反響に手応えを実感

──ここからは、「プレスリリースアワード2024」で受賞したプレスリリースについてもお話を伺いたいと思います。今回、御社にとって初めて配信されたプレスリリースが、「グレートステップ賞」を受賞しました。作成にあたってどのような点を工夫されましたか。

亘佑:正直なところ、これまでプレスリリースを書いたことがなかったのでとても苦戦しました。プレスリリースの書き方を教えていただいたり、写真撮影もご協力いただいたりして、なんとか完成させることができたという感じです。

工夫したのは、メディアの興味・関心を引くフックとなる言葉を意識的に使ったこと。とにかくメディアに取り上げてほしかったので、職人不足や仏壇離れといった私たちの業界が抱える課題の中から、メディアが注目しやすい部分を取り入れました。また、市場ニーズを把握するために実施した仏壇保有者を対象とするアンケート調査を活用したのもポイントです。

有限会社稲垣塗装所 プレスリリース

──プレスリリースの配信後、どのような反響がありましたか。

亘佑:ありがたいことに、テレビ局や新聞社など地元を中心に多くのメディアに取り上げていただきました。また、取り上げられた内容を見た方々からは、「こういったサービスをずっと待っていました」「大切な仏壇を残せる選択肢ができて本当にうれしいです」といった多くの温かい声をいただきました。

当初は、「この新しいサービスが本当に必要とされるのだろうか」「悩んでいる方にきちんと届くだろうか」と不安でしたが、現在は「結壇」の注文数も3~4倍ほどに増え、望まれたサービスを展開できたことに私たちも胸をなで下ろしています。

豊:「結壇」は、さまざまな理由で仏壇を守っていくことができない方たちの声を聞いて生まれたサービスです。例えば、住宅事情で仏壇を手放さざるを得ない人や、嫁いだ先に仏壇があるため実家の仏壇を持っていけないといった方も、「結壇」のサイズなら自分の親や先祖など手を合わせる対象をそばに置くことができます。それは、その方々にとっても大きな支えになると思うんです。

仏壇の引き継ぎをどうしていくかについて考えている方に対して、これまでずっと手を合わせてきた日常を続けてもらえるような提案を、プレスリリースを通して広く発信することができたのかもしれません。

──私も今回「結壇」のことを知るまで、仏壇を小さく再生するという選択肢がありませんでした。

豊:先日、結壇をお客さまに届けるために宅急便屋さんにでかけた際に、うれしいことがありました。私が持って行った箱に「結壇」のシールが貼ってあるのを見た受付の方が、その箱をさらに丁寧に梱包してくださったんですね。その方は、テレビで「結壇」が取り上げられたのを見て、「結壇」がどういう想いのもとで生まれたものかを知っていたららしく、「仏壇を残したい、仏壇を小さくしても持っていたいと考える人はきっと優しい人だから、丁寧に送ってあげたいんです」と言ってくださった。その言葉にとても感動しましたし、メディアを通して認知されていることを実感しました。

大切にしてきた仏壇を新しい形で継承を

──最後に、「結壇」のこれからの展開や取り組んでいきたいことなどを教えていただけますでしょうか。

亘佑:仏壇のことで困っている方のお手伝いをすること、そして職人不足を解消することの2つを軸にしてきました。その最初のステップとして、10月から大手物流会社さんと業務提携をして、地方にまでうちのサービスを届けることが可能になりました。地元だけでなく、さまざまな地域で仏壇に関する悩みを持つ方々の力になることができればと考えています。

また、これからは3つ目の軸として、空き家問題の解決にも取り組んでいきたいと考えています。空き家に仏壇が残されていることで、空き家活用を妨げる原因のひとつとなっているという話を不動産会社や地方自治体から聞いています。現在は調査を進めている段階ですが、今後は行政と連携し、空き家問題の解決に向けた取り組みを推進していく予定です。

そのほかにも、災害時のことも考えた取り組みをしたいですね。大きな仏壇は地震発生時に倒れる危険性があります。仏壇が小さければそうしたリスクを軽減できるだけでなく、避難の時に一緒に持っていくこともできると思うんです。まだまだ具体的な方法などを詳しく決めていく必要がありますが、まずは能登半島地震の被災地に足を運び、地震によって壊れてしまった仏壇を修理するお手伝いをしたいと思っています。

豊:震災で仏壇が壊れて悩んでいる方も少なくないはずです。完全に壊れてしまったものを元に戻すことは不可能ですが、少しでも仏壇が残っていればそこから小さな結壇を作ることができます。そのようにして、ずっと大切にしていたものを残すお手伝いができたらうれしいですね。

有限会社稲垣塗装所インタビュー

まとめ:悩みに寄り添い、広報PRの力で好機を見いだした稲垣塗装所

仏壇の維持や処分に悩む生活者に寄り添い、課題解決を目指す稲垣塗装所の稲垣豊さんと稲垣亘佑さん。自社サービスの魅力を伝えるだけでなく、職人不足をはじめとする仏壇業界の厳しい現状も包み隠すことなく発信した同社のプレスリリースは、メディアを通して多くの共感を集めています。また、豊さんからいただいた宅急便屋さんのお話は、広報PRで「認知を広げた」のではなく、「人の理解を深めた」ことが深く刺さるエピソードです。

広報PR活動によって、『結壇』という革新的なサービスの価値を広く伝えることに成功した同社の事例は、伝統産業に携わる企業が文化を守りながら業界全体に貢献する可能性を見いだした成功モデルとして参考になるのではないでしょうか。

また、稲垣塗装所では、2024年にApril Dream(※)にも参画。「仏壇を手のひらサイズ」に生まれ変わらせる結壇のサービスで、仏壇処分に関する悩みを0にすることを目標に掲げています。業界課題や自社の現状、顧客ニーズを客観的に分析し、固定観念にとらわれない柔軟な発想で好機を作り出す稲垣塗装所の今後の取り組みにも注目です。

有限会社稲垣塗装所プレスリリース掲載コメント

参考:【仏壇離れを解決!】仏壇処分の悩みを0にします。

※April Dream:株式会社PR TIMESが「エイプリルフール=ウソをついても許される日」から、「April Dream=叶えたい夢を語る日」へ変え、新たな発信文化を日本に根付かせることを目指して始めた取り組みです。

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この記事のライター

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『PR TIMES MAGAZINE』は、プレスリリース配信サービス「PR TIMES」等を運営する株式会社 PR TIMESのオウンドメディアです。日々多数のプレスリリースを目にし、広報・PR担当者と密に関わっている編集部メンバーが監修、編集、執筆を担当しています。

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