元来、一般的な建売住宅は、価格を抑えるためにデザインは蔑ろにされがちでした。今回、カーサ・プロジェクト株式会社（以下、カーサプロジェクト）が考える建売住宅としてめざしたのは、著名な建築家ル・コルビュジェの傑作とも言われているロンシャンの礼拝堂でした。

デザインを追求した規格住宅「casaの家」を展開してきたカーサプロジェクトが提案する、分譲向け規格住宅。その名は『corso（コルソ）』。妥協なきデザインの家でありながら、コストを抑えつつ、品質も担保するため奮闘した開発者たちの声を聞きました。

齊藤 弓勢

…カーサ・プロジェクト株式会社 取締役。「casaの家」の商品開発責任者。

森 章郎 氏

…建築家としてMOAdesignworksを主宰しながら、『建築家と建てる家 design casa（デザインカーサ）』でも活躍している。

■ 【デザイン・性能・価格】すべてを満たした建売住宅

Q.新プロダクト『corso（コルソ）』について教えてください

casa_齊藤

「『corso』は、カーサプロジェクトが提供する分譲向け規格住宅です。一般的な建売住宅は、販売しやすいよう無難なデザインや価格帯であることがほとんどです。そこで、デザイン住宅を手がけてきた私たちカーサプロジェクトが提案する建売住宅として、よりデザインにフォーカスし、さらに品質も担保するため、design casaの建築家でもある森先生と共にアプローチしていきました。

デザイン住宅の存在を知っている方にとって、「casaの家」は“いい家”と認識していただきながらも、決して安いとは言えませんでした。今回は【デザイン・性能・価格】すべてを満たした建売住宅をめざすため、森先生はじめ開発担当者たちには、コストを抑える点でもかなり尽力していただきました」

カーサ・プロジェクト株式会社　取締役　齊藤 弓勢

Q.建売住宅にフォーカスしたのには、どのような背景があったのでしょうか？

casa_齊藤

「コロナ禍で建売住宅の需要は急増しています。テレワークの必要性に迫られた中で、いま住んでいる賃貸住宅では「狭い」「部屋がない」などの不満点が多く出ている現状です。また、思いのほかテレワークでも十分だという事がわかり、一過性ではなく、郊外に家を所有することを考えはじめる人も増えてきています。

もちろん、じっくりと家づくりをする方も増えていますが、手っ取り早く引っ越ししたいと考える方の選択肢として、建売住宅が浮上している背景があります。企業の本社自体が淡路島に移転したというニュースもあるように、これからの時代は郊外へ人が流れて行くことも大いにあり得ると考えています」

Q.『corso』を選ぶことで、消費者にはどのようなメリットがありますか？

casa_齊藤

「まずコスト面は大きいですね。『corso』は、ほかの「casaの家」販売価格と比べると最低でも300万円リーズナブルです。本体価格1,280万円（税別）で設定していますが、デザインも性能も担保したまま、こんなにかっこいい建売住宅はないと自負しています。他の建売住宅よりも満足度の高い住宅を手に入れることができるのは、消費者にとって大きなメリットと言えると思っています」

※寒冷地や敷地の条件によっては、仕様変更を伴うため金額が異なる場合があります。

■ “外観の表情”まで計算された建売住宅をつくりたい。めざしたのはル・コルビュジェの傑作

Q.コロナ禍の背景や需要がある中で、『corso』の開発にはどのような思いがありましたか？

casa_齊藤

「永く住みつづける家だからこそ、愛着をもって住みつづけるものであって欲しいという思いは常に持っています。デザインが美しいと、人は愛着を持ちつづけることができます。日本の建売住宅は、コストの観点からどうしても用途を満たすだけになりがちです。それを変えたい！と常々考えていました。デザインを訴求していくため、建築家の森先生のお力を借りた次第です」

森

「私は、暮らし＝住まう人たちの“家族・生き方”に対しての眼差しだと思っています。たとえば、おいしい料理を食べたい時は、調理方法や素材について知りたいと思うものです。暮らしを料理に置き換えたとき、私たち建築家は家という器を作っているに過ぎません。

どれだけデザイン性をもって作っても、料理がおいしくなければ意味がありません。住まう人たちご自身で幸せな時間や家族の時間を作っていって欲しいと考えると、それにふさわしい器を提供することで、感性を豊かにするお手伝いができるのではと考えています。『corso』も、その視点を根幹に置きながら開発していきました」

建築家　MOAdesignworks　森 章郎 氏

Q.『corso』のコンセプトを教えてください

森

「『corso』はイタリア語ですが、英語表記だとcouse,classなど「通り」や「流れ」を意味する表現にも用いられます。Stream,flow,trendといった英訳もあり“ひとつの流れ - ムーブメントをつくる”というコンセプトです。

日々の生活を流れゆく時間軸でとらえ、住空間の生活動線が機能的で快適に過ごせること、そして家で過ごす時間を楽しんでもらいたいという発想から、暮らしのシーンを彩る重要な要素としての“窓”のあり方についてデザインの再構築をおこないました」

Q.『corso』の大きな特徴でもある窓について教えてください

森

「窓をランダムに並べたデザイン案は齊藤さんからのオファーでした。『従来の建売住宅は、外観の美しさまで考えられていない。外観の表情までしっかりと計算された建売住宅をつくりたい』というアイデアは、住宅における窓の定義を大事にしてきたカーサプロジェクトだからこそのこだわりと受け取りました。

窓をデザインする上での参考として齊藤さんから候補があがったのは、ル・コルビュジェのロンシャンの礼拝堂でした。ル・コルビュジェの傑作といわれるこの礼拝堂は、1950年代に完成した建物でありながら今なおその美しさは、神聖かつ温かみのある空間として、人びとに感動を与えつづけています」

corso 4×4プラン 外観

Q.『corso』の開発において、苦労した点はありますか？

森

「やはり一番むずかしかったのは窓の配置です。ロンシャンの礼拝堂はランダムな窓位置により、いろんな角度から光が入り、とても神聖的な雰囲気です。時間帯によって光の表情が変わっていくのも印象的です。それをいかに住宅に落とし込むか。

住宅用の窓はサイズが決まっていますので、柱からいくつ離すか、床からどれくらい上げれば良いかを考えていく作業には、何度も検討を重ねました。一旦、寸法に関係なく置いてバランスをみたり、部屋と部屋をまたいでも破綻しないよう計算しなおしたりと、文字どおり試行錯誤を重ねました。

線を描いてみるとわかるのですが、『corso』の窓配置には規則性をなくしています。縦横同列に並ばせていません。規則性があるところに、敢えてノイズを与えることで崩したような見せ方をしています。伝統を守った上で、あえて崩しの技法を取り入れる。茶道などの日本芸術文化である“守破離”という思想に基づいています。

“リビングに座った時には、この位置にこの窓が来るように”とひとつひとつ考えました。暮らしの時間の流れによって入ってくる陽差しの色合いも変わり、暮らしにさまざまな表情を与えてくれます」

■ コスト削減とデザインを共存させるための奮闘

Q.「casaの家」としてのデザインを担保しつつ、建売住宅としてのコストを抑える上で譲れなかった点はありますか？

casa_齊藤

「コストを抑えていく中でも、「casaの家」がめざすデザインとして塗り壁はぜったいに外せないポイントでした。ローコスト住宅を目指しているわけではないので「casaの家」の大事な訴求ポイントとして、塗り壁を採用しています。塗りの風合いだけでなく、経年変化も楽しんでいただけると思います。

その反面「casaの家」で最も使われている部材や矩計(かなばかり)を活用することで、コストコントロールに繋げました。スチール階段も、もともと商流のあった「casaの家」用に作られた部材を使用しています」

Q.『corso』のデザインにおいて、森さんが特に注力した点があれば教えてください

森

「デザインをする上で、意識しているのは線を消すということです。たとえば窓の線ひとつ取っても、窓ガラスで４つに分かれているよりも１枚の方が美しい。普段はあまり気付きませんが、要素が増えるごとに情報量も増えていきます。もちろん施工性やメンテナンスの事を考えて、残す必要がある場合もあり、一長一短ではあります。

『corso』でも、線にはこだわって美しく仕上げました。たとえばアウトセットの引き戸。レールなど部材が目につきやすい建具ですが、「casaの家」のオリジナル建具を採用することで、コストを抑えつつも、すっきりとした美しさを保つことができています。他にも『corso』は、カーサプロジェクトが持つ家づくりのノウハウが結集した普遍的で豊かな住まいになっています。「casaの家」の価格帯をご存知の方にとっては、メリットが良くわかるのではないでしょうか」

■ 住まいに興味を持ち、住まいを愛で、住まいを大事にしていって欲しい

Q.デザインを追求した建売住宅『corso』には、今後どのようなビジョンを持っていますか？

casa_齊藤

「住まい方やコスト面において、コロナ禍での需要は大いにあると思っています。コロナ禍での暮らしの変化にも柔軟な対応ができるよう、２Fの間取りをカスタマイズできるようにしました。またオプションにはなりますが、外構計画までカーサプロジェクトが積極的に関わり、住まう人に豊かな暮らしを送っていただきたいと考えています。

土地代が上がると上物にはコストをかけられなくなりますが、コストを抑えた『corso』は、より手に入れやすい住宅だと言えます。また、誰が住んでも住みやすく使いやすい『corso』には資産価値があります。カーサプロジェクトのめざす“住み継いでいく”という理念においても、『corso』が住み継がれる住宅になっていくと嬉しいです」

森

「急いで建売住宅を選ぶ必要がある人にとっても、デザインについて考えるきっかけになると嬉しいですね。住まいに興味を持ち、住まいを愛でて、住まいを大事にしていって欲しいと思います」

車を選ぶ際には内外問わずデザインにこだわるものの、家を選ぶ際に細部のデザインにまでこだわる人は、まだまだ少数だと２名は話します。永い時間を過ごす家にこそ、デザインが意識された空間が必要であると。

デザインを知ることで、デザインに興味を持ち、ひいては“住まい”が愛でる対象となり、永く大事にされるものであって欲しいというのは「casaの家」の理想でもあります。

これまでにない、デザインが随所に顕れた建売住宅となる事で、人びとの“デザイン”や“住まい”への概念が変わっていく未来をも見据えることができたインタビューとなりました。